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青の村にて 達人からの提案と不可思議な現象
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自然体で立ち二歩前へと跳ぶ。着地も上手くいった。すぐさま左に二歩跳ぶ。……二歩目の着地が少し乱れる。続けて後ろに二歩跳ぶ。
「おお……っと、危ない」
二歩目の着地に失敗し、そのまま後ろ向きに転けそうになったから地面にぶつかる前に右手で地面を叩き、その反動で身体をひねって両手と両膝を着く形で着地する。あれからいろいろ試して強化魔法の割合を、集中したい部分七割・感覚の強化三割にしたら、そこそこ上手く動けるようになった。
「だいぶ慣れてきたな。動きが滑らかになっているぞ」
「ありがとう、ラカムタさん。でも、まだまだだよ。できれば十歩くらいは正確に動けるようになりたい」
「今日、鍛錬を始めたばかりだ。焦らずじっくりやれ」
「そうなんだけど、あっちを見てるとね……」
僕も確かに成果が出てるとは思うけど、兄さん達は短時間の鍛錬でも、鍛錬を始める前より動きに淀みが無くなり、鋭さも増すという僕以上の成果が出ていた。……元々身体能力に差があるのはわかってたとはいえ、同じくらいの時間の鍛錬でここまで差が出ると少し凹む。
「ヤートが前に言っていただろ。適材適所だ。中遠距離型のお前は、近距離型の俺達と同じになる必要はない」
「……うん」
「それにだ。今のヤートの動きは自衛という意味なら、十分に通用するものになっている。自信を持て」
「ありがとう。それなりの動きになってるなら、あとの課題は攻撃だよね」
「攻撃を考えるのは、もっと正確に動ける時間が増えてからにしろ」
「でも、どういう攻撃方法にするかを先に考えてた方が、体捌きの鍛錬も捗ると思う」
「ヤートなら鍛錬をどんな方向に進めたとしても、器用にこなせるとは思うが、まあ、ヤートの言ってる事にも一理ある」
「今のところの僕の接近戦での攻撃方法は兄さん達やラカムタさんと同じ打撃なんだけど、このまま打撃を重視した鍛錬で良いのかな?」
「助言はできるが、一番はヤートがどんな風に戦いたいと考えてるかだな。自分の望まない方針での鍛錬は身にならん。ヤートはどうしたい?」
「僕は……」
「それならヤート殿、私の技を体験してみませんか?」
僕とラカムタさんが鍛錬の今後の方針を話し合っていると、イーリリスさんが自然な形で僕達のそばに立っていた。
「イーリリスさんの技……? ああ、あのイーリリスさんの触れてる人が、何でか倒れる奴?」
「その通りです。ヤート殿なら適性があるので使いこなせると思います」
「適性って、どんな事?」
「常に冷静である。戦っていても待てる。そしてなによりヤート殿は界気化が使えます」
イーリリスさんの言い方だと界気化が前提になってる技があるんだね。どういう風に関わってくるんだろ?
「イーリリス殿、大変興味深い話ではあるのだが、それは青以外に教えて良いものなのか?」
「それは僕も気になるかな」
「特に秘伝というわけでもないので問題はありません。むしろ界気化を取得したものには積極的に伝えるべきというのが、歴代の水添えの意志です」
経験豊富なイーリリスさんが僕に適性ありって判断したなら、その通りなんだろうと思う。問題は時間だよね。
「ラカムタさん」
「何だ?」
「黒の村に帰る時までにはイーリリスさんの技をそれなりの形にしたいんだけど、いつ帰るかは決まってる?」
「それなら安心しろ。黒の村に帰るのは一週間後だからな。たっぷり鍛錬できるはずだ」
「一週間あれば大丈夫でしょう。というかヤート殿の場合、コツさえつかめばあっという間に体得できるかもしれません」
「……そうなの?」
「はい」
あのイーリリスさんの不思議な技を体得するのが、どうやったら体得できるのか気にはなる。ラカムタさんもやってみろという感じでうなずいてきたから、僕もうなずいてイーリリスさんを見た。
「今から始めたいんだけど」
「構いません」
「何をすれば良いの?」
「それでは、まず私と手を合わせてください」
イーリリスさんはそう言って右掌を僕に向けて右腕を伸ばしてきたので、僕はいろいろ聞きたい疑問を口にせずに左腕を伸ばして、左掌をイーリリスさんの右掌に重ねた。
「これで良い?」
「はい。それではそのまま軽く私を押してください」
「こう? ……あれ?」
「……ヤート、何でお前が膝をついているんだ?」
ラカムタさんの疑問は、僕が突然ガクンと沈んで膝をついたんだから当然だね。それにしても、この感覚は何だろ? 掌を合わせてるだけなのに、イーリリスさんが僕を上から押さえつけてる感じだ。それと僕がイーリリスさんを押した時、まっすぐ加えた力が、なぜか僕の方に曲がって戻ってきたような気もした。
この僕が感じた二つの感覚と界気化は、どんな風に関係してるんだろ? それに体験してる僕と、見てるラカムタさんとの情報量の差がすごいね。その証拠に僕は興味が尽かないから内心興奮気味で、ラカムタさんはひたすらに困惑していた。もしラカムタさんが戦う相手だとしたら、何をしてるのかわからないのを強制できるのは何よりも強力な武器になるはずだ。
さらにイーリリスさんは全く力を入れてないのにこの現象を起こしてる事も考えると、身体能力が低い欠色の僕向きだと言えた。残り一週間か。絶対にものにしてみせる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「おお……っと、危ない」
二歩目の着地に失敗し、そのまま後ろ向きに転けそうになったから地面にぶつかる前に右手で地面を叩き、その反動で身体をひねって両手と両膝を着く形で着地する。あれからいろいろ試して強化魔法の割合を、集中したい部分七割・感覚の強化三割にしたら、そこそこ上手く動けるようになった。
「だいぶ慣れてきたな。動きが滑らかになっているぞ」
「ありがとう、ラカムタさん。でも、まだまだだよ。できれば十歩くらいは正確に動けるようになりたい」
「今日、鍛錬を始めたばかりだ。焦らずじっくりやれ」
「そうなんだけど、あっちを見てるとね……」
僕も確かに成果が出てるとは思うけど、兄さん達は短時間の鍛錬でも、鍛錬を始める前より動きに淀みが無くなり、鋭さも増すという僕以上の成果が出ていた。……元々身体能力に差があるのはわかってたとはいえ、同じくらいの時間の鍛錬でここまで差が出ると少し凹む。
「ヤートが前に言っていただろ。適材適所だ。中遠距離型のお前は、近距離型の俺達と同じになる必要はない」
「……うん」
「それにだ。今のヤートの動きは自衛という意味なら、十分に通用するものになっている。自信を持て」
「ありがとう。それなりの動きになってるなら、あとの課題は攻撃だよね」
「攻撃を考えるのは、もっと正確に動ける時間が増えてからにしろ」
「でも、どういう攻撃方法にするかを先に考えてた方が、体捌きの鍛錬も捗ると思う」
「ヤートなら鍛錬をどんな方向に進めたとしても、器用にこなせるとは思うが、まあ、ヤートの言ってる事にも一理ある」
「今のところの僕の接近戦での攻撃方法は兄さん達やラカムタさんと同じ打撃なんだけど、このまま打撃を重視した鍛錬で良いのかな?」
「助言はできるが、一番はヤートがどんな風に戦いたいと考えてるかだな。自分の望まない方針での鍛錬は身にならん。ヤートはどうしたい?」
「僕は……」
「それならヤート殿、私の技を体験してみませんか?」
僕とラカムタさんが鍛錬の今後の方針を話し合っていると、イーリリスさんが自然な形で僕達のそばに立っていた。
「イーリリスさんの技……? ああ、あのイーリリスさんの触れてる人が、何でか倒れる奴?」
「その通りです。ヤート殿なら適性があるので使いこなせると思います」
「適性って、どんな事?」
「常に冷静である。戦っていても待てる。そしてなによりヤート殿は界気化が使えます」
イーリリスさんの言い方だと界気化が前提になってる技があるんだね。どういう風に関わってくるんだろ?
「イーリリス殿、大変興味深い話ではあるのだが、それは青以外に教えて良いものなのか?」
「それは僕も気になるかな」
「特に秘伝というわけでもないので問題はありません。むしろ界気化を取得したものには積極的に伝えるべきというのが、歴代の水添えの意志です」
経験豊富なイーリリスさんが僕に適性ありって判断したなら、その通りなんだろうと思う。問題は時間だよね。
「ラカムタさん」
「何だ?」
「黒の村に帰る時までにはイーリリスさんの技をそれなりの形にしたいんだけど、いつ帰るかは決まってる?」
「それなら安心しろ。黒の村に帰るのは一週間後だからな。たっぷり鍛錬できるはずだ」
「一週間あれば大丈夫でしょう。というかヤート殿の場合、コツさえつかめばあっという間に体得できるかもしれません」
「……そうなの?」
「はい」
あのイーリリスさんの不思議な技を体得するのが、どうやったら体得できるのか気にはなる。ラカムタさんもやってみろという感じでうなずいてきたから、僕もうなずいてイーリリスさんを見た。
「今から始めたいんだけど」
「構いません」
「何をすれば良いの?」
「それでは、まず私と手を合わせてください」
イーリリスさんはそう言って右掌を僕に向けて右腕を伸ばしてきたので、僕はいろいろ聞きたい疑問を口にせずに左腕を伸ばして、左掌をイーリリスさんの右掌に重ねた。
「これで良い?」
「はい。それではそのまま軽く私を押してください」
「こう? ……あれ?」
「……ヤート、何でお前が膝をついているんだ?」
ラカムタさんの疑問は、僕が突然ガクンと沈んで膝をついたんだから当然だね。それにしても、この感覚は何だろ? 掌を合わせてるだけなのに、イーリリスさんが僕を上から押さえつけてる感じだ。それと僕がイーリリスさんを押した時、まっすぐ加えた力が、なぜか僕の方に曲がって戻ってきたような気もした。
この僕が感じた二つの感覚と界気化は、どんな風に関係してるんだろ? それに体験してる僕と、見てるラカムタさんとの情報量の差がすごいね。その証拠に僕は興味が尽かないから内心興奮気味で、ラカムタさんはひたすらに困惑していた。もしラカムタさんが戦う相手だとしたら、何をしてるのかわからないのを強制できるのは何よりも強力な武器になるはずだ。
さらにイーリリスさんは全く力を入れてないのにこの現象を起こしてる事も考えると、身体能力が低い欠色の僕向きだと言えた。残り一週間か。絶対にものにしてみせる。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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