上 下
180 / 318

青の村にて 転倒と考察

しおりを挟む
 ハインネルフさんとイーリリスさんとタキタさんの間で、微妙な空気になってるのは気にせず自分の鍛錬を始めよう。まずは普通に強化魔法パワーダを発動させる。

強化魔法パワーダ

 僕の身体が強化魔法パワーダの発動した証として魔光に覆われた。あまり使わない魔法のせいか練度はそこまで高くないけど、自己評価で可もなく不可もなく程度にはできてると思う。ただ……。

「…………」

 考え込んで動きを止めた僕に、そばで見守っているラカムタさんが怪訝そうな表情で聞いてきた。

「ヤート、何を考え込んでるんだ?」
「やっぱり強化魔法パワーダは、僕向きじゃないなって」
「何で、そう思った?」
「僕の元々の身体能力が低いし、強化魔法パワーダ自体の出力も小さいから、強化の割合が大きくない」
「どれぐらい強化されるのかはわかるか?」

 僕は強化魔法パワーダを消したり、また発動させながら同調で自分の身体の状態を確かめる。

「僕の素の身体能力を一としたら、強化魔法パワーダ発動後は二くらいになってる」
「倍増してるなら十分使えるだろ」
「うーん、兄さん達と比べると見劣りが目立つ」
「それならガル達のは、どれくらいだ?」
「素の僕を一としたら素の兄さん達は三か四だね。それで兄さん達が強化魔法パワーダを発動させたら九から十二くらいになる」
「……ヤートとは四倍以上の差があるわけだな」
「うん。僕が強化魔法パワーダを普通に発動させるのは意味が薄いね。もっと別の発動のさせ方を考えないといけない」
「わかった。納得できるまでやってみろ。ただし」
「非常事態じゃないから無茶はしないよ。疲れたらすぐに休む」
「……それなら良い。相談があるなら、いつでも言うんだぞ」
「その時は遠慮なく頼らせてもらうよ」

 ラカムタさんにはこう言ったものの、どう発動させたら良いんだろ? ……まずはより正確な現状の確認からか。

強化魔法パワーダ

 もう一度、強化魔法パワーダを発動させた状態を同調で確認すると、筋肉・神経・脳の処理速度など、僕の身体の各部が均等に強化されてるのがわかった。……そういえば前に遠くを見るために目だけを意識して強化した事があったな。

 その時と同じように目に意識を集中した状態を同調で確認すると、僕の目・視神経・脳の視覚野が強化魔法パワーダの総量の内の九割で強化されていて、残りの一割は身体の他の部分を強化していた。試しに両腕・下半身・上半身の順番に、それぞれ強化魔法パワーダを集中してみたら、集中した箇所を九割で他の部分を残り一割で強化される事がわかった。

 それに強化魔法パワーダ発動状態で、集中する部分を切り替えても消耗はないって事も判明する。やっぱり魔力の少ない僕には普通に発動するよりも、その時に必要な身体の部分に集中させる切り替えが有効みたいだね。

 さて次は、この集中させた状態で問題なく動けるのかを確かめよう。僕は強化魔法パワーダを下半身に集中させて一歩前に跳んでみる。

 ベシャッ‼︎

 思いっきり派手に転け地面に顔をぶつけたの見て、ラカムタさんがさっきより慌てて近づき僕を起こす。

「ヤート‼︎ 大丈夫か⁉︎」
「……けっこう痛い」
「いきなり転けてどうしたんだ⁉︎」
強化魔法パワーダの発動の仕方を変えて試しに動いたら着地に失敗した」
「大丈夫なのか?」
「顔をぶつけただけだし、次はもう少し上手く転けるから特に問題ないよ」
「それなら良いんだが……」

 なんというか僕の行動をハラハラしながら見てるラカムタさんが少し離れたのを確認して、僕はさっきの失敗の考察を始める。まず考える事は何よりも先に転けた原因。日常生活で転けるとしたら、意識してない段差に足を取られるとか足がもつれるとかがあり、さっきの失敗を分類するなら足がもつれて転けただね。

 それなら次は、なんで足がもつれたのかだ。足がもつれるというのは、単純に考えて上手く身体を動かせてないって事。なんで上手く身体を動かせないかと言えば、……頭で考えた動きを身体で再現できてない? 僕は確認のために、さっきと同じ状態で一歩前に跳んだ。

 ガッ‼︎

 今度も転けたけど、あらかじめ転ける事を予想してたため、きちんと手をついて顔を地面にぶつける事は避けた。その際、ラカムタさんが近づいて来ようとしたものの、僕がすぐに立ち上がったから静観してくれたのでありがたく考察を続ける。

 そして少しの間考えた結果、転ける原因は僕の現状そのものだと理解できた。普通の強化魔法パワーダの発動状態だと、思考・感覚・身体が全て同じ割合で強化されるから、いつもと変わらない感じで動けるけど、僕が今試してる部分的に集中させる強化魔法パワーダの場合、例えば下半身に九割集中させたら思考・感覚は残りの一割でしか強化されない。この強化の割合に差がある状態で、いつも通り動こうとしたのが、そもそもの間違いだったね。これは変則的な強化状態に慣れるにしても、適切な強化の割り振りを決めるのにも時間がかかりそうだ。

「ふー……」
「ヤートがため息をつくのは珍しいな」
「先は長いなって思ったから」
「ヤート、何度も言うが無茶はするなよ」
「わかってる。鍛錬で無茶はしない」
「それなら良い」

 その後も僕はラカムタさんに見守られながら、なんとか今の僕が使いこなせる割合を探り出すために、強化の割合を変えては動いて転けるという事を繰り返した。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

処理中です...