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幕間にて 望む笑顔と始まった勝負
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今話はリンリー視点のお話です。
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ヤート君がにらみ合っている三体の魔獣のところに歩いていく。いつもなら「無茶をしないでください」とか声をかけるのに、今の私にはヤート君の背中を見送る事しかできない。なぜなら……。
「ヤートが笑ってた」
ガル君のつぶやきがその答え。私が幻を見させられているのでなければ、あの無表情なヤート君が確かに笑っていたし小さく笑い声も出していた。
「……マイネ、俺を殴れ」
「えっ? 何でガルを殴らなきゃいけないのよ」
「良いから殴れ」
ケンカ中だったら迷わず殴るマイネさんでも、さすがに今はそんな場合じゃないとわかっているため戸惑っていたけれど、マイネさんはガル君が強く言ってくるため渋々殴る。
「グオッ!!」
ガル君はマイネさんに顔を殴られて地面に倒れうずくまった。それを見ていた広場にいる全員から何をやっているんだっていう視線を向けられたけど、ガル君は全く気にせずガバッと立ち上がりマイネさんに殴られた右ほほを触っていた。
「痛え……」
「私に殴られたんだから当然でしょ。ガルが殴れって言ったんだから、後で文句を言わないでよ」
「痛えって事は夢じゃなくて、本当にヤートが笑ってたんだな……」
「あ……そうね……。でも、ガル」
「何だ?」
「わざわざ私に殴られなくても頬とかを自分でつねるなり殴るなりすれば良かったんじゃない?」
「……そういや、そうだな」
ガル君は混乱していたみたい。それなら落ち着くと言う意味でもマイネさんに殴られたのは正解だったのかも。そんな風に黒の私達がどこかフワフワしていると、青のタキタさんがラカムタさんの方に顔を向ける。
「……ふむ、ラカムタ殿、黒の方々の様子から、ヤート殿が笑ったのは今が初めてという事ですかな?」
「そうだ。これまで態度や口調に雰囲気なんかで感情が出る事はあったが、実際に表情に出して笑ったのは初めてだな」
ラカムタさんの言う通りで、ヤート君はいっしょに散歩している時……特に良い天気の日や風が気持ち良い日には、足取りが軽かったり口調が楽しそうだったけれど顔はいつも無表情のままだった。私が今まで見た事があるヤート君を思い出していると、イリュキンのつぶやきが耳に入ってくる。
「あれがヤート君の笑顔……」
私はそのつぶやきを言葉として理解したら無意識に身体を緊張させた。自分でも緊張した理由がわからず首を小さく傾げたけれど、イリュキンの次の言葉でその理由がわかった。
「ヤート君が笑ったのは、ガルとマイネが魔石との厳しい戦いを乗り越えた後でも、普段通りにケンカをしたからだ。とすれば、これからヤート君に普段の私を見てもらえれば笑いかけてもらえるはず。……うん、実に挑みがいのある良い目標ができたね」
「負けません」
「リンリー、何か言ったかい?」
私はイリュキンが言い切ると同時に宣言していた。でも、この宣言は私の気持ちそのもの。
「ヤート君の笑顔を見るのは、私が先です」
「ふふふ……、はっきり言ったね」
「はい、譲るつもりはありません」
「甘いわ」
「「えっ?」」
私とイリュキンが話しているとマイネさんの声がしたから、そちらを向くとガル君とマイネさんが胸を張って立っていた。
「二人とも、どうしたんですか?」
「はっきり言っておくぞ。ヤートの笑顔を見るのは俺とマイネが先だ!!」
「そうよ。貴方達二人じゃなくて私達よ!!」
私はガル君とマイネさんの言い方に少しモヤッとしたけど、すぐに静めてさっきのヤート君を思い出して指摘する。
「……ガル君とマイネさんは、もうヤート君に笑いかけてもらえてます」
「それは違うわね。さっきのはヤートが笑っただけで、私達に笑いかけたわけじゃないわ。だからヤートに笑いかけてもらうのは私達が先よ!!」
「納得できません」
「リンリーと同感だね」
私とイリュキンが不満を口にしたら、ガル君はニカッと笑った。
「勝負するか?」
「誰が一番先にヤートに笑いかけてもらえるかって事ね」
「そうだ。お前らはどうする?」
「受けるに決まってます」
「当然だよ」
「うふふ、おもしろくなってきたわ」
「それなら先手必勝だな!!」
「「「あ……」」」
ガル君がヤート君のいる方に走っていく。…………しまった。誰がヤート君に笑いかけてもらえるかの勝負なら、ヤート君とよく話したりいっしょにいた方が可能性は高まるはず。私達はお互いにここで出遅れたらダメだと理解してガル君の後を追う。
魔石との戦いに比べたら遥かに小さい戦いけれど、私にとっては今まで生きてきて一番大きい意味を持ち負けられない勝負が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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ヤート君がにらみ合っている三体の魔獣のところに歩いていく。いつもなら「無茶をしないでください」とか声をかけるのに、今の私にはヤート君の背中を見送る事しかできない。なぜなら……。
「ヤートが笑ってた」
ガル君のつぶやきがその答え。私が幻を見させられているのでなければ、あの無表情なヤート君が確かに笑っていたし小さく笑い声も出していた。
「……マイネ、俺を殴れ」
「えっ? 何でガルを殴らなきゃいけないのよ」
「良いから殴れ」
ケンカ中だったら迷わず殴るマイネさんでも、さすがに今はそんな場合じゃないとわかっているため戸惑っていたけれど、マイネさんはガル君が強く言ってくるため渋々殴る。
「グオッ!!」
ガル君はマイネさんに顔を殴られて地面に倒れうずくまった。それを見ていた広場にいる全員から何をやっているんだっていう視線を向けられたけど、ガル君は全く気にせずガバッと立ち上がりマイネさんに殴られた右ほほを触っていた。
「痛え……」
「私に殴られたんだから当然でしょ。ガルが殴れって言ったんだから、後で文句を言わないでよ」
「痛えって事は夢じゃなくて、本当にヤートが笑ってたんだな……」
「あ……そうね……。でも、ガル」
「何だ?」
「わざわざ私に殴られなくても頬とかを自分でつねるなり殴るなりすれば良かったんじゃない?」
「……そういや、そうだな」
ガル君は混乱していたみたい。それなら落ち着くと言う意味でもマイネさんに殴られたのは正解だったのかも。そんな風に黒の私達がどこかフワフワしていると、青のタキタさんがラカムタさんの方に顔を向ける。
「……ふむ、ラカムタ殿、黒の方々の様子から、ヤート殿が笑ったのは今が初めてという事ですかな?」
「そうだ。これまで態度や口調に雰囲気なんかで感情が出る事はあったが、実際に表情に出して笑ったのは初めてだな」
ラカムタさんの言う通りで、ヤート君はいっしょに散歩している時……特に良い天気の日や風が気持ち良い日には、足取りが軽かったり口調が楽しそうだったけれど顔はいつも無表情のままだった。私が今まで見た事があるヤート君を思い出していると、イリュキンのつぶやきが耳に入ってくる。
「あれがヤート君の笑顔……」
私はそのつぶやきを言葉として理解したら無意識に身体を緊張させた。自分でも緊張した理由がわからず首を小さく傾げたけれど、イリュキンの次の言葉でその理由がわかった。
「ヤート君が笑ったのは、ガルとマイネが魔石との厳しい戦いを乗り越えた後でも、普段通りにケンカをしたからだ。とすれば、これからヤート君に普段の私を見てもらえれば笑いかけてもらえるはず。……うん、実に挑みがいのある良い目標ができたね」
「負けません」
「リンリー、何か言ったかい?」
私はイリュキンが言い切ると同時に宣言していた。でも、この宣言は私の気持ちそのもの。
「ヤート君の笑顔を見るのは、私が先です」
「ふふふ……、はっきり言ったね」
「はい、譲るつもりはありません」
「甘いわ」
「「えっ?」」
私とイリュキンが話しているとマイネさんの声がしたから、そちらを向くとガル君とマイネさんが胸を張って立っていた。
「二人とも、どうしたんですか?」
「はっきり言っておくぞ。ヤートの笑顔を見るのは俺とマイネが先だ!!」
「そうよ。貴方達二人じゃなくて私達よ!!」
私はガル君とマイネさんの言い方に少しモヤッとしたけど、すぐに静めてさっきのヤート君を思い出して指摘する。
「……ガル君とマイネさんは、もうヤート君に笑いかけてもらえてます」
「それは違うわね。さっきのはヤートが笑っただけで、私達に笑いかけたわけじゃないわ。だからヤートに笑いかけてもらうのは私達が先よ!!」
「納得できません」
「リンリーと同感だね」
私とイリュキンが不満を口にしたら、ガル君はニカッと笑った。
「勝負するか?」
「誰が一番先にヤートに笑いかけてもらえるかって事ね」
「そうだ。お前らはどうする?」
「受けるに決まってます」
「当然だよ」
「うふふ、おもしろくなってきたわ」
「それなら先手必勝だな!!」
「「「あ……」」」
ガル君がヤート君のいる方に走っていく。…………しまった。誰がヤート君に笑いかけてもらえるかの勝負なら、ヤート君とよく話したりいっしょにいた方が可能性は高まるはず。私達はお互いにここで出遅れたらダメだと理解してガル君の後を追う。
魔石との戦いに比べたら遥かに小さい戦いけれど、私にとっては今まで生きてきて一番大きい意味を持ち負けられない勝負が始まった。
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