上 下
166 / 318

決戦後にて 膝枕と帰還

しおりを挟む
「ヤート殿、もうすぐ遠目に青の村が見えてきますよ」
「……あれ?」

 まだ完全に疲労とかが抜けてなかったのと、大髭おおひげ様の頭の上で感じる風や音や日差しが気持ち良くて眠りそうだなって思ってたら本当に寝ていたみたいだ。イーリリスさんの声ですぐに目が覚めたくらいの浅い眠りだけど、眠る前よりもスッキリしてる気がする。……まあ、それは良いとして。

「イーリリスさん、一つ聞いて良い?」
「何でしょうか?」
「僕は何で目が覚めたらイーリリスさんに膝枕されてるの?」

 僕はイーリリスさんの膝に頭を乗せていた。眠る前は僕とイーリリスさんは横並びに座っていたのに、起きたらイーリリスさんの顔を下から見てる形になってて、自分の状況に困惑したよ。

「ヤート殿が眠さで身体をフラフラさせていたので、そのまま大髭おおひげ様の頭の上に直接寝かせても良かったのですが、万が一何かの拍子に大髭おおひげ様の頭の上から転げ落ちるという事を考え、さらにどうせならゆっくり寝てもらおうと思い、私の膝枕でヤート殿が寝てもらうという形になりました」
「そうだったんだ。いろいろ考えてくれてありがとう」
「いえいえ、どういたしまして。身体の調子はどうです?」
「寝る前よりスッキリしてるから源泉の中で目が覚めた時よりも、もっと回復してると思う」
「それは良かったですね。ヤート殿の元気な姿を村に残ったみんなに見せれますね」
「僕もそう思うよ。あ、そろそろ青の村が見えてくるんだっけ?」
「はい。そろそろ見えてくると思います」
 
 僕はイーリリスさんの膝枕から起きて大髭おおひげ様の進む先を見る。大神林だいしんりんと違って大霊湖だいれいこの距離感をつかめてないけど、僕が眠ってた間にも順調に距離を稼いでたらしい。……そうだ。

大髭おおひげ様、僕が眠ってる間も揺れないようにしてくれてありがとう。お陰でかなり体調が良くなった」
「バフ」

 大髭おおひげ様が気にするなと言ってくれた。三体にしても大神林だいしんりんの奥にいる世界樹にしても大髭おおひげ様にしても、この世界の高位の存在は本当に優しいね。



 少しして僕の目でも青の村が見えてきた。みんなの力強い魔力を感じるからイーリリスさんから聞いた通り、みんなは無事らしいね。……ただ、一つ知らない魔力があるのはなんでだろ?

 みんながこの僕の知らない魔力を警戒してないから害のない存在なのはわかるとして、気になるのは魔力の感じがディグリと似ている事だ。ディグリ以外に植物の魔獣はいないはず。……まあ、着いたらわかるか。

「ヤート殿、そろそろ大髭おおひげ様だと進めない浅瀬になりますので、ヤート殿の緑葉船リーフボートに移りましょう」
「わかった」

 緑葉船リーフボートを湖面に降ろし乗り移る。おっと大髭おおひげ様にお礼を言わないとね。僕は腰の小袋から種を一つ取り出して緑葉船リーフボートの船底に置いて魔法を発動させる。

緑盛魔法グリーンカーペット超育成ハイグロウ水蜜桃デザートピーチ。イーリリスさん、緑葉船リーフボートを動かして良い?」
「大丈夫ですよ」

 僕はイーリリスさんに確認してから緑葉船リーフボート大髭おおひげ様の正面に移動させ、成長した水蜜桃デザートピーチの樹から実をもぎ取った。

大髭おおひげ様、ここまで乗せてくれてありがとう」
「バフ!!」
「それで、これはそのお礼だから口を開けて」
「バ」

 もぎ取った水蜜桃デザートピーチの十個の実を大髭おおひげ様が開けた大きな口に放り込むと、大髭おおひげ様は口を閉じ口を微妙にモゴモゴ動かす。水蜜桃デザートピーチ大髭おおひげ様に比べたらかなり小さいけど、大霊湖だいれいこの莫大な魔力を吸収して成長したものだから、実の味や含まれてる魔力はそれ相応になってる。実際、大髭おおひげ様の目は笑ってるから満足してくれたみたい。

大髭おおひげ様、黒の村に帰る前にまた会いに行くから」
「バフ」
「うん、またね」

 大髭おおひげ様を見送り水蜜桃デザートピーチを種に戻して回収した後、僕達は青の村へと進路を取った。



 数分緑葉船リーフボートを走らせて青の村の広場がはっきり見えてくると、広場にラカムタさん達やハインネルフさん達がいるのがわかった。さすがに苔達をモスゴーレムにしたり大髭おおひげ様が動いたら目立つよね。

 緑葉船リーフボートが広場の端の近くまで進むと、青の大人数人が広場の中まで緑葉船リーフボートを引き上げてくれた後、イーリリスさん・僕の順で降りると兄さん達が走り寄ってきた。

「「ヤート!!」」
「「ヤート君!!」」
「兄さん、姉さん、リンリー、イリュキン、久しぶり……で良いのかな?」

 僕が久しぶりに会ったみんなへのあいさつに悩んでたら、みんなが苦笑する。

「ヤートのそういう反応を見たらお前が帰ってきたって実感できるな。でもな、ヤート……」
「何?」
「帰ってきて、まず言うのはそれじゃねえだろ?」
「……ああ、そうだった」

 僕は兄さん達や、僕と兄さん達のやり取りを微笑ましそうに見ているラカムタさんやハインネルフさん達を見渡してから言った。

「みんな、ただいま」



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】ちびっこ錬金術師は愛される

あろえ
ファンタジー
「もう大丈夫だから。もう、大丈夫だから……」 生死を彷徨い続けた子供のジルは、献身的に看病してくれた姉エリスと、エリクサーを譲ってくれた錬金術師アーニャのおかげで、苦しめられた呪いから解放される。 三年にわたって寝込み続けたジルは、その間に蘇った前世の記憶を夢だと勘違いした。朧げな記憶には、不器用な父親と料理を作った思い出しかないものの、料理と錬金術の作業が似ていることから、恩を返すために錬金術師を目指す。 しかし、錬金術ギルドで試験を受けていると、エリクサーにまつわる不思議な疑問が浮かび上がってきて……。 これは、『ありがとう』を形にしようと思うジルが、錬金術師アーニャにリードされ、無邪気な心でアイテムを作り始めるハートフルストーリー!

浮気をした王太子はいりません。〜離縁をした元王太子妃は森の奥で、フェンリルパパと子供と共に幸せに暮らします。

にのまえ
恋愛
 王太子ルールリアと結婚をして7年目。彼の浮気で、この世界が好きだった、恋愛ファンタジー小説の世界だと知った。 「前世も、今世も旦那となった人に浮気されるなんて」  悲しみに暮れた私は彼に離縁すると伝え、魔法で姿を消し、私と両親しか知らない秘密の森の中の家についた。 「ここで、ひっそり暮らしましょう」  そう決めた私に。  優しいフェンリルのパパと可愛い息子ができて幸せです。  だから、探さないでくださいね。 『お読みいただきありがとうございます。』 「浮気をした旦那様と離縁を決めたら。愛するフェンリルパパと愛しい子ができて幸せです」から、タイトルを変え。  エブリスタ(深月カナメ)で直しながら、投稿中の話に変えさせていただきました。

【完結】愛する人には裏の顔がありました

風子
恋愛
エルグスト子爵家の娘であるミリディは、婚約者に浮気をされ、三度も破談になるという前代未聞の不幸に見舞われていた。 落ち込むミリディだったが、破談になる度に慰め励ましてくれる頼もしい存在がいた。 その人は兄の親友であり、幼い頃から密かに想いを寄せる公爵家の令息ライド・ロベールトンだった。 身分の違いから叶わぬ恋心は封印し、兄と妹のような関係を築いてきたミリディだったが、ライドの積極的なアプローチに戸惑ってしまう。 いつも優しく親切な彼の真意とは‥‥ そして彼のもつ裏の顔とは‥‥ ※作者の妄想の世界の話です。

殿下、婚約者の私より幼馴染の侯爵令嬢が大事だと言うなら、それはもはや浮気です。

和泉鷹央
恋愛
 子爵令嬢サラは困っていた。  婚約者の王太子ロイズは、年下で病弱な幼馴染の侯爵令嬢レイニーをいつも優先する。  会話は幼馴染の相談ばかり。  自分をもっと知って欲しいとサラが不満を漏らすと、しまいには逆ギレされる始末。  いい加減、サラもロイズが嫌になりかけていた。  そんなある日、王太子になった祝いをサラの実家でするという約束は、毎度のごとくレイニーを持ち出してすっぽかされてしまう。  お客様も呼んであるのに最悪だわ。  そうぼやくサラの愚痴を聞くのは、いつも幼馴染のアルナルドの役割だ。 「殿下は幼馴染のレイニー様が私より大事だって言われるし、でもこれって浮気じゃないかしら?」 「君さえよければ、僕が悪者になるよ、サラ?」  隣国の帝国皇太子であるアルナルドは、もうすぐ十年の留学期間が終わる。  君さえよければ僕の国に来ないかい?  そう誘うのだった。  他の投稿サイトにも掲載しております。    4/20 帝国編開始します。  9/07 完結しました。

処理中です...