上 下
116 / 318

青の村への旅にて 青の老竜人の実力の一端と青の老竜人からの評価

しおりを挟む
 タキタさんと向かい合う。……静かだ。そんなに数は多くないけど、今まで戦った相手や戦うところを見た人の中で一番静かだ。強いて言うならリンリーが近い気もするけど、どこか違う。

「ヤート殿、何もしない気ですか?」
「え?」

 いつのまにか、本当にいつのまにか三ルーメ(三メートル)くらい離れたところに立っていたタキタさんが、僕の目の前にいて僕の頭を触っていた。反射的に後ろに下がれたのは良いとして、なんでタキタさんの動きがわからなかったんだ? ……そういえば三体もタキタさん事は感知できてなかったね。三体の感覚をかいくぐれる方法が何なのか、タキタさんをジッと見ながら考える。だけど……。

「これで二度目」
「…………」

 また、いつのまにか僕の目の前に移動されて頭を触られたから、さっきよりも全力でタキタさんから離れた。絶対に目を離してないのに、いつのまにかそばにいるっていうのはリンリーの気配と身体を消すやり方に似てるけど絶対に違う。違和感がある。この違和感は何? 僕が必死に考えてるとタキタさんが静かに歩きながら近づいてくる。

「ふむ、やっぱりヤート殿は他の竜人族りゅうじんぞくとは違いますな」
「……そう?」
「他の竜人族りゅうじんぞくが未知のものに出会った時は、ほとんどが肉体と魔力に任せて強引に突破する事を選びます。ですが、ヤート殿は深く考えている。良い事です。ただし……「いくら考えても行動しなかったら意味が無いでしょ?」……理解されているようで何よりです。では、次から攻撃します」

 攻撃を宣言してタキタさんが黙った。…………静かにされるとタキタさんは目の前に立ってるのかわからなくなる。なぜならタキタさんから放たれているはずの息づかいや戦意や気配なんかがすごく小さいからだ。

 あれ? 息づかいや戦意がすごく小さい? ……そうか違和感はこれか。リンリーとタキタさんの違いがわかった。リンリーは姿と気配を消したい時に消してるけど、タキタさんは誰でもあるはずの気配とかが通常時でもどんな時でも常にすごく小さいんだ。そして攻撃する時の気配も小さいから攻撃の瞬間がわからなくて攻撃された後でようやく認識が追いつくって事か。

 僕は自然体らしいけど、どう考えても散歩してた時とまるで変わらないタキタさんの方が自然体でしょ。気配が小さいのはなんというか熟睡してる相手に警戒心が働かない感じに近いかな。しかも身のこなし・戦闘経験・戦闘技術は圧倒的にタキタさんの方が上だから、本当にやっかいなんて言葉じゃ表せないよ。とはいえ泣き言を言ってる場合でもないから腰の小袋を触って中身に魔力を送る。そうしてほんの少し意識をタキタさんからそれるとタキタさんに肩を触られて視界がぐるんって動いた。

「これで三度目です」
「うっ、でも……」
「……ほう、これはこれは」

 危なかった。背中に衝撃が走って空を見てるからタキタさんに背中から地面に叩きつけられたみたいだけど、身体を包むように綿毛を生み出して衝撃を減らしたから、すぐに起き上がってタキタさんから離れる。

「それは大神林だいしんりんの植物ですか?」
「名前は綿毛草コットングラスで種を綿毛に包んで風に乗せて運ぶっていう植物。大神林だいしんりんだと割とどこにでも生えてるかな」
「わしの動きに反応できないと判断して、すぐさま全身を包む形で防御を固める。良い判断です。それではこれはどうですかな?」
「ぐっ」

 今度は瞬きの間にタキタさんが僕の横にいて僕は胸と背中を同時に軽く叩かれた。本当に軽く叩かれただけなのに、身体の中でズンっていう音が響いて呼吸がつまり僕はうずくまる。……綿毛草コットングラスの防御が一方向からなら衝撃を減らせても、真逆の二方向から挟むように打たれると衝撃の逃げ場がなくて中心――今で言うと僕の身体の中――ではじけたんだね。

 僕はタキタさんの追撃を少しでも邪魔するために綿毛草コットングラスをタキタさんの顔めがけて散らした。さすがに意表をつかれたのか見逃してくれたのかわからないけど、タキタさんから離れて呼吸を少しでも落ち着かす。

「ほっほっほ、一つの手段で防御と妨害をする。攻撃を受けてもすぐに追撃を警戒する。ヤート殿、実にすばらしいです」
「はあ……はあ……、褒められても、はあ……反応しづらい」

 タキタさんが綿毛草コットングラスを払いながら嬉しそうに笑っていた。……僕の対応は今のところタキタさんの及第点になってるみたいだね。ただ、さすがにこのままやられっぱなしなのは嫌だな。実力差がとにかく大きいけど、なんとか一撃でも良いからタキタさんに攻撃を当てたい。

「じじい!! ヤートに何してやがる!!」
「タキタ!! 今すぐやめるんだ!!」

 声が聴こえた方を見るとラカムタさんや兄さん達に三体が僕とタキタさんの方に走ってくる。少し遅れてイリュキンと水守みずもり達も追走していた。兄さんはそのままタキタさんに殴りかかったけど、どう考えても当たるはずだった兄さんの拳がタキタさんをすり抜けて兄さんは唖然としたまま体勢を崩した。

「は?」
「殴りかかる思い切りは良いですが、予想もしてない事になり混乱して無防備になるのは感心しませんな」
「えっ? グハッ!!」

 タキタさんが一瞬微かに揺れたら兄さんが地面に背中から叩きつけられていた。たぶん手をつかまれて投げられたんだと思う。だけど、それよりも兄さんの拳がタキタさんをすり抜けて見えたのは錯覚かな。

「次からは避けられた時の事も考えておくと良いでしょう」
「…………うる……せぇ」
「ふむ、今のを受けても声を出せるとは、なかなかの耐久力をお持ちのようだ。ガル殿もまた将来が楽しみです」
「だまれ!! クソッ、またか!!」

 タキタさんが兄さんを微笑みながら見ていると兄さんが飛び起きてタキタさんの顔を蹴ったけど、また兄さんの蹴りがタキタさんをすり抜けて見えたから僕の気のせいじゃなかったみたいだね。魔法なのかな? それとも通り抜けたって見えるぐらい最小限の動きで避けた? まあ、どっちにしてもタキタさんに一撃入れるのは大変だって事は確かみたいだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。

 感想や評価もお待ちしています。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。  無言で睨む夫だが、心の中は──。 【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】 4万文字ぐらいの中編になります。 ※小説なろう、エブリスタに記載してます

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

処理中です...