115 / 318
青の村への旅にて 会話と臨戦
しおりを挟む
さて、タキタさんと散歩に出たのは良いんだけど問題がある。それは僕がこの辺りの地理に詳しくないって事だ。僕一人だったら危険な状況になっても平気だけど、僕から誘ったタキタさんを連れて万が一にも危険な場所や危険な事には近づきたくないから、植物に同調で危険なところを聞こうにも河の魔力が強すぎて植物が生えてないんだよね。
本当に危険に近づいてたらタキタさんが言ってくれるとは思う。でも自分で用心しておくに越した事はないというわけで腰の小袋から種を一つ取り出し、地面からひと握り取った土で包み魔法を発動させた。
「緑盛魔法・偽りの探知者」
僕の掌で成長して小さな花をつけたこの植物は偽枯草っていう名前で、その名の通り危険なものが近くにあると枯れたような見た目になり危険が過ぎると元に戻るっていう性質を持つ植物だ。……うん、花が咲いた綺麗なままだから危険はないみたい。タキタさんが僕のやり方を見て感心したようにつぶやく。
「ヤート殿は本当に自然体ですな」
「今の僕が自然体? 初めての場所で慎重になってるから自然体じゃないよ」
「わしには黒の村で過ごされている時と同じように自然体に見えますが……」
「それは僕の感情と表情が薄いからだね。あと僕はいろいろ考え方がズレてるみたいだからそれもあるかも」
「それはヤート殿自身も、そう思っているのですか?」
「みんなは魔獣を怖い存在だって言ってるけど僕は怖く感じないし、みんなが危険だっていう場所にも平気で行ける。これって僕に勇気があるとかじゃなくて、僕の危機感がみんなとはズレてるって事だよね?」
「その違いは気になりませんか?」
「ならない。僕は僕だし今のところそこまで迷惑はかけてない……はずだから」
「自分は自分ですか。なるほど……」
タキタさんは僕に話しかけながら何かを考えているみたいだった。
「変かな?」
「いえ、そう思える事は素晴らしい事です。ぜひ青の子供達に聞かせたい」
「なんで青の話になるの?」
「青の子供達は水添えや水守を目指します。しかし、どうしても器用でないものや合わないものが出てきて脱落していきます。そして一度脱落したものは無気力になったり諦めたりで、なかなか上がってこれないのです」
「そういう事か。僕はほとんど知らないけど黒の子供でもそういうのはあるかも」
「知らないのですか?」
「うん、僕は元々興味が薄いし基本的に兄さんと姉さんとリンリー以外の黒の子供とはからんでないから、兄さんと姉さんからチラッと聞いたり前にリンリーから相談された事くらいしか知らない」
「気になら……ないんですね」
「さっきも言ったけど僕は僕だから」
「なるほど、実にヤート殿らしい」
タキタさんが額に手を当てて目尻にしわを寄せて微笑んだ。でも、すぐに苦々しい顔になった。
「大人がどれほど鍛錬を続けるように言っても、成果が出ている子と成果の出ない自分を比べてやめてしまうのです。いずれ大木となる苗木と言えども、すぐに成長するわけでもないというのに……」
「欠色の僕の話は参考になるのかな? 一度脱落したけど乗り越えて強くなった青の大人が話をした方が脱落した子達には響くと思うけど」
「そうかもしれませんが、やはり同年代のヤート殿から自分は自分という考えがあるという事を聞かせたいのです」
かなり長く生きてるっぽいタキタさんなら、そういう諦めてやめてしまった子供を何人も見てきたんだろうね。本当に悔しそうだ。
「ヤート殿はどうやって自分は自分という考えに至ったのですか?」
「うーん、黒のみんなから欠色の事を聞いて悩んでもどうにもならない事だってわかって開き直った後に、今の僕は話せて動けて食べれて優しくて頼りになる人達や三体が周りにいるから良いかって納得した」
「そうですか……」
前世の事以外で僕が今思っている事を素直に伝えると、それっきりタキタさんは話さなくなった。僕は無言の時間が苦にならないから、そのまましばらく黙ったまま二人並んで歩いてみんなのところに戻る事になった。……しまった。タキタさんと散歩したのにタキタさんの事を聞けてない。僕が少し失敗したなって思ってると並んで歩いてたタキタさんが立ち止まる。
「タキタさん、どうかした?」
「ヤート殿、わしと手合わせしていただきたい」
「突然だね。場所はここ?」
「今この場でヤート殿と戦いたいです」
タキタさんから言われた事が意外だった。タキタさんって僕と同じかそれ以上に戦うのを避ける人だと思ってたから本当に意外だ。……真剣な顔で頼んできてるんだから断るのも違うよね。うん、理由は後で話してくれると思うし、これも観察につながるって考えて今は難しく考えないでおこう。
「わかった。やろう」
「即断ありがとうございます」
僕は戦うのはそこまで好きじゃないけど、たぶんラカムタさんより強いかもしれないタキタさんと向かい合ったらちょっとだけワクワクしてきた。僕も少しは竜人族らしくなってきたかな。
本当に危険に近づいてたらタキタさんが言ってくれるとは思う。でも自分で用心しておくに越した事はないというわけで腰の小袋から種を一つ取り出し、地面からひと握り取った土で包み魔法を発動させた。
「緑盛魔法・偽りの探知者」
僕の掌で成長して小さな花をつけたこの植物は偽枯草っていう名前で、その名の通り危険なものが近くにあると枯れたような見た目になり危険が過ぎると元に戻るっていう性質を持つ植物だ。……うん、花が咲いた綺麗なままだから危険はないみたい。タキタさんが僕のやり方を見て感心したようにつぶやく。
「ヤート殿は本当に自然体ですな」
「今の僕が自然体? 初めての場所で慎重になってるから自然体じゃないよ」
「わしには黒の村で過ごされている時と同じように自然体に見えますが……」
「それは僕の感情と表情が薄いからだね。あと僕はいろいろ考え方がズレてるみたいだからそれもあるかも」
「それはヤート殿自身も、そう思っているのですか?」
「みんなは魔獣を怖い存在だって言ってるけど僕は怖く感じないし、みんなが危険だっていう場所にも平気で行ける。これって僕に勇気があるとかじゃなくて、僕の危機感がみんなとはズレてるって事だよね?」
「その違いは気になりませんか?」
「ならない。僕は僕だし今のところそこまで迷惑はかけてない……はずだから」
「自分は自分ですか。なるほど……」
タキタさんは僕に話しかけながら何かを考えているみたいだった。
「変かな?」
「いえ、そう思える事は素晴らしい事です。ぜひ青の子供達に聞かせたい」
「なんで青の話になるの?」
「青の子供達は水添えや水守を目指します。しかし、どうしても器用でないものや合わないものが出てきて脱落していきます。そして一度脱落したものは無気力になったり諦めたりで、なかなか上がってこれないのです」
「そういう事か。僕はほとんど知らないけど黒の子供でもそういうのはあるかも」
「知らないのですか?」
「うん、僕は元々興味が薄いし基本的に兄さんと姉さんとリンリー以外の黒の子供とはからんでないから、兄さんと姉さんからチラッと聞いたり前にリンリーから相談された事くらいしか知らない」
「気になら……ないんですね」
「さっきも言ったけど僕は僕だから」
「なるほど、実にヤート殿らしい」
タキタさんが額に手を当てて目尻にしわを寄せて微笑んだ。でも、すぐに苦々しい顔になった。
「大人がどれほど鍛錬を続けるように言っても、成果が出ている子と成果の出ない自分を比べてやめてしまうのです。いずれ大木となる苗木と言えども、すぐに成長するわけでもないというのに……」
「欠色の僕の話は参考になるのかな? 一度脱落したけど乗り越えて強くなった青の大人が話をした方が脱落した子達には響くと思うけど」
「そうかもしれませんが、やはり同年代のヤート殿から自分は自分という考えがあるという事を聞かせたいのです」
かなり長く生きてるっぽいタキタさんなら、そういう諦めてやめてしまった子供を何人も見てきたんだろうね。本当に悔しそうだ。
「ヤート殿はどうやって自分は自分という考えに至ったのですか?」
「うーん、黒のみんなから欠色の事を聞いて悩んでもどうにもならない事だってわかって開き直った後に、今の僕は話せて動けて食べれて優しくて頼りになる人達や三体が周りにいるから良いかって納得した」
「そうですか……」
前世の事以外で僕が今思っている事を素直に伝えると、それっきりタキタさんは話さなくなった。僕は無言の時間が苦にならないから、そのまましばらく黙ったまま二人並んで歩いてみんなのところに戻る事になった。……しまった。タキタさんと散歩したのにタキタさんの事を聞けてない。僕が少し失敗したなって思ってると並んで歩いてたタキタさんが立ち止まる。
「タキタさん、どうかした?」
「ヤート殿、わしと手合わせしていただきたい」
「突然だね。場所はここ?」
「今この場でヤート殿と戦いたいです」
タキタさんから言われた事が意外だった。タキタさんって僕と同じかそれ以上に戦うのを避ける人だと思ってたから本当に意外だ。……真剣な顔で頼んできてるんだから断るのも違うよね。うん、理由は後で話してくれると思うし、これも観察につながるって考えて今は難しく考えないでおこう。
「わかった。やろう」
「即断ありがとうございます」
僕は戦うのはそこまで好きじゃないけど、たぶんラカムタさんより強いかもしれないタキタさんと向かい合ったらちょっとだけワクワクしてきた。僕も少しは竜人族らしくなってきたかな。
2
お気に入りに追加
876
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
異世界に転生したフランカは公爵夫人として暮らしてきたが、前世から叶えたい夢があった。パティシエールになる。その夢を叶えようと夫である王国財務総括大臣ドミニクに相談するも答えはノー。夫婦らしい交流も、信頼もない中、三年の月日が近づき──フランカは賭に出る。白い結婚三年目で離縁できる条件を満たしていると迫り、夢を叶えられないのなら離縁すると宣言。そこから公爵家一同でフランカに考え直すように動き、ドミニクと話し合いの機会を得るのだがこの夫、山のように隠し事はあった。
無言で睨む夫だが、心の中は──。
【詰んだああああああああああ! もうチェックメイトじゃないか!? 情状酌量の余地はないと!? ああ、どうにかして侍女の準備を阻まなければ! いやそれでは根本的な解決にならない! だいたいなぜ後妻? そんな者はいないのに……。ど、どどどどどうしよう。いなくなるって聞いただけで悲しい。死にたい……うう】
4万文字ぐらいの中編になります。
※小説なろう、エブリスタに記載してます
もういらないと言われたので隣国で聖女やります。
ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。
しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。
しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。
【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~
イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」
どごおおおぉっ!!
5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略)
ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。
…だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。
それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。
泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ…
旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは?
更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!?
ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか?
困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語!
※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください…
※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください…
※小説家になろう様でも掲載しております
※イラストは湶リク様に描いていただきました
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる