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第5章 異世界の男は斬る
第26話
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秋臣が俺と葛城ノ剣の指示を受けながら息が乱れすぎない程度で走り続け異能力図鑑達を追っている。
さっきまでの焦り具合から心配はあったものの、しっかりと息が乱れすぎない範囲の速さで走れているから大丈夫だと安心できた。
それに徐々に走る動作が滑らかになってきているのも今後の戦いを考える中で好材料だな。
『ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、そろそろ、ですか?』
『ああ、そろそろ秋臣にもあいつらが見えてくるぞ』
『あいつらは主人が追ってきているのに気づいていると思うか?』
『まあ紋綴りの叫び声を聞いたなら気づいてもおかしくない』
『警戒、する、べき、なのは、罠、ですね』
『それは俺も考えたが、正直なところ考えるだけ無駄という結論になった』
俺がそう言ったら秋臣はえ?と困惑し一瞬転びかけ、葛城ノ剣は押し黙った。
しかし、すぐに納得して答えを当ててくる。
『あの異能力図鑑には通常一人一つしかない異能力が無数にあるからだな?』
『そうだ。何かしらの異能力を使った罠に関しては、そういうのもあるかもしれないと頭の隅に残しておくだけで良いだろう。むしろそれ以上に用心するべきなのは不意打ちだな』
『あいつらの気配はどうだ?』
『二人はいっしょにいる。ただ、今の俺は才歪の異能力で感覚がかなり鈍っているから当てにしすぎるな。秋臣も葛城ノ剣も警戒してくれ』
『わかり、ました』
『わかっている』
さて、このまま秋臣が近づけば戦いになるのは間違い。
そこで考える必要があるのは異能力図鑑達の優先順位だな。
異能力図鑑はより強い異能力を手に入れたいはずで、学園に向かっているのはまさにその目的を叶えるためだ。
しかし、秋臣が接近すれば、もともとの目的に加えて障害を排除しなければならないという選択肢が生まれる。
あいつらは今の秋臣をどれほどの脅威と見ているかが重要だな。
今の秋臣をどれほど危険視しているかで異能力図鑑と才歪の二人がかりでくるのか、それとも才歪が秋臣の足止めをして異能力図鑑は学園へ向かうかのどちらになるかが決まるはず。
俺がそんな事を考えていたら、あいつらの気配に違和感を感じた。
『秋臣、今すぐ道をそれろ‼︎』
『え⁉︎ あ、はい‼︎』
ボボボボボボボボッ‼︎
秋臣が角を曲がった瞬間、それまで秋臣のいた空間を才歪の伸びる突きが連続で貫いていった。
『うわあ‼︎』
『チッ、やっぱり感覚が鈍ってやがるな。気づくのが遅れた、くそが‼︎』
『主人よ、そのまま走りながら学園の方へ向かう意思を見せるんだ。主人を囮にするのは気が引けるが、相手の行動はある程度絞りたい』
『僕の、事は、気に、しないで、ください。ええと……、うわっ‼︎』
秋臣が学園の方へ進路を変えようとしたら、伸びてくる突きの連撃が進行方向を壁のように遮る。
俺は秋臣にいったん退がるように言おうとしたら、それより前に葛城ノ剣が秋臣へ指示を出して退避させたため、俺は角から出てきた才歪へ向けておく。
普通ならここまでの接近を見逃すはずはないから、俺の感じていた気配は異能力図鑑の隠蔽や他の異能力で誤魔化されていたものらしい。
そして、さらに考えておかなければならないのは、この場に姿を見せていない異能力図鑑がどうするつもりなのかという事。
秋臣を才歪に任せたのか、それとも自分を隠蔽して奇襲を狙ってくるのか、少なくとも才歪の視線や仕草からは読み取れるものないわけだがどっちだ?
『秋臣、葛城ノ剣……』
『僕は才歪さんを見ています』
『我も主人とともにあのものへ対応する。お前はもう一人を警戒しろ。お前という戦いの主軸を警戒に注力させるのは戦力低下でしかないが、現状では不意打ちを受ける事がもっとも愚かな事だ』
『僕もその意見には賛成です』
『わかった。気をつけろよ』
俺も秋臣と葛城ノ剣の意見に異論はなかったため、才歪から視線を外しできる限り詳細に周りの気配を探っていく…………が、どうしても才歪の様子を気にしてしまい十の内のニぐらいの意識を才歪に残してしまう。
そんな意識の一部で見た才歪は首を傾げていた。
『…………やばりあなだの今の状態ばおがじいでずね。あなだば本当にあなだでずが?』
『どういう意味です?』
『…………私の異能力で確がに感覚ば落ぢでいるばずなのに私の攻撃を避げでいる。でも、ぞの避げ方ば、まるで誰がに指示ざれだ通りに避げでいるだげな気がじまず』
チッ、本当に冷静な値踏みをしてやがる。
秋臣もここで自分が表に出ていて弱くなっている事を確信されるのはまずいと判断して、できるだけ雰囲気を俺に近づけるよう意識し始めた。
才歪が目の前にいるから葛城ノ剣の異能力を消す光を当てて俺の弱体化を解除させるチャンスではあるが、妙に警戒されているため下手に攻められない。
『おい、もう一人はどうだ? 見つけたか?』
『…………わからないとしか言えないが』
『間違いなく潜んでいると僕も思います』
『主人よ、その根拠はなんだ?』
『学園の方に何の動きもありません。さすがにいくら異能力図鑑さんが無数の手札を持っていると言っても学園長達を瞬時に倒すのは無理なはず』
『それは……そうだな』
『ならば、この後の展開はいくつか考えられるが、おそらく……』
俺達が才歪の出方を思い浮かべていると、才歪の目がギラッと光った。
『…………見れば見るぼど、考えれば考えるぼど不自然。じがじ、ぞれも倒じでじまえば些細な事』
『やっぱりガンガン攻めてくる気か』
『あのものの攻撃で倒せるなら良し。もし、倒せなくとも、もう一人のために大きな隙を作れればそれでも良しというわけだな。主人よ』
『すー……、はー……、わかってます』
才歪は秋臣が呼吸を整えたと同時に両腕を曲げて構え、次の瞬間には両腕がブレた。
『秋臣、二歩左後ろ‼︎ しゃがんで右に跳べ‼︎』
『はい‼︎』
『葛城ノ剣、お前は警戒だ‼︎ 秋臣、木刀を左へ払え‼︎』
『く……、致し方ないか』
『右、二歩前、木刀で顔を守れ、すぐに左後ろへ、身体を時計回りに回転させつつ、その勢いのまま柄頭を正面へ叩き込め。今だ‼︎』
俺の指示に反応して繰り出した秋臣の一撃は才歪の右拳の親指側に当たったものの、才歪がすばやく拳を引いたため直撃とはならず少し拳の肉を削る程度に終わった。
あの程度の傷では才歪の戦闘力を下げられないが、連撃を中断させて秋臣に一息つく間を稼げた事と、こちらからもまぐれ当たりではない確かな反撃をできると示せたのは何より大きい。
才歪は拳の状態を確かめた後、再び秋臣をギラつく目で見てくる。
『…………やばり、先ぼどの木刀をがずらぜだのば偶然でばながっだみだいね。それならば』
『構えが変わりましたね』
今までの構えがしっかりと両足で立ち身体の正面を秋臣へ向け両拳を肩ぐらいまであげるものだったのが、左半身を前にして左手をだらりと下げ右拳を顎辺りに引きつけたまま爪先立ちで細かくステップを踏み出した。
『秋臣、このからの攻め方はさっきまでと別物だと思え』
『わかりました。…………一つ疑問なんですが、どうして異能力図鑑さんは時間を止めてこないんでしょう? 戦闘から外れてそこそこ時間が経ってますよね?』
『その事は俺も考えた。おそらく今準備している途中か、発動する機会をうかがっているか、一日もしくは数時間に一度しか使えないかのどれかだろう』
『その中では発動する機会を狙っているは消しても良いな。問答無用で対象を完全停止できるなら、あのものが主人を攻撃してくる前に時間を止めたら良いだけの事。そうしていないなら、すぐには発動できない状態と考えて良いはず』
『つまり、まずは目の前の才歪さんに全力で対応するべきというわけですね』
『そうだ。今の俺達の強みである意識が三つあり、その意識を高速でやりとりできる点を生かして、とにかく動いて戦うぞ‼︎』
『はい‼︎』
『良いだろう‼︎』
俺達が気合いを入れ直した瞬間、才歪の左手が消え秋臣の握っている木刀をつかんでいた。
『秋臣、木刀を消して横に跳べ‼︎』
ボンッ‼︎
秋臣が木刀を消し転がるように横へ跳んだと同時に、秋臣が立っていた場所で空気が炸裂する。
才歪にもさらなる別の攻撃系の異能力があったのかと苦々しく思っていながら目を向けると、才歪は顎に引きつけていた右拳を振り抜いた体勢になっていた。
『…………避げられまじだが。じがじ、次ば確実に左でづがみ右で打ぢ抜ぎまず』
『そういう事か……。厄介な』
『あのものの新たな異能力が何なのかわかったのか?』
『異能力じゃない。単純に右拳を突き出してきただけだ』
『え?』
『左腕で牽制と相手を崩し、右腕で強力な一撃を放つ。基本的とも言える格闘の型だな』
『いや待て。なぜ威力が増している⁉︎』
『拳の突き方を変えたんだよ。今までの両腕での次の乱打は、言ってみれば大量の小石を投げてきたようなもので、今の右拳の一撃は大きな鉄球を全力でぶん投げてきたのと同じ。どう考えても威力は比べものにならないだろ?』
『うう……』
『それは……』
『だが、本当に注意が必要なのは左での崩しだ。左でつかまれて引き寄せられている途中で右拳を直撃されたら秋臣の身体は爆散する。秋臣、何度も言っているが才歪の攻撃が始まったら絶対に止まるな。つかまれた時が終わりだ』
『わ、わかりました』
才歪は秋臣が立ち上がり木刀を構えたのを見た後、再び左腕をダラリと下げて右拳を顎辺りに引きつけ細かく身体を動かし始める。
一度目の攻撃を避けられた事から、俺達の思考速度は才歪の攻撃速度に勝っていると判断できるが、今の俺達には才歪を攻め落とすだけの攻撃速度がない。
…………多少は強引な手段で攻めないと詰むな。
きっちり反撃するためにも、まずは全力で避けるとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
さっきまでの焦り具合から心配はあったものの、しっかりと息が乱れすぎない範囲の速さで走れているから大丈夫だと安心できた。
それに徐々に走る動作が滑らかになってきているのも今後の戦いを考える中で好材料だな。
『ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、そろそろ、ですか?』
『ああ、そろそろ秋臣にもあいつらが見えてくるぞ』
『あいつらは主人が追ってきているのに気づいていると思うか?』
『まあ紋綴りの叫び声を聞いたなら気づいてもおかしくない』
『警戒、する、べき、なのは、罠、ですね』
『それは俺も考えたが、正直なところ考えるだけ無駄という結論になった』
俺がそう言ったら秋臣はえ?と困惑し一瞬転びかけ、葛城ノ剣は押し黙った。
しかし、すぐに納得して答えを当ててくる。
『あの異能力図鑑には通常一人一つしかない異能力が無数にあるからだな?』
『そうだ。何かしらの異能力を使った罠に関しては、そういうのもあるかもしれないと頭の隅に残しておくだけで良いだろう。むしろそれ以上に用心するべきなのは不意打ちだな』
『あいつらの気配はどうだ?』
『二人はいっしょにいる。ただ、今の俺は才歪の異能力で感覚がかなり鈍っているから当てにしすぎるな。秋臣も葛城ノ剣も警戒してくれ』
『わかり、ました』
『わかっている』
さて、このまま秋臣が近づけば戦いになるのは間違い。
そこで考える必要があるのは異能力図鑑達の優先順位だな。
異能力図鑑はより強い異能力を手に入れたいはずで、学園に向かっているのはまさにその目的を叶えるためだ。
しかし、秋臣が接近すれば、もともとの目的に加えて障害を排除しなければならないという選択肢が生まれる。
あいつらは今の秋臣をどれほどの脅威と見ているかが重要だな。
今の秋臣をどれほど危険視しているかで異能力図鑑と才歪の二人がかりでくるのか、それとも才歪が秋臣の足止めをして異能力図鑑は学園へ向かうかのどちらになるかが決まるはず。
俺がそんな事を考えていたら、あいつらの気配に違和感を感じた。
『秋臣、今すぐ道をそれろ‼︎』
『え⁉︎ あ、はい‼︎』
ボボボボボボボボッ‼︎
秋臣が角を曲がった瞬間、それまで秋臣のいた空間を才歪の伸びる突きが連続で貫いていった。
『うわあ‼︎』
『チッ、やっぱり感覚が鈍ってやがるな。気づくのが遅れた、くそが‼︎』
『主人よ、そのまま走りながら学園の方へ向かう意思を見せるんだ。主人を囮にするのは気が引けるが、相手の行動はある程度絞りたい』
『僕の、事は、気に、しないで、ください。ええと……、うわっ‼︎』
秋臣が学園の方へ進路を変えようとしたら、伸びてくる突きの連撃が進行方向を壁のように遮る。
俺は秋臣にいったん退がるように言おうとしたら、それより前に葛城ノ剣が秋臣へ指示を出して退避させたため、俺は角から出てきた才歪へ向けておく。
普通ならここまでの接近を見逃すはずはないから、俺の感じていた気配は異能力図鑑の隠蔽や他の異能力で誤魔化されていたものらしい。
そして、さらに考えておかなければならないのは、この場に姿を見せていない異能力図鑑がどうするつもりなのかという事。
秋臣を才歪に任せたのか、それとも自分を隠蔽して奇襲を狙ってくるのか、少なくとも才歪の視線や仕草からは読み取れるものないわけだがどっちだ?
『秋臣、葛城ノ剣……』
『僕は才歪さんを見ています』
『我も主人とともにあのものへ対応する。お前はもう一人を警戒しろ。お前という戦いの主軸を警戒に注力させるのは戦力低下でしかないが、現状では不意打ちを受ける事がもっとも愚かな事だ』
『僕もその意見には賛成です』
『わかった。気をつけろよ』
俺も秋臣と葛城ノ剣の意見に異論はなかったため、才歪から視線を外しできる限り詳細に周りの気配を探っていく…………が、どうしても才歪の様子を気にしてしまい十の内のニぐらいの意識を才歪に残してしまう。
そんな意識の一部で見た才歪は首を傾げていた。
『…………やばりあなだの今の状態ばおがじいでずね。あなだば本当にあなだでずが?』
『どういう意味です?』
『…………私の異能力で確がに感覚ば落ぢでいるばずなのに私の攻撃を避げでいる。でも、ぞの避げ方ば、まるで誰がに指示ざれだ通りに避げでいるだげな気がじまず』
チッ、本当に冷静な値踏みをしてやがる。
秋臣もここで自分が表に出ていて弱くなっている事を確信されるのはまずいと判断して、できるだけ雰囲気を俺に近づけるよう意識し始めた。
才歪が目の前にいるから葛城ノ剣の異能力を消す光を当てて俺の弱体化を解除させるチャンスではあるが、妙に警戒されているため下手に攻められない。
『おい、もう一人はどうだ? 見つけたか?』
『…………わからないとしか言えないが』
『間違いなく潜んでいると僕も思います』
『主人よ、その根拠はなんだ?』
『学園の方に何の動きもありません。さすがにいくら異能力図鑑さんが無数の手札を持っていると言っても学園長達を瞬時に倒すのは無理なはず』
『それは……そうだな』
『ならば、この後の展開はいくつか考えられるが、おそらく……』
俺達が才歪の出方を思い浮かべていると、才歪の目がギラッと光った。
『…………見れば見るぼど、考えれば考えるぼど不自然。じがじ、ぞれも倒じでじまえば些細な事』
『やっぱりガンガン攻めてくる気か』
『あのものの攻撃で倒せるなら良し。もし、倒せなくとも、もう一人のために大きな隙を作れればそれでも良しというわけだな。主人よ』
『すー……、はー……、わかってます』
才歪は秋臣が呼吸を整えたと同時に両腕を曲げて構え、次の瞬間には両腕がブレた。
『秋臣、二歩左後ろ‼︎ しゃがんで右に跳べ‼︎』
『はい‼︎』
『葛城ノ剣、お前は警戒だ‼︎ 秋臣、木刀を左へ払え‼︎』
『く……、致し方ないか』
『右、二歩前、木刀で顔を守れ、すぐに左後ろへ、身体を時計回りに回転させつつ、その勢いのまま柄頭を正面へ叩き込め。今だ‼︎』
俺の指示に反応して繰り出した秋臣の一撃は才歪の右拳の親指側に当たったものの、才歪がすばやく拳を引いたため直撃とはならず少し拳の肉を削る程度に終わった。
あの程度の傷では才歪の戦闘力を下げられないが、連撃を中断させて秋臣に一息つく間を稼げた事と、こちらからもまぐれ当たりではない確かな反撃をできると示せたのは何より大きい。
才歪は拳の状態を確かめた後、再び秋臣をギラつく目で見てくる。
『…………やばり、先ぼどの木刀をがずらぜだのば偶然でばながっだみだいね。それならば』
『構えが変わりましたね』
今までの構えがしっかりと両足で立ち身体の正面を秋臣へ向け両拳を肩ぐらいまであげるものだったのが、左半身を前にして左手をだらりと下げ右拳を顎辺りに引きつけたまま爪先立ちで細かくステップを踏み出した。
『秋臣、このからの攻め方はさっきまでと別物だと思え』
『わかりました。…………一つ疑問なんですが、どうして異能力図鑑さんは時間を止めてこないんでしょう? 戦闘から外れてそこそこ時間が経ってますよね?』
『その事は俺も考えた。おそらく今準備している途中か、発動する機会をうかがっているか、一日もしくは数時間に一度しか使えないかのどれかだろう』
『その中では発動する機会を狙っているは消しても良いな。問答無用で対象を完全停止できるなら、あのものが主人を攻撃してくる前に時間を止めたら良いだけの事。そうしていないなら、すぐには発動できない状態と考えて良いはず』
『つまり、まずは目の前の才歪さんに全力で対応するべきというわけですね』
『そうだ。今の俺達の強みである意識が三つあり、その意識を高速でやりとりできる点を生かして、とにかく動いて戦うぞ‼︎』
『はい‼︎』
『良いだろう‼︎』
俺達が気合いを入れ直した瞬間、才歪の左手が消え秋臣の握っている木刀をつかんでいた。
『秋臣、木刀を消して横に跳べ‼︎』
ボンッ‼︎
秋臣が木刀を消し転がるように横へ跳んだと同時に、秋臣が立っていた場所で空気が炸裂する。
才歪にもさらなる別の攻撃系の異能力があったのかと苦々しく思っていながら目を向けると、才歪は顎に引きつけていた右拳を振り抜いた体勢になっていた。
『…………避げられまじだが。じがじ、次ば確実に左でづがみ右で打ぢ抜ぎまず』
『そういう事か……。厄介な』
『あのものの新たな異能力が何なのかわかったのか?』
『異能力じゃない。単純に右拳を突き出してきただけだ』
『え?』
『左腕で牽制と相手を崩し、右腕で強力な一撃を放つ。基本的とも言える格闘の型だな』
『いや待て。なぜ威力が増している⁉︎』
『拳の突き方を変えたんだよ。今までの両腕での次の乱打は、言ってみれば大量の小石を投げてきたようなもので、今の右拳の一撃は大きな鉄球を全力でぶん投げてきたのと同じ。どう考えても威力は比べものにならないだろ?』
『うう……』
『それは……』
『だが、本当に注意が必要なのは左での崩しだ。左でつかまれて引き寄せられている途中で右拳を直撃されたら秋臣の身体は爆散する。秋臣、何度も言っているが才歪の攻撃が始まったら絶対に止まるな。つかまれた時が終わりだ』
『わ、わかりました』
才歪は秋臣が立ち上がり木刀を構えたのを見た後、再び左腕をダラリと下げて右拳を顎辺りに引きつけ細かく身体を動かし始める。
一度目の攻撃を避けられた事から、俺達の思考速度は才歪の攻撃速度に勝っていると判断できるが、今の俺達には才歪を攻め落とすだけの攻撃速度がない。
…………多少は強引な手段で攻めないと詰むな。
きっちり反撃するためにも、まずは全力で避けるとしよう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
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