121 / 129
第5章 異世界の男は斬る
第25話
しおりを挟む
葛城ノ剣を手にした秋臣から揺らぎのないピンと張った戦意が伝わってくる。
秋臣自身が言った通り本当に覚悟を決められたようで、ひとまず安心だ。
あとは葛城ノ剣を持った状態での最初の攻防に対応できるかどうかだが、実戦で動けなくなる奴は割と多いものの秋臣のこの戦意なら大丈夫だろう。
ドゴンッ‼︎
俺が一人で納得していたら今までで一番大きな破壊音が響き大量の土煙と破片が飛び散ってきたため、秋臣に葛城ノ剣で身を隠すように伏せさせた。
…………まあ、葛城ノ剣を出現させて劇的な反応を見せる奴は、この場に一人、いや一体しかいない。
土煙が晴れると、そこには俺の予想通り足もとの路面を踏み砕き大きく陥没させた紋綴りが立っていた。
ただし、その形相は今までと違い憤怒で歪んでおり、さらに激しい怒りのためかギリギリと食いしばっている口から血が滴り落ちている。
『おまえが……』
『秋臣』
『わかっています。油断なんてできません』
『おまえが、あのがだをづがうなーーーーーー‼︎‼︎‼︎』
叫びながら紋綴りが走り出すと、怒り狂っているせいか一歩ごとに地面が大きく震えた。
誰でも、器物だとしても自分の大事に思っている存在を使われるのは我慢できないものかと少し気まずくいたら、秋臣が葛城ノ剣へ意識を向ける。
すると、葛城ノ剣の姿が奥底にいる俺の隣に現れた。
『葛城ノ剣さん……』
『主人よ、どうした?』
『ごめんなさい』
『…………なぜ、我に謝る?』
『その……、僕のせいで仲間と戦う事になったので……』
『ああ、そういう事か。気にする必要はない』
『ですが……』
『主人よ、我は意志や姿を持とうが武器だ。そして武器とは戦うためにある存在。相手は問わん。さらに言えばだ』
『はい……』
『我は主人を主人としている事に何の不満もない。主人よ、覚悟を決めたのだろう?』
『そうです』
『それならば我を主人の道を切り拓く力とせよ』
『…………ありがとうございます』
葛城ノ剣の言葉を聞いた秋臣の身体から少し緊張がとれた。
完全に迷いはとれたわけではないだろうが、これなら戦闘に問題はない。
『秋臣、葛城ノ剣の異能力はわかるな?』
『はい。異能力を消し去る光です』
『そうだ。しかし、その光は残弾に限りがある。基本的には剣身に光を纏わせる形で使え。俺と感覚を共有していた秋臣にならできる』
『わかりました』
『それとだ』
『今の僕の実力だと飛んでくる瓦礫に全て迎撃するのは難しいので注意します』
『よし、強い武器を手に入れてもうわついてないな。そのまま慎重に戦うんだ。まず、走り寄ってくる紋綴りの初撃をしっかり避けろ』
『はい』
『良いだろう』
俺達が会話していたら、秋臣へと走り寄っていた紋綴りが止まり大きく足を後ろへ振り上げた。
俺なら足を振り上げた瞬間に跳び込み軸足を叩っ斬るところだが、秋臣は冷静に周りをサッと見回し一番遮蔽物の多い場所へ跳び込んだ。
『ヌガアアアアアアアッ‼︎』
『秋臣、俺が紋綴りや異能力図鑑達の様子を感じておくから、お前は遮蔽物の間を動き続けろ‼︎ あの力感だと半端な遮蔽は意味をなさないはずだ‼︎ 葛城ノ剣は秋臣に周りの状況を教えていけ』
『わかり、ました‼︎』
『ふむ、良いだろう』
秋臣が動き出した数瞬後に轟音が響き、さっきまで秋臣のいた辺りを大量の瓦礫が撃ち抜いていた。
…………あれは精霊級でも防御を苦手とする奴が受けたら死ぬな。
『秋臣、紋綴りが左から回り込んでいるぞ。剣身に光を纏わせろ』
『っ……、わかりました‼︎』
一瞬、秋臣は俺の忠告に息を呑んだが、すぐに気を取り直して持っている葛城ノ剣に意識を集中させる。
多少、光にムラはあるもののこれくらいなら問題ないだろうと今の秋臣と紋綴りを比べていたら、紋綴りが遮蔽物をぶち抜いて秋臣へつかみかかってきた。
『ごろず‼︎ ごろずっ‼︎ ごろじでやるっ‼︎』
『秋臣、下で足だ‼︎』
『はい‼︎』
『ざぜるがっ‼︎』
秋臣は俺の指示に反応して紋綴りの股下を潜りすれ違いざまに足を斬ろうとしたが、紋綴りはすばやく対応して両手を路面につきグッと手足に力を込め始める。
そして次の瞬間には巨体を生かした最速のタックルを仕掛けてきた。
怒り狂っていても最低限の冷静さは保てているわけか。
まあ、それならそれでやりようはある。
『秋臣、に、いや、三歩右だ‼︎』
『わかりました‼︎』
『むだだ‼︎ じねええええ‼︎』
紋綴りは勢いの乗った瞬間に秋臣が右にズレた事で突進を直撃させるのが難しいと悟り太く長い両腕を横に伸ばし秋臣を引っ掛けようとしてきた。
『今だ‼︎ 木刀を身体の正面に立てながら、低い体勢で前へ踏み込め‼︎』
『は、はい‼︎』
『ぬお⁉︎ おれのうでが⁉︎』
秋臣の木刀に紋綴りの腕が触れた結果、紋綴りの腕はちぎれ飛んだ。
紋綴りの身体は紋綴りが作り上げたもので器物特有だろう異能力をもとにしており、その異能力で作られた腕に異能力を消す光を纏わせた木刀が触れる事で切れ目ができた。
あとは単純で紋綴り自身の勢いに切れ目の入った腕が負けてちぎれたというわけだな。
『よし、秋臣、お前は俺の指示にも反応できているから戦えているぞ』
『あ、ありがとうございます』
『主人よ、その調子だ。我らがついているから落ち着いてやれ』
『頼りにしてます‼︎』
『ぐぞぐぞぐぞぐぞ、ぐぞがーーーっ‼︎』
『秋臣、蹴りがくるから合図したら二歩左だ』
『…………動け‼︎ それと木刀を右に振り下ろせ‼︎』
『うわあ‼︎』
『があああああ‼︎ なぜ、おれのがらだがよわぐなっだやづにぎずづげられる⁉︎』
秋臣が俺の指示通り必死に動き紋綴りの前蹴りを避けつつ木刀を振り下ろすと、紋綴りの足をすねあたりで断ち切った。
このまま残りの腕と足も斬ってとどめを刺すべきだと思ったが、あいつらはどうしている?という考えが浮かぶ。
『葛城ノ剣、秋臣への指示を頼む‼︎ 秋臣、引き気味で良いから無理はするな‼︎』
『ふむ、良いだろう』
『え、あ、はい‼︎』
『ありえない‼︎ ぜっだいにありえないんだ‼︎』
紋綴りが秋臣に斬られた手足の修復を忘れ残った手足を振り回している中、鈍っている感覚を集中して異能力図鑑達の様子を探ると異能力図鑑達は明らかに学園の方へ近づいていた。
『おい、どうした? 迷いとイラつきを感じるぞ』
『あの人達は今どうしているんですか?』
『こういう伝えたくない事がある時に感覚を共有しているのは不便だな。…………異能力図鑑達は学園に近づいている』
『追いましょう‼︎』
『良いのか? おそらく激戦になるぞ?』
『今さらです。それに僕はやると決めています‼︎』
『…………そうだった。悪い。ひよっていたのは俺だな。よし、まずは紋綴りを動けなくする。良いな⁉︎』
『はい‼︎』
『ぐぞが‼︎ あだれ‼︎ あだれ‼︎ あだれーーー‼︎』
紋綴りは秋臣が引き気味に戦っていた事で、いくら残った手足を振り回しても当てられない状況に保てていた最低限の冷静さがどんどん削れてきていた。
『あそこまで乱れているなら攻め時だろうな。秋臣、俺が合図したら踏み込み、できるだけ紋綴りの近くで異能力を消す光を放て』
『なるほど。今なら限られた数発の内の一発を使うだけの成果が得られる可能性は高い。我にも異論はない』
『…………わかりました』
『秋臣……』
『大丈夫です。やれます』
『わかった。そろそろ一番の大振りがくるはずだ』
俺がそう言った瞬間、紋綴りのこめかみから血がふき出す。
怒りのあまり血管が破れるという身体の再現率の高さに少し感心していると、紋綴りは何て言っているかわからないくらいの怒声をあげながら秋臣へ拳を振り下ろしてきた。
『秋臣‼︎』
『はい‼︎』
すぐに秋臣は反応し紋綴りの足もとへ一気に跳び込むとカッと紋綴りの太ももあたりに木刀の切っ先を向ける。
紋綴りは秋臣の行動の意味がわからなかったのか怒り狂った表情から困惑の表情に変えたものの、また表情が怒りに上書きされて拳で叩き潰そうとしてきた。
『やあっ‼︎』
『ぎやああああああ‼︎』
秋臣が気合いとともに放った異能力を消す光は直撃しようとしていた拳や切っ先を向けていた半身を消し去り紋綴りをボロボロにする。
それでもさすが器物というべきか意識を保っていて、秋臣を残った半身で押し潰そうとしてきたため秋臣へ離れるよう指示を出す。
路面に倒れた紋綴りを見た秋臣は頭の中が真っ白になっていた。
『…………』
「秋臣、大丈夫じゃないだろうが、次に行くぞ」
『いえ……、行けます。どっちへ走れば良いですか?』
『葛城ノ剣』
『周りの把握はできている。最短であいつらのもとへ連れて行こう』
『ぐ……、ま……で……』
『…………ふう、向かいます』
紋綴りの途切れ途切れな声が小さく聞こえる中、秋臣は呼吸を整えて走り出した。
◆◆◆◆◆
秋臣は異能力図鑑達に追いつこうと走っているわけだが、その走りは俺の走り方を完全ではないものの再現していて俺の半分ほどの速さを出せている。
問題があるとすれば……。
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣、もっとペースを落とせ。このままだとあいつらに追いついたとしても疲れが溜まってまともに動けなくなる』
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣?』
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣‼︎』
『は、はい⁉︎』
『今すぐ止まれ』
『え? でも、それは……』
『いいから止まれ』
『…………わかりました』
俺の言葉に応えて秋臣は止まったものの、視線を異能力図鑑達がいるだろう方向を見ていた。
秋臣から伝わってくる感情は……焦りと苦さだな。
『とにかく呼吸を整えろ』
『はい……』
秋臣は全く視線を動かさないまま、深呼吸を繰り返していく。
…………これはきちんと話した方が良いな。
『秋臣、はっきり言っておくぞ。異能力図鑑達と戦い始めたのは俺だ。そもそも俺が時間停止なんていう反則技をされる前に攻め切っていれば、お前が紋綴りを傷つける事もなかった。紋綴りを倒すよう指示したのも俺だ。つまり全ての責任は俺にある。そこのところを間違えるな』
『ですが、僕は覚悟を決めました』
『それはわかっている。だが、今は俺の責任にしておけ』
『え?』
『覚悟をするという事は背負うという事だが、お前の荷物は俺が背負っておく。いずれ背負い切れるようになった時に背負えば良い。今はただ目の前の戦いを勝つ事だけに集中しろ。それとだ』
『何ですか?』
『秋臣、お前は一人じゃない。俺もいるし葛城ノ剣もいる。その事も忘れるな』
『…………はい』
秋臣の気持ちが少しずつ落ち着いていく。
…………くそ、秋臣に戦いに対する焦りや苦さを感じさせてしまっている俺自身に腹が立ってしょうがない。
『僕なら大丈夫です。僕達で勝ちましょう』
『そうだな。葛城ノ剣』
『このまま進んで大丈夫だ。主人よ、我も一言言っておく。我を使い潰す事をためらうな』
『え、それは……』
『武器は戦いで使われる事が本望。むしろ我の損耗を恐れて主人が敗れるなど論外だ。武器として我にも全力を尽くさせてほしい』
『…………わかりました。改めて言います。僕達で勝ちましょう』
『おう』
『了解した』
一つの身体に別々の三つの意志が宿るという特異な存在の俺達は、言いたい事を言って気持ちが同じ方向を向いた。
この状態なら異能力図鑑達と戦ってもそう悪い結果にならないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
秋臣自身が言った通り本当に覚悟を決められたようで、ひとまず安心だ。
あとは葛城ノ剣を持った状態での最初の攻防に対応できるかどうかだが、実戦で動けなくなる奴は割と多いものの秋臣のこの戦意なら大丈夫だろう。
ドゴンッ‼︎
俺が一人で納得していたら今までで一番大きな破壊音が響き大量の土煙と破片が飛び散ってきたため、秋臣に葛城ノ剣で身を隠すように伏せさせた。
…………まあ、葛城ノ剣を出現させて劇的な反応を見せる奴は、この場に一人、いや一体しかいない。
土煙が晴れると、そこには俺の予想通り足もとの路面を踏み砕き大きく陥没させた紋綴りが立っていた。
ただし、その形相は今までと違い憤怒で歪んでおり、さらに激しい怒りのためかギリギリと食いしばっている口から血が滴り落ちている。
『おまえが……』
『秋臣』
『わかっています。油断なんてできません』
『おまえが、あのがだをづがうなーーーーーー‼︎‼︎‼︎』
叫びながら紋綴りが走り出すと、怒り狂っているせいか一歩ごとに地面が大きく震えた。
誰でも、器物だとしても自分の大事に思っている存在を使われるのは我慢できないものかと少し気まずくいたら、秋臣が葛城ノ剣へ意識を向ける。
すると、葛城ノ剣の姿が奥底にいる俺の隣に現れた。
『葛城ノ剣さん……』
『主人よ、どうした?』
『ごめんなさい』
『…………なぜ、我に謝る?』
『その……、僕のせいで仲間と戦う事になったので……』
『ああ、そういう事か。気にする必要はない』
『ですが……』
『主人よ、我は意志や姿を持とうが武器だ。そして武器とは戦うためにある存在。相手は問わん。さらに言えばだ』
『はい……』
『我は主人を主人としている事に何の不満もない。主人よ、覚悟を決めたのだろう?』
『そうです』
『それならば我を主人の道を切り拓く力とせよ』
『…………ありがとうございます』
葛城ノ剣の言葉を聞いた秋臣の身体から少し緊張がとれた。
完全に迷いはとれたわけではないだろうが、これなら戦闘に問題はない。
『秋臣、葛城ノ剣の異能力はわかるな?』
『はい。異能力を消し去る光です』
『そうだ。しかし、その光は残弾に限りがある。基本的には剣身に光を纏わせる形で使え。俺と感覚を共有していた秋臣にならできる』
『わかりました』
『それとだ』
『今の僕の実力だと飛んでくる瓦礫に全て迎撃するのは難しいので注意します』
『よし、強い武器を手に入れてもうわついてないな。そのまま慎重に戦うんだ。まず、走り寄ってくる紋綴りの初撃をしっかり避けろ』
『はい』
『良いだろう』
俺達が会話していたら、秋臣へと走り寄っていた紋綴りが止まり大きく足を後ろへ振り上げた。
俺なら足を振り上げた瞬間に跳び込み軸足を叩っ斬るところだが、秋臣は冷静に周りをサッと見回し一番遮蔽物の多い場所へ跳び込んだ。
『ヌガアアアアアアアッ‼︎』
『秋臣、俺が紋綴りや異能力図鑑達の様子を感じておくから、お前は遮蔽物の間を動き続けろ‼︎ あの力感だと半端な遮蔽は意味をなさないはずだ‼︎ 葛城ノ剣は秋臣に周りの状況を教えていけ』
『わかり、ました‼︎』
『ふむ、良いだろう』
秋臣が動き出した数瞬後に轟音が響き、さっきまで秋臣のいた辺りを大量の瓦礫が撃ち抜いていた。
…………あれは精霊級でも防御を苦手とする奴が受けたら死ぬな。
『秋臣、紋綴りが左から回り込んでいるぞ。剣身に光を纏わせろ』
『っ……、わかりました‼︎』
一瞬、秋臣は俺の忠告に息を呑んだが、すぐに気を取り直して持っている葛城ノ剣に意識を集中させる。
多少、光にムラはあるもののこれくらいなら問題ないだろうと今の秋臣と紋綴りを比べていたら、紋綴りが遮蔽物をぶち抜いて秋臣へつかみかかってきた。
『ごろず‼︎ ごろずっ‼︎ ごろじでやるっ‼︎』
『秋臣、下で足だ‼︎』
『はい‼︎』
『ざぜるがっ‼︎』
秋臣は俺の指示に反応して紋綴りの股下を潜りすれ違いざまに足を斬ろうとしたが、紋綴りはすばやく対応して両手を路面につきグッと手足に力を込め始める。
そして次の瞬間には巨体を生かした最速のタックルを仕掛けてきた。
怒り狂っていても最低限の冷静さは保てているわけか。
まあ、それならそれでやりようはある。
『秋臣、に、いや、三歩右だ‼︎』
『わかりました‼︎』
『むだだ‼︎ じねええええ‼︎』
紋綴りは勢いの乗った瞬間に秋臣が右にズレた事で突進を直撃させるのが難しいと悟り太く長い両腕を横に伸ばし秋臣を引っ掛けようとしてきた。
『今だ‼︎ 木刀を身体の正面に立てながら、低い体勢で前へ踏み込め‼︎』
『は、はい‼︎』
『ぬお⁉︎ おれのうでが⁉︎』
秋臣の木刀に紋綴りの腕が触れた結果、紋綴りの腕はちぎれ飛んだ。
紋綴りの身体は紋綴りが作り上げたもので器物特有だろう異能力をもとにしており、その異能力で作られた腕に異能力を消す光を纏わせた木刀が触れる事で切れ目ができた。
あとは単純で紋綴り自身の勢いに切れ目の入った腕が負けてちぎれたというわけだな。
『よし、秋臣、お前は俺の指示にも反応できているから戦えているぞ』
『あ、ありがとうございます』
『主人よ、その調子だ。我らがついているから落ち着いてやれ』
『頼りにしてます‼︎』
『ぐぞぐぞぐぞぐぞ、ぐぞがーーーっ‼︎』
『秋臣、蹴りがくるから合図したら二歩左だ』
『…………動け‼︎ それと木刀を右に振り下ろせ‼︎』
『うわあ‼︎』
『があああああ‼︎ なぜ、おれのがらだがよわぐなっだやづにぎずづげられる⁉︎』
秋臣が俺の指示通り必死に動き紋綴りの前蹴りを避けつつ木刀を振り下ろすと、紋綴りの足をすねあたりで断ち切った。
このまま残りの腕と足も斬ってとどめを刺すべきだと思ったが、あいつらはどうしている?という考えが浮かぶ。
『葛城ノ剣、秋臣への指示を頼む‼︎ 秋臣、引き気味で良いから無理はするな‼︎』
『ふむ、良いだろう』
『え、あ、はい‼︎』
『ありえない‼︎ ぜっだいにありえないんだ‼︎』
紋綴りが秋臣に斬られた手足の修復を忘れ残った手足を振り回している中、鈍っている感覚を集中して異能力図鑑達の様子を探ると異能力図鑑達は明らかに学園の方へ近づいていた。
『おい、どうした? 迷いとイラつきを感じるぞ』
『あの人達は今どうしているんですか?』
『こういう伝えたくない事がある時に感覚を共有しているのは不便だな。…………異能力図鑑達は学園に近づいている』
『追いましょう‼︎』
『良いのか? おそらく激戦になるぞ?』
『今さらです。それに僕はやると決めています‼︎』
『…………そうだった。悪い。ひよっていたのは俺だな。よし、まずは紋綴りを動けなくする。良いな⁉︎』
『はい‼︎』
『ぐぞが‼︎ あだれ‼︎ あだれ‼︎ あだれーーー‼︎』
紋綴りは秋臣が引き気味に戦っていた事で、いくら残った手足を振り回しても当てられない状況に保てていた最低限の冷静さがどんどん削れてきていた。
『あそこまで乱れているなら攻め時だろうな。秋臣、俺が合図したら踏み込み、できるだけ紋綴りの近くで異能力を消す光を放て』
『なるほど。今なら限られた数発の内の一発を使うだけの成果が得られる可能性は高い。我にも異論はない』
『…………わかりました』
『秋臣……』
『大丈夫です。やれます』
『わかった。そろそろ一番の大振りがくるはずだ』
俺がそう言った瞬間、紋綴りのこめかみから血がふき出す。
怒りのあまり血管が破れるという身体の再現率の高さに少し感心していると、紋綴りは何て言っているかわからないくらいの怒声をあげながら秋臣へ拳を振り下ろしてきた。
『秋臣‼︎』
『はい‼︎』
すぐに秋臣は反応し紋綴りの足もとへ一気に跳び込むとカッと紋綴りの太ももあたりに木刀の切っ先を向ける。
紋綴りは秋臣の行動の意味がわからなかったのか怒り狂った表情から困惑の表情に変えたものの、また表情が怒りに上書きされて拳で叩き潰そうとしてきた。
『やあっ‼︎』
『ぎやああああああ‼︎』
秋臣が気合いとともに放った異能力を消す光は直撃しようとしていた拳や切っ先を向けていた半身を消し去り紋綴りをボロボロにする。
それでもさすが器物というべきか意識を保っていて、秋臣を残った半身で押し潰そうとしてきたため秋臣へ離れるよう指示を出す。
路面に倒れた紋綴りを見た秋臣は頭の中が真っ白になっていた。
『…………』
「秋臣、大丈夫じゃないだろうが、次に行くぞ」
『いえ……、行けます。どっちへ走れば良いですか?』
『葛城ノ剣』
『周りの把握はできている。最短であいつらのもとへ連れて行こう』
『ぐ……、ま……で……』
『…………ふう、向かいます』
紋綴りの途切れ途切れな声が小さく聞こえる中、秋臣は呼吸を整えて走り出した。
◆◆◆◆◆
秋臣は異能力図鑑達に追いつこうと走っているわけだが、その走りは俺の走り方を完全ではないものの再現していて俺の半分ほどの速さを出せている。
問題があるとすれば……。
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣、もっとペースを落とせ。このままだとあいつらに追いついたとしても疲れが溜まってまともに動けなくなる』
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣?』
『はあ……、はあ……、はあ……』
『秋臣‼︎』
『は、はい⁉︎』
『今すぐ止まれ』
『え? でも、それは……』
『いいから止まれ』
『…………わかりました』
俺の言葉に応えて秋臣は止まったものの、視線を異能力図鑑達がいるだろう方向を見ていた。
秋臣から伝わってくる感情は……焦りと苦さだな。
『とにかく呼吸を整えろ』
『はい……』
秋臣は全く視線を動かさないまま、深呼吸を繰り返していく。
…………これはきちんと話した方が良いな。
『秋臣、はっきり言っておくぞ。異能力図鑑達と戦い始めたのは俺だ。そもそも俺が時間停止なんていう反則技をされる前に攻め切っていれば、お前が紋綴りを傷つける事もなかった。紋綴りを倒すよう指示したのも俺だ。つまり全ての責任は俺にある。そこのところを間違えるな』
『ですが、僕は覚悟を決めました』
『それはわかっている。だが、今は俺の責任にしておけ』
『え?』
『覚悟をするという事は背負うという事だが、お前の荷物は俺が背負っておく。いずれ背負い切れるようになった時に背負えば良い。今はただ目の前の戦いを勝つ事だけに集中しろ。それとだ』
『何ですか?』
『秋臣、お前は一人じゃない。俺もいるし葛城ノ剣もいる。その事も忘れるな』
『…………はい』
秋臣の気持ちが少しずつ落ち着いていく。
…………くそ、秋臣に戦いに対する焦りや苦さを感じさせてしまっている俺自身に腹が立ってしょうがない。
『僕なら大丈夫です。僕達で勝ちましょう』
『そうだな。葛城ノ剣』
『このまま進んで大丈夫だ。主人よ、我も一言言っておく。我を使い潰す事をためらうな』
『え、それは……』
『武器は戦いで使われる事が本望。むしろ我の損耗を恐れて主人が敗れるなど論外だ。武器として我にも全力を尽くさせてほしい』
『…………わかりました。改めて言います。僕達で勝ちましょう』
『おう』
『了解した』
一つの身体に別々の三つの意志が宿るという特異な存在の俺達は、言いたい事を言って気持ちが同じ方向を向いた。
この状態なら異能力図鑑達と戦ってもそう悪い結果にならないだろう。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
0
お気に入りに追加
103
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
異能テスト 〜誰が為に異能は在る〜
吉宗
SF
クールで知的美人だが、無口で無愛想な国家公務員・牧野桐子は通称『異能係』の主任。
そんな彼女には、誰にも言えない秘密があり──
国家が『異能者』を管理しようとする世界で、それに抗う『異能者』たちの群像劇です。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは
竹井ゴールド
ライト文芸
日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。
その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。
青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。
その後がよろしくない。
青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。
妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。
長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。
次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。
三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。
四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。
この5人とも青夜は家族となり、
・・・何これ? 少し想定外なんだけど。
【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】
【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】
【2023/6/5、お気に入り数2130突破】
【アルファポリスのみの投稿です】
【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】
【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】
【未完】
Tune the Rainbow
Grimgerde(節制)
恋愛
かいり執筆+媛貴キャラクターデザインの近未来SF小説「Hypnotic Mother」20周年記念企画です。
現在本編が未完になっている為、本編そのものはあらすじ程度にしか公開しておりませんが、
「Hypnotic Mother本編」を【正典】とし、正典の風化防止として紡がれている【偽典】「Tune the Rainbow」の連載しております。
企画サイトはこちら。
https://hypnoticmother2021.web.fc2.com/
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる