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第5章 異世界の男は斬る

第25話

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 葛城ノ剣かつらぎのつるぎを手にした秋臣あきおみから揺らぎのないピンと張った戦意が伝わってくる。

 秋臣あきおみ自身が言った通り本当に覚悟を決められたようで、ひとまず安心だ。

 あとは葛城ノ剣かつらぎのつるぎを持った状態での最初の攻防に対応できるかどうかだが、実戦で動けなくなる奴は割と多いものの秋臣あきおみのこの戦意なら大丈夫だろう。

 ドゴンッ‼︎

 俺が一人で納得していたら今までで一番大きな破壊音が響き大量の土煙と破片が飛び散ってきたため、秋臣あきおみ葛城ノ剣かつらぎのつるぎで身を隠すように伏せさせた。

 …………まあ、葛城ノ剣かつらぎのつるぎを出現させて劇的な反応を見せる奴は、この場に一人、いや一体しかいない。

 土煙が晴れると、そこには俺の予想通り足もとの路面を踏み砕き大きく陥没させた紋綴りもんつづりが立っていた。

 ただし、その形相は今までと違い憤怒で歪んでおり、さらに激しい怒りのためかギリギリと食いしばっている口から血が滴り落ちている。

『おまえが……』
秋臣あきおみ
『わかっています。油断なんてできません』
『おまえが、あのがだをづがうなーーーーーー‼︎‼︎‼︎』

 叫びながら紋綴りもんつづりが走り出すと、怒り狂っているせいか一歩ごとに地面が大きく震えた。

 誰でも、器物だとしても自分の大事に思っている存在を使われるのは我慢できないものかと少し気まずくいたら、秋臣あきおみ葛城ノ剣かつらぎのつるぎへ意識を向ける。

 すると、葛城ノ剣かつらぎのつるぎの姿が奥底にいる俺の隣に現れた。

葛城ノ剣かつらぎのつるぎさん……』
主人あるじよ、どうした?』
『ごめんなさい』
『…………なぜ、我に謝る?』
『その……、僕のせいで仲間と戦う事になったので……』
『ああ、そういう事か。気にする必要はない』
『ですが……』
主人あるじよ、我は意志や姿を持とうが武器だ。そして武器とは戦うためにある存在。相手は問わん。さらに言えばだ』
『はい……』
『我は主人あるじ主人あるじとしている事に何の不満もない。主人あるじよ、覚悟を決めたのだろう?』
『そうです』
『それならば我を主人あるじの道を切り拓く力とせよ』
『…………ありがとうございます』

 葛城ノ剣かつらぎのつるぎの言葉を聞いた秋臣あきおみの身体から少し緊張がとれた。

 完全に迷いはとれたわけではないだろうが、これなら戦闘に問題はない。

秋臣あきおみ葛城ノ剣かつらぎのつるぎの異能力はわかるな?』
『はい。異能力を消し去る光です』
『そうだ。しかし、その光は残弾に限りがある。基本的には剣身に光を纏わせる形で使え。俺と感覚を共有していた秋臣あきおみにならできる』
『わかりました』
『それとだ』
『今の僕の実力だと飛んでくる瓦礫に全て迎撃するのは難しいので注意します』
『よし、強い武器を手に入れてもうわついてないな。そのまま慎重に戦うんだ。まず、走り寄ってくる紋綴りもんつづりの初撃をしっかり避けろ』
『はい』
『良いだろう』

 俺達が会話していたら、秋臣あきおみへと走り寄っていた紋綴りもんつづりが止まり大きく足を後ろへ振り上げた。

 俺なら足を振り上げた瞬間に跳び込み軸足を叩っ斬るところだが、秋臣あきおみは冷静に周りをサッと見回し一番遮蔽物の多い場所へ跳び込んだ。

『ヌガアアアアアアアッ‼︎』
秋臣あきおみ、俺が紋綴りもんつづりや異能力図鑑達の様子を感じておくから、お前は遮蔽物の間を動き続けろ‼︎ あの力感だと半端な遮蔽は意味をなさないはずだ‼︎ 葛城ノ剣かつらぎのつるぎ秋臣あきおみに周りの状況を教えていけ』
『わかり、ました‼︎』
『ふむ、良いだろう』

 秋臣あきおみが動き出した数瞬後に轟音が響き、さっきまで秋臣あきおみのいた辺りを大量の瓦礫が撃ち抜いていた。

 …………あれは精霊級エレメンタルでも防御を苦手とする奴が受けたら死ぬな。

秋臣あきおみ紋綴りもんつづりが左から回り込んでいるぞ。剣身に光を纏わせろ』
『っ……、わかりました‼︎』

 一瞬、秋臣あきおみは俺の忠告に息を呑んだが、すぐに気を取り直して持っている葛城ノ剣かつらぎのつるぎに意識を集中させる。

 多少、光にムラはあるもののこれくらいなら問題ないだろうと今の秋臣あきおみ紋綴りもんつづりを比べていたら、紋綴りもんつづりが遮蔽物をぶち抜いて秋臣あきおみへつかみかかってきた。

『ごろず‼︎ ごろずっ‼︎ ごろじでやるっ‼︎』
秋臣あきおみ、下で足だ‼︎』
『はい‼︎』
『ざぜるがっ‼︎』

 秋臣あきおみは俺の指示に反応して紋綴りもんつづりの股下を潜りすれ違いざまに足を斬ろうとしたが、紋綴りもんつづりはすばやく対応して両手を路面につきグッと手足に力を込め始める。

 そして次の瞬間には巨体を生かした最速のタックルを仕掛けてきた。

 怒り狂っていても最低限の冷静さは保てているわけか。

 まあ、それならそれでやりようはある。

秋臣あきおみ、に、いや、三歩右だ‼︎』
『わかりました‼︎』
『むだだ‼︎ じねええええ‼︎』

 紋綴りもんつづりは勢いの乗った瞬間に秋臣あきおみが右にズレた事で突進を直撃させるのが難しいと悟り太く長い両腕を横に伸ばし秋臣あきおみを引っ掛けようとしてきた。

『今だ‼︎ 木刀を身体の正面に立てながら、低い体勢で前へ踏み込め‼︎』
『は、はい‼︎』
『ぬお⁉︎ おれのうでが⁉︎』

 秋臣あきおみの木刀に紋綴りもんつづりの腕が触れた結果、紋綴りもんつづりの腕はちぎれ飛んだ。

 紋綴りもんつづりの身体は紋綴りもんつづりが作り上げたもので器物特有だろう異能力をもとにしており、その異能力で作られた腕に異能力を消す光を纏わせた木刀が触れる事で切れ目ができた。

 あとは単純で紋綴りもんつづり自身の勢いに切れ目の入った腕が負けてちぎれたというわけだな。

『よし、秋臣あきおみ、お前は俺の指示にも反応できているから戦えているぞ』
『あ、ありがとうございます』
主人あるじよ、その調子だ。我らがついているから落ち着いてやれ』
『頼りにしてます‼︎』
『ぐぞぐぞぐぞぐぞ、ぐぞがーーーっ‼︎』
秋臣あきおみ、蹴りがくるから合図したら二歩左だ』
『…………動け‼︎ それと木刀を右に振り下ろせ‼︎』
『うわあ‼︎』
『があああああ‼︎ なぜ、おれのがらだがよわぐなっだやづにぎずづげられる⁉︎』

 秋臣あきおみが俺の指示通り必死に動き紋綴りもんつづりの前蹴りを避けつつ木刀を振り下ろすと、紋綴りもんつづりの足をすねあたりで断ち切った。

 このまま残りの腕と足も斬ってとどめを刺すべきだと思ったが、あいつらはどうしている?という考えが浮かぶ。

葛城ノ剣かつらぎのつるぎ秋臣あきおみへの指示を頼む‼︎ 秋臣あきおみ、引き気味で良いから無理はするな‼︎』
『ふむ、良いだろう』
『え、あ、はい‼︎』
『ありえない‼︎ ぜっだいにありえないんだ‼︎』

 紋綴りもんつづり秋臣あきおみに斬られた手足の修復を忘れ残った手足を振り回している中、鈍っている感覚を集中して異能力図鑑達の様子を探ると異能力図鑑達は明らかに学園の方へ近づいていた。

『おい、どうした? 迷いとイラつきを感じるぞ』
『あの人達は今どうしているんですか?』
『こういう伝えたくない事がある時に感覚を共有しているのは不便だな。…………異能力図鑑達は学園に近づいている』
『追いましょう‼︎』
『良いのか? おそらく激戦になるぞ?』
『今さらです。それに僕はやると決めています‼︎』
『…………そうだった。悪い。ひよっていたのは俺だな。よし、まずは紋綴りもんつづりを動けなくする。良いな⁉︎』
『はい‼︎』
『ぐぞが‼︎ あだれ‼︎ あだれ‼︎ あだれーーー‼︎』

 紋綴りもんつづり秋臣あきおみが引き気味に戦っていた事で、いくら残った手足を振り回しても当てられない状況に保てていた最低限の冷静さがどんどん削れてきていた。

『あそこまで乱れているなら攻め時だろうな。秋臣あきおみ、俺が合図したら踏み込み、できるだけ紋綴りもんつづりの近くで異能力を消す光を放て』
『なるほど。今なら限られた数発の内の一発を使うだけの成果が得られる可能性は高い。我にも異論はない』
『…………わかりました』
秋臣あきおみ……』
『大丈夫です。やれます』
『わかった。そろそろ一番の大振りがくるはずだ』

 俺がそう言った瞬間、紋綴りもんつづりのこめかみから血がふき出す。

 怒りのあまり血管が破れるという身体の再現率の高さに少し感心していると、紋綴りもんつづりは何て言っているかわからないくらいの怒声をあげながら秋臣あきおみへ拳を振り下ろしてきた。

秋臣あきおみ‼︎』
『はい‼︎』

 すぐに秋臣あきおみは反応し紋綴りもんつづりの足もとへ一気に跳び込むとカッと紋綴りもんつづりの太ももあたりに木刀の切っ先を向ける。

 紋綴りもんつづり秋臣あきおみの行動の意味がわからなかったのか怒り狂った表情から困惑の表情に変えたものの、また表情が怒りに上書きされて拳で叩き潰そうとしてきた。

『やあっ‼︎』
『ぎやああああああ‼︎』

 秋臣あきおみが気合いとともに放った異能力を消す光は直撃しようとしていた拳や切っ先を向けていた半身を消し去り紋綴りもんつづりをボロボロにする。

 それでもさすが器物というべきか意識を保っていて、秋臣あきおみを残った半身で押し潰そうとしてきたため秋臣あきおみへ離れるよう指示を出す。

 路面に倒れた紋綴りもんつづりを見た秋臣あきおみは頭の中が真っ白になっていた。

『…………』
秋臣あきおみ、大丈夫じゃないだろうが、次に行くぞ」
『いえ……、行けます。どっちへ走れば良いですか?』
葛城ノ剣かつらぎのつるぎ
『周りの把握はできている。最短であいつらのもとへ連れて行こう』
『ぐ……、ま……で……』
『…………ふう、向かいます』

 紋綴りもんつづりの途切れ途切れな声が小さく聞こえる中、秋臣あきおみは呼吸を整えて走り出した。

◆◆◆◆◆

 秋臣あきおみは異能力図鑑達に追いつこうと走っているわけだが、その走りは俺の走り方を完全ではないものの再現していて俺の半分ほどの速さを出せている。

 問題があるとすれば……。

『はあ……、はあ……、はあ……』
秋臣あきおみ、もっとペースを落とせ。このままだとあいつらに追いついたとしても疲れが溜まってまともに動けなくなる』
『はあ……、はあ……、はあ……』
秋臣あきおみ?』
『はあ……、はあ……、はあ……』
秋臣あきおみ‼︎』
『は、はい⁉︎』
『今すぐ止まれ』
『え? でも、それは……』
『いいから止まれ』
『…………わかりました』

 俺の言葉に応えて秋臣あきおみは止まったものの、視線を異能力図鑑達がいるだろう方向を見ていた。

 秋臣あきおみから伝わってくる感情は……焦りと苦さだな。

『とにかく呼吸を整えろ』
『はい……』

 秋臣あきおみは全く視線を動かさないまま、深呼吸を繰り返していく。

 …………これはきちんと話した方が良いな。

秋臣あきおみ、はっきり言っておくぞ。異能力図鑑達と戦い始めたのは俺だ。そもそも俺が時間停止なんていう反則技をされる前に攻め切っていれば、お前が紋綴りもんつづりを傷つける事もなかった。紋綴りもんつづりを倒すよう指示したのも俺だ。つまり全ての責任は俺にある。そこのところを間違えるな』
『ですが、僕は覚悟を決めました』
『それはわかっている。だが、今は俺の責任にしておけ』
『え?』
『覚悟をするという事は背負うという事だが、お前の荷物は俺が背負っておく。いずれ背負い切れるようになった時に背負えば良い。今はただ目の前の戦いを勝つ事だけに集中しろ。それとだ』
『何ですか?』
秋臣あきおみ、お前は一人じゃない。俺もいるし葛城ノ剣かつらぎのつるぎもいる。その事も忘れるな』
『…………はい』

 秋臣あきおみの気持ちが少しずつ落ち着いていく。

 …………くそ、秋臣あきおみに戦いに対する焦りや苦さを感じさせてしまっている俺自身に腹が立ってしょうがない。

『僕なら大丈夫です。僕達で勝ちましょう』
『そうだな。葛城ノ剣かつらぎのつるぎ
『このまま進んで大丈夫だ。主人あるじよ、我も一言言っておく。我を使い潰す事をためらうな』
『え、それは……』
『武器は戦いで使われる事が本望。むしろ我の損耗を恐れて主人あるじが敗れるなど論外だ。武器として我にも全力を尽くさせてほしい』
『…………わかりました。改めて言います。僕達で勝ちましょう』
『おう』
『了解した』

 一つの身体に別々の三つの意志が宿るという特異な存在の俺達は、言いたい事を言って気持ちが同じ方向を向いた。

 この状態なら異能力図鑑達と戦ってもそう悪い結果にならないだろう。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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