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第4章 異世界の男は手に入れる
第20話
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ガッ‼︎
振り下ろした木刀が学園長室の床を砕く。
俺の速さと香仙の床に倒れた体勢を考えたら、木刀の一撃は当たるはずだったのに香仙の身体が瞬時に無数の花びらと化し、その場からいなくなっていた。
「…………なるほどな。この学園長室に現れた時は花びらが集まって身体を形成していったから、逆にまた花びらの状態になる事も可能というわけか」
変わった回避の方法を見て俺が少しだけ冷静になった中、香仙は少し離れた場所で再び花びらが集まり身体を構成した。
「…………」
しかし、さっきまでとは違い、その顔は真剣そのもの。
どうやら俺を倒すべき敵だと認識したらしい。
「認めてあげるわ。私の興味を満たすためには、あなたが邪魔よ。排除させてもらうわね」
「排除……? お前が俺をか?」
「当たり前でしょ」
「……くはは」
香仙の言った言葉を聞いた俺の口からは乾いた笑いが出てしまった。
「気に入らないわね。その態度は何?」
「かかって来いよ。そうすれば嫌でもわかる」
「せいぜい後悔すれば良いわ‼︎」
ダンッと強い跳び込みで俺の前まで来た香仙は、そのまま流れるようにゆったりとした袖からいくつもの武器を取り出して連撃を放ってくる。
言うだけあって香仙の攻撃は鋭く間合いも複雑に変化するため、一発でも当たればそのまま攻め切られて何もできずに地面に倒れる事になるだろう。
ただし、当たればな。
俺はその場から動かずに全ての攻撃を避けたり木刀で斬り捨てていく。
少しして香仙は攻撃が俺に当たらない事に焦れて、さらに近づいてこようとしたので俺は動きが雑になった時を狙って両腕と横腹に木刀を叩き込み、さらに突然の反撃で体勢を崩し前のめりになった香仙の頭部へ木刀を振り下ろす。
ガッ‼︎
今回も俺の木刀は香仙が花びらとなったため当たらず床を砕いてしまった。
「何度やってもあんたに私を倒せるわけ、な⁉︎」
「しゃべるな」
さすがに何度も見れば慣れるもので、離れたところで花びらが集まり香仙の身体ができた瞬間に香仙の顔と腕をつかみ、そのまま足を払って後頭部から床に叩きつける。
やっぱり武器を自由に出したり消せる点や、武器から素手と素手から武器のように武器を手放さずに戦い方を変えられる点で秋臣の異能力は便利だぞ。
俺は内心で秋臣の異能力を誉めつつ木刀の切先が床側にくるように出現させつかみ、そのまま香仙の顔めがけて突き下ろそうとした。
しかし、背中にゾワッと嫌な予感が走ったため、とっさに後ろへ退がったら香仙の身体から赤黒いモヤが放たれたので、さらに退がる。
「師匠!? いくら何でも、それを使うのは‼︎」
「黙りなさい。流子」
「ひゅ……」
「やってくれるわね。こうなったら何が何でも、あなたを倒してやるわ」
香仙は赤黒いモヤを周りに漂わせたまま立ち上がった。
あのモヤの正体はわからないが、少なくとも流々原先生をひどくうろたえるくらいの代物らしい。
さて、どうするか?
そんなのは決まっている。
俺は赤黒いモヤを斬って香仙までの道を作り跳び込んだ。
そして香仙の喉を木刀で突こうとしたが、香仙の身体からさらに大量の赤黒いモヤが広がってきたため反射的にまた退がってしまう。
しかし、収穫もある。
なぜなら追加された赤黒いモヤを至近距離で嗅ぐ事ができたからだ。
「……その赤黒いモヤは凝縮された香りか」
「その通り。一つ一つは良い香りでも、それが百、千、万と集まれば不快なものへと変わる。ほんの少しでも吸い込めば体調不良程度じゃすまないわ」
「なるほどな。毒かと思ったが香りなら何の問題もない」
「は?」
俺の発言を理解できないでいる香仙をよそに、俺は香仙が放ち続け徐々に広がっている赤黒いモヤの中に入って普通に呼吸をした。
「うそよ……。そんなはずが……」
「その反応、ずいぶんと自信があったんだな。まあ、流々原先生達の反応を見る限り致命的なものなんだろうが、俺にはこの通り」
「あなた本当に人間なの……?」
「この秋臣の身体は間違いなく人間だぞ。中身の俺は、かなり人間離れしているだろうな。実際、前に戦った器物が放ってきた香りも効かなかったしな」
「今私の放っている香りは生物が本能的に拒否する悪臭なのに……」
「悪臭……、悪臭ね」
「な、何よ」
「前の世界の俺の人生について、ふと考えただけだ」
「どんな生き方をしてたら最悪命に関わるこの悪臭の中で平然とできるのよ……?」
「聞いても気分が悪くなるだけだぞ?」
あまりにも香仙が愕然としているため、俺は秋臣に見ないように言っている前の世界の戦場について話した。
視界を埋め尽くす戦場の狂気に染まった歩兵達、地面には秒単位で増えていく死体、人が出しているのかも怪しい叫び声、殺された奴から吹き出て身体を濡らす温かい血、戦いが何日も続く中で始末されずに腐った死体から漂う激臭といったものをできるか限り詳しく説明してやると、香仙の顔は青白くなり俺の話を聞いていたシスティーゾ達も何というか引いていた。
…………改めて前の世界俺の人生はろくでもなかったんだな。
まあ、今は関係ない事だと頭を切り替え俺は殺気を強める。
「それで会話で時間稼ぎをして何かしようとしているみたいだが死ぬ覚悟はできたのか?」
「わ、私を倒す事は不可能よ‼︎ 忘れたの!?」
「できるから言っている」
「はん‼︎ やってみなさ」
叫ぶ香仙を木刀で斬り捨てたが、当然次の瞬間には香仙の身体は花びらと化す。
そして俺から離れた場所で再び身体を構成しようとしたが、俺は葛城ノ剣を出現させその刃から光を発して香仙の身体だった花びらにぶつけた。
『きゃああああああああっ‼︎』
光によって花びらが消滅していくと学園長室に香仙の叫び声が響く。
そして、半分ほどになり動きが鈍くなった花びらが空中で無理やり集まり身体を造ると、床に落ちた香仙は幼女の姿まで小さくなっていて身体から煙を出していた。
「な、にを、した、のよ?」
「この葛城ノ剣には異能力が備わっていて、今の光は異能力を消滅させ無力化するものだ」
「異能力を消滅させる光……?」
「そうだ。何発も放てるわけじゃないが、まだ数発は発せられる」
俺の説明を聞いて香仙の顔は絶望に染まる。
「その様子だと気づいたようだな。正解だ。単純に俺の方が速いからお前が何をしようと俺はお前を斬れる。死を回避しようと花びらになったところで葛城ノ剣の光によって消滅させられる。どうあがこうとお前は終わりだな」
「うう……」
「どこに行く気だ?」
少しでも俺から遠ざかろうとしていた香仙に葛城ノ剣の切っ先を向けながら近づいていく。
「この葛城ノ剣も、元はと言えば秋臣を傷つけた奴でな。実在していた葛城ノ剣は細切れにした。俺が何が言いたいかわかるか?」
「ひ……」
「俺の大事な存在を傷つけた奴は許さない。絶対に、だ」
「嫌……、たすけ」
「死ね」
俺は木刀と葛城ノ剣を振り上げ香仙を叩っ斬ろうとした。
しかし、両腕が動かせない。
見ると俺の両肘辺りに黒い球体があった。
「どういうつもりだ? 黒鳥夜 綺寂く」
「理由はいくつかあるわ」
「話せ。納得できないなら、お前も斬る」
「貴様‼︎」
学園長直属の実行部隊である聖の副隊長の入羽 風夏が俺を射殺さんばかりににらみつけてくる。
「あ?」
「ぐ……」
「そのまま黙ってろ」
俺は入羽 風夏に目を向けてから殺気をぶつけて気絶させ、その後黒鳥夜 綺寂くへ戻した。
「話せ」
「基本的には禅芭高校で流子があなたを止めた時と同じよ。凶行へ走ろうとする生徒を止めるのが教育者の役目」
「俺が秋臣を守ると決めた時から秋臣を傷つけられたのは二度目だ。一度目を我慢したからと言って二度目をその程度の理由で納得できると思うのか?」
「それなら吾郷学園の学園長である私の顔を立てるではダメかしら? 私が責任を持って香仙を罰するわ」
「話にならない。それで終わりなら交渉は決裂だな」
「それじゃあ、もう一つだけ言わせてもらうわ」
「何だ?」
「そこにいる香仙は世界的に見ても人間性はともかく能力を評価されていて有名なのよ」
「だから、どうした?」
「あなたが今借りている秋臣の身体を使って香仙を斬り殺せば、それは秋臣君の汚点になる。日頃から秋臣君の名誉を気にしているあなたが、あなたの感情を優先して秋臣君に汚点を残すのは違うはず」
「…………」
チッ、確実に俺が言われて嫌な事を言ってきやがる。
「それに怒っているのはあなただけじゃないのよ」
「何だと?」
「ここは私が長い間守ってきた吾郷学園。そこで正式に招いてもいないものに騒動を起こされた気持ちがわかるかしら?」
「お、おう……」
この黒鳥夜 綺寂くから感じる妙な迫力で圧されてしまった。
そしてこの時を待ち望んでいた奴がすばやく動き出す。
『今日はこれで終わりにしてあげる。でも、身体を戻してから次は必ず私の興味を満足させてやるわ』
香仙が花びらとなり叫んで窓へ向かっていく。
俺は葛城ノ剣から光を発して両肘の拘束と香仙の花びらを消し飛ばそうとした。
しかし、その前に香仙の花びら一つ一つが全て黒い球体に覆われる。
『な、何よこれ⁉︎』
「香仙、あなたの私達を瞬時に動けなくして自分が追い詰められるまで私達の拘束を解かなかった技量は見事の一言よ。でもね、無礼を働いたものが無事に帰れると思わないでちょうだい。しばらくは光も音も届かない私の影や闇の中ですごしてもらうわね」
『ちょっと、ふざけてないで出しなさいよ‼︎』
「反省しないなら、いつまで経っても出られないとだけ言っておくわ。良い時間を過ごしてね」
『嘘でしょ⁉︎ 嫌よ‼︎ 嫌ああああああ‼︎』
「あ、そうだ。いろいろと言いたい事があるから、まずは話し合う方が先ね。雷門、少しの間、業務を任せるわ」
「了解した」
「鶴見君」
「何だ?」
「香仙との話し合いがどうなったかは後々知らせるから、その時まで待っていて」
「…………わかった」
「ありがとう。それじゃあね」
黒鳥夜 綺寂くは聖隊長の武鳴 雷門と俺に話しかけた後、自分の影に沈んでいく。
それと同時に俺の両肘の拘束が解け、叫ぶ香仙を包んでいる黒い球体も周りの影に消えていった。
…………本当に話はこれで終わりかよ。
ただ俺がまた秋臣を守れなかったっていう事実が残っただけじゃねえか。
クソッ、スッキリしねえ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった!」、「続きが気になる、読みたい!」、「今後どうなるのっ……!」と思ったら、お気に入りの登録を、ぜひお願いします。
また感想や誤字脱字報告もお待ちしています。
振り下ろした木刀が学園長室の床を砕く。
俺の速さと香仙の床に倒れた体勢を考えたら、木刀の一撃は当たるはずだったのに香仙の身体が瞬時に無数の花びらと化し、その場からいなくなっていた。
「…………なるほどな。この学園長室に現れた時は花びらが集まって身体を形成していったから、逆にまた花びらの状態になる事も可能というわけか」
変わった回避の方法を見て俺が少しだけ冷静になった中、香仙は少し離れた場所で再び花びらが集まり身体を構成した。
「…………」
しかし、さっきまでとは違い、その顔は真剣そのもの。
どうやら俺を倒すべき敵だと認識したらしい。
「認めてあげるわ。私の興味を満たすためには、あなたが邪魔よ。排除させてもらうわね」
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「当たり前でしょ」
「……くはは」
香仙の言った言葉を聞いた俺の口からは乾いた笑いが出てしまった。
「気に入らないわね。その態度は何?」
「かかって来いよ。そうすれば嫌でもわかる」
「せいぜい後悔すれば良いわ‼︎」
ダンッと強い跳び込みで俺の前まで来た香仙は、そのまま流れるようにゆったりとした袖からいくつもの武器を取り出して連撃を放ってくる。
言うだけあって香仙の攻撃は鋭く間合いも複雑に変化するため、一発でも当たればそのまま攻め切られて何もできずに地面に倒れる事になるだろう。
ただし、当たればな。
俺はその場から動かずに全ての攻撃を避けたり木刀で斬り捨てていく。
少しして香仙は攻撃が俺に当たらない事に焦れて、さらに近づいてこようとしたので俺は動きが雑になった時を狙って両腕と横腹に木刀を叩き込み、さらに突然の反撃で体勢を崩し前のめりになった香仙の頭部へ木刀を振り下ろす。
ガッ‼︎
今回も俺の木刀は香仙が花びらとなったため当たらず床を砕いてしまった。
「何度やってもあんたに私を倒せるわけ、な⁉︎」
「しゃべるな」
さすがに何度も見れば慣れるもので、離れたところで花びらが集まり香仙の身体ができた瞬間に香仙の顔と腕をつかみ、そのまま足を払って後頭部から床に叩きつける。
やっぱり武器を自由に出したり消せる点や、武器から素手と素手から武器のように武器を手放さずに戦い方を変えられる点で秋臣の異能力は便利だぞ。
俺は内心で秋臣の異能力を誉めつつ木刀の切先が床側にくるように出現させつかみ、そのまま香仙の顔めがけて突き下ろそうとした。
しかし、背中にゾワッと嫌な予感が走ったため、とっさに後ろへ退がったら香仙の身体から赤黒いモヤが放たれたので、さらに退がる。
「師匠!? いくら何でも、それを使うのは‼︎」
「黙りなさい。流子」
「ひゅ……」
「やってくれるわね。こうなったら何が何でも、あなたを倒してやるわ」
香仙は赤黒いモヤを周りに漂わせたまま立ち上がった。
あのモヤの正体はわからないが、少なくとも流々原先生をひどくうろたえるくらいの代物らしい。
さて、どうするか?
そんなのは決まっている。
俺は赤黒いモヤを斬って香仙までの道を作り跳び込んだ。
そして香仙の喉を木刀で突こうとしたが、香仙の身体からさらに大量の赤黒いモヤが広がってきたため反射的にまた退がってしまう。
しかし、収穫もある。
なぜなら追加された赤黒いモヤを至近距離で嗅ぐ事ができたからだ。
「……その赤黒いモヤは凝縮された香りか」
「その通り。一つ一つは良い香りでも、それが百、千、万と集まれば不快なものへと変わる。ほんの少しでも吸い込めば体調不良程度じゃすまないわ」
「なるほどな。毒かと思ったが香りなら何の問題もない」
「は?」
俺の発言を理解できないでいる香仙をよそに、俺は香仙が放ち続け徐々に広がっている赤黒いモヤの中に入って普通に呼吸をした。
「うそよ……。そんなはずが……」
「その反応、ずいぶんと自信があったんだな。まあ、流々原先生達の反応を見る限り致命的なものなんだろうが、俺にはこの通り」
「あなた本当に人間なの……?」
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「悪臭……、悪臭ね」
「な、何よ」
「前の世界の俺の人生について、ふと考えただけだ」
「どんな生き方をしてたら最悪命に関わるこの悪臭の中で平然とできるのよ……?」
「聞いても気分が悪くなるだけだぞ?」
あまりにも香仙が愕然としているため、俺は秋臣に見ないように言っている前の世界の戦場について話した。
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「できるから言っている」
「はん‼︎ やってみなさ」
叫ぶ香仙を木刀で斬り捨てたが、当然次の瞬間には香仙の身体は花びらと化す。
そして俺から離れた場所で再び身体を構成しようとしたが、俺は葛城ノ剣を出現させその刃から光を発して香仙の身体だった花びらにぶつけた。
『きゃああああああああっ‼︎』
光によって花びらが消滅していくと学園長室に香仙の叫び声が響く。
そして、半分ほどになり動きが鈍くなった花びらが空中で無理やり集まり身体を造ると、床に落ちた香仙は幼女の姿まで小さくなっていて身体から煙を出していた。
「な、にを、した、のよ?」
「この葛城ノ剣には異能力が備わっていて、今の光は異能力を消滅させ無力化するものだ」
「異能力を消滅させる光……?」
「そうだ。何発も放てるわけじゃないが、まだ数発は発せられる」
俺の説明を聞いて香仙の顔は絶望に染まる。
「その様子だと気づいたようだな。正解だ。単純に俺の方が速いからお前が何をしようと俺はお前を斬れる。死を回避しようと花びらになったところで葛城ノ剣の光によって消滅させられる。どうあがこうとお前は終わりだな」
「うう……」
「どこに行く気だ?」
少しでも俺から遠ざかろうとしていた香仙に葛城ノ剣の切っ先を向けながら近づいていく。
「この葛城ノ剣も、元はと言えば秋臣を傷つけた奴でな。実在していた葛城ノ剣は細切れにした。俺が何が言いたいかわかるか?」
「ひ……」
「俺の大事な存在を傷つけた奴は許さない。絶対に、だ」
「嫌……、たすけ」
「死ね」
俺は木刀と葛城ノ剣を振り上げ香仙を叩っ斬ろうとした。
しかし、両腕が動かせない。
見ると俺の両肘辺りに黒い球体があった。
「どういうつもりだ? 黒鳥夜 綺寂く」
「理由はいくつかあるわ」
「話せ。納得できないなら、お前も斬る」
「貴様‼︎」
学園長直属の実行部隊である聖の副隊長の入羽 風夏が俺を射殺さんばかりににらみつけてくる。
「あ?」
「ぐ……」
「そのまま黙ってろ」
俺は入羽 風夏に目を向けてから殺気をぶつけて気絶させ、その後黒鳥夜 綺寂くへ戻した。
「話せ」
「基本的には禅芭高校で流子があなたを止めた時と同じよ。凶行へ走ろうとする生徒を止めるのが教育者の役目」
「俺が秋臣を守ると決めた時から秋臣を傷つけられたのは二度目だ。一度目を我慢したからと言って二度目をその程度の理由で納得できると思うのか?」
「それなら吾郷学園の学園長である私の顔を立てるではダメかしら? 私が責任を持って香仙を罰するわ」
「話にならない。それで終わりなら交渉は決裂だな」
「それじゃあ、もう一つだけ言わせてもらうわ」
「何だ?」
「そこにいる香仙は世界的に見ても人間性はともかく能力を評価されていて有名なのよ」
「だから、どうした?」
「あなたが今借りている秋臣の身体を使って香仙を斬り殺せば、それは秋臣君の汚点になる。日頃から秋臣君の名誉を気にしているあなたが、あなたの感情を優先して秋臣君に汚点を残すのは違うはず」
「…………」
チッ、確実に俺が言われて嫌な事を言ってきやがる。
「それに怒っているのはあなただけじゃないのよ」
「何だと?」
「ここは私が長い間守ってきた吾郷学園。そこで正式に招いてもいないものに騒動を起こされた気持ちがわかるかしら?」
「お、おう……」
この黒鳥夜 綺寂くから感じる妙な迫力で圧されてしまった。
そしてこの時を待ち望んでいた奴がすばやく動き出す。
『今日はこれで終わりにしてあげる。でも、身体を戻してから次は必ず私の興味を満足させてやるわ』
香仙が花びらとなり叫んで窓へ向かっていく。
俺は葛城ノ剣から光を発して両肘の拘束と香仙の花びらを消し飛ばそうとした。
しかし、その前に香仙の花びら一つ一つが全て黒い球体に覆われる。
『な、何よこれ⁉︎』
「香仙、あなたの私達を瞬時に動けなくして自分が追い詰められるまで私達の拘束を解かなかった技量は見事の一言よ。でもね、無礼を働いたものが無事に帰れると思わないでちょうだい。しばらくは光も音も届かない私の影や闇の中ですごしてもらうわね」
『ちょっと、ふざけてないで出しなさいよ‼︎』
「反省しないなら、いつまで経っても出られないとだけ言っておくわ。良い時間を過ごしてね」
『嘘でしょ⁉︎ 嫌よ‼︎ 嫌ああああああ‼︎』
「あ、そうだ。いろいろと言いたい事があるから、まずは話し合う方が先ね。雷門、少しの間、業務を任せるわ」
「了解した」
「鶴見君」
「何だ?」
「香仙との話し合いがどうなったかは後々知らせるから、その時まで待っていて」
「…………わかった」
「ありがとう。それじゃあね」
黒鳥夜 綺寂くは聖隊長の武鳴 雷門と俺に話しかけた後、自分の影に沈んでいく。
それと同時に俺の両肘の拘束が解け、叫ぶ香仙を包んでいる黒い球体も周りの影に消えていった。
…………本当に話はこれで終わりかよ。
ただ俺がまた秋臣を守れなかったっていう事実が残っただけじゃねえか。
クソッ、スッキリしねえ。
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