一度死んだ男は転生し、名門一族を追放された落ちこぼれの少年と共存する 〜俺はこいつが目覚める時まで守り抜くと決意する〜

第４章 異世界の男は手に入れる

第１３話

　ゴウッ‼︎

　バキバキッ‼︎

　ヒュン、バシンッ‼︎

　俺を目掛けて炎と氷が殺到して、その隙間を縫うように無数に枝分かれしたムチも俺を捕らえるか打とうと狙ってくる。

　なぜ俺が、かなり激しい状況にいるかと言えば、丸一日休んだ俺は身体をほぐすためぜんは高校の広場の一角を借りて木刀を振っていると、そこにシスティーゾが加わり、さらに少ししてから鈴りん 麗華れいかも参戦し、最後には荒幡あらはた 桜さくらも入ってきた。

　まあ、一人で動くよりも相手がいた方が張り合いも出て良いから俺対システィーゾ、俺対鈴りん 麗華れいか、俺対荒幡あらはた 桜さくらと一対一を数回繰り返していたら、いつのまにか俺対三人の構図ができていて今に至るという感じだ。

　ちなみに音と色のない世界には入っておらず、純粋な技量と体力で三人の攻撃に対応している。

「鶴見つるみ、良い加減に当たれ‼︎」
「それは、でき、ない、相談、です、ね‼︎」
「だったら、これならどう⁉︎」

　鈴りん 麗華れいかが気合の入った声を出すと、辺り一面の風景が氷と雪に侵食されていく。

「…………鈴りん先輩、模擬戦でここまでしなくても良いのでは？　あとシスティーゾはともかく荒幡あらはた先輩が巻き込まれています」
「え？　あ‼︎」

　おそらく俺の機動力を制限するためにやった事なんだろうが、炎で身体を守れるシスティーゾと違い荒幡あらはた 桜さくらは言ってしまえば特殊なムチを生み出せる以外は普通の人と変わらないため、不意に鈴りん 麗華れいかの氷に足を取られ雪で身体が冷やされ始めていた。

「シ、システィーゾ君‼︎」
「今やる‼︎　というか、サッサと氷と雪を解除しろ‼︎」
「わかってるわよ‼︎」

　システィーゾは急いで荒幡あらはた 桜さくらに近づき火力を調整した炎で荒幡あらはた 桜さくらの身体を包み温め、鈴りん 麗華れいかは勢いで侵食させていた氷と雪の解除に集中する。

　ああ、やっぱり自分で生み出したものでも解除には時間がかかるんだな。

　…………うん？

「仙法せんぽう、内功活性ないこうかっせい」
「「あ」」

　いつの間にか荒幡あらはた 桜さくらのそばにいた流々原るるはら先生が掌を当ててつぶやくと、荒幡あらはた 桜さくらの身体がぼんやりと光り血色が良くなっていく。

「ふう、これで大丈夫。それにしても鈴りんさん、さすがに不注意すぎたわね」
「すみません……」
「私じゃなく、後で荒幡あらはたさんに謝りなさい。少しの間、荒幡あらはたさんの看護をお願いね」
「わかりました……」

　荒幡あらはた 桜さくらを運ぶ鈴りん 麗華れいかを見送った後、流々原るるはら先生はシスティーゾの方を向いた。

「システィーゾ君、能力の制御が上手くなっていて驚いたわ」
「俺も遊んでるわけじゃねえよ」
「そうね」
「だけど……」

　システィーゾは俺を見てくるが、その顔は歯を食いしばり悔しさをにじませている。

　言うほど悪い動きはしてなかったと思うんだがな。

「鶴見つるみ君、体調は良いみたいね」
「はい、良い感じに休めました」
「それなら今度は私と模擬戦をしましょうか」
「はい？　どういう意味ですか？」
「こういう事、よ‼︎」

　気がつくと流々原るるはら先生の拳が俺の目の前に迫っていたため、俺は少し慌てて首を傾け流々原るるはら先生の拳を避けた。

「私のやりたい事をわかってくれたかしら？」
「…………そうですね。よくわかりました」
「それじゃあ続きといくわね‼︎」

　その言葉を境に流々原るるはら先生の打撃が雨あられとばかりに飛んできた。

　逆の拳での突きは反対側に首を傾けて避ける。

　顎を狙った蹴り上げは上半身をそらせて避ける。

　こめかみを狙った肘はしゃがんで避ける。

　強力な一撃へ繋ぐための足払いは後ろへ跳び避ける。

「すごいですね。これだけ多彩な攻撃を、ほとんど密着した状態で繰り出してくるとは思いませんでした」
「それを当たり前のように避けながら言われると嫌味と取られるわよ？」
「本気を出していない方が嫌味じゃないですか？」

　お、流々原るるはら先生の眉がピクッと動いたから俺の予想は当たったらしい。

「どうしてそう思ったか聞いても良いかしら？」
「別に確証があったわけじゃないです。ただ……」
「ただ？」
「流々原るるはら先生が攻撃用の技を持っていないはずはないと思いました」
「…………そう、わかったわ」

　俺の発言を聞いた後、流々原るるはら先生は目を閉じて自然体になる。

　見た感じは俺が音と色のない世界に入る時と同じだが、何をするつもりだ？

「スゥ……、ハァ……、スゥ……、ハァ……、スゥ……、ハァ……。鶴見つるみ君、いくわよ？　仙法せんぽう、外気錬成がいきれんせい、乾坤圏けんこんけん」

　流々原るるはら先生が両掌を上に向けてつぶやくと、掌の上に光が集まり二つの輪ができた。

「それが流々原るるはら先生の本気ですか……？」
「体験してみたらわかるわよ。飛べ、乾坤圏けんこんけん‼︎」

　二つの輪が俺を目掛けて高速で飛んでくる。

　…………かなりの速さなのは確かだが、これくらいならどうにでもなるなと思い俺は木刀で叩っ斬ろうとした。

　しかし、二つの輪、乾坤圏けんこんけんは俺の目の前で直角に曲がって上昇した後、鋭角に曲がり俺の頭部を狙う軌道となる。

「おお、っと‼︎」
「鶴見つるみ君、その乾坤圏けんこんけんは止まらないわよ？」
「は？　うわっ‼︎」

　俺は瞬時に距離を取り乾坤圏けんこんけんの軌道から逃れたが、流々原るるはら先生の言う通り乾坤圏けんこんけんは地面に激突する事なく俺の方へ軌道修正をしてきた。

　流々原るるはら先生が操作している様子はない。

「この、速さで、自動追、尾ですか……」
「そうよ。それと二つで終わりじゃないわよ？」
「まさか？」
「ええ、そのまさかね。仙法せんぽう、外気錬成がいきれんせい、乾坤圏けんこんけん」

　二つの乾坤圏けんこんけんを避けながら流々原るるはら先生を見ると、再び両掌の上に乾坤圏けんこんけんを作り上げていた。

　当然、新しい二つも俺を目掛けて飛んでくる。

　…………まあ、いくら四つの乾坤圏けんこんけんが複雑な軌道で俺の頭部を狙ってくるとは言え、避けるだけなら別に問題はない。

　ただし、そこに流々原るるはら先生が加わったら話は違う。

「さあ、私の本気をどう捌くか見せてちょうだい‼︎」

　さっきよりも数段激しい打撃と四つの乾坤圏けんこんけんで攻め立てるのが、流々原るるはら先生の本気なのか？

　…………いや、まだ上があると思っておくべきで、他の奴らもまだまだやる気なはず。

　俺は内心の高ぶりを抑えつつ、迎撃をせず流々原るるはら先生の打撃と乾坤圏けんこんけんの嵐を、ひたすら避ける事にした。

　ズズ……。

　うん？　何か木刀に違和感があったような……？

「どうしたのかしら？　よそ見できる暇を与えるつもりはないんだけど⁉︎」
「あ、いえ、何で、もない、です。すみ、ません」

　…………木刀の違和感は気になると言えば気になるが、今は目の前の流々原るるはら先生に集中するとしよう。



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◎後書き
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