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第3章 異世界の男は遠征する

第14話

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りん 麗華れいか、アラン=システィーゾ、そして鶴見つるみ 秋臣あきおみ、任務の遂行ご苦労だった。学園長が待っているから、このまま同行してもらうぞ」

 俺達が学園の正門から学園内へ足を踏み入れた瞬間、俺達は周りをひじりの隊員に囲まれた。

 ふむ、システィーゾとりん 麗華れいかの名前を言っているが、ひじりの奴らの意識は俺へ向いているな。

 その証拠に数歩分、俺がりん 麗華れいかから離れただけでひじりの奴らは最警戒の構えをとる。

 …………俺が怪しい存在とわかったとは言え、ここまで余裕を無くすものなのかと不思議に思っていたら俺の近くで炎が生まれ、そのままひじりの隊員達を吹き飛ばしていった。

「システィーゾ?」
「いくら鶴見つるみが怪しいからってな、警戒し過ぎて堂々とできない連中なんざ目障りなんだよ‼︎」
「良いんですか? りん先輩」
「本当にまずいなら、システィーゾ君が炎を放った時点で別の隊員達が応援に駆けつけるわ」
「…………僕達を見ている人達はいますが、特に新しく近寄ってくる人達はいません」
「という事は、なかなかの被害だけど学園長には許容範囲なのかもしれないわね。鶴見つるみが状況説明をするにしろ文句を言うにしろ、まずは学園長のところへ行ってからよ。とにかく向かいましょう」

 けっこうな数のケガ人を出しても興味を持っていないシスティーゾと、俺の事を含めて考える事が多いがスッパリと頭を切り換えているりん 麗華れいかがスタスタ進んでいくので、俺はシスティーゾに吹き飛ばされた奴らが気になりつつも二人の後を追った。

◆◆◆◆◆

「…………どうなってやがる?」

 システィーゾが階段を登りながらもイラつきながらつぶやく。

 まあ、さすがに学園内での移動中に四回、中央棟内で二回もひじりの隊員に待ち伏せされたら、よっぽどの戦闘中毒者でない限り誰だって不快に思うはずだからしょうがない。

「統一されて動いてるわけじゃないのがわからないわね。広域殲滅型の私とシスティーゾ君がいるとは言え、もっと効率よく数で攻めれば違うのに……」
「そうですね。それに僕が警戒されているのは当たり前として、どうしてシスティーゾとりん先輩まで巻き込まれているんでしょう? あ、そもそも僕が一人でさっさと学園長に会いに行けば、二人が巻き込まれる心配はな」
「黙って俺の後ろを歩いてろ‼︎」
「私は今回の任務の現場責任者よ? その私が鶴見つるみ君を一人で行かすわけないでしょ? 鶴見つるみ君は私の後についてきなさい」
「「…………」」

 システィーゾとりん 麗華れいかは、俺を学園長のもとへ連れていくのは自分だと思っているようで、お互いをにらみ合い始めた。

 二人の身体から吹き上がる火の粉と雪が面倒くさいから少し離れようとしたら、二人が俺の方にバッと顔を向ける。

「おい、鶴見つるみ‼︎ こそこそ離れてんじゃねえぞ‼︎」
鶴見つるみ君が私達を置いて一人で行く気なら、私にも考えがありますよ?」
「…………僕に離れてほしくないなら、身体から吹き上がってる火の粉と雪を止めてください」

 俺が、俺は巻き込まれたくないから離れただけだと言外に言うと、二人はうっとうめき気まずげに静かになる。

 ここは話を変えた方が良さそうだ。

りん先輩」
「な、何かしら?」
「学園長室までに、あとどれくらいの待ち伏せがあると思います?」
「そうねえ……、正直なところ待ち伏せは、やり方次第でいくらでもできるから何とも言えないわね」
「やっぱり、そうですか……」
「でも、中央棟の最上階に着いた時に待ち伏せされてるのは間違いないはずよ」
「…………そこにひじりの最大戦力がいそうですね」
「二人の内、片方は学園長のそばにいるのが基本だから、どっちか、たぶん副隊長の方がいると思うわ」
「……あいつか」

 システィーゾはひじりの副隊長の入羽いりはね 風夏ふうかを思い出したのか、また身体から火の粉が出始める。

 お、りん 麗華れいかが俺とシスティーゾの間に薄い氷の壁を作ってくれたから離れなくても良くなった。

 …………というか能力を使ってまで自分達から俺を離したくないのは謎すぎるぞ。

◆◆◆◆◆

 階段を上がりきり中央棟の最上階に着くと誰もいなかったが待ち伏せはされていた。

 いや、廊下を無数の小型竜巻が不規則に動いてるから障害物による邪魔と言った方が正しいのか?

「ええと、これどうします?」
「俺がやる」

 システィーゾは火炎放射で小型竜巻を一掃した。

 一応、竜巻自体に何か仕掛けがあるかもと警戒していたが何も起きない。

 システィーゾとりん 麗華れいかも俺と同じように考えていたようで拍子抜けしていたら、俺達の頭上から小さくヒュンという風切り音がしたため二人を左右の肩にのせるように抱えて飛び退くと、床に斬撃痕がいくつも刻まれる。

 見えない斬撃とは殺意が高いなと思っていたら、また頭上からさっきの風切り音がいくつも聞こえたため、俺は二人を抱えたまま走り出す。

「おい⁉︎」
「いいかげん面倒くさいので学園長室まで走ります。動かないでください」
「わかったわ」
「…………チッ」

 俺が走りやすいよう体勢を微調整するりん 麗華れいかを見て、システィーゾも渋々おとなしくしてくれたから走りやすくなった。

 さて、これが最後の待ち伏せかはわからないが、俺の速さに追いつけるものはそうそうないから、このままぶっちぎる。

◆◆◆◆◆

 俺が走り出して少しすると見えない斬撃に放電が混ざりだした。

 派手な放電のせいで見えない斬撃がよけいにわかりづらいし、見えない斬撃の数自体も増えている。

 これは少しでも迷うと囲まれて動けなくなる奴だから強引に行くか。

りん先輩、窓の外に氷の塊を浮かべられます?」
「え? ええ、できるわ。これで良い?」
「ありがとうござい、ます‼︎」
「ち、ちょっと待て‼︎」

 ガシャン‼︎

 システィーゾが叫ぶ中、俺は窓ガラスを蹴り破り窓の外へ出てりん 麗華れいかの氷を踏み台にして中央棟の屋上へ跳んで、着地した後そのまま走る。

りん先輩、今度は中央棟の向こう側に氷を浮かせてください」
「良いけど、何をする気なの⁉︎」
「こうするだけですよ‼︎」

 俺は二人を肩に抱えたまま、もう一度跳び反転しながら氷に着地する。

 そして、そのまま氷を足場にして全力で跳んで、跳ぶ前から確認していたある窓へ向かった。

 ガッシャーーン‼︎

 無事に窓ガラスを蹴り破った俺は、窓の反対側の壁、天井の順に進み勢いを殺し部屋の真ん中に着地する。

「あらあら、派手な帰還報告ね」

 廊下を進むのが難しいなら窓を蹴破り外へ跳び出し再び学園長室の窓から室内へ入るという強引な方法をとった俺へ、学園長は心の底から面白いものを見たという感じで声をかけてきた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
 最後まで読んでいただきありがとうございます。

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