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第2章 異世界の男は鎮圧する

第10話

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 奥底に眠る秋臣あきおみに会いに行き、別に構わないから俺の好きにやって良いという意思を感じた。

 秋臣あきおみからの許可を得た事も嬉しくはある。

 しかし、それよりも秋臣あきおみがかなり意思をはっきり伝えてくるようになってくれた事が本当に嬉しい。

 いつか来るだろう秋臣あきおみへ身体を返す時へ第一歩を踏み出したのを実感して気分が高揚していると、廊下の向こうからシスティーゾが歩いて来ているのに気づく。

 ちなみに今日システィーゾと出会したのは、これが初めてだ。

 どうやら本当に生徒会長の龍造寺りゅうぞうじは影響があるようで、龍造寺りゅうぞうじへ文句を言ったら教官達が俺とシスティーゾをいっしょにいさせようとはしなくなったから、これも気分が良くなっている要因だな。

 周りの奴らの緊張感が高まっていく中、システィーゾが俺の目の前で止まった。

「フン、やはりお前も解放されていたか」
「おかげさまで。そういうシスティーゾも無事なようで何よりです。生徒会長に何か言われましたか?」
「大人しくしていれば、お前との決闘を整えても良いと言っていたが……」
「全くの初耳ですね」
「……あの野郎」

 龍造寺りゅうぞうじは底知れない奴であると同時に食わせ者でもあるらしい。

「システィーゾ、また身体から火の粉が出ていますよ」
「……チッ」
「これからどうします?」
「あいつの口車に乗るのは気に食わんが、しばらくは大人しくするつもりだ」
「だそうですよ。りん先輩」

 俺が名前を呼ぶと柱の影からりん 麗華れいかが出てくると、周りで俺達のやり取りを見ていた奴らの何人かは走って離れて行った。

「システィーゾ、自分で言ったからにはきちんと大人しくしていなさいよ」
「フン、どこかの誰かがケンカを売ってこない限りは大人しくするつもりだ」
「どこかの誰かっていうのは誰の事かしら?」
「誰だろうな?」

 身体から火の粉が出ているシスティーゾと、足もとが凍り始めているりん 麗華れいかがにらみ合う。

 さすがに今は戦う気分ではないので、俺は話を逸らす事にした。

「そういえばりん先輩は、あの後何か言われました?」
「…………監視役が自分から騒ぎを起こしてどうすると、二時間説教をされたわ」
「生徒会長からですか?」
ひじりの副隊長からよ」
「隊長じゃないんですね」
「隊長には、お前面白すぎるぞって爆笑されたわね」
「「…………」」

 おそらく微妙な表情になっているだろう俺とシスティーゾが、どう反応して良いのか悩んでいるとりん 麗華れいかから何も言うなと言わんばかりにギロッとにらんできたため、もう一度、話を変える事にする。

「まあ、何にしろ、ここにりん先輩がいるという事は、またりん先輩が僕の監視役を続けるんですね」
「そうよ」
「それなら、いろんな意味で安心しました」
「…………その、いろんな意味っていうのを確認しておきたい気もするけど聞かないでおくわ」

 話の流れを変えた事で俺達の雰囲気が、いくぶん柔らかくなってきた時にそれは突然聞こえてきた。

器物級マテリアル鶴見つるみ 秋臣あきおみ、今すぐ生徒会室へ来るように。繰り返す。器物級マテリアル鶴見つるみ 秋臣あきおみ、今すぐ生徒会室へ来るように』
「…………おい、何をした?」
「僕が原因だと決めつけないでください。僕は何もしていません」
りん 麗華れいか
「確かに鶴見つるみ君は私が見ている限り何もしてないわ。たぶん生徒会への任務が発生したんだと思うわ」
「そうか……。よし、俺も行くぞ」
「は? システィーゾ、それはどういう意味ですか?」
「決まっているだろ。俺も生徒会の任務とやらに参加する」
「「いやいやいや」」

 俺とりん 麗華れいかが完璧にシンクロして手と首を横に振り否定すると、システィーゾは明らかに不機嫌になったので、俺とりん 麗華れいかは視線で会話してりん 麗華れいかがシスティーゾへ説明という名の説得を始めた。

「システィーゾ、私の話を聞いてた? 鶴見つるみ君は生徒会の任務に呼ばれてるのよ」
「それがどうした?」
「あなたは生徒会に所属してないから、そもそも任務には参加できないわ」
「ああ? なら鶴見つるみはしてるのか?」
「ええ、僕は強制的に生徒会へ所属させられてます」
「どう考えても鶴見つるみは例外だな?」
「そうですね」
「ならば、俺という例外がいても問題はないな。行くぞ」

 システィーゾは自分の結論を言うとズンズン歩いて行く。

 方向的に間違いなく生徒会室へ向かっているな。

「あれ、良いんですか?」
「悪いに決まってるわ。でも、システィーゾが私達の言う事を聞くと思う?」
「無理ですね」
「絶対に何か問題を起こすから絶対に行きたくもないけど、本当にしょうがないから私も行くわ」
「…………頑張ってください」
「ありがとう……」

 ものすごい重りを背負っているような鈍い足取りでりん 麗華れいかが歩き出したため、俺は迷いに迷った後、一番ひねりのない言葉を言ってしまった。

 こういう時は何て言うのが正解なんだ?



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
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