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番外編

卒業パーティー①

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厳しい寒さが和らぎ、草木が芽吹き出す。
誰しもが希望に胸が膨らむ今日、王立学院の卒業パーティーが行われた。

生徒達が浮き足立つ中、今回は少し異質な雰囲気だった。

午前の部ではたくさんの来賓がある。
今年度は卒業生に王族の第四王子シルヴァン殿下や宰相の次男がいることもあり、王立学院の講堂には各界の要人が集まっていた。
女王陛下や王太子殿下を初め、宰相とその奥方、有力な辺境伯や王立研究所の所長までいる。
それに伴って護衛の人数もかなり多い。

午前の部では、学長や教師に子が世話になったことの感謝を伝える場として、また少なからず親同士の交流の場としての側面もあった。
午前の部で来賓客は退席し、午後の部は生徒同士で楽しむのが通例だ。
制服の生徒達は、午後の部ではドレスアップして参加する。

今年度はあまりの顔ぶれに誰が主役かわからないほどに卒業生よりも来賓客が注目されていた。

王立学院を退職した身でマーサが卒業パーティに出席できたのはシルヴァンと女王陛下の計らいだった。

百名ほどいる卒業生の中でもシルヴァンは極めて目立っていた。
近しい友人達と談笑している姿を女生徒達が見守っている。
これほど接近することも、もしかすると会話できるかもしれないチャンスも最後だと分かっているからだろう。

マーサは女王陛下と同じテーブルでガス入りの水を、周りの要人はお酒を嗜んでいた。
女王陛下と宰相の奥方は友人らしく親しげに話しこんでいる。
以前勤めていたマーサはよく知られていたため、何人もの来賓客と挨拶をしては世間話を繰り返した。
退職したマーサがなぜここに、という疑問があってもおかしく無いが、不躾に聞いてくる人はいなかった。
(そもそも辞めたことを知られていないのかもしれない)

シルヴァンは友人達との会話を切り上げると女生徒が視界に入っていないとでも言うように、颯爽と来賓席に向かう。
女王陛下と少し話すと、陛下と共にシルヴァンがマーサの前までやってくる。

「シルヴァン殿下、ご卒業おめでとうございます」
「ありがとう、マーサ」
「マーサさん、私は先に戻りますので後はよろしくね」
「はい、女王陛下」
「やだわ、堅苦しいのは止めてちょうだい」

扇子を口元に当て妖艶に微笑む女王陛下は護衛を引き連れて講堂を後にした。

「マーサ、学長に挨拶するから一緒にきて」
「はい」

一連の流れに周りの来賓客やシルヴァンを追っかけている生徒が釘付けになっているのは言うまでもない。

ーーー

「オーフェルベン学長、少し宜しいですか。……三年間お世話になりました」
「これはこれは、シルヴァン殿下。ご卒業おめでとうございます」
「学院で学んだことを必ず国の繁栄に繋げます」
「ほっほっほっ、頼もしいですな」

「あとご報告がありまして」
「いかにも、マーサさんのことかな」
「お察しの通りで、この度婚約をいたしまして。ほどなくして発表する予定です」
「ほっほっほっ、めでたいですな!これまたおめでとうございます」
「学院時代はマーサがお世話になり感謝します」
「マーサさんは優秀でしたから、採用…いや生徒時代から只者でないと思っておりましたよ」
「詳しくお聞かせ願えますか」

マーサはシルヴァンと学長がマーサについての話で盛り上がり居心地の悪さを感じながらも、シルヴァンの前のめりにマーサの過去を知ろうとする姿は愛しくもある。

「貴重な話をありがとうございます。……ところで最後に別棟の特別室をお借りしても?」
「ほっほっほ、ご自由にどうぞ。閉校時間にはお気をつけくださいな」
「感謝します、マーサ行こう」

マーサはシルヴァンに手を引かれて講堂を出た。

ーーー

「シルヴァン殿下、どうしたのですか」

足早に別棟に移動して特別室までやってきた。

「特別室ってさ、実験室や調理室と違って机と椅子が普通の教室と同じなんだよね」

「そうですね?」

「さすがに本館の教室は生徒がいるし……マーサと最後に教室で過ごしたいなと思って」

ガラリとドアを開くと懐かしい光景が広がる。
もうこの空間に来ることはないだろうと思っていた。

「たった一年前なのに随分懐かしく感じます……お心遣いに感謝します」

シルヴァンがマーサに軽く口付ける。

「……マーサ、何か授業してよ」

シルヴァンが椅子を引いて席に着く。

「ふふふ、何がいいですかね、算術にしますか」

「お願いします、マーサ先生」

シルヴァンのおふざけに付き合って先生ごっこが始まった。
シルヴァンは嬉しそうに頬杖をつく。
制服姿のシルヴァンがそこに座っていても何の違和感もない。
マーサはクラシックな落ち着いたデザインではあるがデイドレスを着ているため、教師時代とは異なるが。

マーサが黒板に数式を書き始める。

「この問題が解ける人いますか」
「はい」
「ではシルヴァン殿下、お願いします」

シルヴァンは黒板にスラスラと回答を書くとチョークを置く。

「正解です」
「ありがとうございます」

黒板の前で見つめ合うと、同時に笑い出した。
シルヴァンがマーサの腰に手を回す。

「教師時代に恋人になれていればな」
「さすがにそれはまずいですよ、即刻クビになっていますよ」
「それは困るな、でも教師時代のマーサも素敵だったから」
「またそんなこと仰って」
「本心だよ、それにマーサのこといいなって言ってる生徒なんてたくさんいたよ」
「そうですかねえ」

シルヴァンがマーサに口付ける。
ちゅう、ちゅ、とリップ音が響く。
想いが通じ合ってから毎日のように体を重ねているというのに、いまだにシルヴァンとキスをするのは少し恥ずかしい。
それに。

「殿下が制服なので、なんだか、いけない事をしてる気分です……」

何も悪いことはしていないが、ふつふつと後ろめたさが湧いてくる。

「生徒に手を出しちゃう悪い教師ってこと?」
「ぐ、……はい」

シルヴァンが声を上げて笑う。
じとりとマーサが睨むがシルヴァンからするとただ可愛いだけだ。

「じゃあせっかくだし悪いことしちゃおう」

シルヴァンは言い終わると同時に獰猛な目付きでマーサの耳にかぶりついた。
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