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数年に一度輸入量が減る現象の原因は大規模な土砂崩れであった。
平地が多い我がガーラ王国と違い隣国の農耕地は山を削っており、地盤が緩くなった土地で土砂崩れが起きてしまうようだった。
シルヴァンはそこから土砂崩れを防止するため、数年前に研究所が試作した樹林が育ちやすい土の肥料が利用できるのではないかと考えた。
研究所にも足を運び意見を聞き、あら削りの資料ではあったが、根拠や改善策が明記されており、一学生が作成したとは到底考えられない調査結果ができた。
第一王子のヤードル殿下に下読みしてもらったそうだが、大変好評だったらしい。
意見書として清書し直し定例議会に提出し、議題を重ねたそうで。
卒業もあと数ヶ月となった頃には、議会では肥料の大量生産化の準備と、政治的観点の見返りとして何が妥当かの議論に進んでいるそうだ。
「......という現状だ。マーサのおかげだよ」
「シルヴァン殿下の功績です。私はお手伝いしただけで」
「まあ、そんなに高尚な訳じゃないよ。マーサとあーだこーだと会話するのが楽しかったんだ。国に貢献できることは嬉しいけどね」
はにかむシルヴァン。
後半が本音だろう。
今学んでいる内容を現実と繋げて考えられる学生はごくわずかだ。
王子ゆえの視点とも言えるが、それを国益に繋げようとするシルヴァンの立派な姿にマーサは感心していた。
体格も随分としっかりとして、立派な成人男性である。
学術面でも申し分なく、もはや自分の必要性はなくなってきたとマーサは感じていた。
「お役御免も近いですね」
「......マーサのほうが知識も豊富で算術も優れている。新しい視点もくれるし......まだまだ一緒にいてほしいな」
「恐れ入ります」
「お世辞じゃないよ?」
「ありがとうございます」
「......ほんとに伝わってる?」
「ふふ、はい」
シルヴァンは少し不満そうな表情を浮かべると、腰を屈めたかと思うとマーサの頬にキスをする。
マーサは目を開いてルヴァンの唇が触れた場所を手でおさえる。
「ちょ、殿下......!」
「マーサは今日も可愛いね」
「......駄目ですよ、簡単に女性にそんなことを言うのは」
じと、とシルヴァンを睨む。
これくらいは許されるだろう。
まあ、普段女性として扱われることや誉められることがないので、ほんのりと嬉しい。
いや、かなり嬉しい。
挨拶の範疇だろう頬へのキスも、可愛いと言われることも。
「マーサにしか言わないよ」
睨まれても嬉しそうに微笑むシルヴァン。
中性的に見えるが、間近で見るご尊顔は男らしくも見える。
不相応に喜んでしまい、悔しいマーサであった。
「そうだな......褒美が欲しいな」
「ほ、褒美ですか?私のお給料で買えるものでしたらなんでもご用意いたしますよ」
「マーサから抱き締めてほしいな」
「抱き......!?」
予想外の展開にマーサは一歩後ずさる。
距離感の近いシルヴァンといえど、さすがにそれはまずい気がする。
だが、いつも気を張って過ごしているだろうシルヴァンも一肌恋しくなったのだろうか。
「なんでもご用意いたします、って言ったろ?お金もかからないよ」
「ですが、それは不敬罪にあたりませんか......いや、暴行罪......?」
「俺がしてほしいって言ってるのに不敬になんてならないよ」
「ですが......殿下の力にはなりたいのですが、さすがにそれはまずいのでは......」
「お願いだよマーサ。マーサに抱き締めてもらえたら元気がでる」
「ほ、ほんとによろしいのでしょうか......」
「もちろん」
後から考えるとこの時の自分はどうかしてたと思うが、私ごときで少しでも休まるならと、マーサは恥ずかしながらゆっくりとシルヴァンに近づくと、シルヴァンが椅子から立ち上がった。
目の前に立たれると、マーサは鼓動が早くなるのを感じた。
目を瞑りながら無意識に深呼吸をしたマーサは、上から見下ろすシルヴァンがにんまりと微笑んだことに気づかなかった。
「で、は、失礼いたします」
もう一歩近づいてゆっくりとシルヴァンの背中に手を回す。
むわっとシルヴァンの香水がマーサの鼻をくすぐる。
(殿下の香りが......!)
マーサの腕がシルヴァンの背中に触れるとシルヴァンもマーサの背中に手を回す。
深く考えていなかったマーサは抱き締めかえされると思っておらず頭の中がパニックになった。
(ちょ、ちょっと、え......!?)
「嬉しい、マーサ......」
「は、は、はいいい」
ぎゅう、とシルヴァンの腕に力がこもると密着度があがる。
「ずっとこうしたかった」
「ひええ」
情けない声が出る。
マーサはくらくらしてきた。
しばらくそうしていると、マーサの背中に添えられていた手がするすると撫でるようにマーサの背中をのぼっていく。
ぞわぞわとした感覚がマーサを襲う。
シルヴァンの腕が上がっていくことで自然とマーサの腕が持ち上がりシルヴァンの肩に腕をかけている形になった。
(顔が近い!顔が......!)
マーサの顔の隣にシルヴァンの顔がある。
「マーサ......」
耳元に吹き込むような熱っぽい声にびくんと身体が震える。
「好きだ」
シルヴァンの言っていることが理解できない。
幻聴だろうか。自分の願望が産み出した幻聴かもしれない。
「空耳が......」
「空耳?好きだと言ったこと?」
「え」
「確かに言ったよ」
「......殿下、お冗談はおやめください」
「冗談じゃないよ。マーサが好きだ」
「なっ、」
「俺の恋人になってほしい。夏はずっと一緒に過ごせて楽しかった。これからもそばにいてほしい」
「......申し訳ありません。それは出来ません。今日は、あの、失礼しますね。殿下もゆっくりおやすみになってください」
マーサは足早に退室した。
平地が多い我がガーラ王国と違い隣国の農耕地は山を削っており、地盤が緩くなった土地で土砂崩れが起きてしまうようだった。
シルヴァンはそこから土砂崩れを防止するため、数年前に研究所が試作した樹林が育ちやすい土の肥料が利用できるのではないかと考えた。
研究所にも足を運び意見を聞き、あら削りの資料ではあったが、根拠や改善策が明記されており、一学生が作成したとは到底考えられない調査結果ができた。
第一王子のヤードル殿下に下読みしてもらったそうだが、大変好評だったらしい。
意見書として清書し直し定例議会に提出し、議題を重ねたそうで。
卒業もあと数ヶ月となった頃には、議会では肥料の大量生産化の準備と、政治的観点の見返りとして何が妥当かの議論に進んでいるそうだ。
「......という現状だ。マーサのおかげだよ」
「シルヴァン殿下の功績です。私はお手伝いしただけで」
「まあ、そんなに高尚な訳じゃないよ。マーサとあーだこーだと会話するのが楽しかったんだ。国に貢献できることは嬉しいけどね」
はにかむシルヴァン。
後半が本音だろう。
今学んでいる内容を現実と繋げて考えられる学生はごくわずかだ。
王子ゆえの視点とも言えるが、それを国益に繋げようとするシルヴァンの立派な姿にマーサは感心していた。
体格も随分としっかりとして、立派な成人男性である。
学術面でも申し分なく、もはや自分の必要性はなくなってきたとマーサは感じていた。
「お役御免も近いですね」
「......マーサのほうが知識も豊富で算術も優れている。新しい視点もくれるし......まだまだ一緒にいてほしいな」
「恐れ入ります」
「お世辞じゃないよ?」
「ありがとうございます」
「......ほんとに伝わってる?」
「ふふ、はい」
シルヴァンは少し不満そうな表情を浮かべると、腰を屈めたかと思うとマーサの頬にキスをする。
マーサは目を開いてルヴァンの唇が触れた場所を手でおさえる。
「ちょ、殿下......!」
「マーサは今日も可愛いね」
「......駄目ですよ、簡単に女性にそんなことを言うのは」
じと、とシルヴァンを睨む。
これくらいは許されるだろう。
まあ、普段女性として扱われることや誉められることがないので、ほんのりと嬉しい。
いや、かなり嬉しい。
挨拶の範疇だろう頬へのキスも、可愛いと言われることも。
「マーサにしか言わないよ」
睨まれても嬉しそうに微笑むシルヴァン。
中性的に見えるが、間近で見るご尊顔は男らしくも見える。
不相応に喜んでしまい、悔しいマーサであった。
「そうだな......褒美が欲しいな」
「ほ、褒美ですか?私のお給料で買えるものでしたらなんでもご用意いたしますよ」
「マーサから抱き締めてほしいな」
「抱き......!?」
予想外の展開にマーサは一歩後ずさる。
距離感の近いシルヴァンといえど、さすがにそれはまずい気がする。
だが、いつも気を張って過ごしているだろうシルヴァンも一肌恋しくなったのだろうか。
「なんでもご用意いたします、って言ったろ?お金もかからないよ」
「ですが、それは不敬罪にあたりませんか......いや、暴行罪......?」
「俺がしてほしいって言ってるのに不敬になんてならないよ」
「ですが......殿下の力にはなりたいのですが、さすがにそれはまずいのでは......」
「お願いだよマーサ。マーサに抱き締めてもらえたら元気がでる」
「ほ、ほんとによろしいのでしょうか......」
「もちろん」
後から考えるとこの時の自分はどうかしてたと思うが、私ごときで少しでも休まるならと、マーサは恥ずかしながらゆっくりとシルヴァンに近づくと、シルヴァンが椅子から立ち上がった。
目の前に立たれると、マーサは鼓動が早くなるのを感じた。
目を瞑りながら無意識に深呼吸をしたマーサは、上から見下ろすシルヴァンがにんまりと微笑んだことに気づかなかった。
「で、は、失礼いたします」
もう一歩近づいてゆっくりとシルヴァンの背中に手を回す。
むわっとシルヴァンの香水がマーサの鼻をくすぐる。
(殿下の香りが......!)
マーサの腕がシルヴァンの背中に触れるとシルヴァンもマーサの背中に手を回す。
深く考えていなかったマーサは抱き締めかえされると思っておらず頭の中がパニックになった。
(ちょ、ちょっと、え......!?)
「嬉しい、マーサ......」
「は、は、はいいい」
ぎゅう、とシルヴァンの腕に力がこもると密着度があがる。
「ずっとこうしたかった」
「ひええ」
情けない声が出る。
マーサはくらくらしてきた。
しばらくそうしていると、マーサの背中に添えられていた手がするすると撫でるようにマーサの背中をのぼっていく。
ぞわぞわとした感覚がマーサを襲う。
シルヴァンの腕が上がっていくことで自然とマーサの腕が持ち上がりシルヴァンの肩に腕をかけている形になった。
(顔が近い!顔が......!)
マーサの顔の隣にシルヴァンの顔がある。
「マーサ......」
耳元に吹き込むような熱っぽい声にびくんと身体が震える。
「好きだ」
シルヴァンの言っていることが理解できない。
幻聴だろうか。自分の願望が産み出した幻聴かもしれない。
「空耳が......」
「空耳?好きだと言ったこと?」
「え」
「確かに言ったよ」
「......殿下、お冗談はおやめください」
「冗談じゃないよ。マーサが好きだ」
「なっ、」
「俺の恋人になってほしい。夏はずっと一緒に過ごせて楽しかった。これからもそばにいてほしい」
「......申し訳ありません。それは出来ません。今日は、あの、失礼しますね。殿下もゆっくりおやすみになってください」
マーサは足早に退室した。
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