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王立図書館は身元がはっきりと証明できる者であれば誰でも利用が出来る。
夏期休暇期間であることから学生が多く見受けられる。
護衛の外側から遠目に女学生がシルヴァンを眺める姿にマーサはうんうんそうだよね、と内心同調していた。
王族であるシルヴァンに話しかけられる人などいない。
話しかけられるまで待つのが通常である。
マーサは家庭教師として罪に問われることなどないだろうが。
あまりにも美しく存在感のあるシルヴァン殿下に目が奪われるのは至極当然だろう。
マーサもシルヴァンの横顔を盗み見すると、真剣に資料を読み込む表情は真剣そのもので、数多の視線を物ともしていないようだ。
マーサも思わず見惚れてしまう。
「マーサ、隣国の西部の地形についてなんだけど」
「あ、はい」
資料を指しながら話しかけられたマーサはシルヴァンの手元を覗きこむと女性達からの視線を感じる。
感じるどころか痛い。
私なんかがすみません、という気持ちもありつつ、ほんの少しの優越感もありつつ。
そもそも館内の個室を借りれば良いのに、シルヴァンは好んでオープンスペースのテーブル席に居座る。
(なんでだろう?)
マーサは資料探しで館内をうろついていた。
「うーん、困った」
やっと資料が見つかったと思ったが、高い段に納められており、背の高いマーサでもギリギリ届かない。
図書館内にいくつか置かれている脚立を探していたが、脚立も見つからない。
「マーサさん、取りますよ」
後ろから手が伸びてくる。
反射的に振り向くと、シルヴァン殿下の護衛の一人、ダンテがいた。
「あ、すみません」
当たり前ではあるが外出する際は護衛が増える。
ダンテは専属護衛ではないが、外出する際はよく顔を見かけて、何度か雑談をしたことがある。
年は二十代後半といったところか。
「あの、マーサさん」
「はい?」
本を手渡してくれるのかとマーサが手を差し出すと、なぜか手を握られた。
「俺、今日が殿下の護衛の最終日なんです。来週から城下町の警備隊に配属になってしまって」
「はい」
「それで、今日しかマーサさんに」
「何をしている」
「殿下!」
「何をしていると聞いている。手を離せ」
「はっ!失礼いたしました!高い棚の本を取っておりました!」
騎士が答えるが、シルヴァンが求める回答ではなかった。
「どうされたのですか」
マーサが不思議そうにシルヴァンを伺うと、シルヴァンの雰囲気が和らいだ。
「マーサ、随分戻ってこないから探しにきたよ」
「それは申し訳ありません。資料がなかなか見つからなかったことと、探していた資料が高いところにあったので、脚立を探しておりましたら、ダンテさんが取ってくださったんです」
「ふむ」
マーサの返事には納得したようだ。
シルヴァンが無言でダンテに手を差し出すと、ダンテが資料を手渡した。
「見たかったやつだ。ありがとうマーサ。戻ろう」
マーサの背中をやや強引にエスコートして戻ろうとするシルヴァン。
「よ、よろしいのですか」
護衛のことだ。
「大丈夫、続きを調べよう」
残された護衛が気になるが腰に回された手と密着した体にマーサもすぐに意識をそっちに持っていかれた。
(体が密着してる......!)
テーブル席に戻ると、周りの人だかりは護衛が追い払ったようだった。
資料を読み込んでいると、キリのよい所でシルヴァンが声をかけた。
「ここまでかな......今日はマーケットで食べていこうと思うんだけど、どう?」
「私はもちろん大丈夫ですが......午後から会合の予定では?」
住む世界が違うシルヴァンの話はマーサにとって興味深いものが多かったし、マーサの話も楽しげに聞いてくれるので、シルヴァンとの昼食を断る理由がない。
「会合までには戻るよ。マーサとデートしたら午後も頑張れるから、少し付き合ってくれたら嬉しい」
「デっ......もちろんご一緒させてください」
見つめられながら甘い言葉で微笑まれると顔が熱くなるマーサ。
リップサービスに反応するちょろい女だと思われてそう。
嬉しくなってしまった単純な自分が悲しい。
もちろんシルヴァンが街に出るということは護衛が付いているため、二人きりのデートなんかでは決してないが、マーサを女性扱いしてくれることにほんのりこそばゆい気持ちがしていた。
「あの、シルヴァン殿下......」
「ん?」
「あの私も護衛の方と一緒に後方で歩き」
「駄目だね。それってデートじゃなくない?」
「ですが、エスコートしていただくのは恐れ多いので......!」
シルヴァンは、マーサの手を取り自分の腕にかけると、あたかもそれが自然かのように歩く。
完璧でシルヴァンに一つ問題があると言えばこの距離感かもしれない。
先程の館内から様子がおかしい気がする。
第二王子のフリード殿下は女性関係が乱れているそうだし、知らなかっただけでシルヴァンも同様に女性慣れしているのかもしれない。
マーサはこれくらいで、と言われるのが恥ずかしくて、目立った抗議ができなかった。
夏期休暇期間であることから学生が多く見受けられる。
護衛の外側から遠目に女学生がシルヴァンを眺める姿にマーサはうんうんそうだよね、と内心同調していた。
王族であるシルヴァンに話しかけられる人などいない。
話しかけられるまで待つのが通常である。
マーサは家庭教師として罪に問われることなどないだろうが。
あまりにも美しく存在感のあるシルヴァン殿下に目が奪われるのは至極当然だろう。
マーサもシルヴァンの横顔を盗み見すると、真剣に資料を読み込む表情は真剣そのもので、数多の視線を物ともしていないようだ。
マーサも思わず見惚れてしまう。
「マーサ、隣国の西部の地形についてなんだけど」
「あ、はい」
資料を指しながら話しかけられたマーサはシルヴァンの手元を覗きこむと女性達からの視線を感じる。
感じるどころか痛い。
私なんかがすみません、という気持ちもありつつ、ほんの少しの優越感もありつつ。
そもそも館内の個室を借りれば良いのに、シルヴァンは好んでオープンスペースのテーブル席に居座る。
(なんでだろう?)
マーサは資料探しで館内をうろついていた。
「うーん、困った」
やっと資料が見つかったと思ったが、高い段に納められており、背の高いマーサでもギリギリ届かない。
図書館内にいくつか置かれている脚立を探していたが、脚立も見つからない。
「マーサさん、取りますよ」
後ろから手が伸びてくる。
反射的に振り向くと、シルヴァン殿下の護衛の一人、ダンテがいた。
「あ、すみません」
当たり前ではあるが外出する際は護衛が増える。
ダンテは専属護衛ではないが、外出する際はよく顔を見かけて、何度か雑談をしたことがある。
年は二十代後半といったところか。
「あの、マーサさん」
「はい?」
本を手渡してくれるのかとマーサが手を差し出すと、なぜか手を握られた。
「俺、今日が殿下の護衛の最終日なんです。来週から城下町の警備隊に配属になってしまって」
「はい」
「それで、今日しかマーサさんに」
「何をしている」
「殿下!」
「何をしていると聞いている。手を離せ」
「はっ!失礼いたしました!高い棚の本を取っておりました!」
騎士が答えるが、シルヴァンが求める回答ではなかった。
「どうされたのですか」
マーサが不思議そうにシルヴァンを伺うと、シルヴァンの雰囲気が和らいだ。
「マーサ、随分戻ってこないから探しにきたよ」
「それは申し訳ありません。資料がなかなか見つからなかったことと、探していた資料が高いところにあったので、脚立を探しておりましたら、ダンテさんが取ってくださったんです」
「ふむ」
マーサの返事には納得したようだ。
シルヴァンが無言でダンテに手を差し出すと、ダンテが資料を手渡した。
「見たかったやつだ。ありがとうマーサ。戻ろう」
マーサの背中をやや強引にエスコートして戻ろうとするシルヴァン。
「よ、よろしいのですか」
護衛のことだ。
「大丈夫、続きを調べよう」
残された護衛が気になるが腰に回された手と密着した体にマーサもすぐに意識をそっちに持っていかれた。
(体が密着してる......!)
テーブル席に戻ると、周りの人だかりは護衛が追い払ったようだった。
資料を読み込んでいると、キリのよい所でシルヴァンが声をかけた。
「ここまでかな......今日はマーケットで食べていこうと思うんだけど、どう?」
「私はもちろん大丈夫ですが......午後から会合の予定では?」
住む世界が違うシルヴァンの話はマーサにとって興味深いものが多かったし、マーサの話も楽しげに聞いてくれるので、シルヴァンとの昼食を断る理由がない。
「会合までには戻るよ。マーサとデートしたら午後も頑張れるから、少し付き合ってくれたら嬉しい」
「デっ......もちろんご一緒させてください」
見つめられながら甘い言葉で微笑まれると顔が熱くなるマーサ。
リップサービスに反応するちょろい女だと思われてそう。
嬉しくなってしまった単純な自分が悲しい。
もちろんシルヴァンが街に出るということは護衛が付いているため、二人きりのデートなんかでは決してないが、マーサを女性扱いしてくれることにほんのりこそばゆい気持ちがしていた。
「あの、シルヴァン殿下......」
「ん?」
「あの私も護衛の方と一緒に後方で歩き」
「駄目だね。それってデートじゃなくない?」
「ですが、エスコートしていただくのは恐れ多いので......!」
シルヴァンは、マーサの手を取り自分の腕にかけると、あたかもそれが自然かのように歩く。
完璧でシルヴァンに一つ問題があると言えばこの距離感かもしれない。
先程の館内から様子がおかしい気がする。
第二王子のフリード殿下は女性関係が乱れているそうだし、知らなかっただけでシルヴァンも同様に女性慣れしているのかもしれない。
マーサはこれくらいで、と言われるのが恥ずかしくて、目立った抗議ができなかった。
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