28 / 31
後日談 我慢はほどほどに④
しおりを挟む
「実は、実家の出資で開業したレストランなんです。町外れにもう一店舗、系列店があるんですが」
「まあ!そうだったのね」
「オーナーが父の友人なんです」
まさか女性と来たりしていないわよね?と微かな不安があったが、どうやら杞憂だったようだ。
ほっと一安心するシャルロット。
出資は父の趣味ですね、と言うアラン。
アランの実家は侯爵家である。
お互いの実家の家業についてや、アランが幼い頃から騎士を目指した話、騎士学校に通った話まで、次から次へと話題が変わる。
楽しく会話しながら、サーブされる料理を堪能する。
野菜の旨味が濃縮されたスープも、王都では珍しい魚料理もとびきり美味しい。
どれを食べても感激しながら食べるシャルロットに、アランも笑みが溢れる。
たっぷりと時間をかけて料理を平らげたあとは、食後の紅茶をいただく。
「城下町に下りて、カフェに入ったときのこと、覚えてるかしら」
「はい、もちろん覚えてますよ」
まだ花嫁修行をしていた時の話だ。
「あの時は、絶対に座ってくれなかったじゃない?」
「そうですね」
「あの日があったおかげで、今こうして向かい合って紅茶を飲めることが、これ以上ないくらい幸せだわ」
あの日、アランは騎士として、同じ立場でお茶を飲むことは許されなかった。
令嬢に言われたためと理由をつければ、座ることもできたかもしれないが、既にどうしようもなくシャルロットに惹かれていたアランはせめてもの抵抗として、その一線を越えることはできなかった。
あの日のアランを責めることなく、今のこの時間を幸せと感じるシャルロットにアランは心が洗われるようだった。
「あの時は既に惚れていましたからね」
「まあ!詳しく聞きたいわ!」
先ほどまで完璧なマナーで食事をしていたというのに、途端に前のめりになるシャルロットが面白く可愛い。
「何が聞きたいですか?」
「いつ、好きになってくれた、とか?」
アランはフリード殿下への嫉妬心が薄れてきた頃合いであった為、もういいかと観念した。
「……強く自覚したのはフリード殿下と一度目の面会をされた時ですね。それまで気を張っている様子だったあなたが、あの時間はフリード殿下に気を許していた」
「よく見ていたわね?」
確かにシャルロットは王城に上がって最初は随分気を張っていた。
「私はあなたを全然守れていないと思い、悔しい思いをしました」
「そんなに早くから想ってくれていたなんて」
「では、シャルロットは?いつから想ってくれてたのですか?」
「ええっと、……恥ずかしいのだけど、伝えても嫌いにならないでくれる?」
「何を言われても嫌いになどなりませんよ」
「実はね……顔が」
「……顔?」
「とっ……ても、好みなの」
両手で顔を隠すシャルロットに、呆気に取られるアラン。
まさか、シャルロットからそんなことを言われるとは露ほども考えていなかった。
「こんな女で、嫌いになっちゃったかしら……」
「嬉しいです。自分でもびっくりしているのですが、女性から好みだと言われて人生で初めて嬉しい気持ちになりました」
何度も格好良い、好みだ、などと言われたことはあるが、全く嬉しいと思ったことがなかった。
好きな女性から顔が好みだと言われてこれほど嬉しいとは。
「本当?」
「気を悪くしないでほしいのですが、女性に外見を褒められて嬉しいと思ったことがなかったのですが……シャルロットの好みと言われて正直舞い上がっています」
「あのね、好きなのは顔だけじゃないのよ?でも、まずはなんて格好良いのだろうって思ったの、ハンカチーフを貸してくれたときに」
「そんなこともありましたね」
「気になりだした理由はそれだけど、そこからはあなたと共に過ごす度に、優しくしてくれるあなたに、ずっとそばで守ってくれたあなたに、どんどん惹かれたの」
テーブルの上でアランがシャルロットの手を握る。
二人はお互いに照れ臭くなり口数が減ったが、なんとも甘ったるい空気の中、しばらく景色を見て過ごした。
会計を済ませたアランが店からでると、店の計らいで軽食とデザートを包んでくれた。
お礼を伝え、二人は再び馬車に乗り込む。
「この後は、どうするの?今日はもう帰るのかしら?」
「実は行きたい所があるので、連れていってもいいですか?」
「ええ、もちろん。どこに行くかは内緒なの?」
「そうですね、着いてからのお楽しみということにしましょう」
小高い丘をゆっくりと下ると、馬車の窓が見慣れた街を映す。
街の中心部を逸れると高級住宅街に入っていく。
「あら、うちの近くね?」
「もう着きますよ」
馬車が止まると、区画は違うがスラットレイ伯爵家のタウンハウスと同じ住宅街だ。
シャルロットは手を引かれて馬車から降りると、目の前の大きな家を見上げる。
スラットレイ伯爵家のタウンハウスと同程度の規模である。
エスコートされて、門を通る。
アランがノッカーを鳴らすことなく、玄関を開けた。
不思議に思いながら中に入ると、まだ新しい木材の香りがシャルロットを迎えた。
「わあ!素敵なお家ね!アランのご実家のお宅かしら?それともご兄弟?」
その割には家人も侍女も現れない。
「私の家です」
「まあ!そうだったのね」
「オーナーが父の友人なんです」
まさか女性と来たりしていないわよね?と微かな不安があったが、どうやら杞憂だったようだ。
ほっと一安心するシャルロット。
出資は父の趣味ですね、と言うアラン。
アランの実家は侯爵家である。
お互いの実家の家業についてや、アランが幼い頃から騎士を目指した話、騎士学校に通った話まで、次から次へと話題が変わる。
楽しく会話しながら、サーブされる料理を堪能する。
野菜の旨味が濃縮されたスープも、王都では珍しい魚料理もとびきり美味しい。
どれを食べても感激しながら食べるシャルロットに、アランも笑みが溢れる。
たっぷりと時間をかけて料理を平らげたあとは、食後の紅茶をいただく。
「城下町に下りて、カフェに入ったときのこと、覚えてるかしら」
「はい、もちろん覚えてますよ」
まだ花嫁修行をしていた時の話だ。
「あの時は、絶対に座ってくれなかったじゃない?」
「そうですね」
「あの日があったおかげで、今こうして向かい合って紅茶を飲めることが、これ以上ないくらい幸せだわ」
あの日、アランは騎士として、同じ立場でお茶を飲むことは許されなかった。
令嬢に言われたためと理由をつければ、座ることもできたかもしれないが、既にどうしようもなくシャルロットに惹かれていたアランはせめてもの抵抗として、その一線を越えることはできなかった。
あの日のアランを責めることなく、今のこの時間を幸せと感じるシャルロットにアランは心が洗われるようだった。
「あの時は既に惚れていましたからね」
「まあ!詳しく聞きたいわ!」
先ほどまで完璧なマナーで食事をしていたというのに、途端に前のめりになるシャルロットが面白く可愛い。
「何が聞きたいですか?」
「いつ、好きになってくれた、とか?」
アランはフリード殿下への嫉妬心が薄れてきた頃合いであった為、もういいかと観念した。
「……強く自覚したのはフリード殿下と一度目の面会をされた時ですね。それまで気を張っている様子だったあなたが、あの時間はフリード殿下に気を許していた」
「よく見ていたわね?」
確かにシャルロットは王城に上がって最初は随分気を張っていた。
「私はあなたを全然守れていないと思い、悔しい思いをしました」
「そんなに早くから想ってくれていたなんて」
「では、シャルロットは?いつから想ってくれてたのですか?」
「ええっと、……恥ずかしいのだけど、伝えても嫌いにならないでくれる?」
「何を言われても嫌いになどなりませんよ」
「実はね……顔が」
「……顔?」
「とっ……ても、好みなの」
両手で顔を隠すシャルロットに、呆気に取られるアラン。
まさか、シャルロットからそんなことを言われるとは露ほども考えていなかった。
「こんな女で、嫌いになっちゃったかしら……」
「嬉しいです。自分でもびっくりしているのですが、女性から好みだと言われて人生で初めて嬉しい気持ちになりました」
何度も格好良い、好みだ、などと言われたことはあるが、全く嬉しいと思ったことがなかった。
好きな女性から顔が好みだと言われてこれほど嬉しいとは。
「本当?」
「気を悪くしないでほしいのですが、女性に外見を褒められて嬉しいと思ったことがなかったのですが……シャルロットの好みと言われて正直舞い上がっています」
「あのね、好きなのは顔だけじゃないのよ?でも、まずはなんて格好良いのだろうって思ったの、ハンカチーフを貸してくれたときに」
「そんなこともありましたね」
「気になりだした理由はそれだけど、そこからはあなたと共に過ごす度に、優しくしてくれるあなたに、ずっとそばで守ってくれたあなたに、どんどん惹かれたの」
テーブルの上でアランがシャルロットの手を握る。
二人はお互いに照れ臭くなり口数が減ったが、なんとも甘ったるい空気の中、しばらく景色を見て過ごした。
会計を済ませたアランが店からでると、店の計らいで軽食とデザートを包んでくれた。
お礼を伝え、二人は再び馬車に乗り込む。
「この後は、どうするの?今日はもう帰るのかしら?」
「実は行きたい所があるので、連れていってもいいですか?」
「ええ、もちろん。どこに行くかは内緒なの?」
「そうですね、着いてからのお楽しみということにしましょう」
小高い丘をゆっくりと下ると、馬車の窓が見慣れた街を映す。
街の中心部を逸れると高級住宅街に入っていく。
「あら、うちの近くね?」
「もう着きますよ」
馬車が止まると、区画は違うがスラットレイ伯爵家のタウンハウスと同じ住宅街だ。
シャルロットは手を引かれて馬車から降りると、目の前の大きな家を見上げる。
スラットレイ伯爵家のタウンハウスと同程度の規模である。
エスコートされて、門を通る。
アランがノッカーを鳴らすことなく、玄関を開けた。
不思議に思いながら中に入ると、まだ新しい木材の香りがシャルロットを迎えた。
「わあ!素敵なお家ね!アランのご実家のお宅かしら?それともご兄弟?」
その割には家人も侍女も現れない。
「私の家です」
143
お気に入りに追加
726
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない
迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。
「陛下は、同性しか愛せないのでは?」
そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。
ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。
溺愛されるのは幸せなこと
ましろ
恋愛
リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。
もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。
結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。
子供にも恵まれ順風満帆だと思われていたのに──
突然の夫人からの離婚の申し出。一体彼女に何が起きたのか?
✽設定はゆるゆるです。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる
青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー
婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される
狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった
公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む
すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて…
全編甘々を目指しています。
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる