27 / 31
後日談 我慢はほどほどに③
しおりを挟む
本格的な寒さが街を駆け抜ける。
シャルロットがメイドが準備した防寒用のコートを見つめながらニコニコと笑みを浮かべる。
今日はアランと日中に出掛けようと約束をしている。
建国祭からひと月半ぶりのデートである。
その為今日という日を心待ちにしていた。
夜にお喋りするのも楽しいが、陽が出ている時間のデートはまた違った楽しみがある。
ゴンゴンと玄関のノッカーが音を立てると、侍女が重い扉を開く。
「こんにちは」
「アラン!ごきげんよう」
アランが挨拶のキスを頬にすると、そのまま腰を抱きながらシャルロットに問う。
「準備は大丈夫ですか?」
「ええ、バッチリよ」
シャルロットはコンパクトな斜め掛けのポシェットを持ち上げる。
アランが侍女からシャルロットのコートを受け取ると背後に回り、シャルロットの腕を袖に通して肩まで引き上げる。
正面に立つと、しっかりと首元までボタンを閉じた。
「ありがとう」
上目遣いでアランにお礼を言うシャルロットが、上機嫌に微笑む。
侍女に声をかけてエントラスを出る。
今日は侍女を連れずに二人きりでお出かけだ。
馬車に乗ると、相変わらずぴたりと寄り添うように座る。
「今日はどこに行くのかしら?」
「昼食を食べに行きましょう、馴染みのレストランがあるので」
「まあ素敵!城下町のレストランかしら?」
「いえ、王城を挟んで城下町とは反対側に小さな丘があるのはご存知ですか?」
「知らないわ?」
「味には疎い俺でも美味しいと思うので、前からぜひ連れて行きたいなと」
馴染みのレストラン?
いつもは誰と行くのかしら?
不思議に思いながらも楽しみのほうが勝る。
馬車がゆっくりと走る。
見つめ合うとお互いにすぐにキスがしたくなる。
アランが顔を寄せると、寸前でピタリと止まる。
「口紅が落ちてしまいますね」
眉を上げて残念そうに顔が離れて行くと、シャルロットがアランの顔を両手で挟み引き止める。
「……お化粧直しのための口紅、持ってきたわ?」
キスをして、と同義の言葉にアランは嬉しそうにシャルロットに覆い被さった。
「んっ…」
「ドレスは新しい物ですか?今日もとびきり可愛いですね」
「んっ、あなたもとびきり格好いいわ……」
シャルロットは今日のためにドレスを新調したが、まさかアランが気づいてくれるとは思わなかった。
アランの瞳の色と似た新緑のドレスは、防寒に優れている生地で作られ、足さばきも良く、シャルロットはとても気に入っていた。
アランは綺麗なタックが入った黒のスラックスに白いシャツを合わせ、その上に濃い紺色をしたシングルのチェスターコートを着ていた。
上衿がベルベットで作られており、とてもお洒落である。
シンプルだが上質で上品な装いが、背丈が高く体の大きいアランにとても似合っていた。
手鏡を持ちながら口紅を塗り直すシャルロットが、こっちを見ないでと怒ったり、そんなシャルロットも可愛いくてまた口付けたくなるアラン。
じゃれあっていると小高い丘の上にあるレストランに着いた。
「いらっしゃいませ」
ドアマンが扉を開けると、慣れた様子でアランが挨拶をする。
二人のコートを預かってもらうと、シャルロットはエスコートされながら足を進める。
「個室もありますが、個室よりもオープンフロアのほうが景色が良いので」
案内された窓際のテーブルにつくと眼下に住宅街とその向こうに広大な森林地帯が見える。
城下町とは反対側の街並みを一望できた。
「わあ……!素晴らしい景色ね」
「平坦な土地が多いこの国では、中々珍しい立地ですよね」
アランが手を挙げると素早く年配のウェイターがやってきた。
「この度はご来店誠に有難うございます。アラン様、ご無沙汰しております」
「お久しぶりです、お元気にしておりましたか」
「お陰様で元気に過ごしております。本日は可愛らしいお嬢様をお連れいただき、大変光栄でございます」
「ああ、紹介します。恋人のシャルロット嬢です」
「シャルロットと申します」
シャルロットが会釈する。
「ようこそおいでくださりました。苦手な食べ物はございますか?」
ウェイターがシャルロットにいくつか質問をしながら今日のおすすめを説明する。
アランよりもシャルロットにフォーカスして接客する馴染みのウェイターに、アランは後で多めにチップを渡さねばと考える。
アランは特に食にこだわりはないし、それをウェイターも知っている。
なによりこの店では何を食べても美味い。
アランが初めて連れてきた恋人が極めて特別な存在だと理解したウェイターは、シャルロットを喜ばせることが重要だと直ちに判断したのだろう。
ウェイターが席を離れると、シャルロットが目を輝かせてアランを見つめる。
「最後のデザートはいくつも運んでくださるとおっしゃっていたわ!」
「甘いものも評判がいいようですよ」
オードブルが運ばれてくると、シャルロットが美しい所作で口元に運ぶ。
改めてスラットレイ伯爵家のご令嬢なのだとアランは実感する。
最近はいやらしく乱れる姿ばかり見ていたため、なんだか新鮮である。
「そういえば、馴染みの店と言っていたけれど、ご家族と来ていたの?」
シャルロットは気になっていたことを聞いてみた。
シャルロットがメイドが準備した防寒用のコートを見つめながらニコニコと笑みを浮かべる。
今日はアランと日中に出掛けようと約束をしている。
建国祭からひと月半ぶりのデートである。
その為今日という日を心待ちにしていた。
夜にお喋りするのも楽しいが、陽が出ている時間のデートはまた違った楽しみがある。
ゴンゴンと玄関のノッカーが音を立てると、侍女が重い扉を開く。
「こんにちは」
「アラン!ごきげんよう」
アランが挨拶のキスを頬にすると、そのまま腰を抱きながらシャルロットに問う。
「準備は大丈夫ですか?」
「ええ、バッチリよ」
シャルロットはコンパクトな斜め掛けのポシェットを持ち上げる。
アランが侍女からシャルロットのコートを受け取ると背後に回り、シャルロットの腕を袖に通して肩まで引き上げる。
正面に立つと、しっかりと首元までボタンを閉じた。
「ありがとう」
上目遣いでアランにお礼を言うシャルロットが、上機嫌に微笑む。
侍女に声をかけてエントラスを出る。
今日は侍女を連れずに二人きりでお出かけだ。
馬車に乗ると、相変わらずぴたりと寄り添うように座る。
「今日はどこに行くのかしら?」
「昼食を食べに行きましょう、馴染みのレストランがあるので」
「まあ素敵!城下町のレストランかしら?」
「いえ、王城を挟んで城下町とは反対側に小さな丘があるのはご存知ですか?」
「知らないわ?」
「味には疎い俺でも美味しいと思うので、前からぜひ連れて行きたいなと」
馴染みのレストラン?
いつもは誰と行くのかしら?
不思議に思いながらも楽しみのほうが勝る。
馬車がゆっくりと走る。
見つめ合うとお互いにすぐにキスがしたくなる。
アランが顔を寄せると、寸前でピタリと止まる。
「口紅が落ちてしまいますね」
眉を上げて残念そうに顔が離れて行くと、シャルロットがアランの顔を両手で挟み引き止める。
「……お化粧直しのための口紅、持ってきたわ?」
キスをして、と同義の言葉にアランは嬉しそうにシャルロットに覆い被さった。
「んっ…」
「ドレスは新しい物ですか?今日もとびきり可愛いですね」
「んっ、あなたもとびきり格好いいわ……」
シャルロットは今日のためにドレスを新調したが、まさかアランが気づいてくれるとは思わなかった。
アランの瞳の色と似た新緑のドレスは、防寒に優れている生地で作られ、足さばきも良く、シャルロットはとても気に入っていた。
アランは綺麗なタックが入った黒のスラックスに白いシャツを合わせ、その上に濃い紺色をしたシングルのチェスターコートを着ていた。
上衿がベルベットで作られており、とてもお洒落である。
シンプルだが上質で上品な装いが、背丈が高く体の大きいアランにとても似合っていた。
手鏡を持ちながら口紅を塗り直すシャルロットが、こっちを見ないでと怒ったり、そんなシャルロットも可愛いくてまた口付けたくなるアラン。
じゃれあっていると小高い丘の上にあるレストランに着いた。
「いらっしゃいませ」
ドアマンが扉を開けると、慣れた様子でアランが挨拶をする。
二人のコートを預かってもらうと、シャルロットはエスコートされながら足を進める。
「個室もありますが、個室よりもオープンフロアのほうが景色が良いので」
案内された窓際のテーブルにつくと眼下に住宅街とその向こうに広大な森林地帯が見える。
城下町とは反対側の街並みを一望できた。
「わあ……!素晴らしい景色ね」
「平坦な土地が多いこの国では、中々珍しい立地ですよね」
アランが手を挙げると素早く年配のウェイターがやってきた。
「この度はご来店誠に有難うございます。アラン様、ご無沙汰しております」
「お久しぶりです、お元気にしておりましたか」
「お陰様で元気に過ごしております。本日は可愛らしいお嬢様をお連れいただき、大変光栄でございます」
「ああ、紹介します。恋人のシャルロット嬢です」
「シャルロットと申します」
シャルロットが会釈する。
「ようこそおいでくださりました。苦手な食べ物はございますか?」
ウェイターがシャルロットにいくつか質問をしながら今日のおすすめを説明する。
アランよりもシャルロットにフォーカスして接客する馴染みのウェイターに、アランは後で多めにチップを渡さねばと考える。
アランは特に食にこだわりはないし、それをウェイターも知っている。
なによりこの店では何を食べても美味い。
アランが初めて連れてきた恋人が極めて特別な存在だと理解したウェイターは、シャルロットを喜ばせることが重要だと直ちに判断したのだろう。
ウェイターが席を離れると、シャルロットが目を輝かせてアランを見つめる。
「最後のデザートはいくつも運んでくださるとおっしゃっていたわ!」
「甘いものも評判がいいようですよ」
オードブルが運ばれてくると、シャルロットが美しい所作で口元に運ぶ。
改めてスラットレイ伯爵家のご令嬢なのだとアランは実感する。
最近はいやらしく乱れる姿ばかり見ていたため、なんだか新鮮である。
「そういえば、馴染みの店と言っていたけれど、ご家族と来ていたの?」
シャルロットは気になっていたことを聞いてみた。
111
お気に入りに追加
726
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【完結】妻至上主義
Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。
この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。
本編11話+番外編数話
[作者よりご挨拶]
未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。
現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。
お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。
(╥﹏╥)
お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。
国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない
迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。
「陛下は、同性しか愛せないのでは?」
そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。
ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。
溺愛されるのは幸せなこと
ましろ
恋愛
リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。
もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。
結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。
子供にも恵まれ順風満帆だと思われていたのに──
突然の夫人からの離婚の申し出。一体彼女に何が起きたのか?
✽設定はゆるゆるです。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる
青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー
婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される
狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった
公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む
すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて…
全編甘々を目指しています。
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる