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第23話 建国祭と守られた約束⑦
しおりを挟む二日目、昼近くに起きるとスラックスだけを履いたアランが片手で身体を支えながら腕立てをしていた。
「朝から偉いわねえ」
「すみません、日課なので」
「日課を怠らないあなたが素敵よ」
アランが体を拭いている間にシャルロットも身支度を始める。
今日は城下町を見て回ろうと約束していた。
「お腹がぺこぺこだわ」
「俺もです」
王城のエントランスを抜け、外門をくぐるとすぐに人の多さに驚く。
店先では呼び込む必要もないほど、大勢の客が品物を物色していた。
店先や街灯に施された色鮮やかな飾りつけが楽しげな雰囲気をぐっと後押ししている。
アランの腕に手を添えていただけだったが、シャルロットが思い切ってアランの腕に両腕で絡みつく。
「ひっつきすぎかしら?」
「いいのでは?建国祭ですし」
「そうね、建国祭だものね」
理由になっていないが浮かれる二人を咎める者はいない。
しかし、バッチリ目撃はされていた。
話しかけていいものかと、背後で迷っていると、アランとシャルロットが同時に気づいた。
「ビアンカ!」
「お久しぶりです、シャルロット様!アラン様」
「元気にしてた?」
「はい!……あの、お伝えしたいことがありまして、実は憧れの方と同じ職場になることに……!」
シャルロットは叫びそうになる口を両手で抑えた。
「ええ!?やったじゃない!すごいわビアンカ!」
首をフルフルと横に振る。
「シャルロット様、私、聞きました。シャルロット様が私を推薦してくださったと」
「私は少し殿下にお話しただけよ?だから、あなたの実力よ」
「シャルロット様には、感謝してもしきれません……力不足かもしれませんが、精一杯勤めようと思います」
「応援してるわ、ビアンカ!」
ビアンカと別れ際にハグをして、二人で歩き出す。
しばらく歩くとビアンカに教えてもらった出店でサンドイッチを買い、お腹を満たした。
「美味しかったわね!」
「そうですね、何個でも食べられそうです」
「あら、買っていく?他にも色んな味があるようだし」
「折角ですし他の店も見てまわりましょう」
再び腕を絡めて歩く。
たくさんの人が行き来する中、二人を気にする人はいない。
シャルロットはこうして二人で歩いているだけで、胸が躍った。
「……人の願いばかり叶えてしまって」
アランが口を開く。
先程のビアンカのことだろう。
「あら、少し殿下に進言しただけなの。だからビアンカの実力があってこそなの」
シャルロットはビアンカの想い人が文官だろうと目星をつけていた。
目で追ってしまうと言っていたビアンカが度々遭遇できるのは城に出入りする業者よりは文官だろうと勘が働いた。
文官は年中人員不足と聞いたことがあったのを思い出し、マルチタスクが得意なビアンカに、文官のお手伝いをお願いするのも有りかもしれないとフリードに進言していたのだ。
まさか早速、憧れの人と同じ職場になるとは思っていなかったが。
「嬉しいわ。ビアンカが前向きなのがとっても嬉しい」
「侍女の願いを叶える令嬢なんて中々いませんよ」
「そんなに大それたことはしてないわ?」
「……あなたの願いや我儘を他の人に言うのは駄目ですよ」
「どうして?」
「あなたの願いや我儘はすべて俺のものですから」
「変わった愛の形ね?」
シャルロットはそう言いながらも嬉しそうに笑っていた。
「すべて俺が叶えます」
「ふふふ、独占欲かしら」
「そうです」
前を向きながら潔く言い切るアラン。
「周りのことばかり気にかけて、あなたらしいですよ」
シャルロットがアランを見上げる。
「……呆れてる?」
「いいえ」
「本当?」
「本当ですよ。……そんなあなたのことは、私が幸せにすると決めていますから。あなたはそのままで」
シャルロットが息を呑む。
アランの深い愛が垣間見えた気がした。
シャルロットは自分が出来ることは何でもしたいと思う反面、それが正解とは限らないと分かっていた。
侍女の件もあった。
忙しいのかもしれないと侍女を気遣ったつもりが、早く伝えていればもっと違う結果になっただろう。
間違うことはあったとしたも、それでも皆の力になりたい。
そんな自分でいいと、そのままでいいと、自分を認めてもらえたような気がして、嬉しくて、泣きたくなった。
「ありがとう、アラン……好き。……大好き」
シャルロットの愛の言葉にアランも微笑むと、二人は人混みに紛れて触れるだけのキスをした。
二日目の夜は離れていた時間を埋めるように、会えなかった二ヶ月間の話を夜通し話した。
何をして、何を食べて、どれだけお互いを想ったかを話した。
来年の建国祭も二人で来ようと約束をして、数えきれないほどキスをする。
そうして抱きしめ合って眠りについた。
三日目。
シャルロットが目覚めると、なんとアランがまだ眠っていた。
カーテン越しの光は弱く薄暗いため明け方のようだ。
薄いシャツの下の盛り上がった筋肉が透けて見える。
規則正しく上下する胸をぼんやりと眺める。
すう、すうと穏やかな寝息をたてるアランの顔をじっくりと観察する。
こんなにも恰好良いのに、恋人がいなかったのは奇跡だろう。
仕事が忙しかったのかもしれないが、アランの強さと格好良さを思うとモテていただろうに。
一日目のパーティーでも何人もの令嬢に言い寄られていたし。
シャルロットに嫌がらせをした令嬢達もアランのことが好きだったようだし……。
意識のない手を自分の頬に当てる。
暖かい手にすりすりと頬擦りする。
明日以降の話はまだしていないが、また遠征に行ってしまうのだろうか。
幸せな分、離れることを考えると寂しい。
ずっと一緒にいられたらいいのに。
早く婚約したいなんて言うと引かれてしまうかしら。
頬ずりしていた大きな手をにぎにぎと握る。
「……私のほうが独占欲が強いと思うわ」
「それはあり得ませんね」
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