上 下
10 / 31

第10話 新しい侍女と発熱

しおりを挟む
久しぶりにダンスレッスンに参加できた数日後、侍女長から新しい侍女が紹介された。

シャルロットは多忙につきフリード殿下に謁見することは叶わなかったが、フリードの側近に手紙を渡すことはできた。
手紙には侍女の不手際については自分に非があると詳細を綴ったが、外された侍女は処分など受けていないだろうか。

シャルロットは外された侍女が解雇されていないか心配になったが、それは無いということで一先ず安心する。

ビアンカと名乗った新しい侍女は、随分と若かった。
自分といくつも違わないように見える。
この国では一般的に侍女は三十代や四十代以上の女性が多く、祖母の年齢と変わらないような侍女がしゃきしゃきと働いていることもままある。
勝手ながらビアンカが優秀であることがうかがえた。

「これからよろしくね」

「はいっ、よろしくお願いします!」

緊張気味のビアンカが頭を下げる。
愛嬌があって可愛いらしい女性だ。

ーーー

ビアンカが配属されてすぐにシャルロットが発熱で倒れてしまった。
ビアンカはテキパキと医者の手配や家庭教師やダンス講師への連絡、そして食べられそうな物をシャルロットに聞くと料理室へお願いしに言ってくれた。

「助かるわ……」
「きっと疲れが溜まっていたのですね」

心配して労るようなビアンカの言葉にシャルロットは心が温かくなる。

医者の診断が終わりベッドに寝転ぶが、ここに来てから暇な時間というのは初めてだった。
手持ち無沙汰でつまらない。

やっと手首の怪我が治りダンスレッスンに復帰できたと言うのに。
ベッドに横たわっていても暇で仕方がない。
しかし本を読む気力もなく、うとうとと時間だけが過ぎていく。

ノックと共にビアンカが入ってくるとシャルロットに声を掛けた。

「アラン様がお話しがあるようで……」
「何かしら?通していいわよ……?」
「ですが、寝衣ですので…」

確かにベッドで横になっているのに男性を招くのは良くないだろう。

「では天蓋越しになら……ギリギリセーフかしら」

ビアンカもなんとか納得したようで、天蓋を下ろしてくれると、アランが入って来た。
ビアンカも部屋の隅に待機している。

「お体が辛い時に申し訳ありません。急ぎだったため」

シャルロットはベッドのそばに跪くアランに椅子を勧める。
アランは素直に座ってくれた。

「いいのよ、とっても暇だったの……」

発熱のせいでどうしようもなく気怠い。

「簡潔にお話しますと、今日の夜より二十日程巡業に参りますので、代わりの者が護衛につきます」
「巡業……?」
「剣術大会の優勝者は、主要都市に子供たちへの指導という名目で出向き、騎士の普及活動に行かねばなりません」

「あら、重要な任務じゃない」
「通例では大会が終わってから数ヶ月後に出立するのですが、今回は急遽日程が決まってしまい。弱っているあなたを残して、行きたくはなかったのですが……信頼出来る者を置いていきますので」
「わかったわ、……気をつけて行って来てね」

「はい。……お加減はいかがですか」
「薬も飲んでいるし……大丈夫よ?……私の風邪が伝染ると大変だからはやく戻って」
「あなたはいつもそうですね。何かして欲しいことはありませんか」

少し沈黙が続くと弱っているせいか、シャルロットからポロリと本音が溢れた。

「……社交パーティーに行きたかったわ……そしてダンスを踊りたかったの」

「週末の社交パーティーは難しいですが、次回があれば参加しましょう」
「……いっしょに行ってくれるの?」

週末の社交パーティーだって約束をしている訳じゃなかった。

「ええ、あなたが望むのなら」
「……嬉しい」
「他には?」
「……少しだけ手を握ってくれる?」
「わかりました」

アランは天蓋の布の境目から手を差し込むとシャルロットの手を握る。

「安心するわ……」

シャルロットが目を瞑る。
アランは時間の許す限り天蓋越しにシャルロットを見つめ続けた。

二人は意識していなかったが、最初から最後まで部屋の隅にはビアンカが待機している。
二人が手を繋いだ時に思わず息を呑んだが、なんとか両手で口を抑えた。
ビアンカは二人のただならぬ雰囲気に混乱しながらも、アランが退出するまでドキドキする胸を抑えて存在感を消すことに集中した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

【完結】妻至上主義

Ringo
恋愛
歴史ある公爵家嫡男と侯爵家長女の婚約が結ばれたのは、長女が生まれたその日だった。 この物語はそんな2人が結婚するまでのお話であり、そこに行き着くまでのすったもんだのラブストーリーです。 本編11話+番外編数話 [作者よりご挨拶] 未完作品のプロットが諸事情で消滅するという事態に陥っております。 現在、自身で読み返して記憶を辿りながら再度新しくプロットを組み立て中。 お気に入り登録やしおりを挟んでくださっている方には申し訳ありませんが、必ず完結させますのでもう暫くお待ち頂ければと思います。 (╥﹏╥) お詫びとして、短編をお楽しみいただければ幸いです。

国王陛下は愛する幼馴染との距離をつめられない

迷い人
恋愛
20歳になっても未だ婚約者どころか恋人すらいない国王ダリオ。 「陛下は、同性しか愛せないのでは?」 そんな噂が世間に広がるが、王宮にいる全ての人間、貴族と呼ばれる人間達は真実を知っていた。 ダリオが、幼馴染で、学友で、秘書で、護衛どころか暗殺までしちゃう、自称お姉ちゃんな公爵令嬢ヨナのことが幼い頃から好きだと言うことを。

溺愛されるのは幸せなこと

ましろ
恋愛
リュディガー伯爵夫妻は仲睦まじいと有名だ。 もともとは政略結婚のはずが、夫であるケヴィンがイレーネに一目惚れしたのだ。 結婚してから5年がたった今も、その溺愛は続いている。 子供にも恵まれ順風満帆だと思われていたのに── 突然の夫人からの離婚の申し出。一体彼女に何が起きたのか? ✽設定はゆるゆるです。箸休め程度にお楽しみ頂けると幸いです。

[完結」(R18)最強の聖女様は全てを手に入れる

青空一夏
恋愛
私はトリスタン王国の王女ナオミ。18歳なのに50過ぎの隣国の老王の嫁がされる。最悪なんだけど、両国の安寧のため仕方がないと諦めた。我慢するわ、でも‥‥これって最高に幸せなのだけど!!その秘密は?ラブコメディー

婚約破棄された令嬢は騎士団長に溺愛される

狭山雪菜
恋愛
マリアは学園卒業後の社交場で、王太子から婚約破棄を言い渡されるがそもそも婚約者候補であり、まだ正式な婚約者じゃなかった 公の場で婚約破棄されたマリアは縁談の話が来なくなり、このままじゃ一生独身と落ち込む すると、友人のエリカが気分転換に騎士団員への慰労会へ誘ってくれて… 全編甘々を目指しています。 この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末

藤原ライラ
恋愛
 夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。  氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。  取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。  堅物王太子×引きこもり令嬢  「君はまだ、君を知らないだけだ」 ☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。 ※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

処理中です...