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第8話 怪我と髪結い
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翌日に医者に診てもらうと予想通り捻挫ということだった。
ダンスレッスンは少しの間休むように言われてシャルロットは残念で仕方がなかった。
ダンスレッスンがないからと朝の支度で髪を下ろしたヘアスタイルにしてもらうと、食事を取る際に長い髪が垂れて邪魔になることに気づいた。
いつもなら自分で簡単に髪を結うのだが、医者の処置で手首から親指を固定されている為に、片手では自分で髪を結うことができない。
加えて今日も昼を過ぎると侍女はいなくなってしまった。
夕食をワゴンで運んできてくれたアランに、つかぬことを聞いてみる。
「ねえ、アラン」
「なんでしょうか」
「ところで、あなた、髪結いはできる?」
シャルロットはもちろん駄目元で聞いている。
「出来ます」
「そうよね、出来ないわよね……え?出来るの?」
「はい。私にも妹がいまして、せがまれて何度も結いましたので」
「……実は食事の邪魔なの。簡単に結ってくれる?」
「いいですよ」
ドレッサーの前に移動してスツールに座る。
鏡越しに自分の髪をまとめ上げようとするアランが映る。
シャルロットは思ってもみなかった展開に胸が躍る。
アランが真剣な眼差しで髪を持ち上げている。
後れ毛がでないようにうなじをスッとなぞるように髪の毛を持ち上げられるとぞわぞわと感じたことのない感覚がシャルロットを襲った。
思えば男性に髪を触られるのは初めてだ。
「出来ました」
アランに釘付けだったが、あっという間に綺麗なポニーテールが出来上がっている。
「上手ね。助かったわ」
シャルロットは嬉しそうに髪を揺らした。
次の日も、その次の日もシャルロットは髪を下ろしていた。
「……わざと髪を下ろしていますね」
「うふふ、バレてしまったわ」
「侍女のほうが上手でしょうに」
今日も夕食前にアランに髪を結ってもらっていた。
「だって、物珍しくて。それに騎士様に髪を結ってもらうなんて、きっとこれが最後よ」
アランが眉間に皺を寄せてしかめっ面で黙っている。
無言の返事が少し気まずい。
怒らせてしまったかもしれない。
「……でもごめんなさい、あなたの手を煩わせてしまっているわね。明日からは侍女にお願いするわね」
少し調子に乗りすぎたかもしれない。
アランに髪を結ってもらうのが嬉しくて浮かれてしまっていた。
「……騎士であれば誰にでも髪を触らせるのですか」
少し怒りを孕んだ口調にシャルロットは沈んでいた顔をあげて慌てて否定する。
「違うわ、あなただからよ?誰にでも髪を触らせる訳じゃないわ」
「……ならいいのですが」
「信頼しているあなただから、安心してお願いできるの」
鏡越しのアランはとても複雑そうな表情をしている。
「しかし、簡単に信頼してるなどと言ってはいけません」
「そう?」
「誰しも心では何を考えているか分かりませんから」
「それはそうだけど……それでも馬で駆けつけてきてくれたあなたを信頼しているの」
「……職務の一環です」
「……それでもよ」
アランに惹かれている自分を自覚する。
今思えば誰にだって触らせる訳じゃない。
他の誰なら大丈夫かと考えても全く思いつかない。
助けてくれるのが職務の一環と言われたが、それも当然だ。
護衛騎士なのだから。
それでも助けて欲しいと思った時に思い浮かべたのは他の誰でもなくアランだったから。
一番に駆けつけてくれたのはアランだったから。
職務の一環だからと言われてほんの少し胸が痛い気がするが、これは気のせいに違いない。
私は殿下の婚約者候補で、アランはその護衛騎士。
アランに惹かれても、この胸の痛みに名前をつけてはいけないのだ。
ダンスレッスンは少しの間休むように言われてシャルロットは残念で仕方がなかった。
ダンスレッスンがないからと朝の支度で髪を下ろしたヘアスタイルにしてもらうと、食事を取る際に長い髪が垂れて邪魔になることに気づいた。
いつもなら自分で簡単に髪を結うのだが、医者の処置で手首から親指を固定されている為に、片手では自分で髪を結うことができない。
加えて今日も昼を過ぎると侍女はいなくなってしまった。
夕食をワゴンで運んできてくれたアランに、つかぬことを聞いてみる。
「ねえ、アラン」
「なんでしょうか」
「ところで、あなた、髪結いはできる?」
シャルロットはもちろん駄目元で聞いている。
「出来ます」
「そうよね、出来ないわよね……え?出来るの?」
「はい。私にも妹がいまして、せがまれて何度も結いましたので」
「……実は食事の邪魔なの。簡単に結ってくれる?」
「いいですよ」
ドレッサーの前に移動してスツールに座る。
鏡越しに自分の髪をまとめ上げようとするアランが映る。
シャルロットは思ってもみなかった展開に胸が躍る。
アランが真剣な眼差しで髪を持ち上げている。
後れ毛がでないようにうなじをスッとなぞるように髪の毛を持ち上げられるとぞわぞわと感じたことのない感覚がシャルロットを襲った。
思えば男性に髪を触られるのは初めてだ。
「出来ました」
アランに釘付けだったが、あっという間に綺麗なポニーテールが出来上がっている。
「上手ね。助かったわ」
シャルロットは嬉しそうに髪を揺らした。
次の日も、その次の日もシャルロットは髪を下ろしていた。
「……わざと髪を下ろしていますね」
「うふふ、バレてしまったわ」
「侍女のほうが上手でしょうに」
今日も夕食前にアランに髪を結ってもらっていた。
「だって、物珍しくて。それに騎士様に髪を結ってもらうなんて、きっとこれが最後よ」
アランが眉間に皺を寄せてしかめっ面で黙っている。
無言の返事が少し気まずい。
怒らせてしまったかもしれない。
「……でもごめんなさい、あなたの手を煩わせてしまっているわね。明日からは侍女にお願いするわね」
少し調子に乗りすぎたかもしれない。
アランに髪を結ってもらうのが嬉しくて浮かれてしまっていた。
「……騎士であれば誰にでも髪を触らせるのですか」
少し怒りを孕んだ口調にシャルロットは沈んでいた顔をあげて慌てて否定する。
「違うわ、あなただからよ?誰にでも髪を触らせる訳じゃないわ」
「……ならいいのですが」
「信頼しているあなただから、安心してお願いできるの」
鏡越しのアランはとても複雑そうな表情をしている。
「しかし、簡単に信頼してるなどと言ってはいけません」
「そう?」
「誰しも心では何を考えているか分かりませんから」
「それはそうだけど……それでも馬で駆けつけてきてくれたあなたを信頼しているの」
「……職務の一環です」
「……それでもよ」
アランに惹かれている自分を自覚する。
今思えば誰にだって触らせる訳じゃない。
他の誰なら大丈夫かと考えても全く思いつかない。
助けてくれるのが職務の一環と言われたが、それも当然だ。
護衛騎士なのだから。
それでも助けて欲しいと思った時に思い浮かべたのは他の誰でもなくアランだったから。
一番に駆けつけてくれたのはアランだったから。
職務の一環だからと言われてほんの少し胸が痛い気がするが、これは気のせいに違いない。
私は殿下の婚約者候補で、アランはその護衛騎士。
アランに惹かれても、この胸の痛みに名前をつけてはいけないのだ。
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