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第7話 剣術大会③
しおりを挟む「シャルロット様!」
焦った様子のアランが馬から素早く降りると、シャルロットは頭の上から足先まで目視で確認される。
「ご無事ですか!城に帰られていなかったので捜索しておりました…!」
「探してくれてありがとう」
シャルロットが事情を説明すると、アランが怪訝な面持ちで口を開く。
「車輪が二つも?自然的な破損とは考えにくい……作為的なものを感じますね、調べさせましょう。馬車を運ぶ者を呼んできますので二人はこのままお待ちいただいても?それほど時間はかかりません」
御者と御者見習いの二人は突然、目の前に三連覇した男が現れ言葉を失っていた。
「あのね、二人は悪くないと思うの、たくさん謝ってくれたし…無事にここまで連れてきてくれたわ」
御者達が罪に問われてたりしないか不安になったシャルロットは思わずフォローする。
「分かりました。参考人として話を聞くことになるとは思いますが」
「良かった。二人ともここまで連れてきてくれて感謝するわ、アランが来たからにはもう大丈夫よ」
「シャルロット様は私と一緒に帰りましょう」
「わかったわ」
シャルロットを乗って来た馬に乗せると囲い込むように後ろに腰を下ろす。
二人が立ち去ろうとすると、少年が口を開いた。
「あ、一緒に馬車を引いてくれてありがとう!俺のお姫様!」
馬が進みだしたが、シャルロットとアランが振り返る。
「こちらこそ、心強かったわ!」
お腹に回された腕に力がこもる。
「……俺の姫の無事に感謝する」
アランの言葉にシャルロットが目を丸くする。
アランが手綱を引き馬がスピードを上げた。
「……アラン?子供と張り合っても仕方ないわ?」
ーーー
道すがらシャルロットはアランの優勝を称えた。
三連覇すると殿堂入りとなって次からは参加できなくなるらしいが、アランはどうでもよさそうだった。
アランの格好良かったところを語りだすと、アランは聞き役に徹して無口になったが、構わずシャルロットは興奮しながら話し続けた。
シャルロットは興奮状態で忘れていたが、王城に戻り冷静になると手首の痛みが増してきた。
「今日はもう寝るわ、おやすみなさい」
シャルロットは部屋に入ろうとしてうっかり傷めた手でドアノブを捻ろうとしてしまった。
「っつ…」
「……いかがしましたか?」
背後でアランが振り向いた気がした。
「ううん、なんでもないの。お休みなさい」
足早に自室に入ろうとしたが、素早く回り込まれると、ドアノブを回す手を阻止され、腫れた手首がアランの視界に入った。
「怪我してるじゃないですか!」
「バレてしまったわ」
「すぐ冷やしましょう、自室でお待ちください」
アランが駆け足で前室から出ていく。
しばらく待つと応急処置のセットを持って戻って来た。
「すみません、常駐の医者は別の方を対応しているみたいで……一旦、応急処置だけしましょう」
「こんな夜中なのに…お医者様は大変だわ」
「あなたも今、大変な状況ですよ」
「私は大丈夫よ。骨は折れてない気がするもの」
「医者に診てもらうまでは分かりません」
「あら、本当よ。幼い頃、妹と押し相撲した時に手首を傷めた時と同じくらいだもの。その時も骨折はしていなかったわ」
「……分かりました。一旦冷やしましょう」
「ありがとう、アラン」
「……今日はとてもかっこよかったわ、不思議とあなたが負ける気がしなくて……」
「あなたはいつも人のことばかりですね……少しはご自身に目を向けてください」
「そうかしら?今日のあなたを称えたくてしかたがないわ」
「ですが……怪我をした時は痛がっていいのです。冷やしたい、休みたい、自分本位になっていいのですよ」
「うーん、大した怪我じゃないもの。それよりもあなたの話がしたいわ。だって本当に感動したの」
「強情な人ですね」
「あなたもわからずやね」
間を置いてシャルロットは自分が発した言葉に耐え切れず笑い出す。
「ちょっと……私、初めてわからずやだなんて言ったわ、可笑しい」
ふふふ、ははっと笑いが止まらない。
アランは呆れたようだったが、観念したように表情を緩めた。
「優勝おめでとう、アラン」
「ありがとうございます」
「三連覇だなんて、あなたがそんなにすごい人だなんて知らなかったわ」
「大したことありません」
「まあ、謙虚ね?……そんなにすごい方に護衛してもらってたなんて光栄だわ」
「……護衛を代えて欲しいなどと言わないでくださいね」
「……心が読めるの?」
「あなたならそう言うかなと」
「すごいわ!私の心を読んだのかと思ったわ」
「……今の立場を誰かに譲る気はありません」
「フリード殿下の護衛のほうが楽しいでしょうに」
「職務ですので、楽しい楽しくないで判断しません」
「職務であれば、誰かに代わってもいいのではないの?」
沈黙が流れる。
論破してしまっただろうか。
「いいえ、譲る気はありません」
自分でも矛盾していることが分かっているのかアランは気まずい様子だが、それでも意志を曲げようとはしなかった。
「あら、そう?では引き続きよろしくね?」
「はい」
タオルを抑えるアランの手に力が入る。
「アラン、少し痛いわ?」
「すみません」
アランはシャルロットがうつらうつらと眠気に誘われるまでずっと手首を冷やし続けた。
月明かりでいつもより明るい夜空が、二人の時間をいつまでも許してくれている気がした。
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