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第5話 剣術大会①

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シャルロットは午前にマナー講座を受け、課題を終わらせる。
今日も夕方からのダンスレッスンでは、終盤のパートナー練習が行われた。
ヴェロニカをサポートした次の練習からは講師が女性のリード役を連れてきた。
ヴェロニカは宣言した通り、手を抜くことなく練習に励んでいた。

シャルロットは相変わらずアランと練習しており、アランと踊るこの時間が一番楽しかった。
こんなに好みの男性と踊るのはきっとこれが最後だろうと、この機会を堪能していた。
至近距離で見つめても、その裏切らない凛々しさに惚れ惚れする。
彫りが深く目鼻立ちがはっきりとしている。
体は大きいのに洗練された雰囲気があるのはこの顔と、所作が綺麗なためだろう。
背が高いアランを見上げるシャルロットは少し視線を下げると逞しい首筋が視界に入った。
自分とはまるで違う体つきに胸がときめく。
こんな機会を与えてくださったフリード殿下に感謝しなければいけない。

「あら、汗がすごいわ」

額に滲む汗に色気すら感じる。
ずるいわ、汗をかいても格好良いなんて。
ハンカチーフでアランの額の汗を拭う。

「……すみません」
「あら、こう言う時はありがとうと言うのよ」
「ありがとうございます」

「こちらこそ、いつも付き合ってくれて感謝してるわ」

ダンスの練習が終わりダンスシューズを脱いでいるとヴェロニカに話しかけられる。
少しずつだがヴェロニカとは良い方向に向かっている気がしていた。

「あなたの護衛は剣術大会には出場するの」
「剣術大会、とは?」
「そこから?来週の騎士達の剣術大会よ」
「そのようなものが催されるのですね。アランは出るの?」

シャルロットがアランに話を振るとアランが少し気まずい様子で返答する。

「……いえ、今年は控えようかなと」
「あらそうなの?今年は、ってことは毎年出てるのであれば私に遠慮せずに出てほしいわ」

「……出場したほうが宜しいですか」
「それはあなたが決めることよ。あたしはあなたが出るなら少し興味があるだけで」
「出場したら観に来られますか?」
「ええ、あなたが出るなら応援しにいくわ」
「……上長に聞いてみます」
「あら!出るのね!楽しみだわ!ヴェロニカ様も教えてくださりありがとうございます」

シャルロットとアランがホールを出ていく。

「どうでも良い女と踊るくらいであんなに緊張しないと思ってたけど……やっぱりね」

ヴェロニカは呆れ顔で呟いた。

ーーー

剣術大会の会場は大変な賑わいである。
馬車で会場まで来ると、家族連れや、友人達と連れ立って来たであろう若者で溢れかえっていた。

階段状の観客席がぐるりと会場を囲んでいる。
貴族席に案内される道すがら、色んな会話が耳に入ってくる。
今日の出場者の話題や勝利予想に盛り上がる中、街の新作スイーツや流行り病の話まで。
シャルロットはこういう場所に来たのは初めてで気分が高揚した。

案内された席に座るとすぐに複数の令嬢達があとに続いて来たのが分かった。
シャルロットのすぐ後ろに座ったかと思うと大きな声で喋りだした。

「はあ、アラン様も可哀想だわ、小娘のお守りだなんて」
「ちょっと……!声が大きいのでは……!」

「将来を有望する騎士様が一令嬢の護衛だなんて、ねえ?」
「ちょっと……!」

大きな声で話す令嬢を、隣の令嬢が嗜めているようだ。

「アラン様、今年は三連覇を目指していらっしゃるだろうに護衛騎士だなんて可哀想なこと!」
「三連覇……?」
「な、なによ」

シャルロットが振り向くと思っていなかったのか令嬢達は顔を引き攣らせた。

「ごきげんよう、つかぬことをお聞きするけれど、三連覇を目指しているということは二連覇していないとおかしいわよね?」
「当たり前じゃない、アラン様の実力だと当然ですわ」
「そうなのね!知らなかったわ、そんなにすごい方だったなんて」
「んまあ!アラン様の功績もよく知らずにのうのうと過ごされていますわね!」
「ええ、ごめんなさい。騎士様の事情に詳しくなくて」
「ふん!あなたにはとてもじゃないけどもったいないお方よ!」

どうやらアランが私の護衛になったことを知っているようだ。
しかも大変不満に思っていそうだ。
隠している訳ではないし、誰が知っていてもおかしくはないが。

伯爵令嬢という立場上、妬まれることは初めてではないが、このようなやり方では令嬢達のほうが評判を落としてしまいそうで心配になる。

司会が説明を始める。
今日の大会はすでに予選を勝ち上がってきた精鋭達のようだ。
アランはシードのような扱いらしく予選は免除されていると説明があった。
その説明がされると、うおおおお、とあたりから歓声が上がり観客がアランに期待しているのが伝わってきた。

アランの初戦では元優勝者の登場に歓声が湧き上がる。
至る所でアランの名前が叫ばれている。

「とっても人気なのね」

シャルロットは想像もしていなかったアランの人気ぶりに周囲を見渡した。

初戦、次戦とアランが危なげなく勝ち進むと気づけば決勝となった。
会場の熱気も最高潮に達し、両者を応援する声が飛び交う。
貴族席で大きな声をあげる人はいないが、一般席からは女性がアランを呼ぶ声も聞こえる。

決勝が始まる。
今までの対戦者とは実力が段違いのように見える。
両者譲らない展開にシャルロットも緊張が高まる。

(お願い、勝って)

私の護衛になったことで鍛錬の時間は減ったりしていなかったのだろうか。

(負けてしまったら、きっとそれは、私の……)

不安に襲われた瞬間にアランが相手の剣を弾き飛ばした。
今日一番の歓声が鳴り響く。
貴族席にいても耳を塞ぎたくなるほど熱狂に包まれた。

「まあすごいわ……!優勝ね!」

シャルロットは手が痛くなるほど拍手を送った。
アランがこちらを見て微笑んだ気がしたが、これだけ人がいるため、きっと気のせいだろう。

最後の王太子による閉会の挨拶まで聞き終わると、周囲の皆がアランのことを口にしている。
シャルロットまで誇らしげな気持ちになった。


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