暗闇の家

因幡雄介

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 私は死に場所を求めていた。

 妻と娘を亡くしてちょうど一年になる。

 初めて行く旅行先で、山道を車で走らせていたら、迷ってしまい、ガードレールのそばに停車させた。

 車に妻と娘を残して、近くに人がいないか探していたら、ごう音が響いてくる。

 カーブになっていて見えなかったのか、トラックが私の車に追突して、二車とも崖に転落。

 トラックの運転手、妻、娘、三人とも即死だった。

 私があんな所に車を停車させなかったら。

 そもそも、道がわからない田舎の旅館なんて予約しなかったら。

 車の中で、妻と娘と一緒に、しりとりをしていた。

 ふたりの笑顔を一瞬でなくしてしまった。

 現実が信じられず、どうやって家に帰ったのかもおぼえていない。

 葬儀は私と妻の両親がやってくれた。

 親戚を集めず、家族だけで行う。

 そこに、私はいなかった。

 後悔が頭の中をめぐっては消え、悪夢が繰り返されていく。

 鬱状態になった私は、仕事を辞めて家に引きこもった。

 ふたりの元に行こうと自殺を考えたが、ただ死ぬだけでは申し訳ない。

 もっと自分を痛めつけて死ぬ方法を考えていた。

 自宅で寝そべって、窓の外から青い空を見上げる。

 妻は空が好きで、付き合ったときから、空ばかり見上げていた。

 曇り空は嫌いだった。

 青い空に溶け込むことができたのなら、私も妻と子の元にいけるか。

 インターネットで、不動産を検索し、何度も見学に行って、海近くの、高い崖に建てられた家を購入した。

 その家は真っ白に塗装されていた。

 中身は見ていないが、青い空に混じって、ぽつんと建てられている姿が気に入って、即購入した。

 値段は意外と安く、数百万円で買えた。

 この家が、私の死に場所だ。

 自殺するための道具を購入する前に、家の周りを探索してみようと思った。

 不動産屋の社員の話だと、とある家族が暮らしていたが、妻と息子が高波にさらわれてしまい、残った夫は行方不明のようだった。

 それでも購入を検討する人はいたようだが、

『家の中が気味悪い』

 という理由で、誰もが見送っていた。

 私は長く住むわけじゃない。

 家がどうだろうが関係ない。

 妻と娘に会いにいくのだから。

 前の住人の事情も、自分の過去と重なっていて、私は共感を得てしまった。

 私は興奮した気持ちを抑え、家のドアを開けて中に入っていった。
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