因幡さんのショートショート劇場

因幡雄介

文字の大きさ
上 下
2 / 11

本屋の女王様 《コメディ》

しおりを挟む
 俺はベッドの上で拘束されていた。


 体中を革のベルトでしめられている。

 動けない。

 手や足や胴、首まで強固な束縛用具がはまっている。


 部屋は高級感であふれていた。

 よくわからない彫刻がされた照明、誰が書いたかわからない絵画、白く取っ手の丸い棚。

 王女様が住んでいそうな部屋だった。


 ――俺、大学の学生寮で寝ていたよな?


 瞬間移動の超能力でも手に入れたのだろうか。

 どこだここは?

 暴れてみるが、ベッドのふかふか感がすごいという感想しか浮かばない。


「起きたようね?」


 ひょこっと顔が出てきたので、ビクッと体が震えた。

 女の子だ。

 年は十二歳ぐらいか。

 
 高級感に似合う服装だった。

 頭の飾りは羽根飾り。

 スカートは段フリル。

 胸は成長段階だが、顔は大人っぽく釣り目だった。

 髪は金髪で、碧眼。


 ――外国の人?


 なかなか言葉が口から出てこなかった。


「ボビー、マイク、部屋に入って拘束具を外してあげて」


 少女が手をたたくと、黒いサングラスとスーツを着た屈強な黒人と白人が、無口なまま俺を解放する。


 誘拐したのはこいつらか?


 けんかで勝てそうにないので、ダンゴムシのように小さく丸まっていた。

 男たちが部屋から出て行った。残ったのは俺と少女だけ。


 少女は子猫の装飾を施した椅子に座ると、


「おはよう。《オーバーロード》さん」

「えっ?」


 俺は思わず後ろを向いた。


「あんたのことよ。ペンネームなんでしょ?」


 丸テーブルに置かれたノートパソコンに、小説投稿サイトが映っていた。

 よく利用しているサイトだ。

 背中の汗が服にくっつく。


「この《ぼくとヌコ》っていう、主人公と人間化した猫、ヌコとのラブコメのようで、ラブコメじゃない、スペースオペラ書いたでしょ? ビームサーベルで狂気に堕ちたヌコと戦うっていう」

「なんで知ってるんだ!」


 俺はたまらず声がうわずった。


 恥ずかしい!


 書籍化しても、作者の顔は絶対出さないと決めていた。


「ファンだもん。ほら。いつも作品の感想を書き込んでいる、キャスリンて私」


 作品の感想欄の部分に、指をつける少女。


 ええっ!


 キャスリンなら知っている。

 やたらと精神をえぐってくる、最悪なファンだ。

 相手にするのが嫌で、名前を見かけたら無視していた。


「最近私の言うことを聞かなくなったわね? ちゃんと読んでるの?」


 読んでねぇよ!


「まあいいわ。今日はなんの日か知ってる?」


 もちろんだ。キャスリンに言われるまでもない。


「書籍化決定作品発表の日だろ? 昨日緊張して眠れなかったんだ。俺は最終選考に残ったからな」


 俺は前髪を手でかき上げて自慢。


 利用している小説投稿サイトでは、大手出版社が定期的にコンテストを開いていた。

 優勝する方法は簡単。

 読者票が多ければいいのだ。


 俺の作品の読者票は、二位を突き放して百倍の投票を獲得していた。


「当然よね」


 少女はうんうんとうなずき、


「投票を全世界から買ってやったわ。感謝なさい」

「……はっ?」



「読者投票は、世界中の人にお金を渡して、投票してもらったの。実質、あなたの作品は私を含めて七人しか投票してないわ」



「はっ、はいぃっ!」



 驚きすぎて、鼻から液体が噴射した。


「調子に乗って、掲示板サイトに、『オーバーロードは一万人に一人の才能』とか、『SF界の巨匠』とか、『二位に足りなかったもの。それは読者に対する真心じゃないかな?』とか書いちゃって」


 パソコンの画面が変わって、黒歴史がどんどん表示される。

 匿名で書いたのに、全部バレてる。


「殺せ! もう俺を殺してくれ!」


 俺はベッドの上に転がって、もだえまくった。


 顔が熱すぎる!



「あっ、結果が出たようね……はあっ?」



 少女はパソコンの端を両手でつかむと、



「落選ですって? どうして! 読者投票はあんなに取ったのよ!」



 不正がバレたのだ。

 もしくは実力がなかったか。後者の可能性がもっとも高い。


「そりゃそうだよ……あんな作品残るわけが……」

「おかしいわ! サイトの運営に電話して、法的手段で訴えてやるわ!」

「お願いだから、それはやめて!」


 オネエ言葉で泣きつく俺。


「じゃあ自費出版よ! 書店の一番見えやすい棚に、あなたの本を置いてもらうのよ!」

「恥の上塗りだからやめてくれぇ! 俺小説うまくなるから! がんばるから! 実力で作家になってみせるからぁ!」


 悔しいやらなんやらで、涙が自然と両目から出てしまっていた。


 よくよく聞くと、少女は有名大手書店の社長の娘だった。

 生粋のお嬢様だ。

 日本人と外国人のハーフとのこと。


 サインがほしいと言うので、下手ながらも書いてやった。

 少女はうれしそうに色紙を胸に抱え、飛び跳ねて喜んでいた。


 どんな作品にも、ファンはつく。


 彼女の本屋にいつか自分の本を置くと、指切りげんまんさせられた。




しおりを挟む
20221229130334

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【ショートショート】おやすみ

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
恋愛
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半ほど、黙読だと1分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

処理中です...