ホラーゲームに異世界転移した最強のオッサンはクリーチャーを殲滅しつつ美少女に説教す

因幡雄介

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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

最終話 新しい世界で、新しい幸せを

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 私が塔の外に出ると、モナカが足を広げてしゃがんでいて、腕を前に出していた。

 自分の胸を両手で抱き、顔を伏せ、座り込んでいる七瀬をながめている。

 ふたりの間には微妙に距離があり、モナカは七瀬に話しかけたいが、話せないといった感じだ。

「……クルミを殺しましたか?」

 七瀬は私のほうを見ないまま、顔を伏せたまま聞いてくる。

「殺した。それがゲームのクリア条件だからな」

 私は正直に言った。

 七瀬はふらりと立ち上がり、塔の端まで歩いていく。

 下は崖みたいになっていて、底が暗闇で見えていない。

 落ちるのかと警戒したが、七瀬は振り返り、ポケットから出したハンドガンをこめかみに当てた。

「ちょっ!?」

 モナカが立ち上がり、止めるためなのか手をのばす。

 私は何も言わないでいた。

 七瀬は力なくほほ笑み、

「私を育ててくれた両親は裕福な人たちで、子供がいなかったせいか、私のわがままならなんでも聞いてくれました。スクールでは友達もできたし、条件の良い就職もできました。ここに就任して、私のことを好きだと言ってくれた男性もいました。すべてが偽物だとわかっていたけど、とても心地よかった」

 両目から涙がこぼれ落ちる。

「あなたの言うとおりです。新しい世界で、新しい幸せを見つけるべきだった。どうして現実世界にこだわってたんだろう? クルミには両親はいません。異星人の細胞から作ったんですから当然ですね。あの子が私のことを『ママ』って言ったとき、私の感情は確かに動いたんです。――この子を殺していいのかと」

 空を見上げ、話を続ける七瀬。

 金属の無機質な壁が構築されているだけで、そこにはなんの感情も浮かばない。

 外は闇の広がる宇宙しか待っていない。

 クルミを迎え入れてくれた光は、あんなにも明るかったのに。

「もう償う方法はこれしか……」
「ちょっと待ちなよ!」

 銃の引き金を引こうとしている七瀬を、モナカがとめる。

「言っとくけど、私だっていい人生なんて送ってなかったさ。なんせ食うか食われるかの世界だったからね。確かにあんたがやったことは最低なことだけど、何も死ぬことないんじゃ……」
「ありがとう。モナカさん――六道さん」

 七瀬は私のほうを向き、頬にシワを刻み込む。

 疲れ切った表情だ。

 きれいに整えた髪の毛が数本飛んでいる。

「あなたたちと一緒に船内を冒険したのは、とても楽しかった。あんなに笑ったのは久しぶりでした。こんなことで罪が消えるとは思えないけど、だけど、もう、疲れちゃって……」
「ママぁ」
「えっ?」

 クルミが白いワンピースを揺らし、七瀬の足に抱きつく。

 七瀬は驚き目をぱちくりさせている。

 クルミはふわりとした七瀬のスカートから顔を上げ、

「泣かないで、ママ。クルミがおいたんみたいに守ってあげりゅから」
「あっ……あの」
「だからクルミといて。おいたんもいっちょね」

 舌足らずな口調で、必死で覚えた言語をつなぎ合わせる。

 子供ながら、七瀬の表情を見て、慰めようとしているのだろう。

 七瀬は訳がわからず、私のほうばかりながめている。

 私は鋼鉄の背中を彼女に見せ、


「君はもう説教した内容を忘れているのかね? ならばもういちど説教してやろう。私は絶対に子供には手を出さん! 殺すのはクリーチャーのみ! よく覚えておきたまえ!!」
『要約すると、化け物化したホープの細胞のみ破壊し、クルミちゃんを取り出して蘇生させました。私は無理だと進言したのですが、六道さんがそうしろと聞かないので。成功確率は1%もありませんでした』


 文曲がわかりやすく、塔で行った内容を伝えていた。

「おいおいおいおいオッサン!! やっぱり神だなあんた!!」
「ふん!!」
「ぐわっ!? 痛いし、かてぇ!! ははっ!!」

 体当たりしてきたモナカを、私はようしゃなくはじきとばしてやる。

 七瀬はぺたんと座り込んだ。

 ハンドガンが手から離れ、床の端から落ち、闇へと消えていく。

「もし君にこの世界でやったことを償いたいと言うのなら、その子を立派に育ててみたまえ。もちろん異世界転移した仲だ。私も協力してやろう」
『素直にクルミちゃんといたいって、言えばいいじゃないですか』
「言わない約束だったろうが! このポンコツAIめ!」

 塔の中でクルミを助けたとき、つい文曲にもらしたセリフを見事にバラされた。

 ガンと、パワードアーマーの頭部を殴ったら、普通に私が痛かった。

 文曲はあいかわらず、モニターの向こう側で無表情だ。

 七瀬はクルミを抱きしめ、

「うっううっ! うわああああああん!」

 唇をかみしめていたが、大泣きしていた。

 初めて感情を外に出したのだろう。

 涙で、ずっとためていたものを吐き出している。

「よちよち」

 クルミは七瀬の頭をなでていた。

 腕が短いので頭頂部には届いていないが、十分彼女には気持ちが伝わっただろう。

 モナカが肘で私を小突き、

「一緒に子育てするなら、結婚しちまえばいいじゃないか」
「うわああああああん! 10歳以上も年が離れたオッサンとは嫌ですぅ!」

 泣きながら、七瀬に拒否された。

「こちらこそごめんだ。私は性欲を捨てた身。――神と歩める者などいない」
『六道さんは本気です。血を股間にためられません。治療を推奨します』

 文曲のお節介はあいかわらずだ。

「たいしたものだ。一部始終を見せてもらった」

 サイホンがハイヒールを鳴らし、腕を組みながらやってきた。

「お前……」
「私もお前を手伝ってやろうと思ってな。敵と戦うために武器を持ってきたつもりだったが、間違えて大人のおもちゃを持ってきてしまった。――恐ろしいほどの回転だ」

 短くて太いイボイボのこん棒が、サイホンの手の中で、モーター音を響かせながら回転している。

 サイホンから目を離し、

「モナカ。私たちはまた別のゲームの世界に行く。ガンシップに乗ってここから脱出し、地球に帰ったら――あいつを病院に連れていってやってくれ」
「イエッサー」

 モナカは敬礼で返してくれた。

 サイホンは大人のおもちゃを見つめたまま、妄想全開の世界に旅立っていた。

『ゲームはクリアしました。元の世界に戻らないのですか?』
「言っただろう。私はクルミを育てる義務がある。それまでお前たちの陰謀に付き合ってやろう」
『そんなものないんですけどね。了解しました。それでは、次のゲームに移行します』

 空間に巨大な扉が開いていく。

 電子でできているのか、物理的なものはなく、中は異空間になっていた。

 クルミがとてとてと、やってきて、

「おいたん」
「生意気なことを言うなよ! 抱っこだ!」

 抱っこしてほしいのだとわかり、左肩にのせてやった。

「おねえたん。ばいばい」

 小さな手を、クルミはモナカに向かって振っていた。

 モナカは涙を両目にためながら、手を大きく振り、

「またなちびっこ! 成長したら、一緒に酒でも飲もうな! 七瀬も酒に強くなっておけよ! あとオッサン! 長生きしろよ!!」
「六道。今度会ったときは、お前の強靭なこん棒に耐えうる肉体にまで鍛え上げておいてやる」

 サイホンが別れの感動をだいなしにする。

 七瀬、クルミと、異空間に入った。

 電子の光が彗星のように、私たちが進む方向に飛んでいっている。

 さて、次のホラーゲームは何が始まるのか。

「ふふ」

 七瀬が口に手を当て小さく笑った。

「どうした?」
「クルミがおとなしいと思いませんか? その子――あなたの肩の上が大好きなんですよ」
「……ふん。そうか」

 パワードスーツでわからないだろうが、私の顔は緩くなっていたと思う。
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みんなの感想(1件)

2021.04.20 ユーザー名の登録がありません

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2021.04.20 因幡雄介

感想ありがとうございますー。
ぜひ楽しんでやってください!

解除

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