ホラーゲームに異世界転移した最強のオッサンはクリーチャーを殲滅しつつ美少女に説教す

因幡雄介

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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

裏切り者

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 邪魔が入ったが、もういちど彼女に言おう。

 何か勘違いしているだろうしな。

「サイホン、お前にとって、説教とはなんだ?」
「人に教理を説き、導くことだろう?」

 サイホンは横になったまま、メガネを証明に光らせる。

 うん。間違っていない。さすがエリート。

 だが、なぜそれが足を開くことにつながる?

 部屋が地震のように揺らいだ。

 私とサイホンは見つめ合ったまま、一歩たりとも動かない。

 サイホンはふっと笑い、

「負けたよ。そこまでたたきつけるのなら、私の体が壊れてしまう」
『今の六道さんのアレじゃないですよ。むしろ立ってません』

 文曲が真実を言う。

 私は彼女に背中を見せ、

「さっきの技は『ぴょこたん』と言う。おぼえておくがいい」
『かわいく言っても、汚いものは汚いですよ』

 さすがAI。細かいことにもツッコんでくる。

「それでは説教の続きといこうか。ベッドの上でいいから正座しなさい」
「わかった。正の体位のほうだな? 私の胸と唇をこねくりまわすがいい」

 サイホンはやっぱりあおむけに寝転がる。

 う~ん。なんだろう。どこで食いちがうんだろう。

 説教の意味もわかってる。

 素直に聞く気もある。

 だが、どこかで食いちがう。

 宇宙ステーションはあいかわらず地響き立ててるし。

 私は床に正座して、

「わかった。とりあえず、こうやって座ろうか?」
「なんだと? それでどうやって……はっ!? ――上にのれというのか?」
「いや、そうではない。背筋をのばして、姿勢を正しく、人のありがたい話を聞く体勢を取れと言ってるんだ」
「わかった。上にのって、結合しているのを見せつけたり、回転を加えたり、上から唾をたらしたりするんだな?」

 サイホンは怒りか、もしくは快楽で、拳を振るわせている。

 違う。まったく違う。何か違う。

 私は天井を見上げてしまった。

 響いて、粉がパラパラと落ちてくる。

『すべてエロ方向に持っていきます。病が進行しているので、説教は難しいかと』

 サイホンはAIに病気認定されていた。

 地響きが大きくなっていく。

 ベッドが飛び上がった。

「さっきからどれだけ興奮してるんだ! いいかげん収めないか! 私だけではなく、宇宙ステーションまで壊すつもりか!!」
「うん。今だから正直に言おう。私は奥義『ぴょこたん』を出したといったが、あれはうそだ」
「なっ……バカな……では、この地響きはいったい!?」

 サイホンはベッドから飛び上がり、制御室のほうへ向かう。

『あの人は最高指揮官ではない可能性があります。偽物を検討してください』

 AIから偽物説まで浮上させるサイホン。

 たいしたものだ。

 敵のあっぱれな態度に立ち上がり、私も制御室に入った。

「大変だ! 見ろ!」

 サイホンがコンピューターグラフィックを空間へ表示させる。

 管制棟がそびえたっていた。

 そこに、橋のようなものが棟に接続されていた。

 サイホンの顔つきが青くなっていき、

「これはお前がやったのか!」
「そうだ。仲間をこの管制棟に迎え入れるためにな」
「なんてことをしてくれたんだ! 五つのブリッジがつながっている! 全クリーチャーがここへ集まっている!」
「……何?」

 ブリッジは南西の一つだけだったはず。

 なぜ五つも起動している?

 七瀬がプログラムをミスったのか?

「さっきからの地響きは貴様の息子ではなかったのだな! はっ!? 私をだましたのか! 食えないやつだ!!」
『六道さん。あの人が最高指揮官でない確率が80%に跳ね上がりました。殲滅を推奨します』

 サイホンに向かって、文曲がクリーチャー認定してしまった。

 まあ素っぽいし、殺すのはやめておこう。

 AIの判断はこういうところが当てにならない。

「うん? 信号をキャッチした。映像を出すぞ」

 サイホンが電子キーボードを操作し、モニターを空間に表示した。

 映像に映っているのは、モナカだった。

 苦しそうに息を荒くしている。

 後ろの描写には、何か金属の塔が立っていて、電気を散らして上に向かって流れていた。

 モナカは歯を食いしばり、

『はあはあ……オッサン……やられちまった……この騒動の元凶は七瀬で……クルミを、うぐっ!?』

 後頭部を殴られたのか、ディスプレーに手をやったまま、ズリズリと崩れ落ちる。

 後ろには七瀬がいた。

 ぞっとするほどの、無表情だった。

 映像が途切れる。

「どういうことだ?」

 訳がわからず、独り言のようにつぶやいてしまう。

「七瀬? 七瀬だと……あいつか! 新人の幹部候補生の!」

 サイホンが目を見開く。

『どういうことですか? 説明していただけますか?』
「……私たちは鉱山の発掘で、星人が作り出した遺物を手に入れた。名前を『ホープ』と名付けた。それは石のように見えて、ひとつの細胞だったのだ。人間の細胞を食い、分裂し、成長することがわかったため、遺伝子操作することによって、デザイナーベビーを作り出した。赤ん坊となったそれは、人間と同じ成長速度を見せた。実験体として地球に持ち帰ることが決定し、保育所に預けたのだ」
『それがクルミちゃんなのですね』
「そうだ。七瀬はクルミを育てるという任務が与えられていた。監視ともいうがな」

 文曲が、サイホンに的確に質問していく。

『クリーチャーが生まれたのは?』
「恐らく、七瀬がクルミの細胞を取り出し、誰かに感染させたのだろう。たとえば食物とかな」
『この宇宙ステーションの倉庫エリアのコンテナには何が入ってましたか?』
「冷凍保存された魚介類だ」
『そういうことですか。七瀬さんはクルミちゃんの細胞を取り出して、その魚介類に感染させたと思われます。それであの寄生型エイリアンが増殖し、あらゆる所に移動して、人間に寄生しクリーチャー化させた。ウイルスではなかったようですね』

 サイホンから情報を聞き出し、名探偵ぶりの推理をひろうする文曲。

「しかし、七瀬は保育所で、クリーチャーに襲われていたんだぞ?」
『予想以上に感染が早く広がって、慌ててクルミちゃんを迎えにいったのでしょう。七瀬さんにとって、クルミちゃんは何かに必要な道具だと思われます』
「私に向かって、赤ちゃんを殺すなと言ったのは?」
『あなたが使える存在だと考えたからです。あの妙な塔に向かうために、同情を誘って、六道さんを利用したと思われます。七瀬さんは頭が良いので、私たちはだまされました』

 文曲の言う真実に、私は黙り込むしかなかった。

『ちなみに、クルミちゃんを育てろと、あなたが七瀬さんに命令したのですか?』
「いいや、違う。七瀬が自ら志願したのだ。私は許可を出しただけだ」
『では、面識はあったのですね。なぜ七瀬さんとクルミちゃんの顔を見て、気づかなかったのですか? なんどもモニター越しから見ていたはずですが?』
「このガリバーの指揮官を任せられたとき、たくましい戦艦出身の男たちから反乱を起こされて、いやらしいことされるんじゃないかとワクワクしていたからだ!! はげしい妄想によって、七瀬のことはおろか、ホープのことさえ忘れていた!!」
『あなたは病院に行ったほうがいいです』
「やはり……!!」

 文曲に指摘されて、病気を自覚するサイホン。

 そんなことはどうでもいい。

 私のこの煮えたぎる怒りを、言葉に変えて発散させねばならない。

『七瀬さんの所に行くのですか? 説教をしに』
「もちろんだ――説教3時間コースをプレゼントしてやろう」

 私は廊下に出る扉に向かった。
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