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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

健康診断に行ったら糖尿病予備軍でした

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 そのエリアでは部屋をガラスの大きな窓で囲っていて、植物を観察していたようだ。

 巨大な木があらゆる所に根を張っている。

 手のように、窓に張りついているやつもいた。

 枝に何かくっつけている。

 クリーチャー化した人間だ。

「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ!」

 枝が頭部を持ち上げ、クリーチャーに何かを吐き出させている。

『生き物の肺機能を利用して、毒素を吐き出していますね。空気が汚染されている原因はこれのようです』

 化け物が化け物に寄生しているようだ。

 数十体のクリーチャーが木に捕まっていた。

 破れた白衣を着ているところからして、ここの元職員だろう。

「悪いが燃やさせてもらう。文曲」
『火炎放射器モード発動します』

 両腕からノズルがあらわれ、化け物の木を焼き尽くした。

 植物なので叫び声すら上げず、ただ墨になっていく。

 しかしこの数のクリーチャーを、どうやってここまで連れてきたんだ?

 植物が捕まえたように見えるが、ここにきても襲ってこなかったし、基本は生物が罠にかかるのを待つタイプだ。

 つまり、誰かがクリーチャーを寄生させてやらないと、あんな枝にぶら下がることなんてできない。

 奇妙な感覚に捕らわれていると、金属音が床に響いた。

 気になったので、火炎放射をやめ、手に持ってみると、それは鎧のカケラみたいだった。

『ナンバー957648。AI名は和曲。元パワードスーツを着た人間のようですね』

 文曲が鎧の主を分析した。

「なるほど。木を倒すつもりが、逆に寄生されてしまい、ゲームオーバーになったわけか」
『逆もありますね。クリーチャーをここに連れてきて、木に寄生させているさいちゅうに、事故で逆に寄生されてしまった、というのも考えられます』
「どのみちもういない人間だな。うん?」

 持ち主のいない装甲のかけらに、花のような図が描かれている。

 カーネーション?

 なんとなくそう思った。

『六道さん。毒素の元はたちました。早くコントロールセンターで空調を起動させないと』
「おっと」

 鎧のかけらを床に置き、コントロールセンターに走った。

 文曲のハッキング能力のおかげで、空調はすぐに起動できた。

 毒素が外に排出されたので、七瀬たちは無事だろう。

 壊した壁を抜けていき、速足で戻っていく。

「文曲。七瀬たちはどこにいる?」
『このポイントから動いていません』
「生きてるよな?」
『10分は目安です。生存を保障しているわけではありません』

 少し気持ちが悪くなる。

 おいおい。大丈夫だよな?

 表示された電子地図に赤い丸が三つある。動いている様子はない。

 空調を起動させるまで5分しか、かからなかったはずだ。

 いや、大丈夫だ。私はきちんと仕事をした。

 七瀬たちがいるポイントに到着。

 自動ドアの前で息を吸い、吐いたあと、開閉ボタンを押した。

「おう。オッサン。壁壊してどこに行ってたんだよ?」

 長ベンチに座ったモナカが、紙コップを持ち上げて言った。

 中から湯気が出ている。

「すみません。なんだか調子が悪くなっちゃって。モナカさんがコーヒーを入れてくれました」

 七瀬がフーフーしながら、紙コップに入っているコーヒーを飲む。

 ここは従業員の休憩室のようだ。

 自動販売機が並んでいる。

 私は立ち止まり、

「……クルミは?」
「ここにいますよ」

 七瀬が言うと、ひょこっととなりから顔を出した。

 前よりも、血色が良くなっている。

 安心してしまい、全身から力が抜けていった。

 モナカが立ち上がり、

「あんたも飲むかい? 私がおごってやるよ。まっ、お金を回収するやつはいないと思うけど」
「ふむ。ならば無糖のブラックコーヒーをもらおう」
「渋いねぇ」

 紙コップの中で黒い液体が充満し、モナカが手渡ししてくれた。

 現実世界のコーヒーの香りで、パワードスーツが包まれる。

「文曲」
『了解しました』

 スーツの額がパカッと開き、私はそこにコーヒーを流し込んだ。

「口じゃないんだ……」

 七瀬はいいところにツッコんだ。私もそう思う。

 額から流し込んだコーヒーは、私の口の中に入り、深い苦みを味あわせてくれた。

 高揚していた精神が落ち着いてくる。

 クルミが私の座っている長ベンチに立ち、

「おいたん。オレンジジューちゅ飲む?」
「ほほう。私を糖尿病で殺すつもりなのかね? いい度胸だ! ちょっとだけ入れなさい!」

 左胸がパカッと開く。

 実際問題、健康診断に行くと、血糖値が高くなってしまっていた。

 医者から糖尿病予備軍と恐れられるほどだ。

「よいちょ。ちゅこしね」

 そこにクルミはジュースをちょっとだけ入れた。

「そっから飲めるんだ……」

 七瀬はあぜんとするばかりだった。

 うむ。甘い!

 あとで文曲に、糖分は分離しておいてくれと頼もう。

「これはあたしからのプレゼントだよ!」

 モナカがパワードスーツの胸の穴から、ドバドバと酒を入れる。

「この私を酔わしていやらしいことをするつもりか! だが無駄だ! 文曲によって、アルコールは分解されるからな!」
「前に聞いたよそれは。おもしろみがないねぇ。文曲。アルコールをそのまま届けることはできないのかい?」

 よけいなことを言うモナカ。

『できます。やりましょうか?』
「いや、それはやめろ! 死んでしまうだろうが!」

 おちゃめな文曲に、必死に抵抗する私だった。

 クルミがジュースがなくなった紙コップを差し出し、

「おねえたん。クルミ、それ飲みたい」
「その年でいけるのかい? いいね。飲みな」

 幼女にえんりょなく酒をつぐモナカ。

「やめなさい」

 七瀬はさっと、クルミから紙コップを取り上げ、ごみ箱に捨てた。

「冗談だよ」七瀬に怒られそうなので、モナカは両手を上げていた。

 クルミはものほしそうに、指を口にくわえていた。

 休憩が終わり、先に進むことになった。

 ここから鉱山エリアに行って、管制棟に入り込むことができるようだ。

「らったったぁ~。らったったぁ~」

 クルミは、七瀬と手をつないでスキップしている。

 知らない大人たちに囲まれて、緊張で黙っていたが、人間関係に慣れてきたのだろう。

 スキップするたびに、白いワンピースがふわりと浮かび上がった。

『熱源反応感知。敵、近づいてきています』

 文曲が敵を発見。

 手をパンッとたたき、

「ちょうど暇してたところだ。君たちは下がっていたまえ」
「了解。頼むぜオッサン」

 モナカが七瀬とクルミを後ろに引きさがさせる。

 さて、どこから来る?

 パワードスーツをかまえて、廊下の先を見据える。

「何匹いるんだ?」
『7匹います』
「そうか。まだこちらには気づいていないようだな」
『いえ。気づいています。すでに六道さんの前にいます』

 文曲がそう言うが、廊下には配管やハンドル、金属製の壁しか見えない。

「いないぞ?」
『透明化しています。敵との距離1メートル』

 肝心な情報を最初に伝えない文曲だった。
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