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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

ゲロを吐きたいのならトイレに行け

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 マンションの十階あたりの高さだろうか。

 床に落ちると、鉄がきしむ。

 熱さがすさまじいが、パワードスーツ内は冷却されているのか、逆にすずしかった。

「やっ! 変なとこさわらないで!」

 左腕で抱えていた七瀬が嫌がって、スーツを押しのけ、私から離れる。

 真ん中にしていたクルミを、代わりに左腕でかかえ

「失礼な。まずはお礼ではないのかね?」
「ありがとうございました!」

 七瀬は怒りながら出入り口の扉に向かう。

 変なところはさわってないと思うのだが。

『胸がっしりもんでましたね』

 文曲が怒っている理由を教えてくれる。

 うん? 感触はなかったぞ?

 パワードスーツの厚い装甲が憎らしい。

「あたいも離してくれないかい?」

 右腕に抱きかかえたモナカが、バトルスーツの耳の部分に息をふきかける。

「おっと。これは失礼」
「やれやれ。助かったよ。オッサン」

 モナカは手を振ると、七瀬の後ろについていった。

 ふたりは自動扉の前で何かをやっている。

 ハッキングして開けようとしているようだ。

 私の力を使えば、ぶち破れると思うのだが、クリーチャーが音で集まってくるからさけているのだろう。

 左腕で持ち上げているクルミが、

「おいたん。さっきのもう1回やって」
「うん? 高い高いをやってほしいのか? 生意気な。私より上に立とうというのか! ほらっ!」

 両手で幼女を抱えて、天高く持ち上げてやる。

「ふあああああああああっ」

 クルミは両手を広げて、私に身を任せている。

 私は壁から壁まで走っていき、幼女が楽しめるようにしてやった。

 パワードスーツがなかったら、確実に腰痛がきていたが、今は紙のように軽い。

「はっはっはっはっ!! どうだ!! 私より上に立った気分は!!」
「ふあああああああああっ」

 クルミはボキャブラリーが少ないので、気持ちいいのか悪いのかわからないが、とりあえず良さそうだ。

「お~い。オッサン。あんまりはしゃぎすぎるなよ……おいっ!!」

 七瀬のそばで扉の制御プログラムを見ていた、モナカが上を指して声を上げる。

「なんだ?」

 クルミを持ち上げたまま、上を向くと、巨大な黒い影が降ってきた。

 地響きを鳴らして床に落ちると、赤い液体が周りに噴出される。

 溶けた鉄が床全面に流れ始め、赤黒いものが混ざり合っている。

「オエエエエエエエエエッ!!」

 奇声を上げながら、溶けかけたデッド・トレインがここまで追いかけてきた。

 素早くクルミを持ち直し、

「死にかけているのか?」
『違いますね。1000度の高温な液体を吸収して、逆にパワーアップしてます』

 文曲が分析結果を言い渡す。

「ならば、再びあの世に送ってくれる……」

 言葉を失った。

 デッド・トレインは車両にためていた高温液体を、私に向かって吐きつけてきた。

 しまった。クルミが。

 私はたぶん死なないだろうが、クルミは生身だから即死する。

 モナカと七瀬が大声で何か叫んでいる。

 聞き取れないぐらいよゆうがなかった。

 マグマの海が私の体をおおい、埋め尽くす。


「オエエエエエッ!! オエエエエエッ!!」


 デッド・トレインは、ようしゃなく私に向かってマグマをふきつける。

 どうしてもここで塵としたいようだ。

 だが甘かった。

 この程度の高温では、私のパワードスーツの敵ではない。

『冷凍機起動。リミット解除。圧縮機ベーン開度100%。マイナス200度達成』

 文曲がスピーカーから状況を教えてくれる。

 私は左腕でクルミを抱え、右手でマグマの海を氷結させていた。

 固まって黒い鉄と化した熱い液体を粉々に砕き、

「――塵として消し飛ばしてくれる」
『絶対零度発動します』

 文曲が技名を言うと同時に、ブースターで飛び上がり、デッド・トレインの車体に2本の指を差し込み、二つに割ってやった。

 絶対零度の力により叫ぶ口すら凍った敵は、粉々に粉砕されていく。

 残ったのは細かな敵の残骸だけだった。

 パラパラと石ころが転がっていく。

「次吐きたくなったら、トイレに行きたまえ」
『他人の迷惑になりますからね』

 一言い添える文曲だった。

「そのスーツ――本当に何でできてるの?」

 七瀬が私のそばまで近寄り、厳しい表情をしている。

 クルミが私のアゴ下のそばで、目をパチパチさせた。

「私の――ほとばしる愛だ」

 まっすぐ彼女を見て答えてやった。

 七瀬はすぐに後ろを向く。

 背中で結んだ、エプロンのリボンが震えていた。

「ふっ。感動のあまり泣いているのかね?」
『笑ってるんですよ。六道さんの冗談は七瀬さんのツボですね』

 文曲の言うことを信じる私ではなかった。
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