ホラーゲームに異世界転移した最強のオッサンはクリーチャーを殲滅しつつ美少女に説教す

因幡雄介

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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

パワードスーツで料理しよう

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 再び地響きが続く。

 一瞬ショッピングセンター二階の照明が隠れ、影が差した。

 見上げると、つり下げ式の照明器具の配線がむき出され、電気がもれている。

『時速を計算中。時速500キロ以上』

 文曲が敵の速度の計算結果を出した。

 おい。それ新幹線より速いだろ!

『本来は次のステージで待ちかまえているのですが、さっきの銃撃戦で出てきたようです』
「どんな特徴があるんだ?」
『空間転移しています。いわゆるワープですね。ショッピングセンターのテナントとテナントの間をすばやく動き回っているようです』

 地震が足元を揺らす。

 敵が近づいている証拠か。

 大きくなったと思ったら、足のふらつきがおさえられるほどに収まる。

「マジかよ? いつ後ろなんて通ったんだ?」

 モナカが首を後ろに曲げてあぜんとした。

 床が削られ、山ができている。

 気配を感じる前に化け物の道を作られた。

『敵は目が見えていません。通りすぎたものをかたっぱしから食べています。体内に空間転移能力があるようなので、おなかがいっぱいになることはないでしょう』
「ふびんな敵だな。わかった」

 私はパワードスーツでおおった肩をゴキリと鳴らし、幅の広い通路を歩いていく。

 七瀬がクルミを抱いたまま、不安そうな顔をし、

「六道さん……」
「おい! どうするつもりなんだい!?」

 モナカが声を張って言う。

「もちろん化け物を退治す……」

 突然モニターから光が消失した。

 マネキンが倒れたと思ったら、巨大なイモムシ型のクリーチャーが襲いかかってきて、食われた。

 目や鼻がなく、円形となった口に牙が並んでいるだけの、単純な構造だ。

 体毛がうねうね動いていて気持ち悪い。

 壁際まで強力な力で押し切られる。

「六道さん!」

 七瀬が首を食われた私に向かって名前を呼ぶ。

 化け物は飛び出たまま、テナントに戻れなくなっていた。

 その理由は簡単。

 首にかみついたマンイーターの体を、両手でガッチリ押さえこんでいるからだ。

 巨大な口なので、飲み込もうとしているのだろうが、頭だけ転移してしまった。

「私とはげしいダンスを踊りたいようだね?」

 怪物の体を両手でつかむ、抵抗しているが、ようしゃなく持ち上げた。


「さあ、踊ろうか!!」


 長い体を持ち上げたまま、テナントのガラスや、壁、二階の渡り廊下をぶち破って壁際まで追いつめていく。

 マンイーターの長い胴体が天井にまでこすりあげ、がれきをまき散らしていった。

 巨大な怪物でさえ、このパワードスーツの前では赤ちゃんのように軽い。

 抱えたまま、ショッピングセンターの端まで追い詰めて、金属製の壁にたたきつけた。

「ウギャアアアアアアアアアアア!!」

 マンイーターは奇怪な声をあげて、緑の液体を壁全体に散らし、手から離すとズルズルと壁から落ちて即死。

 巨大イモムシの死体ががれきの山に転がった。

 全身から白い霧のようなものが噴出した。

 浴びた怪物の血を、パワードスーツの文曲が洗浄しているようだ。

 私は転がった怪物の死体を見下ろし、

「次からは糖質を制限している食べ物に換えたまえ」
『みなさん。安心してください。六道さんは無傷です』

 あんぐりと口を開けているモナカたちに向かって、文曲が言う。

 私のセリフにわざとかぶるように言っている気がしてならない。

 ガラスや壁の山となった残骸を乗り越えて、私は仲間たちの元へと帰っていく。

「……あははは」

 七瀬が笑った。

 前までは顔の表情が石造みたいに固かったのに。

 彼女の変化に、モナカはぎょっとし、クルミは人さし指を口にくわえて見上げていた。

 七瀬は指で涙をふきとり、

「本当に。あなたはでたらめな強さですね。38歳とは思えません」
『パワードスーツのおかげですよ。私のほうが感謝してもらいたいです』

 文曲のチクリとした嫌み。

「はい。文曲さんもすごいです。それで、敵はまだいますか?」
『熱源反応なし。敵、殲滅完了』
「よかった」

 七瀬は文曲から敵がいないことを確認し、背の低いクルミに目線を合わせるため、膝を曲げた。

「平気?」
「おなかちゅいたー」
「おなかすいたんだ? ご飯食べようか? 六道さん、モナカさん。ショッピングセンターから水と食料を調達しましょう」

 クルミと手をつなぎ、ショッピングセンターの食料品売り場に向かう七瀬。

 モナカが私に近寄り、

「おい。あいつ、あんな性格なのか? 心強いじゃないか」
「悪いが、彼女とはまだ出会ったばかりだ。私は何も知らん」
「そっか。まっ、泣き出すやつよりかはマシだね。おーい! 私も腹減ったから飯食うよ!」

 銃を振って、七瀬のあとを追い始めた。

 食料品売り場では、七瀬はクルミのためなのか、野菜や果物をカゴに入れている。

 穀物もあるようで、沸騰して食べる袋タイプを選んでいた。

 水のペットボトルはもちろん必須。

 逆に、モナカは赤ワインや真空パックのおつまみ、肉ばかりカゴに入れている。

 なんでそんなものばかりチョイスするのか聞いてみると、このガリバーという宇宙船内でも、階級というのが存在するらしく、こういったいい肉や酒は庶民では食べられないようだ。

 当然食料だけでなく、新しい銃を盗んだり、弾を取ったりしていた。

 非常時であるためしかたがないだろう。

 買い物を終えたのか、七瀬とクルミが私に近づき、

「六道さん。そのスーツで火をおこせますか? ガスは使えないし、電気タイプのコンロは故障してるんです」

 むちゃなことを言ってくる。

「おいおい。むちゃなことを言わないでくれたまえ。いくら私が神だとしても、このスーツで火などとは……」
『できますよ。六道さん。寝てください』

 できないと思っていたけど、文曲がそういうので、しぶしぶあおむけに寝てみる。

 おなか部分でスーツの装甲が変化し、黒いホットプレートがあらわれた。

『この黒い部分でお肉も焼けます』

 説明する文曲。

 なんという便利な機能なのだ。

 ひとり焼き肉を楽しむことができる。

「スープも作れますか?」
『可能です』
「助かります」

 七瀬は私に向かって不敵な笑みを浮かべる。

 まずいぞ。私を調理器具扱いするつもりだな。

「いいだろう。きなさい。私のおなかで、肉を焼くがいい!」

 運命を受け入れた。

 七瀬は少し考え、

「うつぶせになってください。背中で調理します」
「なぜだ!? 私のおなかの何が悪いというのだ!?」
「カメラ目線がこっちを向くのが不気味なので」
「いいだろう。貴様の言うとおりにしてやる!」

 私は妥協して、うつぶせで寝ることにし、背中で調理されるのを受け入れた。
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