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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

目的地について語ろう

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 七瀬たちは電気の波の中にいても、電気を通さない絶縁マットが防いでくれていた。

 七瀬に抱っこされたクルミは、人さし指をちゅぱちゅぱ吸っている。

 モナカが目をパチパチさせ、

「すげぇ……あっさりとやりやがった。お前、何者なんだよ?」

 右腕を発射チューブから元に戻し、

「私か? 私は――神だ」
『ということを普段から言ってる。中二病全開のオッサンです』

 文曲。お前が女じゃなかったら、死んでたな。

「いやいや。今の状況は、変なオッサンでも力を借りたいぐらいだ。ぜひ手を貸してくれ」
「いいだろう。その前に、正座してもらおうか?」
「はっ? なんで?」
「――説教の時間だからだ」

 モナカに向かって、ヘルメットのモニター部分から出る光を強くしてやった。

 私の怒りをつたえなければならない。

 ぽかんとしている彼女に向かって、

「すいません。正座してくれませんか? この人、説教すれば気がすむので」

 七瀬が忠告している。

 自分も多少非があると思ったのだろう。

 モナカはマットの上で、黙って正座した。

 私は両手の指を鳴らし、

「さて、2時間ぐらいで済ますか」
「20分にしてください。クリーチャーがいつ襲ってくるかわからないので」
「貴様、私に指図するつもりか!! では20分といこうか」

 七瀬が文句を言ってくるので、しかたなく短縮した。

『言うこと聞くんですね』

 文曲がチクリと刺してきた。

 私はモナカにいきなり人に武器を撃ってはいけないと、早口で説教を始めた。

 第1次世界大戦は武器により人の殺傷が勃発だったと、わかりやすく教え込んだ。

 そして胸の大きい女性はふくよかな性格ゆえに、変な男にだまされやすいと、ネット知識をひろうした。

 七瀬はクルミにクリーチャーの焼け焦げた死体を見せて、「これは食べてはだめよ」と教育していた。

 予定より30分ほど延長し、説教を終える。

「ぐおおおおっ……」

 モナカはあまりにも説教がすばらしかったためか、両腕をマットにつけてプルプルしていた。

 表情はぽかんとしていたが、ありがたさに打ち震えたか。

「また人を救ってしまったな」
『むしろ殺しにかかってますね』

 文曲が訳のわからんことを言い始める。

 七瀬がクルミを抱いてきて、

「やっと終わったんですね。はい。クルミを預かってください」
「いいだろう。おいたんが抱っこしてくれる!」

 幼女を持つ。

 クルミは私に抱きつくと、パワードスーツの固い装甲をペタペタしていた。

 指紋が気になるが、あとで洗浄しておけばいいだろう。

 七瀬はモナカに近寄り、

「立てますか?」
「なんとかな……あんたすごいね。いつもあんなことやられているのかい?」
「六道さんとは出会ったばかりですよ。説教はされましたけど。1時間ほど」
「よく耐えられたね」
「そんなことより、あなたはこの船の兵士ですよね? 何が起こったのか教えてください」
「あんたはその格好から保育士だね。悪いけど、私は正規の軍隊じゃなく、雇われた傭兵なんでね。くわしくは知らないんだよ」
「そうですか……」

 七瀬は顔を伏せて言葉を終わらせた。

 モナカは彼女を見ていたが、しびれた足を立ち上がらせる。

「居住者は全滅してる。私の部隊も化け物のせいで壊滅だ。殲滅命令が出てたけど、こりゃ脱出したほうがいいね」
「賛成です。状況は悪化していると思います。脱出方法は知ってますか?」
「もちろん。他人の船に乗ったら、まずはそこが大事だからね。この先にコンベアーポッドがあるから、それに乗って、脱出船のガンシップを使えば脱出可能だ。ただ……」
「道のりは危険ですね」

 七瀬とモナカの顔つきが曇る。

 クルミを持ち上げつつ、

「遠いのか?」
「ショッピングモールと教会を通ります。ここは倉庫エリアですね」

 七瀬がすらすら答える。

 巨大な宇宙船であることがわかる。

 まあ、早くクリアさせないために、道は遠く設定されているのはゲームの常識か。

「うむ。わかった。それでは早く向かおう」
「簡単に言うな。でもまっ、お前がいればなんとかなるかもな」

 モナカが苦笑した。

「なんとかなる? それは違うな。神をさえぎる者など皆無」

 指で丸い輪を作り、彼女たちの間を通りすぎていく。

「あっ、クルミちゃんを預かりますね」

 七瀬が私からクルミを受け取った。

 ショッピングモールに行く途中、通路に異常な数の敵があらわれた。

 両手刃物の大人タイプ、牙が発達した子供タイプ、太い両足で走って体当たりしてくるのは老人タイプか。

 刃物タイプの化け物は、両腕をひきちぎって、腹に蹴りを入れ、内臓を突き破る。

 牙タイプは踏みつぶしていった。

 体当たりタイプは近づいてきたじてんで、顔を裏拳でしばく。

 銃で応戦していたモナカだったが、私が強すぎてしまったせいか、銃声が少なくなっていった。

「いや~らくちんらくちん。あんたのおかげで楽させてもらってるよ」
「それはよかったな」

 怪物の頭を拳で砕き、モナカに言ってやる。

『洗浄が大変ですね』

 文曲が怪物の体液まみれのパワードスーツを自動洗浄していた。

 スチームのような白い蒸気が出て、怪物たちの体液をふき取っていく。

 ぜひウチの家庭にほしい商品だ。

「六道さん。聞いていいですか?」

 クルミと手をつないで歩いている七瀬がしゃべり始めた。

「なんだね?」
「素朴な疑問なんですけど。あなたはどこからきたんですか?」

 いまさらそんな質問をし始める七瀬。

「おー。そうだよ。よゆうがなかったんで聞いてなかったね。そんな高性能なパワードスーツ見たことないよ」

 モナカも同調してきた。

「私か? 私は神の国から召喚されて……」
『ごみ屋敷に近い自宅から私がこの世界に召喚させました。異世界からきたということですね』

 しゃしゃり出る文曲に言いたいことを言わせてもらえない。

「異世界から……ですか」

 七瀬が間をもたせて言う。

「あー、もしかしてあんた、『カーネーション』の信者かい?」
「なんだそれは? 私は無宗教だが?」
「『カーネーション』はこの宇宙船で信仰されている生まれ変わりのことさね。あたしもくわしくは知らないんだけどさ。確か、相手を殺して神へと昇天させる、危険な思想を持ってるって聞いたね」
「よく船に乗せてもらえたな」
「船というか、ここは宇宙ステーションだからね。宗教は人の生きる骨幹となるし、宗教家も必要ってわけだね。ちなみに、私もあんたと同じ無宗教だよ。信じるのはこの銃だけだからね」

 モナカは銃を持ち上げて白い歯を見せた。

 それには同感だ。

 神は祈る者を救いはしない。

『おかしいですね?』
「どうした?」
『そんな宗教はこのゲームの設定にないはずです』

 文曲はそう言って、何もしゃべらなくなった。

 ゲームをプレイする前に転移させられたので、私はそんな設定は当然知らない。

 七瀬は黙り込んでしまい、そのあとしゃべらなくなった。

 順調に道を進み、ショッピングセンターエリアに到着した。
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