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ホラーゲーム『デス・スペースシップ』

ホラーゲームの中に異世界転移

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 私の名前は六道久。



 年齢は今年で38歳になったばかりだ。



 この年になっても、ホラーゲームがやめられず、動画サイトに投稿までし始めたダメ人間である。



 チャンネル登録数は55人。



 みんなバーチャルなんとかってのに、行ってしまい、オッサン動画には見向きもしない。



 私もかわいいバーチャルになってやろうかと思ったが、どうせ長く続かないだろうと思いやめてしまった。



 今日も誰が見てんだか、どうなんだかわからない動画を上げるため、録画をしつつゲームをプレイ。



 ゲーム内からいきなり警報装置が発動した。



 新作ゲーム『デス・スペースシップ』をプレイしようとした矢先にだ。



 うるせぇな、と視力の悪くなった目を手でこする。



 ゴリッと、金属がこすれる。



「うん?」



 手が目に当たらない。



 固い何かで守られている。



 なっなんじゃいな?



 メガネがなくなっていて、光景が映像のようにノイズが走り、そしてクリアになった。



 自宅にいたはずなのに、金属の壁に囲まれていた。



 照明が壁に取りつけられていて、周りを照らすが、銀色の世界が広がっている。



 窓から見えるのは星か?



 柔らかい世界がなくなって、金属だらけの世界に変わっていた。



『六道さん。こんにちは』

「えっ? どなた?」



 耳に直接音声が聞こえる。



 携帯の音声のようで、スマホを耳に当ててるのかと思った。



 主は若い女性のようだが、たびたびロボットみたいな響きがある。



 某ボーカル音源みたいだ。



『私の名前は文曲です』

「えっ? えっ? チンギス・ハンが作った帝国?」

『それはモンゴルです。モンゴク。文曲と書いてモンゴクと言います』



 なんてかわいくない名前なんだ。



 まだ若いのに。



 名前をつけた親はよっぽどバカなんだろうな。



 学生時代は苦労したに違いない。



「で? 私になんか用か?」

『はい。38歳にもなって、結婚もせず、会社は単純労働で生産性のない仕事をしているあなたが選ばれました』

「まって。言いすぎ。びっくりするから」



 若い子に人生を全力で否定されて、泣きそうになってくる。



 何かが叫ぶ声が聞こえた。



 金属製の床を響かせて、女性がふたり逃げている。



 ひとりは金髪のロングの髪型で、宇宙服みたいな、ぴっちりスーツを着ていた。



 もうひとりは黒髪のポニーテールの子で、この子もぴっちりスーツだ。



 何かのコスプレかな?



 ながめていると、ロングの金髪の子が私に気づいた。



 何かを投げつける。



 それは大きな音を立てて、私の前に転がった。



 拾ってみると、金属の塊で、いわゆるゴミだった。



「あっ、すいません。落としましたよ……」



 拾って、渡してあげようと思ったら、女の子たちは別の部屋に行ってしまった。



 自動ドアみたいなものが閉められる。



 ふたりは血走った目で私を見ている。



 おいおい。大丈夫か?



 狂気じみていたので、ちょっと引く。



 女の子たちにおいて行かれたので、ぽつんと、その場に立ち尽くした。



 鼻を動かしてみると、変な異臭みたいなものが入ってくる。



 そういえば、私は何か着てるな?



 胸をたたいてみると、クワンクワンと、反響してくる。



 何か固いスーツみたいなもので、全身をおおっているようだ。



 手を動かすと、ギリリッと、何かがきしむ音が響く。



 視界はゲーム映像のように、拡大したり、縮小したりと、自由に動かせる。



 望遠鏡を両目につけているみたいだ。



 体を動かしてみると、床がドシンと重さで鳴った。



 よろいみたいに、固くて、重い。



 不思議と重力は感じず、運動不足のせいで筋肉がなかったのに、軽い。



『あなたが着ているのはパワードスーツです』

「キュウイフルーツ? なんて酸っぱそうな名前なんだ」

『パワードスーツですよ。ボケきてますよ? まだまだ働ける年齢でしょ?』

「うっうるさいな! わざと間違えたんだよ!」



 と、照れて言ったものの、マジで間違えてしまった。



 夜遅くまでゲームやってる影響か。



 そろそろ通販で、サプリメント買わないとだめだな。



『そのスーツはあなたの身体能力を百倍以上に高めてくれます』

「はあ? そうっすか? で。私の身体能力高めてどうするんだ?」

『クリーチャーと戦うんですよ』

「はいっ? ティー……」

『ティーチャーじゃないですよ。クリーチャー。化け物です』



 先に間違いを訂正されてしまい、恥ずかしくなる私。



「クリーチャーって……今の時代。クリーチャーは人間だぞ?」

『何言ってるんですか? それより、戦闘モードに入ってください』

「なんで?」

『さっきの女の子たち。あなたを化け物の餌にしました。さっきの物音で、クリーチャーたちがここにやってきます』

「はいっ?」



 首をかしげた瞬間、すごい叫び声が聞こえた。



 大きな足音を響かせて、照明がチラつく向こう側から、黒い影がいきおいよくやってくる。



 両手が剣となり、身体が溶けているような、異様な化け物がやってきた。



 パワースーツの映像から距離が表示され、あと10メートルと言っている。



 えっ? 待って? 私を犠牲にして逃げるつもりだったの?



 見知らぬ女の子から生贄にされた。



 あの剣で斬られたら、痛いというよりかは、確実に死ぬ。



 私の38年間、童貞で、どうにもならなかった人生が、ここで終わる。



『早く戦闘モードに移行してください。敵接近中。危険領域です』



 文曲があきらめ声で言ってくる。



 両目の赤いクリーチャーが、腕の剣を振り上げて、私の首めがけて振り下ろしてきた。



 あれで首を落とされたら、確実に、死。



 私の中で何かがキレ、パワードスーツに青い電気が走りだした。



「ふん!」



 敵の頭をぶん殴ってやった。



 クリーチャーの頭がふき飛び、緑の血が噴水のように、首元から上がっていく。



 よろよろと、数歩歩くと、化け物は床に倒れた。

 私の怒りはおさまらず、



「あの小娘どもが……説教してやる!」



 ホラーゲームの中に異世界転移した私は、クリーチャーを殲滅しつつ、ゲームのキャラクターに文句を言うことに決めた。
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