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最終章 崩壊都市

ツバメの作戦

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 マリアにボコボコにされたツバメが、とぼとぼとカンタロウとアゲハの所に戻ってきた。


 マリアはすっきりとした表情で、ニコニコ笑いながら帰ってきている。


 ツバメはしょぼたれて、



「……まっ、そういうわけで、カンタロウっちの調子も治ったようだし。マリアの妹、シオンとその他信者を奪還すべく、作戦に入ろうかね」



 声に高揚がない。

 アゲハといいことができなかったうえに、マリアに怒られたのだからテンションも落ち込んでいる。

「で、どうするの? この森の中には、ゴーストエコーズがたくさんいるんだよね? やっぱ強行突破しかないの?」

 鎧を再び装着した、アゲハが前にでてきた。

「落ち着きな。あたしの情報だと、研究所には吸収式神脈装置が設置されてるみたいだからね」

 ツバメの言うことが本当だと、結界を張ることが可能となる。

 レベルによるが、最低でも神獣対策にはなるだろう。

「ほんとなの? それ?」

 アゲハは疑いの視線を、ツバメにむける。



「証拠を見せてやろうか? えっと……あっ、これこれ。吸収式神脈装置の魔導管発見器ぃ~」



 ツバメは妙なテンションで、発見器を持ち上げた。



「……ただの針金だな」

 カンタロウが一言。

「うん、ただの針金だ」

 つづいてアゲハが一言。

「針金ですね」

 マリアが最後の一言。



 二本ある発見器はどう見ても、針金を曲げただけの物だった。

「何言ってんだいお前達。これはあたしが開発した最新の機器さね。これを両手に持っていれば、神脈を結界魔力に変えて、魔法円に送っている導管を発見できるというすごい代物さ」

 ツバメは短い方の針金を両手に持ち、前に二つの針金の先端を突きだすと、地面を歩きだす。

「それ、ダウジングじゃね?」

 アゲハの言うダウジングとは、振り子や棒などで地下鉱脈を探す手法だ。

 鉱脈があれば、針金が反応すると言われている。

「あたしの実力を見せてやるよ。ついてきな!」

 アゲハの言葉を無視して、ツバメはふらふらと歩き続ける。

 残された三人は、仕方がないので、その後ろをついていった。


「うんうん。来てる。来てるよ。近づいて来てるよ。父さん!」


 ツバメは何かを感じるのか、口から唾を飛ばして叫んだ。

 手にある針金は、微妙だが動いている。

「誰なんだ、父さんて?」

 カンタロウが気になって言ってみたが、ツバメは何かに取り憑かれたように、聞く耳を立てていない。




「ああっ……来てる。来る。来る。来る来る来る来る来る来る! いっ、いくうぅぅぅぅぅ!」




 ツバメは天にむかって、絶叫した。

 手に持っていた二本の針金が、大きく外側に開いた。

 ツバメの腕が微弱に、震えている。

 ツバメの姿を見たマリアは、少し怖くなったのか、カンタロウの後ろにさっと隠れた。


「ふう、いっちゃった。この土の下に、魔導管があるね」


 仕事を終え、ツバメは額を拭った。



「…………」

「…………」



 カンタロウとアゲハは、呆然として何も言えなかった。

「みんな、あたしの力に驚いて声もでないようだね。こんなこと、朝飯前さ」

「いや、お前の雄叫びにびっくりだよ。ドン引きだよ」

 自慢気に語るツバメにむかって、アゲハは正直な気持ちを打ち明けた。

「そこに神脈を流す魔導管があるのか?」

「あるよ」

 カンタロウにむかって、自信を持ってうなずくツバメ。

「本当ですか? ツバメさん?」

「なんだいマリアまで。純粋なあたしが嘘なんてついたことないだろ?」

「もうすでに、嘘ついてるじゃないですか」

 マリアはカンタロウの背中から、疑わしい目線をツバメに送っている。

「魔法で地面吹っ飛ばして、本当かどうか、確かめればいいじゃん」

 アゲハがグルングルンと腕を回す。

 右目下の頬に、テファの神文字があらわれた。

 赤眼化し、神魔法を発動させるつもりなのだ。


「ちょっ! 何言ってんだい! そんなことしたら、魔導管まで傷つくだろ!」


「大丈夫だよ。魔帝国製の魔導管は、耐魔法、耐食性はもちろんのこと。ダイヤより固いって聞くし」

 ツバメの心配を無視するアゲハ。

 神脈を流す魔導管は、ほとんどが魔帝国製のものだ。

 吸収式神脈装置は賢帝国製だが、神脈を流せるほどの耐久性を持つ配管は開発できなかったので、魔帝国に頼っていた。

 そのおかげで、魔帝国もかなりの利益を上げていた。


「駄目駄目! もしもってこともあるから絶対駄目! 魔導管が破損しちまったら、作戦がパープリンだよ!」


 ツバメは両手を大きく振って、反対した。

 アゲハは口を尖らせ、赤眼化を解除する。

「お前、言葉間違えてるぞ。パープリンてなんだ?」

 カンタロウが言葉を訂正しようとしたが、ツバメは聞いておらず、声を荒立てた。

「あたしのことが信用できないのかい? 悲しいよ。あたしゃ。お前達のことを、家族のように接してきたのに……」

 ツバメは目に指をやり、泣いている素振りをする。


「お前、その家族全員に何をしようとしたのか、覚えていないのか?」


 カンタロウが言ったとおり、ツバメには前科があった。

 カンタロウに剣を持って、襲いかかった暴行事件。マリアとアゲハの胸を揉んだ猥褻行為。アゲハに性的行為を行おうとしたセクハラ事件。

 ツバメはグサリと見えない矢が頭に刺さり、

「あんなの、ただのコミュニケーションじゃないか!」

「いや、どこがコミュニケーションなんだ? お前は信用できない」

 ツバメは真剣に罪の軽減を訴えたが、カンタロウは断罪した。

 ツバメの両目から嘘の涙が、風を切って飛んでいく。ただその涙の効果はもはやなかった。

「わかったわかった。ツバメの言うことを信用するとして、そしてどうするの?」

「くすん。アゲハだけだよ。あたしを信じてくれるのは。好きだよ」

 ツバメは涙を拭いながら、さりげなくアゲハに告白した。

「私はお前のこと、好きじゃないぞ。死ねばいいと思っている」

「なるほど。死ぬほど好きってことだね。では説明しようかね」

 恐ろしいほどの速さで、アゲハの言うことをねじ曲げ、ツバメは平常時に戻っていた。



 ――すごいプラス思考。もうどうにもなりませんね。



 マリアは相方の駄目ぶりに、ため息をついた。

 ツバメは作戦の説明を始め、

「知ってのとおり、結界にはレベル1からレベル5まであって、最新式の吸収式神脈装置はレベル5まで能力をだせる。エコーズはレベル1で結界に弾かれるけど、神獣はレベル1からレベル3までは侵入することができるんだ。現在製造されているのは、レベル3からレベル5まで能力をだせる装置で、一番売れているのはレベル3の装置。レベル1、レベル2の装置はすでに製造中止されている。ここまでは知ってるね?」

 三人に確認を取ると、皆コクリとうなずいた。

 ツバメは説明を続け、

「研究所に設置されてある、吸収式神脈装置はレベル5まで能力を引きだせるらしいんだ。つまり、最新式の装置を導入してるのさ。だから、研究所にうまいこと行って、装置を起動させれば、神獣はカットできる。あとは本体のゴーストエコーズ達だけど、神獣が使えないとわかると、たぶん逃げだすと思うんだ。それが奴等の特徴だからね。その間に、クロワを捕まえ、信者達を逃がす。結界の外にだしてしまえば、こちらの勝ちだからね」

「なるほどね」

 筋の通った作戦に、アゲハはうなずいた。

 月の都レベル5だと、結界から人をだせないが、そこはレベル4ぐらいに抑えればいい。

 何かあれば、レベル5に変更して、ここを鉄壁の要塞とすればいいのだ。

「まあもし、ゴーストエコーズの中でも希有な存在。特種エコーズがいれば、多少やっかいな事態になるかもしれない。奴等は【集積吸収型神獣】を操れるからね。その神獣は、レベル4や5でも動くことができる。でもまあ、動けるといっても少数だけだし、攻撃もトロいって聞くから、問題はないと思うけどね。それ以前に、特種エコーズってのがいるのか、いないのか、よくわからない存在だ。問題はないと思うよ」

 ここでツバメの説明は終わった。



 ――すでに特種エコーズに、二人も出会ってるけどね。



 アゲハはカインとツネミツを思い出していた。




「しかし、クロワという男。妙だな? なぜレベル1結界すら張っていないんだ? これではエコーズが、どんどんやってきてしまうぞ?」




 カンタロウがふと疑問を覚えた。

 森をどんなに見渡しても、神脈結界が構築されている様子はない。

 レベル1結界が起動されていれば、白い霧のようなものがでているはずだ。

 魔導管からは何もでていない。

「そう、そこ。よく気づいたね、カンタロウっち。あたしの母乳やろうか?」

 ツバメが自分の胸を持ち上げ、カンタロウにむけてきた。

「貴様、あの世に行きたいようだな?」

 カンタロウはその行為に、殺意を覚えた。



「冗談だよ。あたしはまだ、そんなのでないからね。そこで考えられる最悪の問題点。それは、吸収式神脈装置が、何らかの原因で壊れていること」



「ええ~。それならどうするの?」

 アゲハがツバメの言う最悪の展開に、しかめっ面をした。

 ツバメもしかめっ面をし、

「諦めるしかないさね。そんときはそんとき。その場でまた、考えるしかないね」

「もう、その手しかないわけですね?」

 マリアが片手を上げて結論を言った。

「思いつく限りではね。あんた達、何か意見はあるかい?」

 ツバメは両手を腰にやり、皆を見渡した。誰も答えないようなので、

「ないようだね。決まりだ。時間もないし、救出作戦開始といこうか」

「はいっ!」

 マリアが元気よく、返事を返す。

「そうだな。行くか」

 カンタロウは静かに、ツバメに応えた。

「はぁ。何もなければいいけど」

 アゲハは気の乗らない態度で、独り言のようにつぶやいた。
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