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第2章 雲隠れの里

アゲハ、逃亡

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 釣瓶の城下町では、激戦が繰り広げられていた。

 カンタロウ達四人に、神獣の大群が襲いかかってくる。


 地上からは鋭い牙を持った、ドッグ型が。

 空からは翼を持ち、手に武器を持ったイカロス型が。

 屋根や空き家の中からは、ソード型、アーマー型が飛びかかってきた。


 神獣に戦略はなく、皆無節操に攻撃をしかけてくる。

 知恵を使う戦闘よりも、数で押し切ってきているのだ。

 神獣の数は、百を超えていた。


「はっ!」

 カンタロウは、もう数十匹の神獣を切っていた。

 切られた神獣は、白い泥となり飛び散る。

 アゲハ、マリア、ランマルも、覚えていないぐらいの数の神獣を、切り倒していた。

「くそっ! きりがない!」

 屋根から降ってきたソードを切りつけ、ランマルは叫んだ。

「数が多すぎます!」

 マリアはイカロスを突き刺し、ニ体のドッグをなぎ払う。しかし、限界が近い。



「このままじゃ、全滅だ! 赤眼化の体力がもたないぞ!」



 ランマルの言うとおり、四人とも赤眼化を発動させていた。

 体力の消耗を抑えるため、赤眼化の解除と発動を繰り返していると、逆に身体に負担がかかる。

 持続させたほうが、意外に消耗は少なくてすむ。




「……そうだね。神獣を切っても意味がない。本体を倒さないと」




 アゲハは水神の魔法で、周りの神獣を蹴散らした。背に魔法の翼をはやす。

 水色の魔力が、アゲハの背に集まってくる。

「アゲハ?」




「――じゃね。カンタロウ君」




 アゲハはニコッと笑い、カンタロウに別れを言うと、空へと舞い上がった。

 カンタロウは呆然と、アゲハが去っていった空を見上げる。

「カンタロウさん!」

 マリアがカンタロウに襲いかかった、ソードを切りつける。

 カンタロウは敵の気配に気づかないほど、アゲハが何も言わず、去ったことに意識を取られていた。

「飛翔魔法か? おい、カンタロウ! アゲハちゃんはどこに行くんだ!」

「…………」

 ランマルに、何も答えられないカンタロウ。



「カンタロウさん!」



 マリアがもう一度、カンタロウの名前を呼んだ。




 カンタロウは、イカロスで埋め尽くされていく空を、眺めることしかできなかった。





 空では、アゲハが自由に飛び回っていた。


 城下町の一点に、異様に白いものが集まっている。

 そこでは今、カンタロウ達が神獣と戦っているはずだ。

 アゲハはそれを、ニヤニヤしながら見下ろしていた。


 ――ごめんね。カンタロウ君。君との旅、楽しかったよ。


 あれだけの数の神獣だ。もう助かることはないだろう。

 体力が消耗し、最後にはラッハ達のように、切り刻まれて終わりだ。

 まだアゲハに気づき、むかってくる神獣はいない。

「敵は私に気づいていないか。今のうちに本体を見つけないと」

 気持ちを切り替え、気配がする方角に翼をはばたかせる。

「気配がする。あっちか」

 ゴーストエコーズの気配は近い。



 しばらく進むと、異様な城が見えてきた。




「何? あの城?」




 足が六本ある巨大な建築物の上に、立派な城が見える。

 建築物からは水が放出され、それは城下町に続いていた。

 今にも動きだしそうな物体だが、どうやら生き物ではないため、微動だにしない。


 水は滝となり、町中を流れていた。

 城の屋根は瓦葺き、青銅の鯱が頂上にある。突上戸や廻縁も見える。

 アゲハにとっては、あまり見たことのない形の城だ。


「巨大な虫の背中に乗っているみたい」

 アゲハが息を飲んでいると、城から大砲がでてきた。

 神獣が大砲を用意しているのだ。

 神獣は仲間を大砲の中に押しつけると、導火線に火をつけた。


「気づかれたか!」


 大砲が爆発し、弾となった神獣が、すさまじい速さでむかってくる。

 アゲハは神獣の攻撃をうまくかわしたり、剣でなぎ払う。

「水神の名において命じる! 水の刃となり敵を切り裂け!」

 アゲハは一桁詠唱を唱えると、魔法を発動させた。青い水が、鋭い刃となり、大砲を破壊する。

「原始的な攻撃だね!」

 調子に乗ったアゲハは、次々と魔法で大砲を破壊していった。

 城は耐魔法製の壁ではないためか、すぐに壊れていく。

 防御魔法も張っていないので、神の力を防げていない。

「ははっ! もろい城だね! そして本体は!」

 隙を突き、アゲハは城の最上階に水神の魔法をくらわせた。

 壁が簡単に破壊され、土煙が拡散する。




「何っ!」




 ツネミツは両腕で、煙と壁の残骸を防御した。

 アゲハは壁に手を置くと、ゆっくりと城の中に侵入する。





「ふふん。みっけ」





 アゲハから残忍な笑みがこぼれる。

 ツネミツは神獣でありながら、女に戦慄を覚えた。

「……貴様」

「さてと、どんな拷問、しよっかな」

 アゲハはポキポキと、手の関節を鳴らした。
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