上 下
24 / 89
1-4

エピローグ 実家

しおりを挟む
 数日後。


 カンタロウとアゲハは、山道を歩いていた。

 道は整備されておらず、泥と石だらけで歩きにくい。

 カンタロウの足は速く、アゲハはその後ろを追いかける形になっていた。


 有刺鉄線が巻かれた、柵が見えてきた。


 カンタロウはその柵にそって、歩みを進める。

 柵は鋭い針が突き刺さり、剥げた木の中身は雨で腐食が進んでいた。



「ねえカンタロウ君。あの柵と有刺鉄線、何かね?」



 アゲハの呼吸が速い。

 カンタロウについていくのに、精一杯だからだ。


「ああ、これは俺の家族を隔離するための、壁だ」

「君の家族?」

「そうだ」


 カンタロウがむかっている先に、鎧を着た兵士が立っていた。

「あれ? 兵士が立ってる?」

 アゲハがよく見ると、鎧には剣帝国国章、剣を持つ竜『ソードドラゴン』が見える。

 カンタロウが兵士にむかって手を上げた。

 兵士は二人に気づき、何も言わず、どこかへ行ってしまった。


「いなくなったけど?」

「俺が帰ってきたら、森に行く段取りだ」


 アゲハとカンタロウは、兵士がいた所から、柵の中へと入る。

 入り口には、看板が立てられていた。

「じゃ、あの看板。なんて書いてあるの?」



「『犬小屋』だ」



 いまいち、状況が理解できず、アゲハはカンタロウにばたばたとついていく。

 カンタロウの歩みがまた少し速くなった。

 声も高揚し、顔から疲れが吹き飛んでいる。




「もうすぐ俺の家だ。ほらっ、あの丘の上」




 カンタロウが指さす方向の丘の上に、家が一軒だけあった。

 木造建築で、煙突が見える。

 さほど大きな家ではない。





「ふぅん、あれがカンタロウ君の実家か……って、ちょっと待て!」





 カンタロウの背中にパンチするアゲハ。

「おうっ!」カンタロウは少し腰が曲がり、

「なんだ?」

 意味がわからないといった顔で背中をさする。



「『なんだ』じゃないでしょ! もしかして実家に帰ってたの?」



「それが何か?」

「ほんとかよ、カンタロウ君! ハンターらしく、賞金稼ぎの旅をしてたんじゃないの?」

「誰も、そんなこと言ってないぞ?」

「まあ確かに、こっちも聞いてないけどさ!」

 アゲハが今思い返してみても、カンタロウは一言も、ハンターとして旅をしているとは言っていない。

 実家に帰るとも言っていない。

 ただ、自分と旅をしていても仕方がないとは、何度も聞いた。



 それがこういう意味だったと、アゲハは初めて知った。



 ――ううっ、なんてこった。普通に旅してるかと思ったら、まさか実家に帰ってたなんて。もうこいつ予想の斜め上の、上の、上の方いっちゃってるよ。

 アゲハは、自分の非力さと情けなさに、悲しくて涙がでそうになる。

 何も聞かず、ただもくもくとカンタロウについていったことを後悔した。



「だから言ったろう? 俺についてきたって、お前の足手まといになると」

「見事にまでの足手まといだよ。はぁぁぁ」



 カンタロウに向かって嫌み気に、アゲハは深いため息をつく。自暴自棄寸前だ。



「ため息つきすぎだ。まあここまで来てしまったのは仕方がない。――俺の母を紹介しよう」



 嬉しさゆえか、自然とニコニコするカンタロウ。

「何その言い方? 『俺の恋人を紹介します』的な言い方? ちょっとムカつく」

 かなりカチンとくるアゲハ。

「ふふふっ、俺の母はとっても美人だぞ。ふふふふふっ」

 そんなアゲハなど気にせず、カンタロウは母に会える喜びで、テンションが上昇しきっている。


「カンタロウ君。キモい! その笑い方、キモすぎ!」


 アゲハはカンタロウの笑いに、ドン引きした。



 家が近づいてくると、野菜畑に二人、女性がいた。

 目つきの鋭い女性が、カンタロウに気づくと、麦わら帽子をかぶった女性に耳打ちする。

 目の見えない女性は、誰か来たことに気づき、キョロキョロと首を動かした。



「母さぁん!」



 カンタロウが元気よく叫ぶと、手を振る。

 ヒナゲシはようやく息子が帰ってきたことがわかり、声がした方へ、大きく手を振った。



「あっ、カンタロウさん。――おかえりなさぁい」



 農作業はしていなかったのだろう。

 ヒナゲシは白いワンピースを着ていた。

 柔らかい風が、長めのスカートを揺らす。


 その笑顔は、丘で白い花を咲かせているカモミールのように、あでやかだった。




 ――はあ……これからどうなることやら。




 アゲハはため息をつきながらも、カンタロウの家へ足を進めていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな母と縁を切りました。

むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。 領地争いで父が戦死。 それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。 けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。 毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。 けれどこの婚約はとても酷いものだった。 そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。 そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました

Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、 あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。 ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。 けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。 『我慢するしかない』 『彼女といると疲れる』 私はルパート様に嫌われていたの? 本当は厭わしく思っていたの? だから私は決めました。 あなたを忘れようと… ※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。

1番じゃない方が幸せですから

cyaru
ファンタジー
何時だって誰かの一番にはなれないルビーはしがない子爵令嬢。 家で両親が可愛がるのは妹のアジメスト。稀有な癒しの力を持つアジメストを両親は可愛がるが自覚は無い様で「姉妹を差別したことや差をつけた事はない」と言い張る。 しかし学問所に行きたいと言ったルビーは行かせてもらえなかったが、アジメストが行きたいと言えば両親は借金をして遠い学問所に寮生としてアジメストを通わせる。 婚約者だって遠い町まで行ってアジメストには伯爵子息との婚約を結んだが、ルビーには「平民なら数が多いから石でも投げて当たった人と結婚すればいい」という始末。 何かあれば「お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」と言われ続けてきたルビーは決めた。 「私、王都に出て働く。家族を捨てるわ」 王都に行くために資金をコツコツと貯めるルビー。 ある日、領主であるコハマ侯爵がやってきた。 コハマ侯爵家の養女となって、ルワード公爵家のエクセに娘の代わりに嫁いでほしいというのだ。 断るも何もない。ルビーの両親は「小姑になるルビーがいたらアジメストが結婚をしても障害になる」と快諾してしまった。 王都に向かい、コハマ侯爵家の養女となったルビー。 ルワード家のエクセに嫁いだのだが、初夜に禁句が飛び出した。 「僕には愛する人がいる。君を愛する事はないが書面上の妻であることは認める。邪魔にならない範囲で息を潜めて自由にしてくれていい」 公爵夫人になりたかったわけじゃない。 ただ夫なら妻を1番に考えてくれるんじゃないかと思っただけ。 ルビーは邪魔にならない範囲で自由に過ごす事にした。 10月4日から3日間、続編投稿します 伴ってカテゴリーがファンタジー、短編が長編に変更になります。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...