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スレンダーマン

大切な物を破壊せよ

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/27/094329)


 私たちはクランプからいろいろな情報を引き出していた。

 リアナをさらったのは、萌美という都市伝説の怪物で、妖精のような姿をしているらしい。

 萌美はアイスクリームを持っている者を襲い、コーンの部分だけを返すという、いやらしい化け物で、たまに間違えて人をさらうようだ。

 どうしてさらった人を返さないかというと、お母さんにしかられるから、という妙な理由で連れ去るらしい。

 やつからさらった人を返してもらうには、『大切な物』を破壊しなければならないようだ。

 私たちはリアナを返してもらうため、森の中で儀式を行うことを決め、大切な物をもってくることにする。

 クランプは、その後、人種差別的発言を繰り返していたので、「ファキュー!!!!」とメッセージを残して回線を切った。



 次の日の深夜、私と門平、言左衛門は、儀式を行う森にきていた。



「大切な物は持ってきたわね?」



 私がふたりに言うと、うなずいてくれた。

 門平が神妙な顔つきで私を見つつ、



「お前は何を持ってきたんだよ?」

「これよ。キューピーちゃん」



 私はベビー人形を片手で持ち上げて、門平に見せてやる。

 肌すべすべの赤ちゃん人形だ。

 素材はゴムでできている。



「自宅の柴犬タッキーの犬小屋にあったものよ」

「それお前じゃなくて、犬が大切にしてたものなんじゃないのか?」

「あんたは何持ってきたのよ?」

「これだよ」



 門平は黄金のよくわからないアニメキャラクターが描かれてある、カードを見せつけた。



「ふざけてるの? 大切な宝物、持ってこいっつったでしょ?」

「ふざけてないよ。これレアカードなんだよ。小学生の頃、お菓子の付録についてたから、必死で食って手に入れたものなんだよ」



 門平は顔を真っ赤にして言ってくる。

 信じられない。

 私でさえ、犬が大切にしていた物を奪って持ってきたのに、わけのわからないカードだなんて。

 リアナを救う気がないんじゃないかと、疑ってしまう。



「宮本君はどうなの?」

「拙者はこのカツラを萌美とやらに進呈しよう」



 言左衛門は、頬を多少赤く染め、両手で頭にのってるチョンマゲを外した。

 ふさっと、黒いロングヘアがこぼれおちる。

 月の光で、髪の毛がつやつやしている。



「カツラだったのか……」

「髪が美少女だわ……」



 門平と私は、言左衛門がライオンのように振りはらう、美しいロン毛を見てあぜんとしていた。

 私たちは暗い森を進んでいき、適当な場所を見つけて、大切な物を破壊することにした。

 門平はカードを丁寧に折り曲げ、言左衛門は刀でカツラを真っ二つにした。

 私はキューピーちゃんの首を胴体から引きちぎると、草むらに捨てる。

 門平が、あわれな人形をながめながら、



「でっ。どうするんだっけ?」

「両目を閉じるのよ」



 私は門平に言い、ふたりの男たちが目を閉じたのを確認してから、両目をつむる。

 物音一つしない静寂な空間。

 ときおり聞こえるのは、虫と風の鳴き声か。



 ――さあ、出てきなさい。萌美。



 全身から殺人の赤いオーラを流していると、



「ふおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」



 誰かが悲鳴を上げたので、ちびりそうになった。



「何よ!?」



 目を開けてしまうと、言左衛門が訳のわからない雄たけびを上げながら、森をつっぱしっている。



「なんだよ!?」



 門平がビビッてしまい、言左衛門を追いかけていった。



「待ちなさいよ!!」



 こんな暗い森でひとりにされるのは嫌なので、私もふたりを追いかけていく。

 儀式は失敗だ。

 萌美は姿をあらわさない。

 リアナも戻ってこない。

 このままじゃ、金のある彼女から借金できない!

 言左衛門は叫びつつ森から出ると、近くにあった民家に侵入し、窓ガラスを全身で突き破った。

 美しいロン毛がガラスをはじいて、門平の太ももに突き刺さる。

 痛さで苦しむ彼を踏み台として、私は残りの窓を破壊し、畳部屋に着地した。

 言左衛門はテレビのリモコンの電源を入れ、



「今日は『いやしんぼ将軍』の再放送があることを忘れておったわ!」



 画面にくぎ付けになる。

 放送が終わるまで、正座のまま動かないだろうから、私は菓子パンを取って食べ、畳の上に寝転がった。

 足をやられた門平は、痛さではえずりながら、救急箱からバンソウコウを取り出していた。

 私はいやしんぼ将軍が、ふぐ料理で、毒を取りのぞかなかったことにより、庶民のひとりを殺害したところで飽きた。

 いびきをかいて爆睡していると、どこからかサイレンが聞こえてくる。

 飛び起きて、



「萌美!?」

「警察だよ!!」



 門平がキレ気味に言い放ち、割れた窓から逃げ出そうとしている。

 私は警察に通報した、家の住人を見つけ出し、秘孔をついて記憶を消去する。

 家を飛び出し、国家権力が入ってくる前に逃げ出した。





 次の日。

 大学の屋上で、私と門平は鉄柵に腕をついていた。

 言左衛門は帰ってこなかった。

 犯人はわかっている。

 私は鉄柵を両手でたたき、



「大切な物を破壊しても、リアナは帰ってこない! 宮本君まで連れ去るなんて!」

「あいつは警察に捕まったんだよ」



 門平はガラスの刺さった足をさすりながら、たそがれていた。


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