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ジグソウ ソウ・レガシー

第2の試練ぬいぐるみ地獄

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映画ノベライズブログ(https://inaba20151011.hatenablog.jp/entry/2019/12/03/165737)


 再生ボタンを押してみる。

 突然注射器が3本、天井からつるされた。

 美雪と言左衛門はあとずさり、リアナはつまずいて後ろに転ぶ。



『にいにとねえねは、萌美のせいでこんなことになってると思ってるよね? 勘違いしてるよ。にいにとねえねは悪いことをしたって、正直に言わなきゃだめなんだよ』



 翻訳すると、俺たちが何か悪いことしたから、ここに連れてこられたってわけか。

 ほんと通訳できるお母さんきて! お願い!



『萌美ね。にいにとねえねにお注射したの。あと10分ぐらいで死ぬよ。生きたいのなら、その注射器に入ってる解毒剤を注射してね。1本は酸が、もう1本はコーラが入ってるから』

「なんですって!? 1本空の注射があるけど!」



 美雪がビシッと、空になった注射器を指さす。



『コーラは喉が渇いたから飲んじゃった。えへへ。おいしかったな。イチゴケーキ食べたい』



 プツッと、音声が切れた。

 みんなぼうぜんとなった。

 なんか、つじつまが合わねぇ!

 同時に鎖が動き出す。

 アヒルのおまるが、天井に引き上げられていった。

 あっ、俺たちを宙づりにするつもりだったのか?

 どのみち抜けてただろうから、意味なかったけどね。



「どれが酸入りの注射器なんですかぁ?」



 リアナが青い顔をしている。

 3本のうち、1本は空だから、2分の1の確率だ。



「これでござるよ」



 言左衛門が注射器を持って差し出した。



「なんでわかったのよ?」

「液を出してみたら、床が溶けたでござる。ということは、この溶けない液体が解毒剤でござる」

「……えっ?」



 美雪がアングリと口を開けた。

 ……そりゃ出してみりゃ、わかるよな!

 なんて緊張感のないデスゲームなんだ。

 頭いっさい使わないんだけど!



「あははっ! バカだわこの子! バーカバーカ! こんなことで私たちを殺せると思ってるの?」



 解毒剤をしっかりと注射した美雪が、萌美を罵倒し始める。

 解毒剤を注射しつつ、



「おいおい。まだ幼い子供なんだから、のってやれよ」

「あんた何言ってんの? 幼いからこそ世の中の厳しさを教えてやるのよ! この世界はね、焼き肉定食なのよ! 肉食い放題で店長が嫌がるのは、実は値段の高い野菜なのよ!」

「それ言っても、あの子にはわからんと思うぞ?」



 美雪は焼き肉が食いたいから荒れてるようだ。

 リアナが注射器を指さし、



「何か番号が書いてますよ?」



 注射器に数字が書かれてある。

 鎖で閉じられた扉を見て、ピンときた。

 ナンバー錠があって、この番号を入力すれば開くはず。

 さっそく鍵をイジってみると、『0000』で開いた。

 数字を入れ忘れている。

 美雪は真剣な表情でコクリとうなずいたが、言左衛門とリアナは半笑いだった。

 鍵を開けて次の部屋に入る。

 壁は木造、床は石で、藁が乱雑に散っている。

 鉄柵の向こう側にガラス窓があって、のぞくと畑が広がっていた。

 どこかの田舎のようだ。

 動物の臭いがするのは、何かを飼っていたからか。

 美雪が「あっ!」と、何かを見つける。



『ここからでると、わながはつどうするの。でるぅ?』



 ドアに汚い字のひらがなで、紙がはりつけてある。

 美雪はガツガツと、ドアに向かい、



「バカにしないで!」

「おっおい。わながあるって……」

「発動しないわよ! だって犯人どう考えても頭が悪い、ひいっ!?」



 床が抜け、両足が床下に落ち、板が股にはまった。

「ぷっ」と、リアナがかわいらしく笑う。

 コミカルすぎるだろ。

 辱めを受けた当人は、プルプルと震えながら、股にはさまっている板を両手で押さえている。

 美雪の肩に手を置き、



「やっちまったな」

「……笑えばいいわ」

「焼き肉おごってくれればいいよ。とりあえず出られるか?」

「何かが両足をつかんで、何よこれっ!?」



 出られないようだ。

 床下を見ると、動物たちのぬいぐるみで埋めつくされている。

 ため息をつき、



「……出られるだろ? ふざけてんの?」

「ちがっ! ほんとに出られないんだってば! 何かが足つかんでるの!」



 真っ赤な顔をして、美雪は訴えてくる。



「しょうがねぇな。ひっぱってやるよ」

「ふん」



 美雪は両腕を広げた。

 彼女の脇を両手で持ち上げる。

 上にひっぱった。

 びくともしない。



「おもっ! 太りすぎだろ!」

「太ってないわよ! 変なものが私の足をつかんで離さないのよ!」



 美雪はぶるんぶるん頭を振って、無罪判決を言い渡す。



「どうしましょう……」



 自分のことじゃないのに、リアナは心配そうな顔をする。



「拙者がかいしゃくしてしんぜよう」



 言左衛門が腰から刀を抜く。

 すごい闘気だ。

 1発でヤルつもりだ。



「待って宮本君!? それたぶん私死んじゃうやつだから!」

「安心せい。ぬいぐるみどもを切り刻むだけじゃ」



 言左衛門がペロリと刃をなめる。

 地獄の鬼か、お前は。



「やめたげて! みんな友達なんだよ!」



 下手すると足を突き刺しかねないので、美雪はイヤイヤした。



「しょうがない。あっちの部屋に何かあるか探そうぜ」

「ぬいぐるみの腸まきちらせばよかろうに」

「いちいち怖いなお前は。犯人お前見たら泣くぜ、きっと」



 言左衛門とドアの開いた部屋に入った。

 リアナは美雪のそばにいる。

 部屋に入ると、天井からリモコンがつるされている。



『あにめみるぅ?』



 と、白い紙に汚いひらがなが書かれている。

 いちいち反応するのもめんどいので、リモコンをひっぱった。



「あらっ?」



 リモコンについたヒモが抜け、出入り口の扉が閉まる。



「何が、ぶふっ!?」



 頭に何か落ちてきた。

 色とりどりの金平糖だ。

 配管の穴から、すごい量で落ちてきている。

 だっ脱出! 脱出方法は!

 糖分に埋もれてしまう!

 電源がテレビに入り、映像が映る。

 萌美は体育座りをして、何かを熱心に見ている。

 視線の先で、魔法少女が、敵の女性キャラに、コブラツイストをきめていた。



「おいっ! ゲームマスター! なんかゲームが始まってるぞ!」

『…………』

「おおーいっ! こっち向いてなんか言えっ!」

『今いいとこなのっ!』



 萌美はリモコンを俺のほうに向け、電源を落とす。

 待て待て! せめてルールの説明してからにしろっ! 放棄はやめて!

 金平糖は喉元まではい上がっている。



「もしかすると、美雪殿に何かすると助かるやもしれぬな」

「なんでわかるんだよ!」

「カメラが美雪殿とリアナ殿を映しているでござる」



 顔が半分埋まって、両目だけギラつかせた言左衛門が言う。

 映像はリアナと美雪のほうを向いている。

 となると、美雪をあのぬいぐるみ地獄から解放すれば助かるのか?



「美雪! 早くそこから脱出してくれ!」



 美雪とリアナの所にもテレビ画面があって、俺たちが金平糖に埋まりつつあることがわかっている。

 仲間を助けるために、行動してくれるはず!



「嫌よ! そこで死ねばいいわ!」



 美雪は腕を組んで、はっきりともの申す。

 あいつ! 絶対ぬいぐるみの中が気持ちいいから、出たくないだけだ!

 何? 感触がいいのか?



「こっちは死にかけてるんだぞ!」

「私はもうフレンドの一員なのよ! 一生ほのぼのしていたいの! 結婚せずに妄想の中だけで生きていたいの! お金だけちょうだい!」

「働けや!」



 癒やしを求めたいのなら、健康ランドに行け!

 リアナが美雪の両肩をつかみ、ズボッと、ぬいぐるみの中から持ち上げた。

 わなが停止し、金平糖が出てこなくなる。

 扉が開き、俺と言左衛門は波にのまれて外に運ばれていった。

 リアナは強い笑顔を作り、



「大人になりましょうね?」

「……はい、ママ」



 美雪は彼女と目を合わせず謝った。


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