雷霆使いの欠陥魔術師 ─「強化」以外ロクに魔術が使えない身体なので、自滅覚悟で神の力を振るいたいと思います─

樹木

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第三章 階級昇格編

53話『噂話と近況報告』

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「──悪いな兄ちゃん、わざわざ壊れてる家具の仕分けまでさせちまって」

「良いんすよ別に、ついでですから。これぐらい働いた分に入りませんよ」

 夕暮れ度に差し掛かろうとする時間帯。
 空が段々とオレンジ色に染まり、太陽が夜の旅の準備をしている。
 荷積みを始めてから数時間。アウラは一通りの荷物を積み終えたようで、その手は乾燥し切っていた。
 中には重い物も幾つかあったが、魔術で限定的に強化してしまえば済む問題であった。

 早い話が雑務だが、嫌々やっていた様子は無く、スッキリしたような面持ちだ。

「本当に助かったよ。怪我さえしてなけりゃあ俺も手伝えたんだがなぁ。それより聞きてぇんだが、その銀髪……お前もしかして、最近冒険者共が噂してる魔術師か?」

「げっ」

 バツが悪そうなアウラ。
 冒険者の間であればいざ知らず、民間人にまで広まっているとなると肩身が狭くなるというものだ。

「噂……うんまぁ、そうですよ。最近エクレシアから帰ったばかりです」

「やっぱりか。連中は「他の魔術師のお零れで実績を積んでる」なんて言ってたから、どんな生意気なガキだと思えば、根も葉もない噂話じゃねぇか」

「どうなんですかねぇ、半分正解、半分不正解って感じです。尤も、俺にはそんなつもりは毛頭ないですけど」

「言わせるだけ言わせとけよ。お前はまだ若いんだ、後から思い切り見返してやんな──ほら、これ」

 言って、依頼主の男は懐から小さな袋を取り出してアウラに手渡す。
 簡易な麻袋だが、中には硬貨が入っており、一日の食事分を賄える程の金額だった。
 報酬はギルドの方で貰う予定だったが、受け取った彼は当然困惑し、

「いやいや! わざわざお金なんて……!」

「良いんだよ、これは報酬とは別の個人的なモンだ。これぐらい無くて困る程、生活がキツい訳でも無いしな。気持ち程度だが、メシでも食って頑張れよ」

 はにかむように笑って、依頼主は御者の手を借りて荷車に乗り込んだ。
 そしてゆっくりと進み始め、中から男が手を振ったのに対し、アウラは深々と頭を下げた。

「見た目はちょっと怖いけど、良いおっちゃんだったなー……」

 エリュシオンの外に向かう荷車を見ながら呟く。
 たったの一日、それも数時間ではあったが、人は見掛けによらないという事を再確認させた。そして──人の温かさを実感させる。

 依頼を終え、後はギルドで達成報告を済ませて報酬を受け取るだけだ。

「となれば、早速戻るとするか」

 振り向き、再びアトラスのある方角へと歩き出した。
 既に一日の依頼を済ませ、これから食事に繰り出そうとする者の姿も少なくない。街に住む民間人たちにとっても同じのようで、店仕舞いの支度をする出店も見受けられた。

 エリュシオンは夜であっても、その喧噪が絶える事はない。寧ろ、人々が酒を酌み交わす時間こそが本番だとも言える。
 店を物色する者を余所に、一直線にギルドの方面へと向かうアウラだったが────

「────あっ!! アウラ君! おーい!!」

 彼の事を呼ぶ、大人びた声が鼓膜を叩いた。
 その声の主はアウラの後方。嬉しそうに手を振りながら、少し駆け足で彼の下までやってきた。
 燃えるような空の色に近しい、太陽のような赤い長髪。そして、深い海のような青色の瞳。余計な装飾の無いワンピースのようなシンプルな出で立ちだが、かえって本人の美人さを強調させる。
 荷物運びの疲れもあり、あまり良いとは言えない表情であったが、声の主を目にすると、僅かに顔に笑顔が戻った。

 ────レイズ・オファニム。

 アウラの住む家の大家にして、エリュシオンのギルドの誇る主力だった人物。

「レイズさんじゃないですか、ご無沙汰してます」

「いちいち挨拶なんて良いよ。最近は中々こっちに来れなかったけど、全然元気そうだね」

「今は元気っちゃ元気ですよ。数日前までは色々あって大変でしたけど、それより、レイズさんもどうしてエリュシオンに?」

「冒険者やってた頃の友人から呼び出されてね、ちょっとだけお茶してたんだ。汗とか凄いけど、どうしたの? 泥棒でも追いかけてきた?」

「泥棒捕まえてたら、こんな無傷でピンピンしてる訳ないですよ……依頼で、ちょっとした力仕事を終わらせて来たんです。荷物の積み込みの依頼があったんで、それだけ済ませて、これからギルドの方に行こうとしてたところです」

「そういうことね。……でももう時間も時間だし、どうせなら報告は明日にしたら? 依頼受注の契約書は持ってるんでしょ?」

「あぁ、それなら一応ここに」

 言って、アウラはポケットから四つ折りにされた紙を取り出した。
 依頼を請け負う際、基本的には受注した冒険者の名をサインした契約書が各自に手渡されるのだ。
 依頼達成者が自分である事の証明、という事だ。

 段々と、街は夜の暗闇に沈んでいく。
 それに抗うかのように、巨人の名を冠する街は光を灯し、騒ぎ、逢魔ヶ時に現れる妖魔を追い払う。
 昼は働き、夜は気が住むまで語り合う。それがアウラの同業者たちにとっての共通認識である。
 命を張り、怪物を討ち取った後に食らう酒は、まさしく別格の味わいだろう。

「折角久しぶりに会ったんだし、今日は一緒にご飯でも食べない? 最近の近況とか色々聞きたいし、ね?」

「こっちこそ、是非。……あーでも、先に風呂だけ入って来ても大丈夫ですか? 流石にちょっと汗臭いかもしれないし、その状態で飯ってのはちょっと抵抗が」

「あっ、全然大丈夫だよ! なら、私は先にお店入って待ってるから、ゆっくり浸かって来なよ」

「すんません、すぐ戻りますんで!」

 言って、アウラはエリュシオンの市街地にある、公衆浴場へと足早に向かう。
 待たせるのは如何な物かと脳裏を過るが、今回ばかりはレイズの厚意に甘える事にした。

 夕暮れ時の浴場は、多くの民間人も利用する。その為あまり長居は出来ない事に加え、最低でも汗を流す事が出来れば十分だった。
 三ヶ月も滞在していれば、街の何処に何があるかは凡そ理解している。
 迷う事無く向かうアウラだったが、その道すがら、ある光景が目に留まった。

「……アレは、カレンか……?」

 見慣れた紫髪に、剣士とも魔術師とも言えぬ、運動性に特化したような装い。
 ただその場に佇むだけで相対した者を威圧する眼差し。
 普段よりも不機嫌そうな彼女の周りには、数人の男が群がっていた。

『おいおい、エリュシオンが誇る冒険者サマよ。下々の冒険者の依頼なんぞには毛ほども興味無いってか?』

『眼中に無い、かっこいいねぇ』

『……』

 傍から見れば、か弱い少女一人が男共にたかられている図。
 相手がカレンでさえなければ、アウラは覚悟を決め、少女を助けに走り出していただろう。

 男数人、彼女であれば片手だけでも十分に事足りる。
 その一方、アウラはそのままスルーして通り過ぎる事が出来る程薄情な人物でもなく、遠くからその光景を眺めていた。
 そして、一つ気付く。 

「アイツ、確か……」

 ボソリと、その場で零す。
 カレンに絡んでいた男──前方に立つの一人の顔に、見覚えがあった。
 ギルドから戻る際にすれ違った、冒険者の男だった。
 当然だが、アウラはあの男に対してあまり良い印象を抱いていない。その事に気が付くまでは男の方をこそ心配していたが、そんな感情は一瞬にして塗り替えられた。

「────!」

 彼の表情が、ムッとしたように強張る。
 安易に触れるな、そんな言葉が喉まで上がって来るが──同時に、遠くにいるカレンの指先が僅かに動いたのを、アウラは見た。

『いい加減にしろよクソガキ。いくら熾天のテメェでも、男数人でかかりゃ捩じ伏せる事だって訳な────』

 背中に斧を背負った大柄な冒険者が、最後まで言葉を言い終える事は無かった。
 彼がカレンの肩を掴んだ直後──彼女の容赦の無い肘打ちが、男の鳩尾目掛けて振るわれたのだ。

『う────っ!!』

 たとえ鎧を纏っていようと、彼女にとっては紙も同然。
 衝撃は容易く身体の内部へと突き刺さり、絞り出すように呻き声を上げながら、男は腹を抱えながら片膝を付く。
 仲間に危害を加えられた他の男は当然、声を荒らげる。

『テメェ、何すんだ!!』

『何って、耳障りだったから黙らせただけよ。何か文句でもあるの?』

『っ……こんな事して、ただで済むと……!』

『別に群れるのは構わないわ。──でも、弱い奴ほど程虚勢を張る。私が女だからって舐めてるんでしょうけど、誰であれ、その考えが当て嵌るとは考えない事ね』

『チッ……! いいぜ、お望みなら二度と舐めた口聞けないようにして────』

 一人の男が拳を振りかぶる。
 成人男性の殴打であれば、か弱い少女一人にその力を分からせるには十分。

 寸前の彼女の一言は、彼女なりの忠告だったのだ。
 しかし、それが彼らに伝わる事は無く、ただの小娘の戯言としてしか耳に届かなかったのだろう。

 拳が彼女の顔面に叩き込まれるよりも早く、彼女の回し蹴りが男の顔を殴りつけた。

『ひっ────』

『伝わらなかったのなら、分かるように言ってあげる』

 レンガの壁に吹き飛ばされた男を見て、他の冒険者達は言葉を失っていた。

『────邪魔、って言ってんのよ』

 今度は、明確な敵意、或いは嫌悪を込めて。
 一段階低いトーンで、言い放ったのだ。
 次は無い、という警告の言葉を吐き捨てて、彼女はその場から立ち去った。

「相手が魔獣だろうが人間だろうが、振り払うのに手心は無し、か……」

 寸前まで湧き上がっていた怒りにも似た感情はすっかり消え、アウラは彼女の平常運転ぶりに一周回って安堵する。 
 その一部始終は周囲の人々の目にも留まっていたようで、自分よりも大柄な男に動じず、それを跳ね除けたカレンを称賛するような歓声、拍手すら上がった。
 振り返る事なく路地裏に消えていく彼女の姿に安心したのか、アウラは己の本来の目的を思い出す。

「っと、そうだった。レイズさんを待たせてるんだった……!」

 慌てた様子で、アウラは止めていた足を動かす。
 本人が良いと言っているとはいえ、大家をいつまでも待たせる訳にはいかない。そう思いながら、彼は人で溢れる街の中を進んでいく。



 ※※※※



 太陽はすっかり落ち切り、暗く深い冥府へと旅立った。その代わり、空には月が地上を俯瞰するように浮かんでいる。
 エリュシオンの街は街灯で照らされ、昼間に負けず劣らずの賑わいを見せていた。
 そんな中、噴水のすぐ傍の店の席に佇む女性が一人。その彼女の下へと足早に向かう少年の姿もあった。

「────すいません、遅くなりました!」

 手を振りながら、アウラはレイズの下へと歩いて行く。
 ジョッキを傾けていた彼女もそれにすぐに気付き、人混みの中から彼を見つけ出す。

「? あぁいや、全然待ってないよ。私も丁度今呑み始めた所だし……それより君、ちゃんと湯舟に浸かった?」

「まぁ、数分ぐらいは浸かって来ましたよ。流石にちょっと急いだんで、まだ髪は乾いてないですけど」

 そう言って向かいの席に座るアウラの髪は、まだ僅かに濡れていた。
 少しでも涼む為か、普段着ている上着は腰に巻いている。
 髪先を指で摘んで濡れ具合を確認し、笑いながら言うと、対するレイズは両手を腰に当てて

「ダメ、ちゃんと乾かさないと風邪引いちゃうよ。あんまり若いからって調子に乗らないの」

「あ、はい。すんません……結構ちゃんと怒るんすね」

「そりゃあ怒るよ。今は大家とはいえ、それ以前に私は先輩でアウラ君は後輩。年もそう変わらないし、こういう所はちゃんと正しておかないと」

 レイズの言う通り、彼女は一線を退いているものの、少し前まではエリュシオンの主力だった程の魔術師である。故に、立派な先達である。
 若者の甘い考えは正す、それが彼女なりの後進に対する接し方なのだろう。

「────ま、今日はお説教はこれぐらいにして注文しよっか。何か食べたい物とかある?」

「俺は何でも。昼もそこそこ食べたんで、多少腹が膨れれば十分っすよ」

「おっ良いねぇ、じゃあ私のチョイスで適当に頼んじゃうね。すいませーん!!」

 ハキハキとした声で店員を呼び、メニュー表に書かれた料理を注文していく。
 凡そ二人分の料理をサクサクと店員に告げると、彼女は会釈を最後に、視線をアウラに戻した。 

「……それじゃ、早速近況を聞かせて貰おうかな? どう、最近の冒険者活動は。少しは慣れて来た?」

「慣れて来たというか、色々あり過ぎて脳の処理が追い付いてないというか。話せばちょっと長くなりますよ」

「良いんだよ。今日はそれを聞く為に来たんだもん」

 楽し気に頬杖を付くレイズ。
 こちらをからかうような、余裕を感じさせるような視線と仕草。年はアウラと一つしか変わらない19だが、年齢以上の艶やかさを演出している。
 アウラは一瞬ドキリとさせられるも、素の彼女がこういった性格なのを思い出した。

 一呼吸を置いて、彼は話し出す。
 レイズと出会う前に、蛇竜と遭遇しただけでなく、その帰国の道すがら神位アレフの剣士と邂逅を果たした事。
 次の依頼が、あろうことかグランドマスター直々の依頼だった事。 
 そして──エクレシアの地にて使徒と共闘し、バチカル派の司教と交戦。果てには東方最強の騎士及び教皇と会った事。
 最初こそ楽しそうに頷きながら聞いていたが、レイズの表情は段々と硬くなっていく。
 その理由は単純。一応はエリュシオンの主力、高位である熾天セラフの階級の持ち主であった彼女からすれば、冒険者になったばかりのアウラが短期間で受けて良いレベルの内容では無かったからだ。

「アウラ君、良く生きて帰って来れたね……」

「自分でも不思議ですよ。ナーガの時もクロノの魔術が無ければ討伐出来なかったし、エクレシアでも使徒の人達やカレンの助力が無かったら、確実に死んでましたよ、俺」

「全く、シェムさんは相変わらず無茶な依頼を振るんだから……」

 こめかみを抑えながら、レイズは愚痴気味に零す。

「レイズさんも、シェムさんから依頼を振られた事が?」

「まぁね……ほら、私もそこそこ名前は通ってたし、腕はシェムさんにも買われてたから。悪い人ではないんだけど、割と自分の興味とかを優先する人なんだよね」

「それ、褒めてんのか貶してんのか分かんないんですけど」

「信頼してるし、信用しているよ、私は。そうじゃなかったら、ラグナ君やカレンちゃんだって、あの人の依頼を逐一こなさないしね?」

「ラグナ……俺はまだ会った事ないけど、そっか。レイズさん、その人とカレンと三人で定例会ってヤツに出てたんだっけ」

「そうそう、四大ギルドと、それからソテル教会からの使者による近況報告。そのギルド対抗戦に出たんだよね。カレンちゃんも凄いけど、ラグナ・ヴォーダイン────「戦神グリームニル」なんて異名のある彼は、本当に実力だけでは異次元だね」

 当時の記憶を思い起こすように、同僚であった魔術師について語る。
 カレンやクロノ、シェム、そして同じく神位の双璧を為すエイル以外に、彼に関してよく知っているのがレイズでもあった。
 あまり聞く事の出来ない情報を仕入れるチャンスだが、アウラは彼女が発した単語が引っかかっていた。

(グリームニル────)

 その単語──正しくは「名」は、あまりにも聞き覚えがあった。
 アウラの知る限り、ソレは「仮面を被る者」という意味を帯びる、とある「神」の異称の一つだった。
 遥かな神期において、北方を統べた死と魔術の神。
 彼がその神格に纏わる聖遺物の持ち主であるという事に加えて、アウラはかつてロギアが言っていた事を思い出していた。

 ────『俺達の敵にも味方にも、そいつらがいるからだよ』

 古き神の力をその身に宿す「偽神アヴァターラ」と呼ばれる者が、アウラやヴォグ以外にも存在しているという事。
 まだ確証を得た訳ではないが、アウラの中で一つの可能性が芽生えつつあったのだ。

(やっぱ、偽神は身の回りにも)

 そんな考えが、顎に手を当てるアウラの脳裏を過る。
 あくまでも推測の域を出ないが、十分に考えうる。
 考え込む彼だったが、レイズはそのまま言葉を続ける。

「そういえば、アウラ君と一緒に行ったクロノって子も、確かラグナ君の教え子だったんだっけ?」

「クロノは去年の定例会が終わった辺りから、シェムさんに言われてラグナって人と一緒に魔獣やらバチカル派の掃討に専念してたって言ってましたね。ルーン魔術や神言魔術とかは、彼から教わったらしいです」

「神言魔術って……私やラグナ君みたいな主力が抜けても、とんでもない人材がいたのね」

「エドムの冒険者とひと悶着あった時にも、なんだかんだあちらの魔術師を圧倒してましたからね。エイルさんが止めに入ってなけりゃ、そのまま一方的に仕留めてましたよ」

「その子、前職で暗殺者か何かやってた?」

「いや、本人曰く実家は畑仕事やってるみたいです。どうにも、その家の家宝だった鎌を貰い受けて使ってるみたいですがね」

「随分と個性的な子が主力を担ってるのね……私がいなくて少し心配だったけど、大丈夫そうで良かった」

 安堵したように、レイズは表情を緩ませる。
 エリュシオンのツートップの魔術師が抜けているという事の重要性は、本人が何よりも理解しており、心配な部分でもあった。
 
「レイズさんが気にする事ないですよ。もしかしたら、シェムさんはレイズさんが抜けても問題無いようにクロノに経験を積ませたのかもしれないですし。今は家族との時間を大事にして下さい」

「そう言ってくれると嬉しいな。一身上の都合で暫く身を引かせて貰ったから、そこだけは心残りだったの……まぁでも、アウラ君も頑張ってるみたいだし、安心したよ」

 満面の笑みと共に、彼女は言い切った。
 先達として、後輩の様子というのは気になるもの。自分が長らく身を置いていたギルドであれば尚更の事だった。
 加えて、親しい後輩が主力として頭角を現しているなら、安心して任せられる。
 胸のつかえが取れたかのように、晴れやかな表情をしていた。

 丁度会話が一区切りした頃、丁度良くテーブルに注文した料理が運ばれる。
 香ばしい焼きたてのパンに瑞々しいサラダ。魚の切り身をソースで煮込んだと思しき料理からは、スパイスの香りが鼻腔を擽る。
 直接脳を刺激し、食欲を湧き上がらせるようなメニューである。

「それじゃ、食べよっか」

「そうですね」

 二人は顔を見合わせて、久々の食事を楽しむのだった。
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