1 / 88
序章
プロローグ『テウルギア』
しおりを挟む「────それ程の傷を負って尚、まだ足掻くのか。偽神」
冷たく、重い声が響いた。
「彼ら」がいるのは、月夜に照らされた街の中だった。しかし街といっても、そこに人々の活気など無い。家屋の壁には鮮血が迸り、所々が崩落している。より簡潔に言うのであれば、「戦場」と言えよう。
人々が寝静まる時間帯の夜。そこにあったのは、二人の男の影。
一人はフードのついた黒衣を身に纏い、対するもう一人は頭や脇腹、腕から血を流した銀髪の青年だった。
後ろは壁。
血塗れの青年に、最早逃げるという手段は残されていない。
息は荒く、真っすぐ立つ事は困難な程の深手を負っている。寧ろ、常人であれば既に倒れていても可笑しくはないが──それでも尚、その双眸は眼前に立つ男を睨みつけていた。
銀髪の青年は、己の全てを投げうってでも、この男の命を刈り取る。ただその「執念」だけを支えに立っていた。
一瞬でも気を抜けば飛びかねない意識を根性だけで繋ぎ止めながら、青年は言葉を絞り出す。
「当たり前……だろうが……」
口元の血を拭いながら、精一杯の力を振り絞って言葉を返す。
何故、まだ戦意を持ち続けるのか。
それは彼にとって、答えるのは至極簡単な問題だ。
──後悔したくないから。
その身が朽ち果て、命の灯火が消えるその瞬間まで、己が誇れるような人間でいる為だ。
では、楽にはなりたくないのか。
──どうせ死ぬのなら、最後の一秒まで足掻け。何も為せないまま死ぬ事を許容するな。
「楽になりたい」などという理由で自ら死を選ぶなど、今なお奮闘している仲間。そして、自分自身への裏切りに他ならなかった。
ただそれだけの、簡単な理由。
こちら側に来てから、青年には特に目的などは無かった。
与えられた祝福は代償ありき。戦う為にも欠陥は多くあるが、どれ程劣っていようと、彼には戦う力が備わっていた。
あらゆる危険から逃れる術はあったろうに、彼は茨の道を選択したのだ。
「……俺だけ簡単にリタイアして良い理由なんて何処にも無い、んだよ……」
フラフラになりながら、己の唯一の武器を握り締める。
敵意と決意を秘めた瞳で、立ち向かうべき敵に挑む。
「戦う手段が残されているのなら、出し惜しんで死ぬなんて真似……できないだろ。たとえ──」
──たとえ、それが「命」を代償にする禁忌であっても。
命に代えても、最期まで己が決めたルールを貫き通す。
彼の言葉を聞いても、眼前に立つ男の表情は何一つ変わらない。道の傍らにある生物の亡骸を見るような、死に対して何の関心も持ち合わせていない、人外の眼。
命を奪う事になんの躊躇いも持ち合わせていない、人殺しの眼をしていた。
「つまらないな。時間の無駄だった」
男がそう吐き捨てると同時に、背後に黒い翼のようなものが展開する。
背後から月光が輝くさまはいっそ「美しい」とすら感じさせるが、神聖な天使には程遠い。寧ろ、人の命を奪う鬼神や死神という例えが、その男にはどこまでも相応しかった。
その翼は鞭のように変化し、常人の瞳では捉えられない程の速度で彼に迫る。
狙うは首。青年の息の根を完全に止める、絶命に至る最短距離を突っ切った。
瞬き一つの間に、彼の首は宙を舞う。
回避する事は不可能。約束された死を待つことだけが、彼に許された唯一の慈悲だったが────彼は、
「────テウルギア」
そう、力の籠った声で呟いた。
直後、何かが切り裂かれるような音と共に、青年──雨宮海の視界は断ち切られた。
7
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~
ふゆ
ファンタジー
私は死んだ。
はずだったんだけど、
「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」
神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。
なんと幼女になっちゃいました。
まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!
エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか?
*不定期更新になります
*誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください!
*ところどころほのぼのしてます( ^ω^ )
*小説家になろう様にも投稿させていただいています
精霊のジレンマ
さんが
ファンタジー
普通の社会人だったはずだが、気が付けば異世界にいた。アシスという精霊と魔法が存在する世界。しかし異世界転移した、瞬間に消滅しそうになる。存在を否定されるかのように。
そこに精霊が自らを犠牲にして、主人公の命を助ける。居ても居なくても変わらない、誰も覚えてもいない存在。でも、何故か精霊達が助けてくれる。
自分の存在とは何なんだ?
主人公と精霊達や仲間達との旅で、この世界の隠された秘密が解き明かされていく。
小説家になろうでも投稿しています。また閑話も投稿していますので興味ある方は、そちらも宜しくお願いします。
猫の魔術師〜その猫がいずれ最強になるまでの話〜
翡翠由
ファンタジー
その猫は路地裏で死にかけていた。食べるものが底をつきついには餓死寸前にまで至った時、一人の魔術師に拾われた。〈虹の魔女〉と呼ばれるその魔術師は魔術界で最強と言われる魔術師であり、猫はそんな魔術師に魔術を教えてもらうことになる。「『師匠』に認められたい!」という思いでその猫は『最強』の隣を目指していく。
引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る
Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される
・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。
実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。
※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。
JK LOOPER
ネコのうた
ファンタジー
【最初にドーン!】
現代の地球にて、突如、[神のデスゲーム]が執行されてしまいます。
日本の、とある女子高生が、ひょんなことから、タイムループしたり、ジョブチェンジしつつ、終末に挑んでいく事になりました。
世界中を巻き込んでの、異形の者たちや人類との戦いの果てに、彼女らは未来を変えられるのか?!
それとも全滅してしまうのか??
といった、あらすじです。
【続いてバーン!】
本編は、現実世界を舞台にしたファンタジーです。
登場人物と、一部の地域や企業に団体などは、フィクションであり、実在していません。
出来るだけグロい描写を避けていますが、少しはそのような表現があります。
一方で、内容が重くならないように、おふざけを盛り込んだりもしていますが、やや悪ノリになっているのは否めません。
最初の方は、主人公が情緒不安定気味になっておりますが、落ち着いていくので、暖かく見守ってあげてください。
【最後にニャ―ン!】
なにはともあれ、楽しんでいただければ幸いです。
それではこれより、繰り返される時空の旅に、お出かけください。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる