ただ一つだけ

レクフル

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決戦

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 囮にされた側室のエミリアとその息子である王子。

 足の拘束だけを解き、保護するように騎士達は二人を支えた。

 その時、俺は異変に気づく。

 それは小さな音だった。何かに反応したような、普段なら聞き逃す位の僅かな音……これは……!


「陛下! その女性から離れてください!!」

「なに?!」


 言うや否や、エミリアと名乗った女性が光りだしたと思ったら、大きな音を立てて突然爆発したのだ……!

 辺りを巻き込む程の爆発に、王室内の家具や調度品等の物が被害を受け、粉砕して弾け飛んだ。
 
 俺は危険を察知して、咄嗟に味方に結界を張った。だが、エミリアと王子、そして二人を支えていた騎士二人が爆発の犠牲になった。

 辺りはおびただしい血飛沫と肉片にまみれていて、何が起きたのかと皆が呆然と立ち尽くしている状態だった。

 俺には女性が爆発した瞬間がスローに見えていた。腹から全身にわたり光っていくと、それが爆発し、胴体から順に皮膚が裂け骨が飛び出し、爆発物が飛び散ると同時に手足も徐々にそれが行き渡るように裂けていき、次々と小さな肉片となり飛び散っていく。

 胴体から首、顔へもそれは広がっていき、ひび割れて行くように美しい造形をした顔面はその形を崩し目玉は飛び出し、血飛沫と共に弾け飛んでいった。
 骨が砕かれ、それが爆風によって辺りに飛び散り、まるで攻撃するかのように物を壊していった。
 
 エミリアから発せられた爆風によって、傍にいた王子と騎士の二人も弾けるように飛ばされた。

 その一瞬の出来事に対応できたのは俺だけで、殆どの者が何が起こったのかも分からない状態だった。

 だが次第に状況を把握していく。エミリアの体内には爆発するような魔法が仕掛けられていたのだ。
 結界を張ったから自身には被害はない。飛び散った肉片や血飛沫にも影響は受けていない。しかし、このあまりにも非人道的な行為に、誰もが憤りを覚えたのだ。

 エミリアの姿は何も残らなかった。弾かれるように飛んだ王子と騎士の二人はかろうじて原型をとどめていたが、所々が欠損しており、既に生き絶えているのは誰が見ても明らかだった。

 
「こんな事を……平気で……! 身内ぞ?!
なぜ己の身内をこう易々と犠牲に出来るのだ?!」

「考えられません……有り得ない……」


 俺はそう言うのが精一杯だった。皆には一瞬の出来事だったろうが、俺は細部に渡って見えてしまっていたのだ。動悸がおさまらない……

 状況を把握した騎士達は、亡くなった同僚の騎士二人に駆け寄り容態を確認する。皆が憤り涙し、そしてこの国の王への敵意を更に高めたのだ。

 俺は一人立ち竦みながらも、自分の心を落ち着かせるのに必死だった。ここにジルがいなくて良かった。こんな場面、見せなくて済んで良かった。

 あぁ、それでも……

 今すぐジルに会いたい……会って癒されたい…… 

 そんなふうに思った瞬間、俺自身が淡く光りだした。それは全身へ行き渡り、じんわりと暖かくなっていく。
 優しい光に包まれた俺は目を閉じる。それはジルに抱き締められているような感覚に似ていた。その状況に身を委ねていると、今まであった動悸は無くなっていた。
 
 目を開けると、シルヴェストル陛下が俺を見て驚いていた。他の何人かも俺を凝視していた。


「それは……ジュディスの力か……?」

「……恐らく……そうかと……」

「そうか……聖女の加護を得ていたか」

「はい。先程まで、この状況に動揺しておりましたが、もう大丈夫です。陛下、気を緩めてはなりません。既にここは敵に囲われています!」

「そうだろうな。皆、すぐに態勢を整えよ!」


 俺が正気を取り戻し、皆がシルヴェストル陛下の言葉を受けて瞬時に態勢を整えたその時、両開き扉が大きな音を立てて勢いよく開かれた。

 すぐに俺は強固な結界を張る。その僅かな瞬間に、敵は攻撃を仕掛けてきたのだ。
 膨大な魔力に任せて、無数の氷の矢が飛んできた。だがそれは俺の張った結界にて阻まれた。
 
「チッ!」
と言う舌打ちが聞こえてきて、姿を現した人物には見覚えがあった。
 いや、正確には初めて見た人物だ。それでもその顔に覚えがある。

 ミロスラフ……

 ソイツはヒルデブラントとよく似ていた。若い頃のヒルデブラントはこうだったのだろうと思えるような容姿だった。
 
 皆が警戒する中、両陛下は互いが強固な結界に守られながら前へと進み出る。


「貴様がミロスラフか」

「蛮族に名乗る名等ないわ!」

「それは余も同じだ。自分の身内をこうも容易く滅してしまえるとは、人間のすることではない」

「国の為に死ねる事こそが誉ぞ。使い道があっただけでも、奴等は幸せだろうぞ」

「話にならん。腐りきった性根は治らぬようだな」

「役に立たぬ奴等にも、せめて最後は華々しく散らせてやろうとした此方の温情ぞ。それがほぼ戦力を削げなかったとはな。やはりなんの役にも立たぬ奴等だったか」

「反吐が出る……! 貴様とは決して相容れる事はない! 貴様を倒す!」

「それは此方の言い分ぞ!」


 その言葉が合図のように、互いの陣形から魔法が飛び交った。部屋にしては広いが、戦闘するには狭いこの空間で、突如としてそれは始まったのだ。

 魔術師達は敵の結界を破る呪文を唱え続け、加えて此方の結界を強固なものにしていく。そんな中でも攻撃を仕掛けている。流石だ。

 俺は個人個人に結界を張っていく。無限とも思える程に湧き出る魔力を惜しみ無く使っていく。
 向こうも同じようにしているのだろうが、此方の方が魔法力には長けていると思われる。

 ただ、此方が50人程の人数に対して、敵はその倍以上の人数がいるようだ。
 しかしこの空間にそんな人数が入る事はできず、後ろに控えてる魔術師達が魔力を供給しているといった状態なのだろう。

 張られた結界から飛び出して敵に向かうのは、ヴァルカテノ国一と言われる剣士だ。もちろん彼自身にも強固な結界を張っている。
 その彼に続いて10人程の騎士も続く。そこに俺も同じように飛び出ていった。

 氷の矢が飛んできて、下から土の槍が飛び出てくる。俺はそれを瞬時に無効化していく。ジルの加護か、こんな事も容易にできるようになった。

 
「結界に守られて、そこから一歩も出られないとは情けない奴等だな! この国に剣士は一人もいないのか!」


 その声に苛立った敵陣から、何人かの者が結界の前に出てくる。挑発に乗った愚かな奴等と、剣士はニヤリと嘲り笑う。

 
「貴様ら蛮族等、恐るるに足りぬわ!」

「そう言うことは勝ってから言え!」


 向かってきた相手に、剣士は剣を振るう。敵は俺もよく知っている人物だった。フェルテナヴァル国の剣豪と呼ばれるこの男は、血気盛んな男だった。

 二人の戦いは、まるで剣技を観ているようだった。無駄のない動き、相手の行動を読み取り剣を受け、攻撃していく様はなんと美しいのかと、この場が戦場であるのに関わらず見惚れてしまう程だった。

 しかしそんなふうに見てばかりはいられない。
 此方に向かってきた敵に、俺も対抗していく。

 剣に魔力を這わせ、自身に身体強化をかけて挑んでいく。この場にいる敵の騎士はよく知っている人達だった。

 共に鍛練した仲間と、自分の上司だった人達だ。俺は人とは馴れ合いはしなかった。それでも何も情がなかった訳ではない。恩義を感じていたし、いつかこの人達に報いるように貢献できればと考えていたのだ。

 その恩義をこうして無下にする事しかできない自分が情けなくて腹立たしい。
 
 それでも……!

 それでも俺は決めたのだ。ジルの為に出来る事なら何でもすると……!

 だから迷うな。戸惑うな。

 彼等は俺たちの敵なのだ!
 
 

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