ただ一つだけ

レクフル

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敵になる

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 翌日、俺は騎士舎に赴いた。

 そこで模擬戦を行い、実力を見て貰うのだ。

 広々とした訓練場には、俺の力量を見る為の審査官や判定士もいるが、見学にきた騎士や兵士も多かった。まるで見世物だな。

 相手は、まずは下級の騎士だ。魔法を使う事はせずに、純粋に武力だけで戦う。レベルによって、更に中級、上級の騎士と戦う事もあるそうだ。
 その後、同じ様に下級の魔術師と魔力だけで戦い、最後に武力と魔力なんでもアリの戦いをする、と言う具合だ。

 ジルもここに来て、俺の模擬戦を観る事になった。それもあって、見物する者が多いのだろう。いや、だから、か……
 さっきから皆の視線はジルへと向けられている。それは見ずにはいられない、といった感じで、顔を高揚させ口をポカンと開けて、ほおけた状態でいるしかできないようだった。
 
 気持ちは分かる。俺もジルを見ると、心が鷲掴みにされたようになってしまう。あの笑顔が俺に向けられるのが信じられない時がある。本当に俺の恋人と思って良いのかと自問してしまう程に。

 ジルに用意された席は、王族が座るように豪華で、陽避けのテントが設置され、下には見るからに高そうな絨毯が敷かれている。
 椅子はゆったりと座れるクッション性の優れた高級な物が置かれ、その傍にはテーブルがあり、お茶やフルーツ、軽食等も用意されてあった。
 後ろには侍女と従者等数人、そして護衛の近衛隊も数人控えており、横には給仕が二人ちゃんと控えている。

 ジルは王女で聖女だから、この対応は何も間違ってはいない。間違ってないんだけど、慣れないジルは萎縮したように辺りをキョロキョロ見ながら、俺に何かを訴えたいような眼差しでいる。きっと
「どうしよう、リーン! 私何したらいいの? どうしたらいいの?」
とか、思ってるんだろうな。

「ジルは何もしなくて良いから、そこでゆっくり俺を見ていてくれ」
と言う気持ちを込めて笑いかける。
 俺の意思が伝わったのか、ジルがコクリと頷いてくれた。
 ジルが観ているから、下手な試合は出来ないな。気合いを入れなければ。

 対峙する相手は騎士職2年目の、俺とそう年は変わらない奴だった。試合開始の合図と共に、ソイツはすぐに駆け寄ってきて、大振りに剣を振り上げてきた。
 その瞬間、俺は懐に瞬時に入り込み、がら空きになった胴体目掛けて剣の柄の部分でドンッと打った。
 溝内を打たれたソイツは、
「ぐはっ!」
と声を出して尻餅を着いた。すかさず首元に剣を突き付けると、ソイツは顔面蒼白となり俺を見上げた。
 そこで試合終了の笛がなり、一回戦が終わった。

 ジルの方を見ると、両手を胸に祈るような感じで握り、俺を羨望の眼差しで見ていた。
 ニコリと笑うと、嬉しそうに微笑んで大きく両手を振ってくれる。
 嬉しいけど、ちょっと恥ずかしい……

 一瞬で方をつけたのを見て、辺りはザワザワとした。何が起こったのか分からなかった者も多かったようだ。
 
 もっとしっかり試合を見たいのだろう。次は中級の騎士がやって来た。その試合も難なく終える。俺はこれでも騎士は15年程従事していた。9歳の頃に入団してからジルを連れ出すまでずっとだ。
 日々の鍛錬も手は抜かなかった。と言うか、抜くことを許されなかった。だからある程度の剣技は身に付いていると思っている。
 しかし、この国のレベルが分かっていない。だから全力でいかないと。

 次に上級者が現れた。流石は上級とあって、先程のように簡単には勝たせては貰えなかったが、それでも剣捌きは粗が目立つ。きっと、俺はこの国では客人扱いになっているだろうから、相手も気を遣ってくれているのだろう。
 そんな気遣い等必要ないのにな。

 足の動き、視線、呼吸、腕の筋肉の動き等から、次の一手がどう来るのかを読み、瞬時にそれに対応していく。振りかぶった所を捌くように剣の柄の近くを打つと、剣は手から離れて孤を描いて飛び、地面にグサリと刺さった。
 飛んで行った剣を目で追っていた騎士の目の前に、俺は剣を突き付けた。これで試合終了だ。

 辺りは騒然とした。その中でもジルだけが嬉しそうに手を叩いて拍手してくれていた。
 聖女が拍手しているのならそうしないと、とでも思ったか、拍手は徐々に広がってくる。それでも戸惑っているようだった。

 一旦休憩との事で、俺はジルの傍に行こうとするとそれを近衛隊に阻まれる。

 全く……面倒だな……

 ジルの前に近衛隊はいて、後ろでジルは困ったようにオロオロしてる。


「邪魔だから退いてくれないか」

「聖女様に近づく事は許可できない。下がられよ」

「リーン! リーン! あの、おめでとう! 凄かったよ! やっぱりリーンは強いんだね!」

「あぁ、ジル。ありがとう。ちゃんと見てくれていたんだな」

「当然だよ! でも、この人達どうして私の前にいるの?」 

「なんでだろうな」

「ねぇ、どうして邪魔をするの? ちゃんとリーンと話したいの。そこを通して貰えないかな」

「しかし、聖女様に危険があっては困ります。この者の身元はまだハッキリしていないと報告を受けておりますので……」

「リーンは私の恋人なの!」

「えっ?!」

「ジル、そんな大声で……!」


 ジルの言った一声で、その場は騒然とした。
 
 皆の目が俺に集中してくるのが分かる。その目は、嘘だろ、とか、なんでこんな奴が、とか言い出しそうな感じで、それは徐々に睨み付けるような視線へと変わっていく。

 あぁ、俺はここにいる男共全員の敵になってしまった…… 
 

 
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