ただ一つだけ

レクフル

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国の行く末

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 ヴィヴィに媚薬を飲まされた。

 その媚薬はこの国では違法薬物となっていて、これを持ち込んだヴィヴィはまた捕らわれてしまうようだ。

 本当に、アイツは何がしたいんだ……

 どうなるのかは今後また確認するとして、それよりも気になったのが、ジルはずっと俺がヴィヴィを好きだと思っていたと言う事だ。

 確かにジルにそんな話をした事がある。それはまだヴィヴィがあの塔にいて、俺がその姿を見て聖女と思い込んでいた時の事だ。
 自分のせいで囚われの身となった聖女に贖罪の気持ちは確かにあったし、遠目にみたヴィヴィは何だか悲しそうに見えたから、それをどうにかしたいと思ったのは事実だ。

 だけど、ヴィヴィは聖女ではなかった。

 俺のせいで囚われの身となり、虐げられてきたのはジルだった。

 それには責任を感じている。だけどそれだけの感情じゃない。ジルを愛しいと思う。離したくないし、離れたくないと思う。
 ジルにしか触れたいと思わないし、ジルが幸せであれば、他はどうでも良いとさえ思ってしまう。

 こんな感情は初めてだ。ここまで誰かを想うなんて事は今までなかった事で、それに俺自身が戸惑ってしまう程だ。

 でも、俺のそんな気持ちは伝わっていなかったのだ。ずっとジルは不安だったんだろうな。他に好きな人がいるのに、俺がジルにあんな事をするのに疑問があったんだろうな。

 ちゃんと言葉に出して伝えないといけなかったんだな。俺の気持ちは伝わっているものだとばかり思っていた。
 それでなくても、ジルは普通が分からないのだ。人に何かを教えて貰うと言う事が今までされてこなかったんだ。
 
 これからは気持ちを全て伝えよう。そうしないと、また勘違いして間違った行動をするかも知れない。
 ちゃんとジルに伝わるように、言葉にしていかなくては。

 しかし、ジルが空間を自在に移動できるようになっていたのには驚いた。
 おそらく首飾りが外れた事で、自分の力を取り戻したからできるようになったんだろう。他にもできる事が色々あるかも知れないが、無理に何かをさせようとする必要はない。それはシルヴェストル陛下も同じように考えているようだった。

 俺は今、応接室にいる。そこにはシルヴェストル陛下と俺、ジル、そしてシルヴォがいる。
 まぁ、他にも執事に侍女と侍従もいるが、シルヴェストル陛下は防音の結界を張って話が聞こえないようにしている。

 そこで、ジルが俺とヴィヴィがベッドにいるところを見て走り去った後の事を聞いたのだ。
 ジルは思い浮かべた場所に行けるようになっていた。その力で前に泊まっていた宿屋へ行ってしまい、宿屋を出た所でシルヴォと会ったのだそうだ。

 シルヴォからも話を聞いた。ジルと別れた後、どうしていたのかも。

 それから、今フェルテナヴァル国がどうなっているのかも聞いた。


「フェルテナヴァル国は今、隣国と国境にて睨み合っている状態です。聖女の恩恵として捧げたモノ・・が突然光りだし、忽然とその場から消えたのですから。それはフェルテナヴァル国を有利にする為の交渉材料だったので、無くなってしまってはその契約も守る必要はないのでしょう」

「その交渉材料とされたモノが……ジュディスの腕や脚だったのだな……?」

「はい。それがあると、広範囲で瘴気を祓えていたのです。空気が澱み、生活する事も困難になっていた国からすれば、まさに天から降り注ぐ一筋の光のように思えたでしょう。それは救いであり、希望だったのです。だからフェルテナヴァル国は足元を見て、かなり厳しい条件を出していたようですね」

「しかし、今は瘴気は無くなっていると聞いておる。ジュディスから首飾りが弾け、力を取り戻してからというもの、我が国ヴァルカテノ国以外の国でも、瘴気は祓われ空気は浄化し、清浄な状態であるとの報告が上がっておる。そうであれば争う必要はないではないか」

「えぇ、おそらくは現在、瘴気に侵されている場所はないと考えられます。まだ調査中ですが。ですが、交渉した時にかなりフェルテナヴァルは上下関係をハッキリさせたようでして、例えば物資を定期的に無償で送る事や、通行税をこちら側のみ無償とする事等、かなり無理を言って交渉したらしいのです」

「完全に瘴気に侵されてしまえば、国が衰退、滅亡する程の脅威だ。どれ程無理難題を言ってきたとしても、仕方なく受け入れるしかなかったのだろうな。国民を守る為なら、余とてそうするだろうぞ」

「そうです。なので泣く泣く従った、と言った状態だったのです。しかし、その必要は無くなった。弱味につけ込み、ある意味虐げてきた国に反旗を翻そうと思うのは当然の事でしょう」

「そうだな。交渉材料が消えたとなれば、契約の話は無くなる。協定や同盟と言ったものは、悉く崩れてしまったわけだな」

「はい。現在フェルテナヴァル国は、四方の国の脅威に晒されている状態です」

「それは自業自得と言うものだろうな」

「フェルテナヴァル国は小国です。貧しい訳ではありませんでしたが、豊かな国という程の事もありません。リーンが飲まされた媚薬を国がらみで製造し、密輸して近隣国に売り捌いていました。得た収入は一部の王族と貴族の私腹を肥やす物でしかなりませんでしたが」

「悉く腐りきった国だな」

「ですから、綻びが生じるのも早いのです。他国からの脅威に対抗する為の兵士は一般市民となるでしょう。四方からの攻撃に対応するのに、明かに人手が足りないんです。男ばかりでなく、女性も駆り出される可能性はあります。働き手がなくなった国は衰退します。食料等の物資も滞るようになり、あちこちで暴動も起こるようになるでしょう。これは推測ですが」

「いや、その推測は事実となるだろうな」

「これは聖女を蔑ろにした国の末路と言っても過言ではないでしょう」

「そうだな」


 俺とジルは、シルヴェストル陛下とシルヴォの話を、二人で寄り添うようにして大人しく聞いていた。

 フェルテナヴァル国の近い未来に思わず息を飲んでしまう。しかし、それだけの事をしてきた国だ。だからそうなっても仕方がない。

 それでも、俺の育った国だ。僅ながらに知り合いもいる。俺とジルがあの塔から逃げ出すのに力を貸してくれた侍女もいる。

 ジルもきっと、そんな事を考えているのだろう。さっきから悲しそうな顔をしている。 

 上層部の人間達は、ハッキリ言ってどうなっても良い。しかし、それに巻き込まれる国民は堪ったもんじゃない。どうにか出来ないかと考えてしまうが、俺の力ではどうする事も出来ない。

 俺は本当に無力だ。

 またそう思い知らされたのだった。

 


 
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