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別離
しおりを挟む一通り村を巡り、紹介を終えてから俺達は再び村長の家まで戻ってきた。
本当はその日のうちに王都へ戻るつもりで出立しようと思っていたのだが、ジルが俺にくっついて離れないのを見て、村長が
「今日は泊まっていったらどうか」
と提案してきたので、その申し出を受けて泊まることにした。
その夜は村の人々が村長の家に集まり、ちょっとした宴会のようになった。俺の知っている人が何人もいて昔話に花が咲いたのだが、それをジルは嬉しそうにただ聞いているだけだった。
何度もジルに話しかけていた村人達だったが、ジルがあまり言葉を返さないのを見て、俺はついフォローを入れるように話に入っていく。元々口数は少ないが、やっぱり凄く人見知りするようだ。
こんなのでジルはやっていけるのか……?
いや、いつまでも俺が傍にいてやる事なんてできないんだ。だからここでジルは生きる術を培っていかなければならないんだ。
そう自分に言い聞かせるようにして、自分自身に無理矢理納得させた。
その日はジルと同じ部屋で寝る事になった。
ジルは暑い日でも外套をしっかり被り、手袋を外すことはしなかった。それは食事中でもだ。
眠る時は外套を脱ぎはしたが、衣服は着替えずに、手袋も外さずに浄化させてからベッドに入った。
俺は軽装になって、隣に設置された簡易ベッドで就寝につく。ずっと俺の方を向いて見ているジルに、ついまた笑みが浮かんでしまう。
「ジル、眠れないのか?」
「ん……」
「慣れない環境だからな。けど村長やこの村の住人達は皆良い人達なんだ。人見知りしてしまうかも知れないけど、少しずつジルの事を分かって貰えば良い。そうしたらきっと、ジルはここで皆に愛されて生きていける筈だから」
「それ、は……」
「まだ不安か?」
「ん……」
「大丈夫だ。ジルは人を癒す力がある。皆、きっとジルを大切にしてくれる。俺もまたここに来るから。な?」
「ん……」
「そんな切ない顔をするな。手を繋いでやろうか?」
「大、丈夫……」
「そうか。ほら、もう寝ろ。俺も明日は早くに出るから」
「ん……リーン……」
「ん? なんだ?」
「今まで……あり、がとう……」
「今生の別れみたいに言うなよ。また会いに来るからさ」
「ん……」
そう言ったジルはゆっくりと微笑んだ。その笑顔を見て、俺は瞼を閉じた。こうやって眠りにつけるは本当に心が安らぐ。ジルは俺にとってかけがえのない存在となっているんだな。
翌朝、村長が用意してくれた朝食を3人で摂ってから、俺はこの村を出る為に準備をする。
ジルにはこれまでの旅で魔物等を倒して稼いだ金を渡した。なかなかそれを受け取ろうとしなかったが、俺が押し付けるように渡したら何とか受け取ってくれた。
出る準備が出来てもジルはずっと傍にいて、このまま俺について来るのではないかと思わせる程、ピッタリとくっついて離れなかった。
村長とジルが見送りに門までゆっくりと歩いてくる。
「じゃあな、ジル」
「リーン……」
「ん? どうした?」
「これ……」
そう言ってジルは自分の首に着けていた、二つあった首飾りの一つを外し、その首飾りを俺に手渡した。
「俺にくれるのか?」
「ん……」
それは白銀色に輝く鎖が美しいロケットペンダントだった。
「リーン、それ、身に付け、てて」
「あぁ。分かった。鎖はジルと同じ髪色だな。ロケット部分には俺の瞳の色の紫の石だ。もしかして前に買い物したのはこれだったのか?」
「ん……」
「そうか。自分の物を買えば良かったのに……いや、でも嬉しいよ。ありがとな」
「ん……」
「このロケットの中に何か入れてるのか?」
「それ、は、開けちゃ、ダメ!」
「いけないのか?」
「ん!」
「分かった。大切にするよ」
「ん……」
言われたとおり、すぐロケットペンダントを首に装着する。それを見てジルはホッとしたように笑った。
そんなジルの頭をグシャグシャって撫で付けて、
「じゃあ元気でな」
と告げるとジルはまた微笑んだ。
別れる時は泣かれるかもと思ったが、ジルはちゃんと笑えたようだ。きっと俺に心配させないようにと考えての事なんだろう。
それから背を向けて村から離れていく。
時々後ろを振り返ると、ジルはいつまでも俺を見送っていて、微笑みながらずっと手を振り続けていた。後ろ髪を引かれる思いで俺も手を振りながら、それからは後ろを見ないように足早にその場を離れた。
これが最後じゃない。また会えるんだ。
そう自分に言い聞かせて村から離れていく。
暫く歩いた所で、魔道具の転移石をアイテムバッグから取り出す。これは予め設置しておいた場所に転移できる物だ。かなり高価で希少な物なので簡単に使うことは憚られるのだが、ギリギリまでジルとの旅をしていたから、ここから王都まで帰るのにかなり日がかかる為、仕方なくこれを使うことにする。
因みにさっき出た村にもすぐに来れるように転移石を設置してきた。これは対になっていて、離れた場所からでも魔力を与えると呼び合うようにして、設置した場所にある転移石の元に戻ろうとする。もう一つの転移石を持っている者はそれで転移が出来るのだ。
だから魔力がある者にしかこれは使いこなせない。それでもこれは希少で、貴族で魔力持ちはこれを生業にしている者もいる程なのだ。
それを使って、俺は一瞬にして王都へ戻ってきた。
久しぶりの王都は、旅をする前と何も変わらないように感じる。ここは空気が澄んでいてとても清々しい。やっぱり王都が一番空気が綺麗なのだと感じる。
しかし、何も変わらないと思っていたのは間違いだった。
いや、それは俺が気づかなかっただけで、事態は大きく変わっていたのだ。
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