慟哭の先に

レクフル

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クリームスープ

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 夜、その日の仕事を終えてウルに報告に行く。何かあったらすぐに言うって言ったから、それを守る為に今日あの村であった出来事を話すつもりだ。

 ウルは、じゃあ一緒に食事しようって言ってきて、俺はそれに応じた。
 今日もメイドは胸に手を当てて俺をボーッとした感じで見ているし、侍従のザイルは色紙を後ろに隠すようにして持ってるし、給仕係もチラチラ俺を見てさっきからパン落としたりお茶溢したりしてて、こんな状況の中にいるのが全くもって落ち着かねぇ。

 観劇がどんな話になってるのか、実は前にコッソリ観に行ったことがある。けど、それを観て事実と違う事が多すぎてツッコミたい衝動にかられつつ、けどなんかすっげぇ恥ずかしくなって、最後らへんは観てられなくてずっと下を向いてたな。

 あの物語の中の事が事実と思って俺を見てるんだったら、こんなに恥ずかしい事はない。
 事実と違う事だらけだけど、それを聞かれてもねぇのに言うのもなんだし、聞かれても正直に言うつもりもねぇし、マジで面倒だよな。

 
「どうしたん? 兄ちゃ、難しい顔して」

「え? あ、いや、なんでもねぇ」

「で、なんなん? 報告って。もしかして言うてた気になる村に行ったとか?」

「お、ご名答! 今日その村まで行ってきてな。ウルには何かあったら言うって言ってたからな」

「もう、ホンマに行ったんやな! なんにでも首突っ込んだらアカンって言うたのに!」

「気になっちまったからな。しかし、俺は行って良かったって思ってるぜ?」

「なんかあったんか?」

「あぁ。年に一度祭りをするらしいんだけどな。人を奉納してたんだ。まぁ生け贄ってヤツだな」

「生け贄?! 未だにそんな事してる所ってあったんや!」

「そうなんだよ。それもかなり昔からみたいでな」

「それって何に対して生け贄とか必要なん?!」

「村長の感情を読んだんだけどな。そこはかなり高ランクの魔物が出る地域なんだよ。俺も村に着くまでに何体討伐したか分かんねぇくらいだ。で、それを抑えてる神を信仰してんだとよ」

「魔物を抑えてる神?! そんなんおんの?!」

「俺は聞いたことねぇけどな」

「あたしも初めてやわ。でも兄ちゃやったら魔物を抑えるとか出来るんちゃうん?」

「まぁな。けど、あそこの魔物は強かった。それ以上の魔物がいる可能性があるって事だ。ある程度の魔物は抑えられるよ。Aランクくらいだったら余裕かな。けどそれ以上は試した事ねぇからな」

「凄いな……さすがやわ……まぁ兄ちゃやったらそれ以上の強い奴も倒せるんやろうけどな」

「分かんねぇぞ? 最近そんな強い奴と戦ってねぇしな」

「いやいや。あたし、兄ちゃ以上に強い人知らんで? 兄ちゃで倒されへんのやったら世界は滅亡やで」

「大袈裟だな。まぁ、少々の事で殺られるとは思ってねぇからな。ってか、簡単に死なねぇし」

「そうやけど、やっぱり無理はしやんといて欲しいわ。ってか、調子のってたら足元すくわれんねんで?」

「ハハハ、そうだな。気を付けるよ。で、明日がその祭りで奉納する日らしいんだ。それには俺も付き添うつもりだ。どうなってんのかちゃんと見たいし、このままには出来ねぇからな」

「そうか……そうやな。生け贄ってのは見過ごされへんな。でも、ホンマに気をつけてや? 姉ちゃも見つかってないし、まだ誤解も解けてないんやし」

「そうだな。それが一番どうにかしたい事だ。アシュリーは無事なのかな……」

「ホンマに……でもきっと大丈夫な筈や! あたしはそう信じてる!」

「もちろん俺も信じてるぞ!」


 ウルとそう言い合って、それから楽しく食事をした。けど、そうやって話をしててもやっぱりアシュリーの事は気になっている。


 今頃どこで何やってるんだ?

 体はもう平気なのか?

 目の調子はどうだ?

 ちゃんと飯食えてるか?

 変な奴に言い寄られたりしてねぇか?

 また怪我とかしてねぇか?

 リュカはどうなってる?

 一人で寂しくないか?

 辛くないか?

 なぁ、アシュリー……


 問うようにして何度も頭の中で語りかける。それに答えなんかあるわけねぇ。けど俺はいつも無意識にそうして語りかける。
 
 そして拭えない後悔が胸を締め付ける。


 なぜ俺はウルに会わせなかった?

 なぜあの時眠ってしまった?

 いや、それよりもなぜ俺はアシュリーを見つけてすぐに会いに行かなかった?

 なぜアシュリー以外の人がいると言ってしまった?


 後悔先に立たずとは正にこの事だ。一番に助けてやりたい存在であるアシュリーに、一番酷いことを言って傷付けたのは俺自身だ。反省してもしたりねぇ。

 食事が終わって、家に帰ってきた。

 風呂でも入って寝るか、と思ったけど、違和感に気づく。辺りを見渡して確認する。

 え? テーブルに何かある……

 手紙?! 

 テーブルに置かれた紙に何か書かれている。すぐにそれを手にして読む。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 エリアスへ

 
 リュカだよ。

 今ね、アシュリーは森の中にいるよ。そこで一人でテントで寝泊まりしてるんだよ。

 でもね、ここが何処かは分からないの。昔村だったようで、周りにはボロボロの家とかがあるよ。でも他には誰も住んでないの。

 ずっと出てこれなかったんだけど、やっと出てこれたから真っ先にここに来たんだけど、エリアスはいなかった……会いたいよ。エリアスに会いたい。早く私を見つけてね。待ってるからね。

 大好きだよ エリアス

        
             ーリュカー
 
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 それはリュカからの手紙だった。俺がいない間にここまで来たのか?! 思わず家中を探すけど、やっぱりアシュリーはいなかった。探さずとも、アシュリーの気配はなかったからいないのは分かってたんだけど、それでも探さずにはいられなかった。

 
「リュカ……っ! せっかく来てくれたのに、俺いなくて……ごめん!」


 まさか来てくれるなんて思わなかったから油断してた。リュカが俺に会いたがってくれている事が嬉しくてしょうがねぇっ!

 アシュリーは今一人でいるんだな。森の中……ボロボロの家がある? 昔村だったような所……

 もしかして、アシュリーの生まれ育った村か?! そこはロヴァダ国の兵士に襲われて無くなってしまったって言ってなかったか?

 けどそこにはきっと、楽しかった思い出があったんだろう。家族と過ごした、ディルクと共にあった僅かな思い出を求めて、アシュリーは一人でそこにいるのか……

 ダメだ、泣けてくる……!

 きっと一人で寂しい筈なんだ。でもそれを誰に言う事も甘える事も出来ないで、記憶の中にある幸せに寄り掛かっているだけしかできないんだ。

 家中を探したけどやっぱりいなくて、でもキッチンを見ると何か作ったあとがあった。


「これ……クリームスープ……」


 俺の好きなクリームスープを作ってくれたってのか?! 肉はエゾヒツジじゃなく鳥肉だったけど、その気持ちが嬉しくて、嬉しすぎて、その場から暫く動けないでいた。

 それからすぐに温めて食べる事にする。一口食べてみて、また涙が出そうになる……


「ハ、ハ……これ、リュカの味付けだ……少し濃いめの味付けで……野菜は大きさがバラバラで固いのもあって……けど優しい味なんだよな……」


 これを最後に食べたのはリュカが俺の目の前から消えた後だった。まさかまた食べられる日がくるなんて……
 

「濃いめの味だけど、パンにつけたら丁度良いぞ? 固めの野菜も顎を強化してくれるしな。うん、旨い。リュカ、すっげぇ旨い……!」


 やべぇ……涙が出て止まらねぇ……

 また俺は泣きながらクリームスープを食べる羽目になっちまった。

 リュカ、ありがとな。

 ちゃんと会って言いたい。

 抱きしめたい。

 アシュリー、リュカ

 抱きしめるから。

 必ずまたこの手で抱きしめるからな。



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