慟哭の先に

レクフル

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預言者ヴィクトール

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 ロヴァダ国のとある街にある、この街一番の高級宿屋の最上階。

 その一室にアシュリーを『禍の子』と言った預言者がいる。

 護衛の兵達を退け、邪魔が入らないように結界を施し、厳重に掛かった鍵と防御の魔法を難なく壊して中へ入る。
 自分には姿と気配と音を消す術を掛けていたが、それを一旦解いて姿を現した。けど、容貌は変えておく事にする。今の俺の姿は、白髪混じりの老騎士に見えている筈だ。

 広々とした居間があり、そこにも何人も護衛がいた。
 俺に向かって魔法を放つ術者だが、その魔法を全て無効化していく。俺にそんなヤワな魔法は効かないんだって。
 その様子を驚いた表情で見ている術者は3人で、剣を向けて今にも切りかかってきそうな奴ら諸共雷魔法で感電させて、その場に沈めてやった。

 一人残った預言者。

 ソイツは高級そうな身なりの初老の男で、テーブルにはデッカい水晶が置かれてあったけれどそこからは離れて、逃げ出そうとして壁際へと追い詰められたようにして震えて佇んでいた。


「お前が預言者のヴィクトールって奴か?」

「あ、貴方は……え、英雄……様っ!?」

「英雄とか、そんなんじゃねぇよ。で、お前が言ったんだろ? 『禍の子』を殺せって」

「いえ! 私はそんな事はっ! ただ天から授かった言葉を伝えたまでです!」

「ほう……じゃあお前には何が聞こえたんだよ?」

「私が授かった言葉は、ある双子の女が……英雄様を殺すと……」

「英雄を殺す? 俺を殺すってのか?」

「そのように解釈致しました! 貴方はこの世界を守る英雄……救世主様です! 殺させる等あってはならぬ事と……!」

「ハ、ハハ……俺を殺してくれんのか?!」

「貴方がいなくなれば世界は混沌し、平和ではなくなります! それを排除しようと国王陛下は考えられて……」

「そんな事を言う前に、てめぇの国をどうにかしろって言ってやりてぇけどな。なんだよこの国は。久々にこんな酷い状態の国を見たぞ?」

「それは……私は何度も国王陛下に苦言を呈してきましたが……」

「そう、か……英雄を守る事でロヴァダ国の権威を象徴しようとしたか。浅はかな考えだな」

「私は何度も『禍の子』を殺さずに捕らえる事に留めるように申し上げたのです! そうしなければ更に禍が降りかかるかも知れぬと……!」

「捕らえる? なんか使い道があるとでも思ったか……ってか、殺すとか捕らえるとか、そんな事して良いと思ってんのかよ?」

「ですがそうしないと貴方は『禍の子』に殺されてしまうのですよ!」

「そうか……俺を殺しに生まれて来てくれたのか……」

「そうなればこの世界はどうなります?! 貴方が守ってきたこの世界が乱れるのですよ?!」

「お前にんな事を言われる筋合いはねぇ。それよりも自国を豊かにする方法を考えろよ」

「そ、それは私の役目ではなく……」

「都合の悪い事は聞かねぇってか? まぁいい……帰って国王に伝えろ。もし今度『禍の子』を襲ったりしたら、俺がお前を殺しに行くってな。分かったか?」

「は、はい……」

「お前らに守られる程、俺は落ちぶれちゃいねぇんだよ。殺してくれんならこんなに嬉しい事はねぇからな」

「…………!」


 そう言い残して俺はその場から消えた。
 一応預言者にも分からないように、小さなゴーレムの姿を消した状態でつかせたけどな。

 そうか……アシュリーは俺を殺しに生まれて来てくれたのか……

 約束……

 あの時約束をした。俺が魔物に襲われて命を失いかけた時、アシュリーが会いに来て言ってくれた。


「私はいつか、またエリアスの元へ行くよ。エリアスを助けに行く。絶対だよ。約束する」


 そう言ってくれた。

 その約束を覚えてくれていたのか? 
 だから生まれてきてくれたのか?

 それが本当なら、こんなに嬉しい事はない。俺は死ぬ事が出来るのか? アシュリーと天に還る事が出来るって事なのか? そうしたらリュカにも会えるかも知んねぇ。何処だって構わねぇ。リュカとアシュリーがいてくれるんなら、俺はその場所が何処であろうとも構わねぇんだ……

 そんな事を、ふと考えてしまう。その一瞬だけでも、すっげぇ幸せな気持ちになった。
 まだ俺はこんなにも求めてしまうんだな……

 しかし、あれからアシュリーが何処にいるのか分からない状態だ。とにかくアシュリーを見つけ出さないと……

 けど、考えれば考える程に思っちまう。ロヴァダ国の国王ってのはバカなのか? 俺を殺しに来る『禍の子』を事前に殺す事で、俺に恩を売ろうってのか?
 考えが短絡的過ぎんだろ? そんな事より、この国をちゃんと繁栄させる事に力を入れろよ。ざっと見ても、この国は酷ぇぞ?

 姿を消して風魔法で上空を飛びながら、あちこちに見える景色を見てそう思った。街や村も寂れてる所ばっかだけど、街道とかもちゃんと整備されてねぇ。これじゃあ商人が行き来するのも時間が掛かる。物流が滞ると人々の暮らしは潤わない。それを分かってねぇのか?

 とにかく国王がどんな奴か気になるな。探りに行くか。

 オルギアン帝国に関わりのない国には、俺も関わろうとはしなかった。ってか、オルギアン帝国とその属国だけでも広範囲な状態だから、これ以上増えるのも厄介だったからな。
 
 けど、今回ロヴァダ国がアシュリーを狙ってるって知って、俺はこの国に興味が沸いた。ってか、国王がどんな奴か見たくなった。まぁ、ロクな奴じゃねぇだろうけどな。

 だから上空を飛んで様子を伺う。街並みや人々の暮らしなんかもしっかり見ておく。気になる所があれば降りたって、じっくりと確認するようにしていく。
 
 そうしていて分かった。この国は何処の街や村も生活が困窮している。しかし、こんなに苦しい状況なのにも関わらず、皆が国王を神のように敬っている。
 いや、敬わざるを得ない状態か……

 少しでも悪く言おうものなら、すぐに兵士に拘束されてしまう。親しい者同士でも、油断ならない程に監視の目は何処に潜んでいるのか分からない。自分達が生活出来ているのは、全て国王のお陰であると、どれだけ生活が苦しくとも尊敬の眼差しで崇めているのだ。
 
 
「異常だな……」


 それが俺の率直な感想だった。

 『禍の子』に手を出すなと言ったけれど、こんな国の王じゃどう出るか分かったもんじゃねぇな。
  
 
「えっ?! なんでだ?! なんでっ?!」


 いきなり飛び込んできた情報に俺は驚きを隠せなかった。

 上空を飛びながらも、俺は常にゴーレムの様子を伺っていたが、武力に特化させたゴーレムが何者かに殺られた……?!

 滅多なことじゃ殺られたりしねぇ筈だ。Aランクの魔物であっても問題なく倒せる程のゴーレムだ。最近じゃAランク程の高ランクの魔物も出ないし、それ以上の強者が今この世界にいるとかは考えられない。

 どうしたんだ? 何があった……?!

 ロヴァダ国の事は気になるが、俺はひとまず倒されたゴーレムの元へと行く事にしたんだ。
 
 
 


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