慟哭の時

レクフル

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番外編

エリアスの事情

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今日はアシュリーは帝城から帰ってこない。

朝起きて横を見ても、そこには誰もいない。

夜は仕方ねぇ。
もうそれは納得してるし、必要な事だって分かってる。

けど、やっぱり朝目覚めた時にアシュリーがいねぇのは、すっげぇ寂しく思っちまう。
前までずっと一人で寝てたのに、今は一人じゃ寂しくてしょうがねぇ。
あの温もりがねぇと、マジで落ち着かねぇ……

着替えて部屋を出て一階にある食堂へ行く。


「あ、エリアス!おはよう!」

「あぁ、ルーナ。今日の朝飯ってなんだ?」

「今日は卵とハムを焼いたのに、二種類のパンに、それと野菜スープもあるよ!」

「旨そうだな。いつも朝からありがとな。」

「ううん!こうやってここで働かせて貰えてるだけで……住まわせて貰えてるだけで嬉しいから!ありがとうございます!」

「そんな大層な事でもねぇよ。他の子達は?」

「そろそろ起きて来ると思うよ。あれ?アシュリーは?」

「あぁ……今日はいねぇんだ。用事があって……実家に帰ってるってヤツかな?」

「もしかして……ケンカとかしたの?」

「え?!ケンカとか、んな事する訳ねぇじゃねぇか!俺とアシュリーじゃケンカになんねぇよ!」

「……そうだよね……エリアスはアシュリーにめっぽう弱いからね……」

「まぁ……そう、だな……惚れた弱味だな。」

「凄く強いのに……オルギアン帝国のSランク冒険者なのに……」

「それはそれだ。あれでもアシュリーも強ぇんだぜ?今は俺と互角か……一つになったら……多分勝てねぇな……」

「え?なに?一つ?」

「あ、いや、何でもねぇ。とにかく、ケンカとかしてねぇから安心してくれ。」

「そうなんだ……ちょっとはケンカとかして、ヤケになって女遊びでもすれば良いのに……」

「はぁ?女遊び?俺がんな事、する訳ねぇだろ?そんな女とか周りにいねぇし。」

「いるよ!いっぱい!いるんだからね!」

「何言ってんだ?」

「え?!あ、ううん、何でも!……あ、皆、おはよう!」

「お!起きてきたか!俺も飯の準備、手伝うな!」


皆がゾロゾロやって来た。

ここはスラムにあった場所で、俺が全面改築した家だ。
今、子供が20人位いてて、住み込みで働いてくれてる人は5人程いる。
今話してたルーナは16歳で成人してるけど、スラム出身って事で、なかなか雇って貰えなかったみてぇだ。

皆起きてきて、まず顔を洗ってから食卓につく。
各自で食べたい分の飯を取りに行って、皆で飯を食う。
朝食が終わったら、午前中は庭に作った畑の世話を皆でする。
ちょっとした酪農なんかもしてて、自給自足とまではいかねぇけど、自分達で働いて食べる、と言う習慣を身に付けさせるんだ。

午後、子供達には勉強会をして貰ってる。
最低限の文字や算数が出来ねぇと、ここ以外で生きていくのに苦労するからだ。
その教師になってくれる奴も、こっちで雇った。
この勉強会には、大人も混じってることがある。
今まで勉強する機会に恵まれなくて、苦労してきた奴等ばっかりが、ここにはやって来る。

俺は朝飯が終わったら、自分の仕事に行く。
今日はディルクとアシュリーが、ここ、王都コブラルにある王城へとやってくる。
インタラス国王の生誕パーティーに出席するんだと。
それに俺も護衛として、Sランク冒険者のリーダーとして、一緒に行くことになっている。

だから、ぶっちゃけ俺は夜に開催されるそのパーティーまで何もしなくて良かったんだ。
けど、アシュリーが帝城にいるなら、俺もやっぱそこに行かなきゃダメだろ?
そうアシュリーに言うと、「来なくても大丈夫」って言う。
「何でだよ!俺がそばにいないの、寂しくねぇのかよ!」って言ったら、「だってディルクがいるし……」とか言われた。
これは放っておけねぇっ!って思って、用はないけど帝城まで行くことにしたんだ。

アシュリーと一緒に夜から行って泊まっても良かったんだけど、一人風邪をひいてる子がいたから回復魔法で治癒させて、けどちょっと心配で、一晩様子を見たかったんだ。
朝元気に飯を食ってたからもう大丈夫だ。

みんなの様子を確認して、一人一人に声をかけて抱き上げてから、俺も帝城へと向かう。
早速ディルクの部屋へ行くと、ディルクとアシュリーがいて、朝食を摂っていた。
最近は朝食を摂る時は一つの状態でいる事が殆どだったから、あれ?何でかな?とか思ったけど、然程気にせずに俺はアシュリーの横に座ってお茶を貰った。

ここではアシュリーはドレス姿だ。
やっぱり似合う。
可愛い。すっげぇ可愛い。めっちゃくちゃ可愛い。マジで可愛い。それにやっぱ綺麗だ。めっちゃ綺麗だ。ヤバい位綺麗だ。半端ねぇ綺麗さだ。ずっと見てられる。やべぇ、綺麗過ぎて目も離せねぇし動けねぇ。


「おはよう、エリアス。早いね。」

「え?あぁ。やっぱちゃんと顔見るまでは落ち着かねぇからな。」

「アーネの具合はどう?もう大丈夫だった?」

「あぁ。大丈夫だったぜ。朝飯もいっぱい食ってたからな。」

「そう、良かった。」

「エリアス、今日は何しにここに来た?別に来なくても良かったんだぞ?」

「何だよ。来ちゃいけねぇのかよ。んな素っ気ない態度取んなよ。」

「夜まで時間があったから、有意義に過ごせたはずだぞ?そう思って言ったんだがな。」

「俺にはトゲのある言葉にしか聞こえなかったぜ?……そうだな……久々に剣の稽古でもしてやっかな。」

「それは助かる!エリアスがいると士気が上がるのでな!存分にしごいてやってくれ!」

「そうだな!最近強い魔物にも合ってねぇし、体が鈍っちまってるかも知んねぇからな。久々に暴れっか!」

「エリアス、あんまり本気を出しすぎないでね?皆のやる気が無くなっちゃうかも知れないから……」

「大丈夫だ!心配すんなって!……あれ?今日のお茶、なんか味が違うな。」

「え?分かった?」

「あぁ。いつものよりアッサリした感じがするな。嫌いじゃねぇけどな。」

「そうだね。」

「じゃあ、俺はちょっくら行ってくる。また後でな。」


そう言って席を立って、アシュリーの後ろから屈んで、頬にキスをしてから出て行った。

廊下を歩いているとゾランに会って、稽古をつけると言ったら、僕も是非!と言って参加する事になった。
その後久しぶりにウルにも会って、軽く立ち話してから騎士達に稽古つけてくる!って言って別れた。

騎士達は俺が稽古をつけるとなると喜んで、遠慮なく思いっきりかかってきた。
それを軽くいなし、捌いていく。
踏み込みの甘さや剣の振り方等を指摘していき、次々捌いていく。
ゾランも相手したけど、なかなか剣筋が良い。
ゾランはセンスが良いんだな。
後の方になると皆一斉にかかってきて、それを一気に捌いてやった。
いやぁ、良い汗かいたな。

風呂に行こうとしたらウルの姿が見えたから、何かあったのかと話しをする。
ウルも指導で悩んでたんだな。

ウルと別れて、さっと風呂に入ってすぐにディルクの部屋に向かった所でアシュリーとディルクの二人がいた。

ってか、何キスしようとしてんだよ?!
俺のなのに!
アシュリーは俺のなのに!!

急いで二人を止めに入るけど、二人はそんな怒らなくても、的な感じでいる。
分かってる。
この二人は特別で、二人は一つだから仲良くしてても、それは当たり前の事で当然で、けどやっぱり気になるし、ダメなんだよ!

ディルクに服装を指摘されて、急いで自室に戻って着替えて、また二人の元まで走って行く。
そうしたら、また二人はキスしようとしてた!
だからダメなんだって!
この二人の雰囲気はやっぱ特別で、割り込めねぇ感じはすんだけど、んな事俺には関係ねぇんだ!

急いで着替えたから全然ちゃんと着れてなくて、それをアシュリーが正してくれる。
こう言うのって良いよな……
さっきまでハラハラしてた気持ちが、一気に無くなっていく。
ホント、俺は重症だ。
言うなれば、アシュリー病とでも言うのかな。
ってか、なんだそりゃ!

それからゾランや他の従者も交えて、空間移動でインタラス国へと向かった。

この、空間移動の原理もちょっとずつ解明されつつあって、今アシュリーの母親が空間移動の魔道具を作り出せる様になっているけれど、それを所定の位置に設置出来る様にして、魔道具がなくても移動出来る様にしようとしてる。
これは時間の問題だそうだ。
これもインタラス国との交渉材料になった一つだった。

王城へ行って、パーティーが開催された。
こう言うパーティーとかは正直苦手だけれど、こんな事に俺より慣れねぇアシュリーが頑張ってるんだから、俺も頑張らねぇとな。

けど、なんかアシュリーの調子が悪そうだ。
笑顔で対応してるけど、なんか様子がおかしい……
気になって近づいた時、アシュリーがフラリとして倒れそうになった……!
それをそばにいたディルクが支える。
良かった……!
あのまま倒れてたら怪我してたかも知んねぇからな。
けど、それを支えてやれたのが俺じゃねぇのが悔しい。
仕方ねぇ事だけど、やっぱ悔しい!

けど、アシュリーはどうしたんだ?
アシュリーを休ませる為に、ディルクは抱き上げたアシュリーと共に部屋へ案内される。
それに俺も同行する。
アーネの風邪でも移ったか?
ベッドに寝かされたアシュリーのそばに駆け寄って手を握る。
顔色が悪い。
ディルクも心配そうにしてる。


「アシュリー、大丈夫か?どうしたんだ?」

「うん、ちょっと立ち眩みしたみたいだから……大丈夫だよ。」

「アシュリー、無理をするな。エリアス、俺は戻らなければならない。アシュリーを頼めるか?」

「当然だ!俺が回復させるし、アシュリーは俺がちゃんと見とくから、ディルクは気にせず戻ってくれ!」

「……頼んだ。」


ディルクがパーティー会場へと戻って行った。
アシュリーが横たわるベッドに腰かけて、アシュリーの頬を優しく撫でる。


「アシュリー、顔色が悪い。ちょっと回復させるな?」

「え……うん……」


アシュリーに回復魔法を施す。
けれど、アシュリーの顔色は優れないままだ。


「顔色がまだ優れないな……何でだ?どこか辛い所はあるか?」

「大丈夫だよ。ちょっと休めば良くなるよ。そんな心配しないで?」

「心配するよ!回復魔法が効かねぇって、やべぇじゃねえか!」

「大丈夫だから。本当に。ちょっとね、魔力とか体力を奪われてる感じなんだ。」

「え?なんだそれ?なんでそうなってるんだ?」

「うん……まだどうなるか分からないから言おうかどうか迷ってたんだけど……」

「なにをだ……?」

「エリアスの子だよ。」

「え……」

「私の魔力とか体力を奪うの、私たちの子供だよ。」

「俺たちの……」

「うん。」

「マジか……?」

「うん。本当だよ。」

「マジか?!本当に?!やった……!うわぁ、マジかこれ!やべぇ!すげぇ!!」

「ちょっ……エリアス、声が大きい!」

「あ、すまねぇ!けどすげぇ!マジ嬉しいっ!ありがとう!アシュリー、ありがとなっ!!」

「あ、うん、でもちょっと落ち着いて?エリアス、落ち着いて聞いて?」

「あぁ、落ち着かねぇとな、うん、そうだな、俺、父親になるんだもんな、うん、落ち着くぞ、うん!」

「もう……エリアスが子供みたい……あのね……」


アシュリーが言いにくそうに話し出した。

その時俺は浮かれてて、アシュリーの体に起こってる変化に気づけなかったんだ。







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