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第八章
寄り添うように
しおりを挟むアシュリーに刺された。
ニコラウスを抑える事ができて、その報告をするのに、ムスティスの待つ場所へと行った時だ。
ムスティスと一緒にいる人物が見えた。
あれは
アシュリー……
アシュリーは俺を見ると走ってこちらにやって来て、なぜこんな所にいるのかと、驚いたけれど、俺に向かって走ってくれている事が嬉しかった。
が、その目がアシュリーのいつもの感じと違うことに気づいた時には、短剣が俺の胸を貫いていた。
やっとこの腕の中にアシュリーが戻って来たのに……
強く抱き締める事はすぐに出来なくなって、意識が無くなっていく……
気づいた時は、俺はアシュリーの中にいた。
初めはどうなっているのか、分からなかった。
霊体となっている訳ではない。
それならアシュリーやエリアスにも見える筈だ。
だがそうではない。
アシュリーの深層心理の奥底にいる感じと言うのが一番近いのか……
アシュリーの今までの記憶や感情、思考が俺にも伝わってくる。
それは不思議な感覚だった。
そしてアシュリーと接触することもできた。
それは、夢という形で成される。
その事をアシュリーは覚えていない場合が殆どだったが、俺は毎夜アシュリーと話をしていたんだ。
そうしてやっと、アシュリーがオルギアン帝国まで、俺の体のある帝城まできてくれたんだ。
そして、セームルグがアシュリーに言った、俺達の命は一つだったと言う事実を知った。
だからあんなに焦がれてしまうのか?
だからあんなに欲しくなってしまうのか?
納得できる所はある。
そのことを知って、腑に落ちた。
だからあんなに求めるのかと。
しかし、そんな事はどうでも良かった。
お互いが求め合うのに、理由等いらないのだ。
アシュリーは悩んでいる。
エリアスの事が好きなんだな。
その感情は、ずっとアシュリーの中にあって、俺にもその事は嫌と言う程分かってしまっているんだ。
エリアスへの感情が、本当に純粋に人を想う感情なんだろう。
俺への感情は、自分の魂を求めただけに過ぎなかったのかも知れない。
それでも、アシュリーを離したくない。
アシュリーが意を決して、俺と一つにならないと決めてくれた。
俺との夢を覚えてくれていたようだ。
しかし、俺はアシュリーと一つになった。
それは、俺の体の状態に不安定な魂が定着しない可能性があるからだそうだが、俺達が一つになれた時のあの感覚は、満たされていて素晴らしく爽快感があり、力も漲って、いつまでもこの状態でいたいと思ったんだ。
だが、俺にはまだやるべき事がある。
名残惜しいが、アシュリーと分かれることにする。
しかし、この感覚を覚えていれば、俺達はまた一つになれるのかも知れない。
そんな事を思いながら、暗闇をアシュリーとは別の方向へと走って行って、俺とアシュリーは元に戻ったんだ。
俺の部屋に戻って、アシュリーと二人だけになり、話をすることにした。
アシュリーと一つになっている時、俺達は言葉は交わさずとも、お互いを理解し合えた。
だから、俺の考えを分かってくれた筈だ。
その事をこれから話さないといけない。
「ディルク……その考えは変わらない?」
「あぁ。アシュリーを俺の妃とする。なるべく早くに、婚礼の儀を行うことにしよう。」
「うん……分かった……」
「そんな顔をしないでくれ。嫌なのか?」
「嫌とかじゃないんだけど……どう言えば良いのか……」
「俺がエリアスに言おうか。」
「ううん!それは!……それは私からちゃんと言う。」
「そうか。……またいつでも会えるだろう?」
「うん。私たちは空間移動ができるから……でも本当に……離れたくなくて……」
「分かっている。アシュリーの気持ちは分かっているんだ。」
「ディルク……」
「アシュリー……」
涙を見せるアシュリーを抱き寄せる。
アシュリーは俺にしがみついて、涙を堪えていた。
髪を優しく撫でて、しばらくアシュリーの心が落ち着くまでそのままでいた。
それからコルネールを呼び、ゾランとカルレスを呼ぶ。
これからの事を話し、手続きや準備をする手筈を整えていくように言う。
婚礼の儀には、各国へ招待状を送るようカルレスに伝えていく。
「ドレスを作らせる。アシュリーなら、どんな物でも似合うだろうな。」
「ディルク……」
「そんな不安そうな顔をしないでくれ。俺に全て任せてくれるか?アシュリーは俺のそばで笑っていてくれれば、それで良い。」
「うん……けど……」
「どうした?」
「本当にこれで良いのかな……私守って貰ってばっかりで……何も返せてない……」
「男が愛した女性を守るのは当然の事だ。レクスも言ってただろう?アシュリーが気に病む事はない。……とは言っても、アシュリーは気にするんだな。」
「それはやっぱり……」
「そうだな。それがアシュリーだからな。そんなところも全てだ。俺はアシュリーの全てを愛している。」
「ディルク……私も……私も愛してる……」
俺達は互いに抱き締めあって、しばらくそのままでいて……お互いの気持ちを確認するように俺達は一つになった……
扉がノックされ、コルネールがやって来た。
俺とアシュリーはベッドで休んでいて、起き上がろうとするアシュリーを掴んで離れないようにする。
「リドディルク様、お昼の食事はこちらに用意させて頂いてよろしいでしょうか?」
「そうだな……」
「あ、ディルク、私部屋に戻る……」
「アシュリーの部屋はあの部屋ではない。俺の部屋で過ごして欲しい。色々することもあるのでな。」
「あ、うん、それは分かってる。でも、エリアスになにも言わない訳には……」
「そうだな……では部屋まで送っていく。食事はそこで摂るか?」
「うん、そうする。ウルにも話したいし。」
「コルネール、食事は俺の分だけをここに用意しておいて貰えるか。」
「畏まりました。」
アシュリーを部屋まで送って、それから自室まで戻る間にミーシャと会った。
ミーシャの気分が落ち込んでいたので、右手で頭を撫でてやると、元気になったようだ。
今回のことで、また外出するのが嫌になって欲しくはないな。
ゾランがミーシャの様子を見に、休憩室に来ようとしていた所で、ゾランが俺を見つけて駆け寄って来た。
「リドディルク様、まだ歩き回らないで下さい!今日はゆっくりするようにお願いした筈です!」
「分かっている。アシュリーを部屋まで送ってきただけだ。」
「それなら良いのですが……しかし、これからが大変ですね。手続きや根回しに手こずりそうです……」
「無理を言って悪いな。」
「いえ!しかし、いくら急ぐとは言っても、婚礼の儀を行う日は20日程頂く事になります。」
「それでは遅い。」
「各国から王族の方々がいらっしゃるのに、通常であればその日数を頂かなくてはいけません。早めるとすれば……」
「転送の魔道具を招待状と一緒に送り届ける様にカルレスに伝えてくれるか。」
「畏まりました。」
「え……婚礼って……リディ様はアシュリーさんと……」
「ミーシャ!また余計な口出しを……!」
「あ、も、申し訳ございませんっ!」
「ゾラン、そう怒ってやるな。……そうだ。アシュリーを俺の妃に据える。」
「そうなんですね、リディ様っ!おめでとうございますっ!良かったですー!おめでとうございますっ!!」
「え……それ、どういう事なん……?」
ミーシャの後ろにウルリーカがいた。
俺達の話が聞こえていたようだ。
「ウルちゃん、帰ってきてたんですね。」
「うん。お腹すいたからご飯貰おうって思って来てんけど、ミーシャはもう大丈夫なん?」
「あ、うん、さっきはごめんなさいね!もう大丈夫です!」
「良かった。心配したわー。って、それより!おめでとうってなに?!姉ちゃとディルクさんは結婚するん?!」
「そうなんですよ!良かったです!」
「嘘やん……そんな急に……!信じられへん!姉ちゃに聞いてくるっ!」
「あ、ウルちゃん!待って下さい!」
二人は慌ただしく、バタバタと走って行った。
アシュリーに任せていれば、ちゃんと話をしてくれるだろう。
さあ、これからが大変だ。
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