慟哭の時

レクフル

文字の大きさ
上 下
321 / 363
第八章

父さん

しおりを挟む

アシュレイとウルを置いて、俺は空間移動で村までやって来た。

アシュレイから離れるのはすっげぇ心配だし、もちろんウルも心配だ。
けど、どうしても村が気になって仕方ねぇんだ。

俺が生まれた村で、父親がいる村で……
全然覚えてねぇし、全く歓迎されねぇし、なんだったら嫌われてるし……
けど、やっぱり見過ごせねぇ。
このまま放っておくことは出来なかったんだ。

この辺りは薄暗くなっていて、吹雪いている状態だった。
村に入ると、家等の建物は殆どが凍りついて、木も氷に覆われているような感じになっている。
家々に灯りはなく、人の気配が全くない。

歩いて様子を見る。
……倒れている人が……所々にいる……
側に行って確認するけど、既に事切れていた。
もう……この村は……誰も……?

辺りを見渡しながら歩いて行くと、木が生い茂っている下にある大きな建物に灯りがついていた。
木が雪を遮ってくれていて、少し小高い場所にあるこの建物だけが無事でそこにあった。
急いでそこまで走って行く。
扉を叩くと、暫くして少し扉が開いた。


「誰だ?いや、誰でも構わん!とにかくすぐに中に入れ!」


扉が人一人分開いたから、すぐに中に入る。
中には人が大勢いて、厚着をして身を寄せ合うようにして寒さを凌いでいた。
それでもこの中は寒くって、暖炉に火はついてるけど、それだけじゃこの寒さに耐えられない状態だった。

突然やって来た俺を皆が見る。
その中に俺を知ってる人がいた。


「エリアス……っ!」

「なっ!なんでアンタがここにっ!!」

「うわぁっ!!殺さないでくれっ!!」


そんな事を聞いたからか、他の人達も俺を恐ろしい者でも見るようにして、ザワザワしだす。


「待ってくれ!俺は……!」

「何しにきた!エリアスっ!!」


俺を睨み付けてそう言ったのは父親だった。
前に出てきて、他の人達を守るようにして俺の前に立ちはだかった。


「この辺りの様子を見に来た……ここより西の街で、この界隈で魔物が増えたから冒険者に依頼を出したけれど、この辺りに来た者達が誰も帰って来ないと聞いたから……気になって来たんだ。」

「本当にそれだけか……?」

「他に俺が何をするってんだよ……?」

「お前は……俺を恨んでいるんだろ……?」

「恨む?俺が?何でだよ?」

「俺はあの時……ラビエラが燃えてしまって……我を失った俺は……お前を殺そうとしてしまって……っ!我が子なのにっ!!ラビエラが……っ!お前をあんなに大切にしてっ!愛していたのに!!愛していた筈なのにっ!!」

「……え……」

「守ってやることも出来ず……!愛してやることも出来ず……っ!俺はただ何もせずに!お前を探しもせずに!!」

「……どうでも良い……」

「……なに?!」

「んな事、もうどうでも良いんだよ!俺は母親を殺しちまったんだ!俺こそ恨まれても仕方ねぇんだよ!けどっ!!……けど俺は……!……この村を放っておけなかったんだよ……!」

「……エリアス……」

「何が出来るか分かんねぇ!けど、出来る限りの事はする……!今の状況を教えてくんねぇか?」

「……お前に何が出来る……?」

「聞いてみねぇと分かんねぇよ。」

「……分かった。」


まだ俺を警戒する村人達は俺に近づく事もせず、寒さに震えながら縮こまっていた。
俺は火魔法でこの部屋の温度を上げた。
すると、少しずつ皆の表情が和らいできた。
けど、急に温かくなってきたからか、皆が不思議そうにする。
その様子を見て、父親は俺を凝視してくる。


「……これは……お前がしたのか?」

「少し温度を上げただけだ。」

「そんな事が出来るのか……」


温かくなってきたら、気持ちも穏やかになってくるもんだ。
少し安心したのか、父親の緊張した顔も和らいできた。
それから、この村の状況を教えてくれた。

寒さを感じたのは三週間程前からで、それでも最初はそう気にならなかった。
ところが、山へ向かって行った者達が帰って来なくなった。
山へ行く者達は、事前に予定を聞いておく事になっていて、帰って来ない場合は任意により捜索される事になる。
こんなに立て続けに帰って来なくなることは今までなく、村人の救助隊が山に向かうが、その者達も戻って来ない。
経験に長けた者達の筈なのに、この状況は異常だとして警戒しだしたのは二週間程前。

その頃には、村の周りに魔物が多く出没していて、ここに向かっていた客もたどり着く前に魔物に襲われていた様だし、村人達も村の外でここら辺にはいなかった狂暴な魔物の餌食になっていた。
迂闊に村から出ることも出来なくなって、村の周りを強化させるべく魔物の侵入を防ぐ様に柵を村人達総出で作るが、日に日に気温が下がってくる。
この時期にあり得ない程の寒波に、暖炉に使う薪も足らず、村人が集まって話し合った結果、一つの場所に集まって暖をとることになった。

その準備をしている最中に、山の方で大きな魔物が空を飛んでいるのが見えた。
あんなに大きな魔物は見たことが無かったから、村人達は皆恐怖に怯えた。
しかしここから逃げ出す事も出来ず、魔物が飛んでるのを見てからは更に気温が下がり、吹雪く中やっとの事でこの建物までやって来た。
けれど、ここにたどり着く前に寒さで生き絶えてしまった者達もいる。

この建物に篭ってから五日程経ったが、暖炉にくべる薪も残り少く、食料もいつまで持つか分からない状況で、何の助けもなく、助けを求める事も出来ず、ただ皆で身を寄せあっていただけだった。
そう言って悔しそうに下を向いた。


「分かった……俺が様子を見てくる。」

「様子を見てくるって……何のだ?」

「その魔物のだ。」

「何を言ってる?!凄く大きな魔物だぞ?!空を飛んでたんだぞ!!」

「恐らくそれは、フロストドラゴンだろうな……」

「フロスト……ドラゴン?!」

「あぁ。さっき鳴き声を聞いた。この異常な寒さに、恐れて他の魔物が逃げて来たって事から考えても、ほぼ間違いねぇだろうな。」

「そんな……ドラゴンなんて……!あぁ……もう無理だ……俺達は助からない……!」

「……俺がやっつけて来る。」

「……何言ってるんだ……?そんな事無理に決まってるだろ!」

「俺、これでもオルギアン帝国のSランク冒険者なんだ。こう見えて結構強いんだぜ?」

「オルギアン帝国のSランク冒険者だと?!お前がか?!」

「あぁ。だからここは俺に任せてくんねぇかな?」

「それでもお前に何かあったら……!」

「大丈夫だ。元々俺はいない存在だったろ?気にしねぇでくれ。」

「そんな訳には……」

「なぁ、一つ頼みがあんだけど……」

「……なんだ?」

「……アンタの事……父さんって……呼んでいいか?」

「エリアス……俺をそう……呼んでくれるのか……?」


そう言われて、思わず俺に笑みが溢れた。
父さんも色々思うことがあったんだな。
ここに来て良かった……


「じゃあ行ってくる。」

「エリアスっ!」

「なんだ?」

「死ぬな!必ず戻って来てくれっ!!」

「あぁ。分かったよ。父さん。」


俺は笑顔で答えて、それからすぐにそこから出て走り出した。

フロストドラゴン……

こいつはかなりヤバい奴だ。
正直俺が勝てるかどうかは分かんねぇ。
けど、このままにはしておけねぇ。
この脅威はいずれ広がっていく。
そうしたら、隣接している国であるオルギアン帝国にも被害が及ぶ。
俺はオルギアン帝国のSランク冒険者なんだ。
ゾランにもアシュレイの事を頼まれていて、それはオルギアン帝国からの依頼だとは言われたけど、敢えてそう言ってくれてるだけなんだ。
なんも貢献しねぇで、オルギアン帝国のSランク冒険者だなんて大きな声で言えっかよ!

アシュレイ……

俺がいなくなったら、またディルクがいなくなったって泣くか?
俺じゃなく、ディルクを想って泣くか?
それでも……!
俺はアシュレイをこれ以上泣かせる訳にはいかねぇんだよ!

必ず戻る……!

そうウルにも約束したんだ。

ちょっと大暴れしてくるだけだから、待っててくれ!

アシュレイ!

ウル!






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

あなたへの想いを終わりにします

四折 柊
恋愛
 シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

悪役令嬢は処刑されました

菜花
ファンタジー
王家の命で王太子と婚約したペネロペ。しかしそれは不幸な婚約と言う他なく、最終的にペネロペは冤罪で処刑される。彼女の処刑後の話と、転生後の話。カクヨム様でも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

召喚アラサー女~ 自由に生きています!

マツユキ
ファンタジー
異世界に召喚された海藤美奈子32才。召喚されたものの、牢屋行きとなってしまう。 牢から出た美奈子は、冒険者となる。助け、助けられながら信頼できる仲間を得て行く美奈子。地球で大好きだった事もしつつ、異世界でも自由に生きる美奈子 信頼できる仲間と共に、異世界で奮闘する。 初めは一人だった美奈子のの周りには、いつの間にか仲間が集まって行き、家が村に、村が街にとどんどんと大きくなっていくのだった *** 異世界でも元の世界で出来ていた事をやっています。苦手、または気に入らないと言うかたは読まれない方が良いかと思います かなりの無茶振りと、作者の妄想で出来たあり得ない魔法や設定が出てきます。こちらも抵抗のある方は読まれない方が良いかと思います

処理中です...