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第八章
心配事
しおりを挟むグリオルド国まで三人で歩いて行く。
ウルは弓が得意で、ディルクは「流石エルフだ!」って嬉しそうに言っていた。
ディルクも凄く強くって、私が力を貸さなくても、一人でも魔物をどんどん倒していく。
けど、私も剣に魔法を這わせて魔物を倒していくようにした。
そうしないと腕が鈍ってしまうかも知れないからだ。
それに、守られてるばかりじゃいけないと思うし……
けどこの剣はどうしたんだろう?
前は鉄の剣で初心者用の物で、魔力を這わせても今の剣みたいに、剣自体の形が変わる事なんてなかったんだ。
魔力も凄く少なくて済むし、けれど前の剣よりも威力は強くなっている。
いつ私はこの剣を手にしたんだろう……?
不思議そうに剣を見て、そんな事を呟いていると視線を感じた。
その視線を手繰ると、ディルクが私を見詰めている。
そんなに見られると恥ずかしくなる……
けど、ディルクは少し悲しそうな感じに見えた。
なぜだろう……?
なにか気になる事でもあるのかな……?
魔物を倒して解体して、日が暮れて野宿して、そうしながら歩いて行くと、関所が見えた。
インタラス国とグリオルドの国境には関所があって、そこでは一人銅貨一枚支払う事になってるみたいだ。
三人分の銅貨三枚を支払って、グリオルド国へと足を踏み入れる。
ウルは、初めて来た!って嬉しそうにしていた。
私もここは幼い頃に来たきりだったから、どんな所なのかは分からない。
ディルクに、ここはどんな国なのかな?ってワクワクして聞くと、オルギアン帝国の属国だから、良い国だと思うって言っていた。
オルギアン帝国はそんなに良い国なのかな……?
母と旅をしていた頃は、そんな風な事は聞いたこともなかったんだけどな……
けど、ディルクがそう言うなら、そうかも知れない。
うん、きっとそうなんだ。
街道を歩いて行って、魔物の気配がするとその場所まで行って、魔物を狩って行く。
ディルクが、前よりも魔物が多くなっているって言う。
前に来たことがあったのか聞くと、まぁな、って笑って答えた。
けど、その笑顔は何故か寂しそうで、私はディルクの肘辺りを無意識に掴んでしまう。
それに気づくと、ディルクは微笑んですぐに私と手を繋ぐんだ。
何日も歩いて行って、魔物が出たら討伐して解体して、それから街に寄れたら解体した魔物を売る。
けど、その時はディルクは、私に買取りカウンターに行って欲しいって言う。
それは別に大した事じゃないからすぐに承諾して、私が買取りカウンターで素材を出して査定して貰う。
ギルドカードを出すと、私はいつの間にかCランク冒険者になっていた。
驚いて、本当に自分のギルドカードなのかと何度も確認したけれど、そこには紛れもなく自分の名前が刻まれてあった。
私が忘れてしまったことは、思ったよりも沢山あるのかも知れない……
そこのギルドで、ある話を聞く。
最近この界隈で魔物が多く発生しているから、冒険者にも依頼を多く出しているけれど、ある方面へ行った者達が帰って来ないから、その方面へは行かないように、と注意を促された。
ディルクはその話を気にした様で、どこらへんなんだって、何度も確認するように聞いていた。
「ディルク、どうしたんだ?何か気になることでもあるのか?」
「あ、いや……ちょっとな……」
「どうしたん?兄ちゃ?」
「……俺の知ってる村がその方面にあってな……」
「そうなんか?知ってる村って、そしたら知り合いとかおんの?」
「…………いや……そう…じゃねぇ……」
「ディルク……?」
「兄ちゃ、どうしたんや?なんか様子がおかしいで?何が気になるん?」
「……何でもねぇ。あ、腹へったな。なんか食うか?」
「え?あ、うん……」
「……まぁいいけど……アタシ、牛鴨の肉が食べたいっ!」
「そっか。じゃあ行こう。」
「うん!」
「…………」
ディルクがそう言うからそれで話は終わったんだけど、でも凄く気にしてそうだ。
知り合いはいないって言ってたけど……その村の事は気になるみたいだ……
食事が終わって店を出て、ディルクはオルギアン帝国への道を確認するような感じで、この街を出たら北に行く、と言っていた。
けど……
「ディルク、気になるんだろ?」
「え?」
「その、ディルクの知ってる村がどうなってるのか……」
「いや……」
「だったら、そこに行ってみたら良いじゃないか。」
「そうや。気になるんやったら行ったらいいやん。」
「けど……」
「なんでそう行くのを戸惑うんだ?」
「だから、その方面は今危険なんだよ。何人も冒険者が帰って来ないって言ってたろ?そんな危険な場所にアシュレイとウルを連れて行けっかよ。」
「なんで?兄ちゃ、むっちゃ強いやん。姉ちゃも凄い強いねんから、大丈夫ちゃうん?」
「けど、なんかあったらどうすんだよ!もしアシュレイとウルになんかあったら……!」
「ディルク……そんな心配しないで……大丈夫だから。私もそこそこ強いし、ディルクも凄く強い。簡単にはどうにかならないよ。」
「そやで!アタシも最近、弓矢に魔法を乗っけられる様になってん!威力はそんな強くないけど、自分の身くらい、自分で守れるわ!」
「それでも……!」
「他になんか気になるんか?」
「…………そうじゃない……けど……」
「じゃあ行こう?一緒に旅をするんだから、こう言うことはきちんとしたい。不安とか気になる事はちゃんと話し合って、皆で納得していこう?」
「アシュレイ……おんなじ事を言うんだな……」
「え?」
「いや、何でもねぇ……」
「兄ちゃのそんな不安そうな顔、見たないわ。様子見るだけでも良いやん。何ともないかも知れへんし、不安なままやったら落ち着いて旅出来ひんやろ?」
「………分かった……けど、危険だと思ったらすぐに引き返すからな。俺が今第一優先に思ってるのは、アシュレイとウルだからな。」
「ディルク……」
「うん。兄ちゃ!おおきに!」
「……ウル……おおきにって……何?」
「え?!姉ちゃ知らんのか!ありがとうって意味や!」
「知らなかった……」
「ほな、かしわって何か知ってる?にぬきは?」
「え……分からない……」
「なんも知らんねんな。知りたかったらネットで調べ。」
「え、うん……けど、ねっとって……」
ウルとそんな話をしながら歩いて行く。
ディルクは何だか不安そうで、凄く戸惑っているような感じでいる。
知り合いはいないって言ってたけど、その村に何があるんだろう?
気になるけど……
ディルクが話したくなさそうだったから、今は聞かないでおく事にする……
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