慟哭の時

レクフル

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第八章

インフェルノ

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ゾランが帰った後も、俺はしばらく焚き火の炎を眺めていた。

その炎を操る様にしてみる。
力を込めるように見つめると、炎は勢いよく燃えだす。
それから今度は小さくして消えそうな程にしてみる。
次は炎の先端を細くして、矢の様にして上に高く突き上げる。
それから渦を巻くようにさせてみる。
そうやって色々炎の形を、自由自在に変えてみたりしていた。


「凄いなぁ……」

「ウル……どうした?眠れなかったのか?」

「うん……今見ててんけど、兄ちゃは火を操るの、めっちゃ上手いねんな。」

「最近になって、やっとって感じだけどな。昔から暴走しやすくてな。思った以上の力が出ちまうから、あんまり使わねぇ様にしてたんだ。腕輪が無くなってからは調整が出来やすくなって、たまにこうやって練習してんだよ。」

「ヒュドラを倒した時も凄かったもんな!」

「ハハハ……そうか?凄かったか?」

「うん!兄ちゃは凄い!」

「ありがとな。ウル。」

「姉ちゃは……」

「ん?」

「姉ちゃは……兄ちゃの事が好きじゃなかったん……?」

「……どうだろうな……」

「あんなに仲が良かったのに!なんで兄ちゃをディルクって言うんっ!?」

「それは……仕方ねぇんだ……アシュレイが本当に好きだったのはディルクなんだよ……けど、忘却魔法をかけられてな……愛する人を忘れるようにって……」

「それで記憶を無くしてたんか?でも、最初は兄ちゃの事も分からへんかったって!」

「そうだな……俺の事も忘れてた。俺、それが嬉しくってさ……ディルクに会わせる前に、アシュレイに手を出しちまったんだ。そんな事をしたから、バチが当たったのかもな。」

「でも!姉ちゃも兄ちゃの事好きだったと思うっ!だってっ!姉ちゃはいつも幸せそうに笑ってたもんっ!!」

「うん……そうだと良かったな……けど……やっぱりディルクには勝てなかったな……」

「そんな事あらへん!」

「ありがとな、ウル。……ウルがいてくれて良かった。」

「兄ちゃ……!」


ウルが俺に抱きついてきた。
俺は微笑んで、ウルの頭をポンポンする。
見るとウルの目が潤んでいた。


「なんで……?兄ちゃは泣き虫やのに、なんでこんな時は泣かへんの?!いっつもすぐに泣く癖に!」

「泣いてねぇって。」

「なんやの、もう!なんでアタシが泣かなアカンの!?」

「ウルが代わりに泣いてくれてるからだろ?」


涙を流すウルを抱き締めて、頭を撫でる。
ウルは目を擦りながら、涙を堪えてるようだった。


「もう遅いから寝ておいで。一緒にテントへ行こうか?」

「大丈夫や……兄ちゃ……アタシは兄ちゃが好きやで?ディルクって奴より、兄ちゃの方が好きやからな!」

「ハハハ……そっか。俺もウルが好きだぞ?」

「うん……!ほな寝て来る。おやすみ!」

「あぁ、おやすみな。ウル。」


その時ウルが俺の頬にキスをしてきた。
ちょっとビックリしてウルを見たけど、素知らぬ顔でテントへ向かって行った。

それからまた、俺は炎を操っていた。
暫くそうしていると、その炎がいきなり大きく燃え出して、やがてそれはヒトガタとなっていった。
驚いて見ていると、炎を纏ったそれは、俺に話しかけてきた。


「素晴らしい能力だ……気に入ったぞ。我と契約するか?」

「お前は……誰だ?」

「我は炎の精霊インフェルノ。お前に我の能力を授けてやろうぞ。」


インフェルノと言った精霊は、俺の許可もなく重なる様にして俺の中へ入ってきた。
身体中が無茶苦茶熱くなって、でもそれは嫌な感じがしなくて、すげぇ気持ちいい感覚になった。
しばらく身体中にインフェルノが巡っていく感じがして、それから少しずつ落ち着いていく。
どうやら勝手に契約が成されたようだ。

自分の体を確認するように見てみるけれど、特に変わった事はないみてぇだ。
気になったから少しの間体を動かしたりしてみたけど、何も変化はないようだった。
それから日課になった回復魔法の練習をしてから、俺も自分のテントに向かった。

翌日、俺が起きる前にウルとアシュレイは起きていて、朝食の用意をしてくれていた。
三人で食卓を囲む。
こうしていると、以前と何にも変わらない。
ウルも笑顔で、アシュレイも笑顔で、二人を見る俺もつい笑顔になっちまって、それは前と何にも変わらなくて……


なんでこうなったんだ……?

何がいけなかった……?

どうすればよかった……?

これからどうしていけばいい……?

俺はいつまで……



「ディルク?どうしたんだ?」

「兄ちゃ?」

「……え?」

「なんか、思い詰めた顔をしてたから……」

「……大丈夫だ。何でもない。」

「兄ちゃ……」

「本当に何でもないから。ちょっと考え事しててな。けど、たいした事は考えてねぇよ。」

「そう……?なら良かった。」


俺が微笑むと、アシュレイも微笑む。
そうだな、今は何も考えないでおこう。
笑顔でいてくれんなら、俺はそれ以上望んじゃいけねぇ……

朝食を済ませて、街道を歩く。
時々魔物の気配がするから、そんな時はその気配のある方へいって、魔物を討伐していく。
これにはアシュレイも率先して戦ってくれていた。
剣に魔力を這わせて斬り倒していくけど、この剣は凄いって、初めて使ったかのような反応をする。
なんでこんな剣を持ってるんだろう?って不思議そうにしている。
けど考えても、何も思い出せねぇみたいだ。

それから、ウルも魔物が現れたら援護射撃をしてくれる。
ウルの弓から放たれた矢は、必ず狙った場所へと刺さる。
それはウルが目視できる範囲であれば、必ず当たる。
やっぱりウルはエルフなんだな。
弓を自在に操る姿は、幼いながらも様になっている。
それから放った矢を回収するのも、ウルが木を操れるから、飛んだ先からすぐ手元に戻ってくる。
ウルの能力は、弓使いには本当に便利だな。

そうして魔物を倒した後、魔物を解体する方法をウルにも教える。
ウルは最初、血を見るのも怖がっていたけど、何度もそうしていると段々慣れてきたようで、アタシもするっ!て言い出すまでになった。
こう言うことは、出来るようになっていて損はない事だからな。
そう言って、アシュレイと二人で解体方法をウルに教えていく。
ウルはビビりながらも、少しずつ皮を削いでいったりしていた。
そのビビっている様子が可愛くて、俺とアシュレイは二人で顔を見合わせて笑うんだ。

そうやって俺は笑うんだ。






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