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第七章
愚行
しおりを挟む翌日、まずはラブニルの宿屋まで行く事にする。
空間移動でゾランと共にやって来ると、辺りは兵と野次馬達がいた。
辺りにいた者に昨日の夜の事を聞いてみると、その男は宿屋の客だったようで、夜に宿屋へ帰ってきたら何かに阻まれて中に入ることが出来なくて、それは他の外出していた客もそうで、どうなっているのかと困惑していたら、暫くして宿屋へ入れるようになった。
部屋へ戻ろうと中に入ると、受付にいた人や客と思われる人達が全員亡くなっていて驚いた、と顔を青褪めさせて話していた。
俺が結界を張っていたから入れなかったんだな。
結界は、毒の効果が無くなると解除するようにしておいた。
被害が宿屋から外に出なくて良かった。
それでも、宿屋にいた者達が亡くなった事は痛ましい事なのだが……
男は、亡くなっている人達を目の当たりにして暫く動けずにいて、それからすぐに兵を呼んだそうだ。
第一発見者として事情聴取されて、一晩中拘束されていた、と怒っていた。
それが今やっと解放されて、荷物を取りに宿屋に来たけれど、まだ中には入れない状態で困っていると愚痴を言っていた。
亡くなった者達は……28人……
その者達が、宿屋の中や外で、困惑した状態で彷徨っていた。
一人の霊体が、ゾランを見付けてやって来た。
けれど、ゾランはそれに気付くことはない。
「ゾランから命令を受けた者か?」
「え?あ、はい……」
俺はゾランと話す感じで、その霊と話しをする。
その霊の後から、3人の霊もやって来た。
交渉に行かせていた者達だな。
「俺がゾランに指令を出していた。こんな事になって、申し訳なかった……」
「貴方は……リドディルク皇帝陛下っ!では私達は、リドディルク皇帝陛下のご命令で動いていたのですか?!これは光栄な事です!」
「それで亡くなってしまっては、光栄も何もないだろう……守ってやれなくてすまなかった……」
「いえ……!この仕事に就いていた身として、こうなる事は覚悟していた事でございます。お気になさらないで下さい。それより……被害を拡大させてしまって……申し訳ございません!私達のせいで、何人もの人達が犠牲になってしまいました……!」
「それはお前達のせいではない。全てはニコラウスが仕組んだ事だ。気に病む事はない。」
「しかし……!」
「気持ちは分かる。しかしこれは俺の責任だ。後の事は俺が責任を持って対処する。それより、聞きたい事がある。リンデグレン邸の内部の事は、どこまで把握している?」
「……あまり多くは分かりませんが……あの邸にいる者達は、全て何らかの術にかけられています。使用人達は、未だリカルド様が生きていると思っておりまして、ニコラウス様をリカルド様と思い込んで慕っており、皆が幸せそうな感じで働いておりました。」
「そうか……」
「ですので、私がニコラウス様に面会を申し出ると、皆が不思議そうな顔をするのです。そんな者はここにはいない、と告げるのみでした。」
「前に交渉に行った者は、ニコラウスは不在だと言って断られたそうだが……その事があって対処したんだな……」
「いない者とされているのに、面会が成される事はなく……そうやって邸を出たのですが、所々記憶がとんでいまして……」
「記憶がないところは、呪術をかけられた時だったんだろうな。……そうか……分かった。皆、大義であった。残された遺族には、この先の生活に困らない様、俺が保障する。他に何か言い残す事があれば聞こう。」
そうして一人一人の思いの丈を確認し、それをゾランに告げていく。
この者達の遺体はオルギアン帝国まで戻す様にし、葬送を行ってから浄化させる事にする。
今は身元確認が行われている所だから、すぐに連れ帰ることは出来ないが、せめて最後は家族の元へ帰してやらなければ。
この宿屋を買い取る事にして、亡くなった客の身内がいれば確認し、手当てを施す事にする様、ゾランに手続きをさせる。
イングヴァルとヴァルデマには、まだもう少し俺に付き合って貰うことになるが。
宿屋を後にして、すぐにアクシタス国の王都リニエルデまでやって来た。
早速マルティンと面会する。
「リドディルク皇帝陛下!昨日シアレパスまで行かれたのでは?」
「あぁ。そうしたのだが、困った事がおきてな。」
「それはどう言う……」
「この件に関しては、あまり深く関わらない方が良い。……が、少し手助けが欲しくてな。」
「承知致しました。私で出来る事なら何なりと……!」
マルティンにはニコラウスの事は伏せて話を進めた。
マルティンは広く店舗を展開させているので、どの国にも幅広い人脈を持っている。
今回はそれを使わせて貰おうか。
シアレパス国で広く力を持っている貴族。
それはクレメンツ公爵だ。
実質、今の貴族の中ではトップに位置する者だろう。
ニコラウスはそこに何らかの形で接触するかも知れない。
いや、もう既に接触しているのかも知れない。
まずはそれを探り、ニコラウスの動きを把握する。
それから、クレメンツ公爵にはこちらからも接触を図る。
そこにマルティンが役立ってくれる。
やはり顔が広かった様で、現在の当主ムスティス・クレメンツ公爵とマルティンは知り合いだった。
しかも旧知の仲との事で、俺の事を紹介するのは容易いと言ってくれた。
余程信頼関係がしっかりしているんだろうな。
マルティンには、俺がオルギアン帝国の者だとは伝えずに、一介の商人だと言う事で取り次いで貰うことにした。
それから、ノエリアに渡した手土産の事を話し、恐らく近日中にマルティンを訪ねて来るだろう事も伝えておいた。
ノエリアの力を借りたい旨も、マルティンから伝えて貰う様に言って、その場を後にした。
シアレパスでは、どこにニコラウスの目が光っているか分からない。
だから、かなり慎重に事を運んで行かなければな。
急いては事を仕損じる。
けれど、ゆっくりしている暇はない。
状況を調べて、しっかり地盤を固めて、気付かれないように秘密裏に動くとする。
これ以上犠牲者を増やす訳には行かない。
それからリニエルデにいたジルドに会い、亡くなった者達の身元を確認・手続き等をする者として動いて貰うことにする。
空間移動でジルドをラブニルに送ってから、俺とゾランは一旦オルギアン帝国へ戻る
そこで諸々の手続きをしてから、イングヴァルとヴァルデマに術を叩き込んで貰うことにした。
すぐにどうにか出来るとは思わないが、少しでも対策しておかないといけない。
クレメンツ公爵が既に術に侵されている可能性もあるからだ。
高位の者との交渉は、やはり俺が行かなくてはならないからな。
本当に厄介な奴だ。
今回の事でこちら側の者で亡くなったのは、交渉に行かせた者達だけではない。
給仕係や世話人等の使用人達も、皆毒の犠牲になったのだ。
ニコラウスは人の命の重さを軽視し過ぎている。
早くアイツの愚行を止めないとな……
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